大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)1855号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕被告は「原告は在職中判明しておれば直ちに懲戒解雇される程重大な背信行為をしていたものであるから、形式上円満退職の形で退職したとしても退職金請求権はない」旨主張するが、就業規則等で支給条件が明確に規定されている退職金請求権は賃金の一種であつて、一般に退職と同時に具体的に発生し、支払時期について特則のない以上労働者の請求によつて履行期の到来する債権であり、客観的に懲戒解雇に値するような背信行為の存在しないことを条件とし或は使用者の支給の意思表示のあることを要件として成立する権利でないと解せられ、なお本件において懲戒解雇の措置の採られていないことは被告の自認するところであるから、被告の主張は理由がない。また被告は「仮に原告に退職金請求権があるとしても懲戒解雇に値するような重大な背信行為があり被告に重大な損害を与えた以上本件の請求は権利の乱用である」旨主張するが、仮にその主張のような背信行為があつたとしても、被告が別途にその損害の補填を求める途が閉ざされているわけではなく、本件の金員請求に直ちに応ずることによつて償い難い損害を蒙るものとも認め難いところであつて、双方の法益の比較衡量上のみからみても未だ権利乱用と認めるに足らないのみならず、仮に被告の主張するような抗弁を以て原告の請求を阻止することができるものとすれば、賃金債権と不法行為に基く損害賠償債権との相殺を禁止した労働基準法第二四条の趣旨が実質的に没却される結果を来すものと謂うべきであつて、この見地よりしても被告の主張は採用し難いところである。(今中道信)