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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)3036号・昭38年(ワ)5176号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、原告が自動車による貨物運送を業とし、被告阪神電鉄が電車による運輸を業とすること、原告の従業員亀井武が原告所有の本件自動車を運転し、昭和三八年三月一二日午後四時すぎ大阪市西淀川区大和田町一四九七番地先の道路と被告阪神電鉄神戸線の下り線(神戸方面行)、上り線(大阪方面行)電車の軌道交差する踏切を北方に向け進行中、同被告の社員である被告森岡運転の上り電車が右自動車に衝突してこれを約一七メートルはねとばして線路脇の溝に転落させ、亀井運転手が右衝激により負傷し翌一四日死亡したことは当事者間に争いがなく、成立に争いない乙第九号証の四によれば、右事故の発生時間は午後四時四八分ごろであつたことが認められる。

二、よつて本件事故の原因を検討することとする。

(一)、(本件踏切及びその周辺の状況)

<証拠>を総合すると、事故当時、本件踏切は、東西に被告阪神電鉄の上り線下り線の電車軌道四本が通じ、これとほぼ南北に通ずる幅員一六メートルの道路が交差し、右道路は軌道敷内で幅一三メートル、南北の距離9.7メートルあつて石敷とコンクリート舗装がなされ、線路の幅員は1.55メートル、上り線と下り線の間隔は二メートルであつたこと、同踏切は無警手で四隅に自動警報機、南北の踏切入口に各自動遮断機が設置され、上り電車が接近してきて、その距離が六二四メートルのとき右警報機が鳴り始め、同四九〇メートルのとき遮断機が下降し始めて同二九〇メートルのとき降下し終り、また、下り電車が接近してきて、その距離が七四九メートルのとき右警報機が鳴り始め、同五九〇メートルのとき右遮断機が下降し始めて同三八六メートルのとき降下し終る装置となつており、上り電車が時速七五キロメートル(秒速20.83メートル)で接近している場合には、右警報機が鳴り始めてから約三〇秒で同踏切に達すること、同踏切より西方に通ずる電車軌道は約二一メートルまで直線で同地点からゆるく右方(北方)にカーブし、東方に通ずる電車軌道は六〇〇メートル以上の地点まで直線をなし、同踏切を中心に東西数百メートルの間は東方に向つて一〇〇〇〇分の二〇の下り勾配をなしていたことが認められ、以上の認定に反する証拠はない。

(二)、(亀井運転手らの行動)

<証拠>を総合すると、亀井運転手は、原告の従業員江坂進(当一九才)を助手として本件事故当日の午後四時前本件自動車に積荷を満載して尼崎市内を出発して大阪市西区に向け出発し、本件踏切南方約二〇〇メートルの道路まで進んだとき、右坂江と本件自動車の運転を交替したこと、江坂は、無免許で運転技術が未熟のため、助手席の亀井から運転方法につき注意を受けつつ本件踏切にさしかかり、その直前で一旦停止したのち再び発進しようとしたところ、操作の誤りからエンジン・ストップを起こし車が停止したため、傍から亀井が機械を操作しているうち僅かにエンジンがかかり約二メートル発進して再びエンジンが止まり、同自動車の先端が下り線軌道北側線路の僅か手前にさしかかつた位置で停止したこと、ちようどそのころ上り、下り電車の接近で自動警報機が鳴り始めたので、車から飛び下りた江坂は、右自動車の前部に廻り左右を見たところ、まず下り電車続いて上り電車の接近を認め、さらに北東の自動遮断機も下降し始めるのを見て危険を感じ、運転席の亀井に対し、大声で電車が両方より接近しているので車を後退させよとか車から降りて逃げるように叫んだが、エンジンをかけることに熱中している亀井はこれに耳をかさず、被告森岡運転の上り電車がすでに数十メートルの距離に接近しているのに、エンジンがかかり始めるやそのまま北進して上り線軌道に乗り入れたため、右自動車の左後部荷台を折柄近接してきた上り電車左前部に衝突させるに至つたものであることが認められ、以上の認定に反する証拠はない。

(三)、(被告森岡運転士の行動)

<証拠>を総合すると、被告森岡は、事故当日午後四時四四分ごろ尼崎駅を定時に発車した四輛連結で各車輛にほぼ定員に近い約一四〇名の乗客を乗せた本件上り急行電車を運転し、時速約七五キロメートルの速度で進行し、本件踏切の手前約二四一メートルの地点にさしかかつたとき、同踏切内の下り線軌道の南側線路上に自動車が停止しているのを発見したが、同時に右踏切の東方約四〇〇メートルの地点に下り電車が進行してくるのを認めたこと、当時は夕刻に近く小雨のため薄い霧がかかつていたので、上り電車下り電車とも前照灯をつけていたのであるが、被告森岡は、経験上すでに本件踏切の自動警報機が鳴り自動遮断機も降下して同踏切が閉鎖されていることを知つており、同踏切内に右自動車が停止しているのは異常の事態で、まず下り電車と衝突する危険があると考え、直ちに前照灯を一回位点滅して下り電車に危険を知らせる合図を送つたこと、被告森岡は、右自動車を発見したとき、その車種、進行方向は明らかではなかつたが、なお約七四メートル進行する間に、右自動車が貨物自動車でしかも北方に向け停止しているのを認め、警笛を吹鳴したほか右自動車が上り線上に進出する危険に備え同踏切手前約一六七メートルの地点で急制動の措置を講じたので約三四メートル進行したころより速度が低下し始めたが、同踏切手前約九〇メートルの地点にさしかかつたとき、亀井運転の右自動車が時速数キロメートルの緩い速度で突然北進を始めて上り線軌道上に進入したため上り電車左前部が右自動車後部に衝突し、上り電車は右踏切の東方約一一八メートルの地点に停止したこと、なお下り電車も、右踏切の東方約四〇〇メートルの地点で、下り電車軌道上に黒い異物のあるのを認めて徐行を始めそのころ上り電車の前記点滅信号を受けてこれに応答の点滅信号をし、同踏切手前約九〇メートルの地点で停止したが、その直前ごろに前記自動車が北進を始めたものであることが、それぞれ認められ、以上の認定を動かす証拠はない。

(四)、(本件事故の原因)

1、以上の認定によると、本件事故の原因として、まず、亀井運転手が、運転未熟な江坂と本件自動車の運転を交替し、江坂の操作の誤りないしは未熟により右自動車をエンジン・ストップさせ同踏切の下り線軌道上に停止させたこと、右停止の直後ごろ自動警報機が鳴り始め電車が接近しつつあるのを知りながら、両者とも上り、下り電車運転士に右停止の事実を知らせる措置を怠り、かつ亀井運転手は右自動車を最も危険の少ない場所に移動させる措置を怠つたこと、すなわち<証拠>によれば、江坂は当時右自動車を後退させるべく前から押したが積荷が重くその効果がなかつたことが認められるのであるが、約二メートル後退することによつて踏切外に出られるのであるから、亀井運転手としては、エンジンがかかつた段階で江坂に誘導させて直ちに後退すべきであるのに(当時後続車があり後退が不可能であつたと原告は主張するが、江坂が右のように後退させるべく前から押したことは後退の余地があつたことを示すもので、他に後退が不可能であつたとの証拠はない)かかる措置にでなかつたこと、しかも亀井運転手は下り電車のみに気を奪われていたのか、上り電車が約九〇メートルの地点まで接近しているのに、これに全く気づかなかつたのか敢てそのまま北進した重大な過失が本件事故の重要な原因であることは明らかである。

2、そこで、被告森岡の過失の有無を考える。

(1) 本件自動車の発見が遅きに失したかについて現場検証の結果(第一、二回)、前記乙第一四号証の一、二によれば、上り電車軌道は、本件踏切西方二一一メートルまでは直線でそれより以西に緩く北にカーブを描いており、晴天の日中においては、上り電車運転席からみて、右踏切手前約三六〇メートルの地点から辛うじて本件踏切が認められ、その後も線路脇の電柱に遮られて同踏切は部分的に認めることができ、同踏切手前約二四一メートルの地点にさしかかると視界を遮るものがなく本件踏切は北端部分を除きこれを見通すことができることが認められるのであつて、本件事故当時の前記気象状況からみて、被告森岡が、同踏切手前約二四一メートルの地点で始めて本件自動車を発見したことをもつて、その発見が遅きに失したものとは解されない。

(2)右自動車発見後の措置の適否について

被告森岡は、本件自動車を発見したとき、直ちに異常な事態が踏切内に生じていることを察し、まず下り電車に合図をしつつ約七四メートル(時間にして三秒余)進行したとき、右自動車の進路が北に向いているのを認め、はじめて上り電車にも危険があると考え急制動の措置をとつたことはさきにみたとおりで、この間僅か三秒余ではあるが、上り電車にはまず危険がないと判断しつつ進行したことは<証拠>によりこれを認めることができる。同被告が以上のように危険がないと判断したのは、当時の気象状況から見通しが悪く、一見して右自動車の進路も明らかでなくこれが停止していたことによるものとみられる。しかし閉鎖中の踏切内に自動車が停止していることは極めて異常な事態であり、自動車である以上踏切内を移動することも予測されるものであるから、同被告としては、右自動車を発見したとき、それが本線上ではなくその進行方向が不明であつたとしても、直ちに急制動の措置を講じ危険の発生を防止すべき注意義務があつたものと解すべきである。

<証拠>によれば、被告阪神電鉄では、いわゆる三河島事故以来電車運転士に対し「隣接防護」なる教育を実施し、複線の軌道を走行する電車は、無警手の踏切内の隣接線上で自動車のエンジン・ストップ、線路へのはまり込みなどの支障を生じているのを発見したときは、隣接線を走行する電車運転士に合図するよう指導していたこと、被告森岡の下り電車に対する前記合図も右にいう「隣接防護」の措置であつたことが認められ、もとよりかかる措置が危険防止のため不可欠であることはいうまでもない。しかし本件の場合、被告森岡が前記自動車を発見した当時には、下り電車は同踏切の東方約四〇〇メートルの地点にあり、同被告運転の上り電車の方が早く同踏切に達することは同被告も認識していたとみられるのであるから、万一の危険を考え、まず本線(上り線)に対する危険防止のための急制動の措置をとつたのち、下り電車に対する隣接防護の措置をとるべきであつたと解される。仮に本件の場合、下り電車の方が早く右踏切に達する状況下にあつたとしても、下り電車が右自動車と衝突して右自動車を上り線軌道上にはねとばし上り線にも危険を招来することが予測されるので、まず、本線についての危険防止の措置を優先させるべきであつたというべきである。

本件の場合、被告らは、仮に被告森岡が本件自動車を発見した同踏切の手前約二四一メートルの地点で急制動の措置を講じても、上り電車の速度と本件自動車の速度からみて衝突事故は避けられなかつたと主張し、被告森岡本人(第一回)もこれに沿う旨の供述をし、<証拠>にもこれと同趣旨の記載がある。<証拠>によれば、被告森岡運転の上り電車が時速七五キロメートルで走行中急制動の措置を講じた場合停止するまでの距離は、平坦な軌道上で約二五〇メートル、本件踏切手前のごとく下り勾配でかつ雨で線路が濡れているときは約二九〇メートルを要することが認められるので、本件の場合被告森岡運転の上り電車が右踏切手前二四一メールの地点で急制動の措置を講じても本件踏切の手前で停止することは不可能であつたと解される。しかし、<証拠>を総合すると、本件事故発生時における亀井運転手の自動車の後尾は上り線軌道の南側線路を越えた直後で、あと二メートル余北進すれば、上り電車との衝突が避けられたとみられ、同自動車の当時の緩い速度も時速四ないし五キロメートルを下ることはなく時間にして二秒足らず安全な個所まで避譲できる状況にあつたこと、他方時速七五キロメートルの本件上り電車が右踏切までの所要時間は15.4秒であるのに対し、同一八〇メートルの地点で急制動の措置をとつた場合には、右踏切までの所要時間は10.2秒で右踏切西方二四〇メートルの地点から同踏切西方一八〇メートルまでの間を時速七五メートルで走行する時間は約三秒であるから以上合計13.2秒となり、後者の措置に比し前者の措置をとれば右踏切に達する時間が二秒余遅れることがうかがわれること、したがつて、本件の場合、被告森岡が本件踏切の西方二四一メートルの地点で急制動の措置をとつておれば、同被告がしたように右踏切の西方約一六七メートルの地点で急制動の措置をとつた場合に比し優に二秒余右踏切に達する時間が遅れることとなり、或いは本件衝突事故を回避できたと推認されないではなく、仮に衝突したとしても、上り電車の速度が急速に下降しつつあつて接触の衝撃が本件の場合より遙かに軽く、本件衝突事故による後記損害もかなり軽減されていたと推認される。

以上のように本件事故は、被告森岡の運転士の過失にも基因するとみるべきであるが、同被告の右過失は前記認定の亀井運転手、江坂助手らの重大な過失に対比すれば軽減なものというべく、その過失の割合は、亀井らが八割、被告森岡が二割とみるのが相当である。

三、そこで本件事故により生じた損害額を考えることとする。

(一)、原告の損害

(1) <証拠>を総合すると、原告は、事故当時、郡是製糸株式会社の委託を受け本件自動車に繊維製品を積載して運送中のところ、本件事故により右積荷が損傷したため、同会社に対し金一九六万六五六〇円の損害金を弁償したことが認められ、右金員から原告が支払を受けたと自陳する右損害の保険金四七万五八一三円を差し引いた金一四九万七四七円が積荷の損傷による損害と認められる。

(2) <証拠>を総合すると、本件事故のため、本件自動車が上り電車にはねとばされ、本件踏切の北側に停止していた株式会社築切組所有の自動車及び千船建材工業株式会社所有の自動車に接触してそれぞれ損傷を与えたので、原告がその修理費の弁償として前者に金二五万五四七〇円、後者に金二万八七五〇円以上合計金二八万四二二〇円を支払つたことが認められる。

(3) <証拠>を総合すると、前記認定のように本件事故のため線路脇の溝に本件自動車が転落したので、原告が業者に依頼してこれを引き揚げ、その費用金七五〇〇円を支払つたことが認められる。

(4) <証拠>を総合すると、本件自動車の事故前の価格は金一〇万六二四八円相当であつたところ、本件事故により大破し再生が不可能のため、原告はこれをスクラップとして代金一万二〇〇〇円で処分したので右評価格から右スクラップ代金を差し引いた金九万四二四八円の損害を生じていることが認められる。

(5) 以上(1)ないし(4)の合計金一八七万六七一五円が、本件事故により原告のこうむつた損害である。

(二)、被告阪神電鉄の損害

(1) <証拠>を総合すると、前記事故により、本件踏切に設置されていた自動遮断機とその附属設備が破損し、同踏切附近の木柵が損傷したので、被告阪神電鉄がその修理費用として、自動遮断機関係につき金六〇万六九四〇円、木柵関係につき金八四三〇円以上合計金六一万五三七〇円を要したことが認められる。

(2) <証拠>を総合すると、右事故により本件上り電車一輛目の車体の前面ガラス、ブレーキ管その他に損傷が生じ、同被告がその修理のため材料費金四万八五〇〇円、工賃金一〇万九九二円以上合計金一四万九四九二円を要したことが認められる。

(3) <証拠>によれば、同被告が、本件事故発生に伴なう事後処置のため従業員に対し昭和三八年三月一二日から同一四日までの間時間外手当合計金三万五五二一円(円未満切捨)の支払をしたことが認められる。同被告は、本件事故の復旧に要した人件費は金五万七八三五円であると主張するが、以上認定の時間外手当のほかにはその主張のごとき人件費を要したことの証拠はない。

(4) <証拠>によると、本件事故のため、同被告が事故後電車五本の運行を取り消し、これによつて金一万八四四五円の得べかりし運賃収入を失いこれと同額の損害をこうむつていることが認められる。

(5) 同被告は、以上のほか本件事故により復旧諸費として金一万二四五〇円の損害が生じたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

(6) 以上認定の(1)ないし(4)の合計金八一万八八二八円が本件事故により被告阪神電鉄のこうむつた損害というべきである。

四、以上の認定によると、本件事故のためこうむつた損害は、原告が金一八七七万六一五円、被告阪神電鉄が金八一万八八二八円となるが、右事故は、原告の使用人亀井、同江坂と被告阪神電鉄の使用人である被告森岡が、いずれもその使用主の業務執行中にそれぞれの過失により発生せしめたのであるから、被告らは原告に対し、原告は被告阪神電鉄に対しいずれも損害を賠償する業務があるところ、前記認定の原告側(その使用人亀井、江坂)と被告ら側(被告森岡)の過失を斟酌すれば、被告らが原告に支払うべき損害賠償の額は、原告の前記損害金の二割に相当する金三七万五三四三円、原告が被告阪神電鉄に支払うべき損害賠償の額は同被告の前記損害金の八割に相当する金六五万五〇六二円とするのが相当と認める。 (首藤武兵)

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