大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)366号 判決
原告
竹下タエ
原告
竹下清純
原告
竹下良一
原告
竹下葉子
右三名親権者母
竹下タエ
右原告ら代理人
山口伸六
被告
北中運輸株式会社
右代表取締役
北中博三
被告
北中成和
右被告ら代理人
西村浩
他一名
第一、主 文
一、被告らは原告タエに対しそれぞれ金一、〇一三、七五八円およびこれに対する昭和三九年二月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、被告は原告清純、同良一、同葉子に対しそれぞれ、各原告につき金五七五、八三八円あておよびこれに対する昭和三九年二月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
四、この判決一、二項は仮に執行することができる。
五、ただし被告が原告タエについては金一、〇〇〇、〇〇〇円、その余の原告については各金三〇〇、〇〇〇円あての担保を供するときは、右仮執行をそれぞれ免れることができる。
第一、本訴申立
主文第一、二、三項同旨。
第二、争いない事実
一、本件事故発生
発 生 時 昭和三八年七月二日午後一一時頃
発 生 地 兵庫県高砂市阿弥陀町魚橋一〇九〇の二地先国道二号線路上
事 故 車 被告会社所有、普通貨物自動車、大一う五五〇六号
運 転 者 被告会社の雇用人である被告成和
受傷死亡者 訴外亡竹下純雄(事故車助手席同乗中)
態 様 被告は右路上を西進中、前方路上左側に停車中の日本通運の大型貨物自動車に追突、その衝撃のため亡純雄は腰推骨折により即死した。
二、責任原因について
被告会社は当時右車(以下ただトラツクという)を貨物運送営業をいとなむ自己のため運行の用に供していたものである。
三、損害額の算定について
亡純雄が死亡当時勤務していた被告会社における給与は日給八三〇円であつた。
四、損益相殺について
原告らは労災保険に基く遺族補償金八三七、五〇〇円および葬祭料金五〇、二五〇円を受領している。
五、亡純雄の権利の承継について
亡純雄の死亡により原告タエは妻としてその三分の一、その余の原告らは子として各九分の二あて、の法定相続分により、その権利義務を承継した。
第三、争 点
一、原告の主張
(一) 責任原因
本件事故は被告成和が事故現場は先行車が多く、しかも時速五〇キロで走行中であつたのに前方注意を欠き、徐行義務違反などの過失により進路左側に停車中の日本通運の大型貨物の発見がおくれたため惹起したものであつて、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条の運行者また民法第七一五条の使用者として、また被告成和は一般不法行為責任として、原告らの損害を賠償しなければならない。
(二) 損害の発生
原告らが相続ならびに固有権に基き、被告らに請求し得べき損害は別紙その一「損害明細」のとおりであるが、その算定上特記すべき点は左のとおりである。
1 亡純雄は死亡時三三才であつたから、その平均余命などから、なお三六年は就労可能であつた。そして一ケ月二五日は稼働し得て日給八三〇円を取得し得た筈であり、生存する場合の生活費をその四割として控除するもその六割、つまり一年(一二月)間には金一四九、四〇〇円の得べかりし純利益がありこれの三六年間の総計の現価をホフマン式(年五分)により算出すると、別表のとおり合計金三、〇二九、〇二九円となる。
右得べかりし利益の損失を原告らはその相続前により承継した。
2 原告タエは昭和三年八月一〇日生れで二六年七月一六日亡純雄と婚姻、その間にその余の原告ら三子をもうけ、日夜平和な家庭生活を続けてきたのに、不測の事故に夫を失い、家庭の平和をやぶられた生活上の打撃を慰やすべき慰藉料は金三〇〇、〇〇〇円を下らない。
3 原告清純は二六年一一日一一日生れで小学六年生、同良一は二八年一一月七日生れで小学四年生、同葉子は三二年四月二八日生れで就学前であり、何れも父亡純雄の滋愛のもとに成育を続けてきたのに父の死に遭い、幼にして生涯にわたる打撃を受け、慰藉料は各自一〇〇、〇〇〇円を下らない。
二、被告の主張
(一) 和解成立
本件事故に関する紛争については昭和三八年一〇月二二日、原被告間に労災保険金ならびに見舞金の支払の外原告らは請求しないという和解が成立しているので、原告らの損害賠償請求権は消滅している。
(二) 損害賠償請求権について
1 被告らに責任原因たる事実がない。
(1) 被告北中の無過失
当時、西進する自動車が多く、後続車から割りこまれるので車間距離が十分維持することが不可能であつたし、先行車が何れも大型貨物自動車で灯火のないところで見透しが利かなかつた。また亡純雄が熟睡して運転席に倒れかかつてきたため、一瞬その危険予防ならびに運転妨害予防のためその方に振り向かざるを得ず、それらの制約のうちではできるだけ前方注意義務をつくしていたものであり、しかも、現場に訴外日本通運の車幅二メートル四〇センチ以上もある大型トラツク(八トン積み)が一車線しかない道路上に駐車していることは予見不可能な事態であつて、発見後は直ちにハンドルを右に切り予防措置は十分とつたし本件事故は予見予防可能の範囲外の出来事で、被告北中に過失ありとはいえない。
(2) 被告会社の無過失
被告北中は運転経験約一〇年であり被告会社はその選任監督上の注意を怠つていない。当日の業務として大阪より広島に走行せしめるに当り、被告北中ならびに亡純雄に対しては十分休養をとらせてから出発させ、旅次休養せしめるべく、過労におちいらないよう安全運転を指示していたので被告会社にも過失はない。
(3) 車に故障欠陥はなかつた。
本件事故車には構造上の欠陥や機能上の障害はなかつた。
(4) 訴外自動車の過失
本件追突事故はひとえに現場の状況の危険性を無視した訴外日本通運の大型貨物自動車が不適当な駐車をしていたことに起因するものである。
(5) 亡純雄の過失
本件事故により亡純雄が死亡したのは、同人が助手として勤務同乗中、その乗車業務を怠つて熟睡し、フロントガラスの下に足をなげて脚を突張る姿勢をとつていたために腰推骨折となつて死亡したもので、目ざめており姿勢を正しくして、助手の任務としての前方注視義務をつくしていれば追突自体も避け得られたし、また傷害死亡の損害発生を回避し得た筈であつて、本件事故による亡純雄の損害は全く同人の過失に基くものである。
2 亡純雄は運行者責任、使用者責任の第三者に当らない。
亡純雄は当時運転手として被告会社に勤務し、事故自動車にはその運転業務の助手として同乗していたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条の運転者であり、民法第七一五条の使用者責任の構成においては当該不法行為者である共同被用者の範囲にふくまれ、何れにしても、第三者として損害賠償請求はなし得ない者である。
3 過失相殺
仮に被告らに何らかの責任があるとしても、右のように亡純雄の過失がなかつたならば損害発生は最少限にとどめ得た筈であるから損害抑避義務を怠つた点、原告らの請求についても危険負担の分配として当然過失相殺すべき事案である。
4 弁済の抗弁
従つてまた被告らの負担すべき損害賠償義務は労災保険給付(第二の四)とそのほかに被告会社は原告に対し金一三五、三二〇円を支払つているので、すべてその弁済を了している。
第四、証 拠<省略>
第五、争点に対する判断
一、和解成立の抗弁について。
被告らが和解成立を証する書面として提出している乙第一、二号証「念書」には「故竹下純雄の交通事故死に関する遺族補償問題は左記金員の支払済に依り一切完了したことを確認し、茲に念書を作成する。」などの文言があつて、労災保険金額と葬儀費等金一三五、三二一円の金員の記載があるけれども、文言自体主として労災保険給付の決済とも読みとれ、必ずしも本件事故による損害賠償に関する係争の解決を明確に条項化したものとは認められないし、原告タエも右保険給付の受領を証する書面のつもりで、訴外北中ふみの提示に応じ署名捺印したものであることが認められる。そして、原被告間に右書面作成に先だつて損害の数額、責任の所在などについての交渉の経過もない。従つて乙第一号証は和解成立を証するに足らないし、他にこの点に関する立証はない。
なお、原告タエは乙第一号証は白紙のものに署名捺印したものであると供述するけれども弁論の全趣旨により採用できないところである。
(資料 <省略>)
二、責任原因
(一) 本件事故は原告主張のとおり(第三の一の(一))運転者である被告北中の過失により惹起したもので訴外日本通運の自動車にも過失があるとしても被告会社は運行者として、被告北中は行為者としてそれぞれ、第三者に生じた損害の責を負わねばならない。
(資料 <省略>)
(二) 亡純雄は自動車損害賠償保障法第三条にいう他人に該当する。
亡純雄は運転免許を持つて助手として同乗していたけれども、後記(三)認定のような労働条件においては、少なくとも当該運行者、行為者に対する事故責任の追求上、仮眠中は自動車損害賠償法第三条第四号などにいう運転補助者の地位から離脱して、他人として保護されねばならない。
(資料 <省略>)
(三) 亡純雄の損害発生は亡純雄の過失によることは認められない。
亡純雄は事故当時助手席で、仮眠しており、やや姿勢のくずれがあつたことが認められるが、同人は当日昼間にも通常どおり、被告会社に勤務しての夜間勤務であつたからたとへ出発前数時間仮眠をゆるされたとしても助手として仮眠の状態にあつたことは過重な勤務条件から止むを得ないものがあり過失ということはできないし、仮眠の姿勢如何によつて死乃至重傷を免かれたものとは事故の態様からして到底認めることはできない。従つて事故発生ならびに損害発生が亡純雄の過失によるものとは認められない。
(資料 <省略>)
(四) 損害の発生
被告会社が原告らに対し、葬儀費雑費として金一三五、三二〇円を支払つたもののほか、原告ら主張のとおりの損害発生の事実(第三の一の(二))が認められる。なお就労可能年数については、平均余命三八・一五年(昭和三八年簡易生命表)の範囲内で当時従事していた職種賃金の程度から、原告主張どおり認定した。
(資料 <省略>)
(五) 過失相殺について。
前判示(三)項のとおり、本件事故発生につき、また損害発生、拡大につき、亡純雄に過失相殺すべき過失があつたとは認められない。
(六) 結論
そうすると、本件自動車事故による損害賠償につき、争いない労災給付金ならびに(四)項判示の被告会社の葬儀費雑費支払により填補を受けた後の残金につき、各被告に対しその額にみつるまで、本訴請求後の遅延損害金を付加して支払を求める本訴請求はすべて理由がある。
訴訟費用は敗訴者である被告らの負担とし、仮執行に関する宣言を付した(舟本信光)