大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)2776号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕<証拠略>によれば、訴外迎井夏樹が昭和三八年一、二月頃被告からバーを開くための店舗をさがしてくれるように頼まれ、金額や場所などの条件に従つて物色しているうちに、友人の訴外荒井英雄の紹介で不動産仲介業を営む原告を知り、原告の案内で同原告がその賃貸仲介を依頼されていた訴外ニシキ建物株式会社所有の六号及び七号の店舗を見せて貰い、右店舗のうち六号が保証金四〇〇万円に賃料一月二万八、〇〇〇円、七号が保証金四五〇万円に賃料一月三万円の条件である旨を被告に話したところ、その後被告は原告に通じることなく訴外迎井夏樹の案内で右店舗を見分したが、建物が変形であるうえに二階建であるため、金額と較量して気に入らず右賃貸借の話を打ち切りとなつた後に、被告自ら知人を通じて右訴外会社と直接折衝するに至り、昭和三八年三月一八日、さきに原告によつて示されたところより好条件の、六号と七号を合わせて保証金五〇〇万円、賃料一月五万八、〇〇〇円で、原告を介することなく、右店舗の賃貸借契約を締結したことが認められる。<証拠判断略>。
右事実によれば、原告は被告の代理人である訴外迎井夏樹から右店舗の賃貸仲介を依頼され、その履行に着手したが、結局自らの力によつてはその仲介を成功させるに至らなかつたものである。従つて右仲介の成功を前提とする原告の報酬請求は理由がない。
ところで、宅地建物取引業法一七条一項によつて大阪府知事の定めた報酬基準に従い宅地建物取引業者が不動産媒介の手数料として受くべき報酬額は、成立に争のない甲第五号証の記載によれば、昭和二八年四月一三日以降次のように規定されている。一、売買、二〇〇万円以下の部分一〇〇分の五、二〇〇万円をこえ五〇〇万円以下の部分一〇〇分の四、五〇〇万円をこえる部分一〇〇分の三、右報酬は売主・買主から各同額を申し受くること。一、賃貸借、賃貸料の一ケ月分に相当する額。一、報酬は契約成立のとき半額、取引完了のとき残額受くこと。一、案内料・申込料は受けませんが、依頼による広告料は実費を受くること。一、取引業者の告知又は案内したる後、売主と買主の直接交渉により契約成立したるときといえども、正規の報酬を貰い受くること。
そして本件の場合、前記のように被告は訴外迎井夏樹を代理人として店舗賃借の仲介を依頼し、本件の店舗を案内されたのに、その後右店舗について所有者と直接賃貸借契約を締結したものである。
そこで原告は、被告と訴外ニシキ建物株式会社との間に締結された賃貸借契約に際し授受された保証金五〇〇万円が、家賃金の一年分以上であるが故に、売買代金に準じて算定されるべきである、と主張し、右五〇〇万円について報酬規定に基き仲介が成立した場合と同額の売買手数料を求める。
しかしながら、宅地建物取引業法がその一七条一項で不動産取引媒介の報酬基準を決定することとし、更に同条二項で、業者は右基準を越えて報酬を請求してはならないものと定めた所以は、不動産の逼迫した需給関係に対応して業者が不当な報酬を要求することを禁じ、もつて一般の依頼者が安んじて、且つ円滑に取引業者と取引できるように計つたものというべきであるから、右報酬規定は何人に対しもわかり易く、且つ文字に表わされたところが全てであることを要し、従つて右の文言を越えて業者にのみ有利な拡張した解釈を試み、或は取引上の商慣習やその他明文化されていない文言外の類推事項を付加するが如き解釈に及ぶのは許されない。
前記の報酬規定によれば、不動産取引媒介の対象を売買と賃貸借に二分し、それぞれについて相異る定めを各別に設けているのであるが、本件の場合、成立に争のない乙第一号証の記載によれば、建物(店舗)の賃貸借契約が締結されたのであつて、右賃貸借契約に際し借主が保証金として五〇〇万円を支払い、右保証金は損料として賃貸期間に応じ二割乃至一割を差引のうえ契約終了時に返還される旨の約定があるとしても、右報酬規定自体には、権利金のうち一定額を超える部分を売買代金に準じるものとみなす旨の明文を欠いているので、全て賃貸借の規定が適用されるべきである。右に反して、賃貸借契約の内容に立ち入つて授受された金銭の性格を吟味し、もつてこれを売買代金に転換させ得るとすれば、結局において業者の、更には業者相互間に形成された商慣習という名の、一方的解釈を依頼者に強いることになり、かくては報酬規定明定させて、右以上の額は当事者間の特約あるもなお報酬としての授受を禁じた宅地建物取引業法にもとる結果を招来するから、賃料のほかにどのような金銭が授受されようとも、報酬算定の基準として賃料以外に定めるところがない限り、右の金銭を報酬算定の基準とすることは認められない。成立に争のない甲第六号証の記載によれば昭和四〇年四月一日に至つて、宅地建物取引業法一七条一項に基き、宅地または居住用以外の建物の貸借に際して授受される金銭のうち、権利金設定の対価として支払われる金銭で返還されないもの、いわゆる権利金については売買代金とみなす旨の明文が設けられたから、ここに始めて賃貸借のうちに売買とみなして取り扱われ得る場合を生じたのである。<証拠略>及び鑑定人杉谷繁義の鑑定結果にいうところの権利金についての説明は、いずれも昭和三八年当時施行されていた報酬規定の明文による法定の報酬以外の額を是認し、もつて宅地建物取引業法一七条二項の潜脱を正当化することになるから、いずれも採用の限りでない。
以上によれば、被告と訴外ニシキ建物株式会社との間の取引は仲介報酬に関する限り賃貸借として扱われるべきである。そして報酬規定によれば売買については、物件の案内または告知後業者を通ぜずに直接取引した場合には正規の報酬と同額を支払う、と定められているが、賃貸借については同旨の規定を欠いているので、被告には報酬支払の義務はないことになる。(渡辺一弘)