大阪地方裁判所 昭和39年(わ)4408号 判決 1965年1月20日
被告人 加茂晃一 外二名
主文
被告人加茂晃一を懲役三年に、
被告人甲、および同乙を懲役二年に、
各処する。
被告人加茂晃一、および同乙に対しては未決勾留日数中六〇日をその各刑に算入する。
ただしこの裁判確定の日から三年間、被告人三名の各刑の執行をいずれも猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人加茂晃一は、商業高校卒業後職場を転々としているうちに昭和三八年春頃から被告人乙と知り合い互に結婚の約束をしたが、被告人加茂の両親の許しが得られず同被告人は同三九年五月以降家出し、被告人乙との世帯を持つための資金を入手すべく種々思案をしていたが同年八月に至つて、かつて自分が稼働していた店の得意先である大阪市南区南炭屋町七三番牛乳販売店渚義助の子女を誘拐して右渚義助よりみのしろ金を得ようと企て、細部にわたつて計画を立て同年八月半頃右企てを被告人乙に打ち明けて勧誘し、被告人加茂との結婚生活を強く希望していた被告人乙は右計画に賛成し、被告人加茂はさらにもう一名の仲間を誘い入れて犯行に使用する自動車も準備したうえ、同年九月二日に至つたところ、かねて協力を約していたもう一人の仲間の所在が判明せず、やむを得ず、さらに右計画を打ち明けて参加を拒否されていた同じく遊び友達の被告人甲に再び協力方を求めてその承諾をえ、ここに被告人ら三名は共謀のうえ、同日午後六時一五分頃、まず被告人乙において、前記渚義助の二女中学一年生渚紀代子(当一三年)に電話で「兄ちやんの友達やけど、四国に遊びに行つて来たから高速道路の所までお土産を取りに来て下さい」と甘言をもつて誘惑し、同女を右渚方から約一七〇メートル距てた同市西区南堀江通一丁目四番地松竹梅ホテル前に呼び出したうえ、さらに「あんたの分もある、すぐそこやから来て下さい」と申し向けて同所付近に待機させてあつた黒色乗用自動車に乗せ、被告人甲、同加茂が、代わる代わる運転して同市此花区四貫島方面に連れ去り、もつて同女を誘拐したうえ、同日午後八時半頃、同女の安否を憂慮していた右渚義助およびその家族の憂慮に乗じて右義助に対し被告人加茂において同市此花区四貫島大通二丁目一三番地所在の公衆電話で「お宅のお嬢さんを預つている、千日デパートの前に現なま百万円を持つて来い」と申し向けてみのしろ金を要求したものである。なお、被告人らは右犯行直後、被拐取者渚紀代子を安全な場所である同所此花区四貫島大通二丁目六九番地路上において解放したものでる。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人三名の判示行為は、刑法第二二五条の二第二項、第一項、第六〇条に該当するので所定刑中有期懲役刑を選択し、本件は公訴提起前被拐取者を安全な場所に解放した場合であるので、同法第二二八条の二、第六八条第三号により法律上の減軽をした刑期範囲内で被告人加茂晃一を懲役三年に、被告人甲、同乙を懲役二年に各処し、被告人加茂晃一、同乙に対しては同法第二一条により未決勾留日数中各六〇日をその各刑に算入し、諸般の情状を斟酌し同法第二五条第一項第一号によりこの裁判確定の日から三年間被告人三名の各刑の執行をいずれも猶予することとし、訴訟費用(国選弁護人に支給した分)は刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人乙には負担させないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 小川四郎 山路正雄 平井重信)