大阪地方裁判所 昭和39年(レ)100号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕控訴人は、本件和解調書の目的土地の表示は、現実に賃借使用する土地と相違するから和解調書には債務名義としての効力を認め得ないと主張し、成程、調書の表示が、現実に賃貸している土地の正しい番地、地積と合致していないことは被控訴人らも認めるところである。但し、その現実の賃貸土地(目的物件)の地積については、当事者間に争がある。即ち、本件土地の、
(イ) 和解調書上の表示は、
「大阪市東淀川区長柄東通一丁目一六番地、宅地五九坪四合二勺」(この一六番地は始め一七番地と記載されていたのが後一六番地と更正されたものでこのことは当事者間に争ない)
(ロ) 控訴人の主張では、
「(1) 大阪市大淀区長柄東通一丁目二一番地(大阪特別区画整理による換地国分寺地区二ブロツク九号)宅地四七坪九合一勺(換地確定後同所三番地の一四)
(2) 同所一一、一二番地の内(同ブロツク三号)宅地三坪八合九勺(同じく三番地の五)
(3) 同所一三番地(同ブロツク四号)宅地三坪七合一勺(同じく三番地の六)
の合計五五坪五合二勺」
(ハ) 被控訴人らの主張では、
「(1) 従前の長柄本通一丁目二〇番地二番地および一六番地の各一部にまたがつた同ブロツク九号の四七坪九合一勺
(2) 従前の同町一一番地、一六番地、一七番地の二のうちブロツク三の四坪五合六勺
(3) 従前の同町一一乃至一六番地のうちブロツクの四坪三合一勺
の合計五六坪七合八勺」
だというのである。
然らば、本件土地の正しい表示は、控訴人の主張に従えば「大淀区長柄本通一丁目三番地の一四、同番地の五、同番地の六、宅地五五坪五合二勺」であり、被控訴人らの主張によると「大淀区長柄本通一丁目三番地の一四、同番地の五、同番地の六、宅地五六坪七合八勺」である。そして、弁論の全趣旨によると「大淀区」は元々「東淀川区」に含まれていたのが本件和解成立の少し前に分区独立したものであるが当事者間でその表示の誤りに気ずかず「大淀区」とすべきを「東淀川区」の記載のままとしていたものと認められる。しかしてかかる表示の過誤は何人の目にも明白なる記載上の誤謬であつて、「東淀川区長柄東通」と表示あるも現にある大淀区内の長柄東通を指すことは明らかであるから、何ら目的土地の特定を害することなく、これをもつて調書の効力に消長を及す誤謬とすることはできない。
蓋し和解調書上、目的物(土地)の地番、坪数の記載に多少の誤謬があつても、それが当事者間において当該契約の目的となつた土地の範囲が明確に合意せられている場合には、その当事者間に合意せられた土地を目的物とする調書として有効に成立するものというべきであつて、そのことによつて何ら実体上の土地明渡請求権の範囲が左右されるものではない。よつて、かかる場合には、右調書上の誤謬は何ら執行力に影響を及ぼさず、これを請求異議の理由とすることはできないからである。これを次に本件の地番、地積の点についてみるに、<証拠略>を総合すると、本件和解調書の前記「長柄東通一丁目一六番地、宅地五九坪四合二勺」との表示は換地前の旧地番に従い、且つ地積についてはその当時の一応の測量の結果に従つたものであつて、実際に当事者間で合意確定せられた目的土地は「換地国分寺地区二ブロツク九号(換地確定後長柄東通一丁目三番地の一四)、同ブロツク三号(同三番地の五)、同ブロツク四号(同三番地の六)の実測面積五六坪七合八勺の範囲」であつて、且つ右和解調書の表示が旧番地で表示し、一応の測量の結果に従うことはその当時当事者間で諒解されていたことが認められ、他にこれに反する証拠はない。とすれば、右調書の表示の「一六番地」が新地番に従えば、右当事者間で合意せられている前記本件土地とは全く別の場所を示すとしても、そのことは何ら本件和解調書の効力に影響を及さない(控訴人の主張を、「本件目的土地を右和解調書の表示どおりの一六番地と理解して合意した」という錯誤の主張と解することは到底できない)。よつてこの点を理由として本件和解調書の執行力の排除を求める控訴人の主張は理由がない。
次に控訴人は、右調書上の誤謬につき更正決定がなされない限り、債務名義の執行力は存しないと主張するが、更正決定の有無は、実体的債務名義の効力の存否には消長を及すものではないから、これをもつて債務名義の執行力そのものの排除を求める請求異議の理由とすることはできない。(石橋甚八 潮久郎 福井厚士)