大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)569号・昭37年(ワ)541号 判決
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〔判決要旨〕公正証書が手続上の違背を看過して作成された場合でも、実体上権限のある者の嘱託によつて作成されたことが明らかであり、実体上の権利関係に影響がないこと明白な場合には、該公正証書を無効とするものではない。
〔判決理由〕本件公正証書は被告自身が公証人役場に出頭することなく、自己の使用人たる訴外藤田俊夫に自己の印鑑及び印鑑証明書を持参させて公証人役場に出頭させて、その作成の嘱託をしたものであるところ、藤田俊夫は自分が被告の代理人であることを明示しないで本件公正証書の作成を嘱託し、同人と共に出頭した原告もこれに異議を述べなかつたため、公証人も藤田俊夫を被告と信じ、その結果公正証書の冒頭に当事者両名より証書作成の嘱託を受けその要旨を録取した旨の記載がなされ、その末尾に原告の署名と並んで出頭者として藤田俊夫が被告の氏名を代署し、その結果として公証人法第三一条、第三二条、第三六条第三号、第三九条第三項所定の手続が履践されないまま本件公正証書が作成されるに至つた事実が認められる。
原告は右方式の違背を理由として本件公正証書の無効を主張するが、元来公証人法が公正証書作成につき厳格な手続を要求しているのは、同証書が執行手続上強力な権限を有することに鑑み、それが正当な権限を有しないものによつて嘱託作成されることを防止せんとするにあると解されるから、たまたま手続上の違背が看過されて作成された場合においても、実体上権限のある者の嘱託によつて作成されたことが明らかであり、実体上の権利関係に影響がないこと明白な場合には、該公正証書を無効とするものではないと解されるところに前記認定のとおり藤田俊夫には本件公正証書作成嘱託の代理権限があつたことが明らかであるから、原告はこれをもつて請求異議の理由とすることは許されないものといわねばならない。(谷野英俊)