大阪地方裁判所 昭和37年(行モ)1号 決定 1962年2月26日
申請人 武田康夫
被申請人 大阪市長
主文
本件申請はこれを却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
理由
本件申請の理由の要旨は「申請外山本健はその所有にかかる別紙第二目録記載の土地のうち一〇〇坪を申請外宮谷慶一郎に賃貸し、申請人は右宮谷よりその賃借土地の一部を右山本の承諾をえて転借し、同地上に別紙第一目録記載の建物を所有していたところ、被申請人は別紙第二目録記載の土地について所有者たる山本に対し土地区劃整理法に基き換地予定地を指定し、右土地のうち一〇〇坪について借地権者たる宮谷に対し、右山本に対する換地予定地について当該借地権に基き使用収益すべき土地に指定した。従つて申請人は土地区劃整理法第九八条の規定により適法な転借権に基き右換地予定地について使用収益することができる権利を有するものであるが、申請外宮谷は申請人の換地予定地に対する権利を妨げるべく策動した結果、被申請人は申請人に対し、申請人の権利を無視して昭和三六年一二月二六日附大計(管)第三六一三号原状回復命令書を以て、土地区劃整理法施行令附則第七条に基く旧戦災復興土地区劃整理施行地区内建築制限令第五条の規定により、別紙第一目録記載の建物は土地区劃整理事業施行上障害となるので昭和三七年一月三一日までに除却し当該土地を原状に回復せられたい旨命令を発し、行政代執行を行おうとするに至つた。しかしながら、被申請人が行政代執行を行うことは不法不当であるから、申請人は被申請人を被告として前記原状回復命令書に基く申請人所有の別紙第一目録記載の建物に対する行政代執行はこれを許さない旨の判決を求めるため、昭和三七年一月二九日、大阪地方裁判所に訴訟を提起し、右訴訟は同庁昭和三七年(行)第四号行政代執行に対する異議等請求事件として同庁に係属中である。よつて、申請人は行政事件訴訟特例法第一〇条第二項の規定に基き前記原状回復命令書に基く行政代執行の執行停止を求めるため、本件申請に及ぶ。」というにある。
よつて按ずるに、申請人が被申請人を被告として前記原状回復命令書に基く申請人所有の別紙第一目録記載の建物に対する行政代執行はこれを許さない旨の判決を求めるため、昭和三七年一月二九日、当裁判所に対し訴訟を提起し、右訴訟が当庁昭和三七年(行)第四号行政代執行に対する異議等請求事件として当庁に係属中であることは当裁判所に顕著な事実である。ところで申請人が提起した本案の訴訟は行政庁の事実行為たる行政代執行の差止を求める訴訟であつて、行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる抗告訴訟とはその性質を異にするものではあるが、公権力の発動としての事実行為を違法として攻撃するものであるから、抗告訴訟に準じ、同法第一〇条の規定もこれを準用しうるものと解するを相当とするところ、右規定は行政処分の内容の事実上における実現を暫定的に阻止し、または停止させて当事者の権利を保護するを目的とするものであるから、当該処分の存在を不可欠の要件とするものと解すべきである。しかるに申請人はその執行の停止を求める行政代執行の存在について何ら主張疏明するところがなく、本件訴訟記録を精査してもその存在を疏明するにたる資料がないから、本件申請は既にこの点において失当たるを免れない。よつて、本件申請は理由がないから却下すべきものとなし、申請費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 金田宇佐夫 阪井いく朗 浜田武律)
(別紙物件目録省略)