大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)5081号 判決 1965年11月17日
原告 日綿繊維工業株式会社
右代表者代表取締役 豊田秀尾
右訴訟代理人弁護士 田村徳夫
同 松田安正
同 野田一雄
被告 中綿株式会社
右代表者代表取締役 宇田寛
右訴訟代理人弁護士 広瀬長喜
同(ただし、後記五、〇七九号事件のみ) 安野一孝
主文
被告は、原告に対し、原告が訴外大一織物株式会社との間で、別紙目録記載の土地について、大阪法務局堺支局昭和三四年一一月四日受付第一五、九一〇号の所有権移転請求権保全仮登記に基づき、昭和三九年九月一〇日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をすることを承諾せよ。
被告が訴外大一織物株式会社との間に昭和三八年一一月三〇日設定した根抵当権に基づき、別紙目録記載の土地に対してなした大阪地方裁判所昭和三九年(ケ)第九七号の不動産競売は、これを許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
当庁昭和三九年(ワ)第五、〇八一号事件につき昭和三九年一〇月二九日になされた不動産競売手続停止決定は認可する。
前項に限り仮に執行することができる。
事実
原告は主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、被告は「原告の各請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
原告の請求原因
1、訴外大一織物株式会社は、その所有にかかる別紙目録記載の土地(以下本件土地という)につき、昭和三四年一〇月三〇日、原告との間に、同会社が原告に現に負担し又は将来負担する代金債務等の一部でも弁済を遅滞したり、他より競売等の処分を受けたときは、同会社は原告に負担する総ての債務について即時期限の利益を失い、本件土地を金二五〇万円と評価し、同額の債務の代物弁済として本件土地の所有権を原告に移転する旨の代物弁済の予約を結び、同年一一月四日右予約を原因とする主文第一項記載の所有権移転請求権保全の仮登記をした。
2、ところが、訴外会社は、昭和三九年四月二四日被告から後記根抵当権に基づいて、本件土地に対する不動産競売開始決定を受け、さらに、原告に対する債務一、一三五万五、三八九円のうち、同年七月末日限り弁済すべき金四二万六、二五〇円、同年八月末日限り弁済すべき金五八万七、一三九円の各弁済をいずれも遅滞したので、少なくとも同年八月末日の経過とともに、原告に対する右債務全額につき期限の利益を失った。
3、そこで、原告は昭和三九年九月一〇日到達の書面をもって、訴外会社に対し、前記代物弁済の予約に基づく完結権を行使し、右債権のうち金六二六万六、八二〇円の債権の代物弁済として本件土地の所有権を取得した。
4、被告は、訴外会社との間に、昭和三八年一一月三〇日、本件土地に対して債権元本極度額金五〇〇万円の根抵当権設定契約を結び、同年一二月一八日その登記をなし、貸付元金四五〇万七、八五六円をもって、右2、記載のとおり本件土地に対して競売開始決定を受けているものである。
5、被告の右根抵当権設定は、原告の前記仮登記後になされたものであって、被告は、原告が訴外会社よりの本件土地の所有権取得登記をするについて、利害関係人として、これを承諾すべき義務がある。よって、原告は被告に対し、右承諾を求める。
さらに、原告は、当庁昭和三九年(ワ)第五〇七九号事件において、訴外会社を共同被告として、前記仮登記に基づく本件土地所有権移転の本登記手続を求め、昭和四〇年二月一二日原告勝訴の判決言渡があり、その判決はすでに確定しており、原告の本件土地所有権取得は被告の前記抵当権に対抗しうるものであるから、原告は被告の本件土地に対する前記競売手続の排除を求める。
被告の主張
1、原告の請求原因1の事実中、本件土地が訴外会社の所有であること、本件土地に原告主張の仮登記の存することは、認めるが、その他の事実は不知。同2、および4の事実中、被告の根抵当権の設定および登記の事実ならびに競売開始決定の事実は認めるが、原告主張の遅滞の事実は不知、原告主張の期限の利益喪失の点は否認する。同3の事実は不知。
2、本件土地は時価一三、四二万八、九〇〇円であるから、原告が本件土地を金六二六万六、八二〇円の債権の代物弁済として取得するのは、不当である。
3、原告の訴外会社に対する債権が確定して弁済期の到来したのは、昭和三九年九月七日であるが、被告の同会社に対する債権が確定して弁済期の到来したのは、それ以前の同年三月七日である。したがって、被告のなした競売手続は取り消さるべきではない。
4、原告の本件土地所有権の取得については未だ本登記を経由していないから、これを被告に対抗できない。
証拠関係≪省略≫
理由
訴外会社所有の本件土地について、原告主張の仮登記がなされ、その後、原告主張のごとく被告のために根抵当権設定およびその登記がなされ、右根抵当権の実行に基づく競売開始決定がなされたことは当事者間に争がなく、≪証拠省略≫を総合すれば、請求原因1ないし3の各事実(ただし、前記当事者間に争のない事実を除く)がすべて認められ、右認定に反する証拠はないから、原告は、昭和三九年九月一〇日、本件土地の所有権を取得したものというべきである。
被告は、本件土地の時価が一三、四二万八、九〇〇円であることを理由として、本件代物弁済の効力を争うけれども、右時価についてなんらの証拠がないばかりでなく、仮にその時価が被告の主張どおりとしても、金六、二六万六、八二〇円の債権の代物弁済として原告が本件土地の所有権を取得したことは、公序良俗に反する暴利行為とはみられないから、被告の主張は理由がない。
そうすれば、本件土地につき、前記仮登記後になされた被告の根抵当権設定登記は、原告の所有権本登記と抵触するものとして否認さるべきものであり、被告は、不動産登記法第一〇五条第一項に基づき、原告が本件土地についての前記仮登記の本登記手続をするについて、登記上利害関係を有する第三者として、これを承諾する義務があるといわねばならない。
次に、原告が前記仮登記のまま、本件土地についての前記競売手続の排除を求めうるかについて判断する。
代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権の保全の仮登記のなされた不動産につき、その後第三者のために根抵当権設定の登記がなされている場合において、仮登記権利者がさらにその後右予約上の完結権を行使して該不動産の所有権を取得したときは、仮登記権利者の本登記上の所有権は、仮登記の順位保全の効力として、その所有権と両立しえない第三者の根抵当権を排除する関係にある。ところで、この場合、前記不動産登記法第一〇五条一項は、仮登記権利者に対し、右根抵当権者の承諾又はこれに代わる裁判の謄本を添附しなければ、所有権取得の本登記をなしえないとする半面、仮登記権利者の地位を強化しているのであって、仮登記権利者がその本登記をなすに必要な実体上の要件を具備したときは、仮登記権利者は仮登記のままで直ちに第三者の根抵当権の効力を否認しうるとともに、右根抵当権者に、仮登記権利者の本登記について承諾義務を負わせている。そうすると、右不動産登記法の規定の結果、右のごとき承諾義務を負う根抵当権者は、代物弁済の完結により所有権を取得した仮登記権利者に対し、本登記のないことを理由として、その所有権を争うことは、もはや許されないし、また、みずからの根抵当権の存続を主張することも許されないというべきであって、畢竟かかる根抵当権者は、仮登記権利者が所有権取得の本登記をする関係においてばかりでなく、みずからの根抵当権を実行する関係においても仮登記原因の成就による仮登記権利者の所有権取得につき、その本登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者には該当しないと解するのが相当である。したがって、仮登記原因の成就により所有権を取得した仮登記権利者は、たとえ本登記を経由していなくても、該所有権を右のごとき根抵当権者に対抗しうるから、該所有権に基づいて、右根抵当権の実行による競売手続の排除を求めうるものといわなければならない。以上の理由により、上叙説示の本件においては、仮登記原因たる代物弁済予約の完結により本件土地の所有権を取得した原告は、該所有権に基づき、被告の根抵当権の実行による本件競売手続の排除を求めうるものといわなければならない。
右に反する被告の所論は、当裁判所の採用しないところである。
被告は、また、被告の訴外会社に対する被担保債権の弁済期が原告の訴外会社に対する金銭債権のそれよりも早期に到来したから、本件競売手続は取り消されるべきではないと主張するけれども、右両者の債権の履行期の先後は、前叙のごとき原告の仮登記権利者の地位を左右するものではないから、被告の右主張は理由がない。
以上の次第で、原告の本訴請求をいずれも正当として認容し、民訴八九条、五四九条四項、五四八条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 大須賀欣一 裁判官美山和義は、転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 木下忠良)