大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)188号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕四 そこで、本件実用新案と本件製品を対比すると、その構造において後者は前者の考案の要旨を完全に具備しており(本件実用新案の登録請求の範囲の記載には「混合羽根板3、3……と混合羽根板4、4……とを相互にその延長線が交叉するように」する旨記載されているが、右の記載は右延長線とは別紙<省略>H号図面においてA方向を指すものであり、混合羽根板3もしくは4の延長線が混合羽根板4もしくは3自体と交叉する場合を含むものであることは実用新案公報により明らかである)、その作用効果において後者は前者と全く同一であるから、本件製品は本件実用新案の権利範囲内に属するものといわなければならない。
五 (一) 原告は原告が本件実用新案にかかるコンクリート・ミキサーを製造販売している旨主張するので検討するに原告が昭和三〇年頃から傾胴型コンクリート・ミキサーを製造販売していることは当事者間に争がなく、昭和四〇年一一月一六日大阪地方裁判所における検証の結果および弁論の全趣旨によると原告が製造販売している右傾胴型コンクリート・ミキサーは原告主張の本件実用新案の考案の要旨のとおりの構造を有する……ものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はないから原告は本件実用新案の実施品を製造販売しているものというべきである。<中略>
(二) そこで原告は被告が昭和三六年頃より同三七年六月までの間に本件製品を四、〇〇〇台以上製造販売したと主張するので検討する。
<証拠>によるとK産業とK機械は合併前殆んどの役員等が兼務していたいわゆる姉妹会社で、K産業はもと商号を株式会社K商会と称していたものを昭和三四年一月五日に、現商号に変更したもので、主としてY株式会社およびK機械の製品の代理販売をしていたものであり、K機械はベルトコンベヤー等の製造販売を主たる営業としてきたものであるが、昭和三六年春頃からK産業においてコンクリート・ミキサーを製造し、OBCミキサーもしくはKYCミキサー、製造元をK産業もしくはK機械と表示して主としてK機械を通じて販売するようになつたことが認められ、右認定に反する証拠がないところ、<証拠>を総合すると、K産業は昭和三六年頃から傾胴型コンクリート・ミキサーの製造をはじめ二切ないし八切(二切とは二立方尺のコンクリート・ミキサー材を混練できるもの、三切四切、六切はそれぞれ三・四・六立方尺のコンクリート材を混練できるもの)のコンクリート・ミキサーとして別紙<省略>A号図面ないしG号図面(各図面とも一、二)表示のコンクリート・ミキサーおよび右原告の本件実用新案の実施品と同型のコンクリート・ミキサー(本件製品)を製造し、これに前記表示をして主としてK機械を通じて、一部は直接K機械の販売代理店等に送付して販売するようになつたこと、そして本件製品については、被告は昭和三七年六月二五日原告から本件製品が本件実用新案権を侵害している旨の警告を受けるまでの間に別紙<省略>本件製品の認定一覧表取扱店等欄記載の代理店等を通じて少くとも同一覧表記載の台数(合計一八七台)を製造販売したのであるが右警告を受けて以来その製造販売を中止したことが認められ、右認定に反する<証拠>は信用し難く、他に右認定に反する証拠はない。
(……各証言中同証人等の推計によると被告が四、〇〇〇台以上の本件製品を作つていることになるが推計の根拠等を検討すると合理的な推計とはいい難い。)
なお原告は被告の昭和三六年一月一日から同三七年六月三〇日までのOBCボット型ミキサー及びKYCボット型ミキサーの製造販売数量、販売価格ならびに販売先を記載した帳簿及び伝票(売上元帳、売掛帳、売上伝票、納品伝票等)を原告の使用を妨げる目的で隠匿毀滅したから、民事訴訟法第三一七条により被告の昭和三六年より同三七年六月までの間の本件製品の製造販売台数が原告主張のとおり四、〇〇〇台であつたことが右文書に記載されていたことが事実と認められるべきであると主張するので、検討する。成立(写については原本の存在とその写であることについても)に争のない甲第二九号証の一ないし一一及び本件記録によると原告は昭和三八年七月九日付で当裁判所に対し証すべき事実を本件ミキサーの被告の販売数量、販売価格及び販売による利益、文書提出義務の原因を実用新案法第三〇条、特許法第一〇五条として前記文書についての文書提出命令の申立をし、昭和四〇年四月一五日当裁判所からその申立通りの決定を得たのであるが、被告から右決定に対し即時抗告がなされ、大阪高等裁判所において証拠調のうえ、被告には昭和三六年一月一日以降同三七年六月三〇日までの間のOBCボット型ミキサー及びKYCボット型ミキサーの製造販売数量、販売価格ならびに販売先を記載した帳簿及び伝票として売掛元帳、売上伝票、納品伝票が存在し、被告は右帳簿及び伝票を所持していたところ、これをK機械寝屋川工場内の静電塗装室に隣接する物置に保管中昭和三八年一〇月二九日右静電塗装室から出火した際右商業帳簿類の一部が水損したほかそのほとんどが消火作業によつて水につかつたり等して文書としての効用をはたさなくなつたが、残存した帳簿類をK機械の工員寮に保管しているうち昭和三九年一月頃工員寮移転の際工員が石炭箱に詰めていた残存商業帳簿類を焼却してしまつたことを認定し、原告が提出を求める文書が残存し、被告においてこれを所持することについての立証がないことを理由に原決定を取消し、原告の右申立を却下したこと、被告には右大阪高等裁判所の認定したとおりの商業帳簿類が存在したことが認められる(この認定に反する証拠がない)が本件全証拠によるも被告において右商業帳簿類について原告の使用を妨げる目的で虚偽の主張をして右原決定の取消を受け、右商業帳簿類を隠匿毀滅したと、認めることができず(前記甲第二九号証の一ないし一一によれば右帳簿類は大阪高等裁判所の認定した事情により滅失したことが認められるが被告において故意に右帳簿類を焼却したとは認められず、文書所持者の過失により提出義務のある文書が滅失した場合には民事訴訟法第三一七条により文書に関する相手方の主張を真実と認めることはできない)、また右帳簿類が消火による水損後一部残存しており、被告においてこれを原告の使用を妨げる目的で毀滅したとしても右帳簿類全部について原告の右帳簿類に関する主張を真実と認めることはできないし、いかなる帳簿類が残存していたかについて立証がない以上、どの帳簿類に関する原告の主張を真実と認めるべきか判定できず、本件における事実認定の資料とすることはできないから原告の右主張に従うことはできない。このことは後記の被告が本件製品を販売して得た利益の認定についても同様である。更に仮りに被告において原告の使用を妨げる目的で右商業帳簿類を隠匿毀滅したものとして右商業帳簿類に原告の主張通りOBCミキサー及びKYCミキサー合計四、〇〇〇台を販売した旨の記載のあることが真実と認められたとしても前記認定のとおり被告はOBCミキサー、KYCミキサーとして本件製品の外に別紙<省略>A号図面ないしG号図面(各一、二)表示のミキサーを販売していたのであり、証人K・Aの各証言によると被告の帳簿類には右各形式のコンクリート・ミキサーを区別して記入していなかつたことが認められるので、被告の右商業帳簿類に関する原告の主張を真実と認めてもそれによつて被告が原告主張どおり本件製品を製造販売したものと認めることはできない。
(三) 次に原告は、被告は原告が本件実用新案権者であることを知りながら故意に、少くとも通常の注意を怠らなければ原告が本件実用新案権者であることを知ることができたのに過失により原告の本件実用新案権を侵害して本件製品を製造販売したと主張するが、本件全証拠によるも被告が本件製品の製造販売を中止した昭和三七年六月以前において、原告が本件製品の構造に関する本件実用新案権を有することを知つていたと認め得る証拠はないので、被告が右の事実を知らなかつたことにつき過失があつたか否かについて検討する。
一般に実用新案権にあつては実用新案公報による公告、実用新案の登録により一般に公示されているので、特別の事情のない限り侵害者に過失があるものと推定されるところ、(本件においては本件実用新案は、昭和三一年五月二三日に公告、同年九月六日登録されたことは当事者間に争がない)被告は本件実用新案には新規性がなく、公知公用であり、且つ原告はその製品登録標記を表示せず、またカタログには出願番号だけしか記載していなかつたのであるから、コンクリート・ミキサーの混合羽根に他人の実用新案権が成立していることは一般業者においても、夢想だにしなかつたのであるから、被告には過失がないと主張するのである。<証拠>によると傾胴型コンクリート・ミキサーの外形(主としてドラムの形状)は各製造業者とも類似していたのであるが胴内部の混合羽根板についてはコンクリート材の混練状態をよくするため各業者ともその取着およびその形状について種々研究を重ねているものであり(被告においても現在市販している別紙<省略>A号図面表示のコンクリート・ミキサーを製作する以前において別紙<省略>B号図面ないしG号図面表示のコンクリート・ミキサー等を製作したのをはじめ種々の試作品を作つて研究している)、原告において本件実用新案の考案を開発し、その出願をする以前において本件実用新案と同じ構成を有するコンクリート・ミキサーの混合羽根の取着形態が公知公用でなかつたことが認められ他に右認定に反する証拠はなく、また、<証拠>によると原告が昭和三六、七年頃配布した原告の製品のカタログには本件実用新案の出願番号を記載しているが登録番号を記載していないこと、および原告の製造販売した本件実用新案実施品には本件実用新案の表示として「実用新案出願中」と表示したものと全く本件実用新案の表示のないものが混在していることが認められ、<証拠>によると原告は従前K産業の前身であるK商会と取引があり昭和三二年から同三三年にかけて本件実用新案の実施品を販売していたことが認められ、他に右認定に反する証拠がないところ、右各認定の事実関係によると、被告は原告の製品と全く同一の本件製品の製作をするに際して本件製品の構造について他に特許権ないし実用新案権を有するものがあるか否かにつき調査をすれば、(本件においては被告は原告から警告を受けて本件製品の製造を中止するまで右調査をしたと認め得る証拠はない)容易に本件実用新案権の存在に気付くことができたであろうことが窺われるので、被告において右過失の推定を覆すに足る特別の事情があつたものとはいい難い。
なお被告は原告が実用新案権を登録した後無効審判請求期間が経過するまで故意に本件実用新案の標記をしなかつたのであるから侵害者に対して損害賠償の請求をなし得ないか過失の立証責任を原告において負うべきであると主張するが、本件全証拠によるも原告において被告の主張するような事情から故意に実用新案標記を付さなかつたと認め得ないのみならず、被告の主張するように原告が故意に実用新案標記をしなかつたからといつて損害賠償を請求し得ないものということができず、また挙証責任の点については前記推定は事実上の推定であるから実用新案の実施品について実用新案登録番号が記載されていたか否かは過失の認定に当つて考慮される問題であり、前記認定の事実関係のもとでは被告に過失のあることは明らかである。
(四) そこで、被告が本件実用新案権を侵害したことによつて生じた原告の損害額について検討する。
被告は本件実用新案の権利範囲に属する本件製品を少くとも合計一八七台製造販売したことは先に認定したところであるが、<証拠>によると被告は本件製品を一台当り少くとも原告主張の金三二、〇〇〇円で販売し、少くともその一二パーセントに当る金三、八四〇円の利益を得ていたことが認められ、右認定に反する証人O・T・Tの各証言は措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると被告は本件製品合計一八七台を販売したことにより計金七一八、〇八〇円の利益を得たことになるところ、実用新案法第二九条第一項により右被告の受けた利益は本件実用新案権者である原告の受けた損害の額と推定されるので、原告は被告に対し被告の右不法行為による損害賠償として右金額に相当する金員を請求し得ることになる。
次に原告は仮定的に原告が被告の右不法行為により四、〇〇〇台以上の原告の製品の販売を阻害され、それによつて少くとも金二〇〇〇万円の得べかりし利益を喪失したのでその損害の賠償を求めるところ被告が本件製品を販売することによつて原告製品の販売が阻害されたことは窺われるが、その台数が四、〇〇〇台以上であるとする証人S・T・Uの証言はそのまま信用し難く、他に被告の右不法行為により売上を阻害された原告の製品の台数を確定し得る証拠はないから原告の右請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。
六、以上認定のとおりであるから原告の本訴請求のうち被告に対し金七一八、〇八〇円の支払とこれに対する本訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかである昭和三八年二月一日から右支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当としてこれを認容し、その余の部分は失当としてこれを棄却する。(石崎甚八 藤原弘道 長谷喜仁)