大阪地方裁判所 昭和38年(わ)4347号・昭38年(わ)4765号 判決
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〔判決要旨〕被告人が相手方である女性の頭髪を引つぱり、「俺に恥をかかせるか」等と言つて、同女をホテルに連れ込んで性交しても、判示のような事実関係の下においては、その暴行脅迫は相手方の反抗を著しく困難ならしめる程度の強度のものであるといえない。
〔判決理由〕本件公訴事実中強姦の点は、「被告人は奥島組組員であり、かねてから、前記サロン「リード」住込ホステス薫こと丸本京子(当一九年)を姦淫の目的で連れ出そうとして、その都度断わられていたものであるが、昭和三八年一〇月二七日午前零時頃同女を連れ出して強いて姦淫しようと決意し、同女に対し、右姦淫の目的を秘し、「食事に行こう」等と言葉巧みに申し向けて同女を同店より連れ出し、タクシーに乗せ、同日午前二時三〇分頃、大阪市天王寺区生玉町二番地ホテル八雲前路上まで連行し、右ホテルに連れ込もうとしたところ、同女がこれを拒否したため、同女の毛髪を引つ張り「俺に恥をかかせるな」等と怒号して暴行脅迫を加え、拒否する同女を無理に同ホテル内蘭の間に連れ込み、同所において同女をベツドに仰向けに押し倒し、その反抗を抑圧した上、強いて同女を姦淫したものである」というにある。
(証拠―省略)によれば、被告人は奥島組組員であること、被告人等奥島組員は前記サロン「リード」の開店(昭和三八年一〇月初頃)当初から屡々同店に出入りしていたこと、本件前日被告人等が右「リード」店内で判示第二の事件を起したこと、これらの事実を丸本京子は知つていたこと、及び本件当日(同月二七日午前零時頃)被告人は午前二時迄には店に帰すとの約束で丸本京子を誘い出し、数ケ所の店で飲食して廻り(当初は同店ホステス久富木重之が同行したが、途中で別れて帰つた)午前二時半頃同女を前記八雲ホテルに連れ込み性交したこと、同ホテル前で丸本京子が同行を拒んだ際、被告人は同女の頭髪を引つぱり「俺に恥をかかせるか」等と申向けて同女を同ホテルに連れ込んだこと(但し頭髪はすぐにはなしているし、その他丸本の身体に手をかけたことはない)、丸本京子は被告人と性交後同人が眠つている隙に同ホテルを抜け出し裸足で「リード」に逃げ帰つたこと、被告人は同月二七日夜もサロン「リード」に赴き同女を指名して遊興しようとしたが、同女が応じなかつた為同店内にビール瓶を投げる等の乱暴をはたらいたこと、同女は本件以前男性と性関係を持つた経験はなかつたことをそれぞれ認め得る。
以上の事実によれば、丸本京子が当夜完全な合意の下に被告人と性交したとは到底認められないし、<証拠―省略>によつて認められる丸本京子の性格、平素の行動、当夜被告人と外出する際の経緯等からみても、弁護人主張の如き「同女から進んで男性を求めていた」等の事情は全然窺えない。
而して右認定の事実からすれば、丸本京子が当時或る程度被告人を恐れていたことは容易に想像し得ることであるが、強姦罪における暴行脅迫は相手方の反抗を不能にするほどでなくても著しく困難にする程度であることを要するものであるところ<証拠―省略>によるも、右ホテル内においては同女は殆んど抵抗を示さず、従つて被告人も指摘し得る様な暴行脅迫を行うことなく性交を行なつている事実が認められる(この点につき丸本京子は「なかばどうにでもなれとの気持であつた」と当時の心境を説明している)これらの点を考慮すれば、本件性交は丸本京子の意に反して行われたものと謂わざるを得ないが、前認定の暴行脅迫は未だ相手方の反抗を著しく困難ならしめる程度の強度のものであつたとは解し難く、他に之を認めるに足る証拠はない。
すると、本件右公訴事実については、結局犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡をすべきものである。(田中勇雄 藤原弘道 北谷健一)