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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)3979号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕イ 原告礼三の損害

(一) 療養費<略>

(二) 逸失利益<証拠略>を総合すると、

つぎの事実が認められ、反対の証拠は信用しない。

① 原告礼三は本件事故当時(註、四〇年二月二日)三五才で、約五ケ月前から協同技術ラボ株式会社にカラー写真集配員(ほとんど車の運転)として勤務し一ケ月平均約六七、〇〇〇円(三ケ月半で二三五、五六〇円)の収入を得ていたが事故のため失職した。

② その後前認定のとおり治療を続け軽快したので、昭和四〇年一一月から布施市で「ふとん屋」を開業し、妻の原告照子と共に営業に従事していたが繁盛しなかつたので、翌四一年三月ごろから松原市と大阪市内各店舗を設け、店員を雇い入れて営業を継続していたところ、同年一一月ごろ、妻と店員の関係に不審を抱き、口論の末別居することになり、それ以後右営業から手を引き、高松市の兄慶勝の許に身を寄せ、同人の経営する洋装店で店員として働くようになつたが、身体の調子が悪く気まずくなつたので、昭和四二年二月ごろ再び来阪した。

③ 来阪後は肩書住居で弟の世話になりながら、就職口を探しているが、激しい労動ができないため適職を見つけ得ないで現在に至つている。

Bつぎに、鑑定の結果によると、「原告礼三の現症については、頸椎から腰椎にかけて脊椎の運動制限はまつたく認められず(ただ頸椎の最大後屈時に後頭部に軽度の疼痛を訴える)、上下肢および躯幹には知覚・痛覚の異常なく、四肢の運動障害も認められないし、上位頸椎損傷(環椎、歯状突起間関節異常)には、レントゲン像上ではまつたく異常がなく治癒していると認められ、また、同人の訴える頭痛、耳鳴りは外傷後ノイローゼによるものとも考えられる。同人の症状は身体的な機能障害を伴わない精神神経性の障害であるので、まつたく労働不能とは考えられないが、一般に鞭打ち症として頸部損傷が起こると、その治療後になお強い後遺症を残すものがあり、同人も現在なお症状を訴え、かつ強い体変動のあとに症状の悪化が認められるので、現在の症状をもつてしては、車の運転あるいは激しい肉体労働に従事することは困難と考えられる。しかし軽い肉体運動を伴なつた労働あるいは簡単な事務的な作業は可能である。」というのである。

Cとすれば、原告礼三がその労働能力をすべて失つたと認めることはできないけれども、事故前のような車の運転を必要とする職業に就くことは、現在のところ不可能であると認めなければならないので、原告礼三が本件事故によりその労働能力の一部を喪失していることは否定できない。

しかしながら、前認定のように、原告礼三は昭和四〇年一一月から妻と共に「ふとん屋」を開業し、その営業に従事していたのに、翌四一年一一月ごろ妻と店員の関係に不審を抱き妻と別居し、右営業から手を引くに至つたものであるところ、前記鑑定の結果から認められる労働能力の程度をもつてすれば、右営業から手を引かなければなおこれに従事することができたものと認められるので、手を引くに至つたことにつき正当な理由の認められない本件においては、右の営業になお従事できるものとして、原告礼三の逸失利益を算定するのが相当である。

Dしかるところ、原告礼三が右営業に従事することによつて取得し得る収入と前記カラー写真集配員としての収入のいずれが高額であるかについては、本件証拠上これを確認しがたいので、原告礼三が右営業に従事するようになつた昭和四〇年一一月以降の逸失利益の有無数額は不明というほかはない。

Eもつとも、このように収入の増減が不明であつても、前記のように労働能力自体が減退している以上、その減退に応じて逸失利益を算定すべきであるとの見解もあるが、逸失利益と呼ばれるものは、被害者が有していた労働能力の抽象的価値自体の喪失による損害ではなくして、被害者が労働能力を喪失したために将来取得することができたはずの収入を喪失したことによる損害を意味するものであるから、たとえ労働能力の減退が認められても、収入の減少が認められないかぎり、逸失利益ありとはいえないのである(労働能力の減退自体による損害は、これを非財産的損害とみて、後記の精神的損害算定上の一資料とするのが相当であると解する)。

F以上の理由により、原告礼三の逸失利益は、本件事故から昭和四〇年一〇月までの九ケ月分のほかは認められず、右九ケ月分の事故当時における現価は左の算式により、五九〇、二七〇円となる。

(算式)

六七、〇〇〇円×八・八一(九ケ月のホフマン係数)

(三) 精神的損害 二、〇〇〇、〇〇〇円前出すべての事情(ことに、原告礼三に上位頸椎損傷後遺症として頭痛、耳鳴りがあり、ために労働能力の減退をきたしていることを)しんしやくした。

(四)(五)<略>

(ロ) 原告照子の損害

自己受傷分五〇、〇〇〇円<略>

三、原告礼三の過失<中略>

被告竹四郎の前記過失の程度その他諸般の事情を考慮すると、被告両名の損害賠償は前記各損害の各四〇%(原告礼三に対し一、〇七二、七五二円、原告照子に対し二〇、〇〇〇円、原告両名は当時内緑関係にあつたのであるから、原告礼三の右過失は原告両名側の過失とみなすのが相当である)にとどめるべきである。(谷水 央)

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