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大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)5365号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

(一) 原告方は昭和二十一、二年頃から訴外大河内成三方の二階(同家屋は訴外松本豊太郎の所有で大河内は同人から賃借中のもの)を短期間内に明渡す約束で転借し原告の夫後藤正成は旧布施市役所へ勤務していたが、予てから住家を所有したい考えで原告も天ぷら屋をし、又娘二人も中学校や小学校へ通う頃から他家の子守りや手伝いなどをして一生懸命家を買うための資金を貯えていた。たまま昭和三十一、二年頃訴外松西英昭の母に頼まれ英昭にその営業資金として一二万円を貸与したが、その後代金五〇万円、内二〇万円は頭金として支払い残金は月一万円づつの分割払いで買える家が見付かつたので、英昭に前記貸金一二万円の返済を求めたところ、英昭はその所有にかかる本件家屋を売却しその代金で支払う旨を申出た。そして英昭は、昭和二〇年三月から本件家屋の賃借人であつた被告にその買取方を申込んだが折衝途上において感情上の行違いを生じ被告は右買取りを拒否した。そこで英昭は本件家屋を原告に代物弁済として提供する旨申出で、原告は賃貸家屋をもらつても仕様がないといつて一旦は断つたが、英昭から現金で返済をうける目途がなかつたので結局同家屋を代物弁済として譲受けることとし昭和三五年一二月七日その所有権移転登記を経由し被告との間の賃貸借関係を承継した(本件賃貸借関係)。

ところで原告方は大河内から、後記のような事情で、度々二階賃借(転借)部分の明渡の催促をうけていたのと、また本件家屋を取得した経緯が前記のようなものであつたところから、被告に対し昭和三六年五月二日に書面をもつて、大河内から前記明渡の催告をうけていることを理由に本件賃貸借契約を解約する旨申入れた。

(二) 大河内方は階下四帖半位の応援間、六帖、二帖の部屋各一室、二階は八帖、六帖の部屋各一室で原告が二階を借受けた当初の頃は大河内方は夫婦と女の子二人のみであつたが、その後子供が成人し、なおほかに男女各一児が出生したので現在は六人家族である。そして階下の応接間は腐朽して使用不能の状態で、二帖の部屋も二階への通路部分なので事実上使用できず、階下で使えるのは六帖の間一室のみである。そのうえ長女が腺病質のため結婚しても大河内方におつて大河内の妻が面倒をみており、大河内自身も胃潰瘍で入院したが退院後自宅療養しなければならず、何といつても階下部分のみでは狭すぎることが明らかである。また原告方で二階を借りた当初短期間との約定をしており、なお大河内方までがその家主松本豊太郎から明渡の請求をうけるに至つたのであつて、これらのことを考えると、大河内が原告方に対し明渡の督促をするのはやむをえないところであるというべく、原告方が早急に二階の賃借(転借)部分を明渡す要があることについては異論はないところと認められる。

(三) ところで前記原告から被告に対する解約申入当時原告方は長女はすでに他家に嫁し、次女は高校生で、原告の夫後藤正成は旧布施市役所に勤務し、原告は出店で天ぷらの製造販売をなし月収約一万五〇〇〇円位を挙げていた。その後原告は昭和三九年六月頃膵臓炎のため約二ケ月間入院したため天ぷら販売をやめ昭和四一年一一月二〇日頃から焼芋屋などをしている。そして次女は現在関西大学夜間部商学科に在学し昼間は経理事務所に勤務し右二人の月収合わせて三万二〇〇〇円位であるが、夫正成はすでに旧布施市役所を退職し一時臨時雇をしたこともあるが現在七〇才をこえ無職である。同人は相当に老耄の兆候をしめし最近薬罐をガスにかけたままにして火を消すのを忘れ薬罐を真赤にして危く火事になろうとしたことも再度ある。これも大河内が原告方の即刻の立退きを要望している一つの原因である。

(四) 他方本件家屋は八帖、六帖、四帖半及び二帖の間があつて被告は同家屋で洋服仕立業をいとなんでおり、解約申入れをうけた当時夫婦のほかに女一人男二人の子供が住んでいた。その後女の子は他家に嫁し男の子のうち長男は富士製鉄株式会社に勤務して北海道に移り住み、現在は夫婦と電々公社に勤務している次男との三人暮らしである。なお被告の妻は貧血症などのため昭和三七年三月頃一ケ月間入院し退院後も同年六月二〇日まで通院したことがあり、現在も健康がすぐれない状態である。

明渡請求の際原告は二〇万円を立退料として提供したが、被告方では一〇〇万円を要求し、調停においては妻の健康状態や、被告が町会の役員その他の名誉職についていることをも理由として明渡を拒絶した。また原告側では本件家屋から徒歩で一〇分位のところにある家屋(但し六帖、三帖及び台所のみ)に長女が住んでいたので、長女夫婦が原告らと共に本件家屋に転居することにして右家屋を提供する旨申出たが被告はこれに応じなかつた。なお被告は自ら立退先を探すことはこれまで全くせず、その当裁判所における本人尋問においても「どんな理由、条件であつても本件家屋を立退く気持は全くない」旨を供述している。

以上のとおりであつて被告本人の尋問の結果中右認定に反する部分は当裁判所これを信用しない。

三、ところで前記の経緯や双方の事情に照らすと、原告が当初解約申入れをした当時被告がこれに応じなかつたのはそれ相当の理由があつたものといえるが、本件口頭弁論終結当時においては、原告が本件家屋を必要とする度合いは被告のそれを相当に超過し本件解約申入れが正当事由を具備するに至つてからすでに六ケ月を経過したものと認定するのが相当である(但しそれより前いつの時点において正当事由を具備したかを認定することは本件において提出援用された証拠のみによつては困難である)。(加藤孝之)

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