大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)5308号 判決
原告 吉田和男
右訴訟代理人弁護士 荻矢頼雄
被告 竜田工業株式会社
右代表取締役 中根俊一
右訴訟代理人弁護士 山上孫次郎
第一 主文
一、被告は原告に対し、金五八三、五〇〇円およびこれに対する昭和四〇年一一月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担、その余を被告の負担とする。
四、この判決一項は仮りに執行することができる。
第二 原告の申立て
被告は原告に対し金三、四一四、三四四円およびこれに対する昭和四〇年一一月二七日(本件訴状送達の翌日)から支払いずみまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。
との判決ならびに仮執行の宣言。
第三 争いのない事実
一、交通事故発生
とき 昭和三七年一一月二七日午前一〇時三〇分ごろ
ところ 奈良県北葛城郡王寺町大字王寺三三五九番地先路上
(一級国道二五号線と県道立野―王寺停車場線とが交差する三差路)
事故車 (1) 小型貨物自動車(奈四そ七三七八号)
(2) 第二種原動機付自転車
運転者 (1) 訴外岩井正夫
(2) 原告
受傷者 原告 内臓破裂(骨盤腹膜損傷、腹腔内出血、腸管出血)、下顎骨開放骨折、歯牙損傷、部挫創、右中指々骨々折、肝機能障害
二、被告と訴外岩井との雇用関係
被告は訴外岩井正夫の使用者であり、本件事故は岩井が被告の業務執行中に発生したものである。
三、事故車の所有関係
被告は本件事故車(1)の所有者である。
第四 争点
(原告の主張)
一、被告の責任原因(自賠法三条、民法七一五条)
訴外岩井は前記車輌(以下被告車という)を運転して国道二五号線を西に向って進行中本件三差路にさしかかり右折しようとしたが、このような場合、自動車運転者は交差点中心の直近の内側を徐行しつつ右折しなければならないのにこれを怠り小廻りで右折を開始したのみならず、右方(北方)の可視地点に出たとき、北方二〇メートルの地点に時速二〇ないし三〇キロメートルで南進してくる原告単車を発見したのであるから、一時停止して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、なんらの事故予防措置を講ずることなく漫然と右折進行した過失により、道路中央線東部においてその運転する被告車を原告単車に衝突させたものである。
二、原告の損害 総計 三、六五六、六二八円
(一) 人損
(1) 後遺症
(イ) 腹部手術創瘢痕あり、時々瘻孔を作っては閉鎖する。
(ロ) 下顎部正中線に手術創あり、容貌著しく醜形。
(ハ) 右手握力一六キログラム、左手握力二二キログラム。
なお、昭和三七年一一月二七日から三八年五月一九日まで大野病院に入院、以後自宅にて治療している。
(2) 数額 合計 三、五四六、六二八円
(イ) 入院治療費 三二六、六二八円
(ロ) 付添費 一四〇、〇〇〇円
(ハ) 入院中雑費 八〇、〇〇〇円
(ニ) 保養費(退院後五ヶ月間の栄養剤、栄養食費) 一〇〇〇、〇〇〇円
(ホ) 店員雇入費用(37・12・1~39・2・28、月三〇、〇〇〇円)四五〇、〇〇〇円
原告は紙箱製造販売業を営み製造や運搬にも従事していたが、事故による受傷のためこれらの業務に支障をきたしたので、訴外松田博夫を臨時に雇用し、原告が一応稼働できるようになるまで一五ヶ月間にわたり給料を支給せざるを得なかった。
(ヘ) 療養中の純益収入減(37・12・1~39・2・28月三〇、〇〇〇円)四五〇、〇〇〇円
原告が事故発生前その事業から得ていた純利益(諸経費を差引いたもの)は一ヶ月一三〇、〇〇〇円であったが、原告の休業により前記のとおり松田博夫を雇って代替させたにもかかわらず一〇〇、〇〇〇円に減じた。よって一ヶ月の損失は三〇、〇〇〇円となる。
(ト) 将来の逸失利益一、〇〇〇、〇〇〇円
原告は本件事故による後遺症のため労働能力を1/20喪失した。
原告は昭和二年五月三一日生れで、事故後一応稼働したのが昭和三九年三月一日即ち満三六年の時である。従って原告の就労可能年数は二七年である。このホフマン係数は一六・八〇四である。
原告が事故前に紙箱製造販売により得ていた純利益は前記のとおり一ヶ月につき一三〇、〇〇〇円であるから、原告の得べかりし利益の喪失は次の算式により一、三一〇、七一二円となるが、うち一、〇〇〇、〇〇〇円を請求する。
一三〇、〇〇〇円×1/20×一六・八〇四=一、三一〇、七一二円
(チ) 慰謝料一、〇〇〇、〇〇〇円
原告は紙箱製造販売業の業主であるが、本件事故により事業ならびに家庭生活にこうむった影響は大である。また(一)、(1)に述べたように長期間入院し、退院後も後遺症に苦しめられている。
(二) 物損 一一〇、〇〇〇円
原告は本件事故によりホンダベンリー号(一九六一年式C92型定価一三五、〇〇〇円、但し新車購入より三ヶ月にて本件事故発生)を大破されたため、これを昭和三七年一二月二〇日株式会社福岡モータースへ二五、〇〇〇円で売却し、その差額に相当する損害をこうむった。
三、損害のてん補
被告から入院治療費内金二四二、二八四円を受領した。
四、本訴請求
前出損害の残金三、四一四、三四四円およびこれに対する前記遅延損害金。
(被告の主張)
一、本件事故は原告の一方的な過失に基くものである。
訴外岩井は本件三差路にさしかかった際、一時停止し右(北)方を見たところ約二〇メートル先に猛スピードで南進してくる原告の単車を発見した。ところで岩井の来た国道の方が原告の来た県道より少し広く岩井の方に優先権があり、かつ原告の進行方向三差路の手前には一時停止の道路標識があるので、岩井としては当然原告がその手前で一時停止するものと考えて時速五キロメートル位で発進したところ、原告が一時停止を怠り同一速度で漫然進行してきたため急停車したが及ばず、被告車の右側後輪付近に原告単車が激突した。また原告は六四メートル手前で被告車を発見しているのであるから十分に安全のための措置がとれたのみならず、右のように岩井に優先権がありかつ一時停止の道路標識があるのにこれらを無視して危険防止の措置をとらず、漫然と同一速度で進行して衝突したのであるから本件事故は原告の過失によるものであって、岩井としては通常の方法で右折しているし、また仮りにもっと大廻りしていても事故は避け得なかったのであり、前記事情の下では原告が一時停止するであろうと信じて行動したことも無理からぬことであり、本件事故発生につき岩井にはなんらの過失も認められない。
二、岩井の運転する被告車には構造上の欠陥、機能の障害はなかった。
三、被告は、自動車運行に関する監督上の責任者である工場長松井太郎によって、平素岩井正夫ら運転者に対し運転上厳重な注意を与え監督していた。
第五 証拠≪省略≫
第六 争点に対する判断
一、被告の責任原因(自賠法三条、民法七一五条)
(一) ≪証拠省略≫を綜合すると次の事実が認定でき、これに反する証拠はとうてい信用できない。
(1) 事故発生現場は北東から南西に通じる国道二五号線が南北に通じる王寺本町県道に交差する交通頻繁な三差路(但し事故当時は閑散であった)で、交差点東側の国道の幅は約六・三メートル(うち北側約一・七五メートルは非舗装部分)、県道の幅は約八・九メートル(うち両側に各約一・七五メートルにわたって非舗装部分がある)である、交差点の北東角にはブロック塀があって見通しは悪い。また事故当時には、本件三差路の北東角に南行車に対する一時停止の道路標識があり、三差路中央にも徐行の円筒標識が設置されていたが、右三差路での一時停止はあまり守られておらず、この近辺ではスピード違反が多く、出会いがしらの衝突事故もよく起っていた。
(2) 訴外岩井は被告の商品運搬のため一日に三回位の割りでしばしば本件現場を通行し、道路および交通の状況を熟知していたものであるが、いつものように被告車を運転して国道二五号線を西進し本件三差路にさしかかり、右折のため速度を時速約五キロメートル程度に落して北方(右)の見通しのきくところまで出た。このとき同人は北方(右)約二〇メートル先に県道東寄り(道路東端から一・五ないし二メートル付近)を時速二〇ないし三〇キロメートルで南進してくる原告の単車を発見したが、同単車が交差点手前の一時停止標識付近で一時停止し自車に進路を譲ってくれるものと考え、自らは停車せずそのまま惰力で右折を続け約三メートルほど進んだところ、原告が予想に反して標識を無視し一時停止せずそのままの速度で進行してきたので、危険を感じ急停車したが及ばず、被告車が停止したのとほとんど同時に原告単車が被告車の右側後部付近に激突した。
(3) 衝突地点は三差路を少し北に進んだ県道東側の非舗装部分と舗装部分の境界線上付近で、前記一時停止標識をやや南に越えており、停止した被告車の右側後部と道路東端の間には約二メートルの間隔しかなかった。
以上認定の三差路の広さおよび衝突地点から推せば、訴外岩井は右折に際していくぶん小廻りをしたこと、即ち交差点中心の直近内側通行が必ずしも十分でなかったことが認められるし、また本件現場は三差路で見通しが悪く平素は交通頻繁な場所であるうえ、北から南進する車輛はあまり一時停止を守らずスピード違反や出会いがしらの衝突事故がよく起る場所であったところ、事故以前からしばしば現場を通って道路状況を熟知していた岩井としては、当然右の事情をも知っていたと推認するのが相当であるから、かかる事情の下では、自己側に優先権があるとか相手方の進路に一時停止の標識があるとかいう事のみで、相手方の一時停止を信頼して行動するのは軽卒である。とくに本件では岩井が原告単車を発見したとき両者の距離は約二〇メートルしかなく、原告単車は時速二〇ないし三〇キロメートルという交差点直近としてはかなりのスピードで進行を続けてきていたのであるから、前記のような日ごろの交通事情を考え合せると、原告単車が被告車の前方あるいは後方を通過すべく一時停止を怠って進行してくることも予想できない状況ではなかったと思われるので、岩井としては、原告単車を近距離に認めたとき一時停止してその動向に十分注意したうえ、安全であることを確認して右折を開始すべき義務があったものといわなければならない。これを要するに、訴外岩井には原告単車を発見したとき一時停止してその動向に注意し、安全を確めて発進すべきであるのにこれを怠ったうえ、交差点中心の直近内側通行が十分でなかった点に過失があると認めるのが相当であり、この過失が本件事故の原因となったものであることは前認定の事実から明らかである。
(二) 本件全証拠によるも、被告が岩井の選任、監督につき相当の注意をなしたことの証明は十分でない。
以上の理由により、被告は自賠法三条、民法七一五条に基き、本件事故によって生じた原告の後記損害を賠償する義務がある。
二、原告の損害 総計 二、〇五二、六一五円
(一) 人損
(1) 後遺症
≪証拠省略≫によれば、原告主張通りの症状が残存していること、そのため非常に疲れ易く一日五、六時間しか後記業務に従事できないことが認められる。
(2) 数額 計 一、九四七、六一五円
(イ) 入院治療費 三二六、六二八円
(ロ) 付添費 一四〇、〇〇〇以上
(ハ) 入院中雑費 認められない。
(ニ) 保養費(退院後五ヶ月間の栄養食費等)八〇、〇〇〇円
(ホ) 店員雇入費用(37・12・1~39・2・28月三〇、〇〇〇円)四五〇、〇〇〇円原告主張の通り。
(ヘ) 療養中の純益収入減(37・12・1~39・2・28)認められない。
(ト) 将来の逸失利益 六五〇、九八七円
原告の前記後遺症の程度は労働基準法施行規則別表第二(身体障害等級表)のうち第一一級に該当すると考えられるところ、原告は後記のように紙箱製造販売業を営むものであるから、その労働態様からして、原告の本件事故による労働能力喪失率は、その主張する通り従前の1/20を下らないと推認される。
次に≪証拠省略≫を綜合すれば、原告は昭和二年五月三一日生れ(事故当時三五才)で、吉田紙器工業所の商号で紙箱製造販売業を営んでいること、事故前は健康で紙箱の製造や運搬にも従事していたことが認められるところ、昭和三七年簡易生命表によれば三五才の男性の平均余命は三五・七二年であるから、本件事故がなければ、原告はその職種からみて六〇才まで就労可能であり、その間従前と同程度の収入を得ることができたものと推認するのが相当である。
ところで、≪証拠省略≫によれば、原告は事故前業主として吉田紙器工業所を経営し、一ヶ月約一三〇、〇〇〇円の純利益をあげていたこと、しかしその営業には原告の父である吉田耕三郎(当時六三才以上)や原告の妹が協力していたことが認められる。そうすると原告が自らの労務のみによって一三〇、〇〇〇円の利益を得ていたとみとなすことはできず、原告の営業主たる地位のほか各人の労働能力等を考慮して、原告の労働による純利益は一ヶ月につき七〇、〇〇〇円と評価するのが相当である。
よって次の算式により原告の得べかりし利益の喪失額(但し、原告主張の昭和三九年三月一日当時三六才から六〇才まで二四年間のもの)は六五〇、九八七円(以下切捨て)となる。
(算式)
七〇、〇〇〇円×1/20=三、五〇〇円(一ヶ月)
三、五〇〇円×一二=四二、〇〇〇円(一年)
四二、〇〇〇円×一五・四九九七(年利五分によるホフマン係数)=六五〇、九八七・四円(二四年現価)
(チ) 慰謝料 三〇〇、〇〇〇円
本件事故による原告の精神的損害は、原告の後記過失をも斟酌して三〇〇、〇〇〇円で慰謝されるべきものと考えられる。
(二) 物損 一〇五、〇〇〇円
≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故によって単車を大破されたが、この単車は原告が事故の約三ヶ月前に一三〇、〇〇〇円で購入したものであり、事故による損傷のため二五、〇〇〇円で売却することを余儀なくされたことが認められる。従って単車大破による原告の損害はその差額一〇五、〇〇〇円と認めるのが相当であり、前掲乙五号証もこの認定の支障とはなり得ず、他に右認定を左右する証拠はない。
三、過失相殺(一〇分の七)
一、の責任原因の項で判断したように、本件事故発生については、原告にも交差点手前で標識に従い一時停止すべきであるのにこれを怠ったという重大な過失があるので、本件は過失相殺さるべき事案であるところ、原告と外訴岩井の過失の比率は七対三と認めるのが相当である。そこで原告の損害総計二、〇五二、六一五円から慰謝料三〇〇、〇〇〇円を引いた一、七五二、六一五円の一〇分の三である五二五、七八四円(以下切捨て)に右慰謝料三〇〇、〇〇〇円を加えた八二五、七八四円が被告の賠償すべき金額である。
四、損害のてん補
被告は入院治療費の内金として原告に二四二、二八四円を支払った(原告自認)
五、結論
以上の通り被告は原告に対し、八二五、七八四円から損害てん補額二四二、二八四円を引いた五八三、五〇〇円とこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四〇年一一月二七日(本件記録上明らかである)から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきであるので、原告の請求を右の範囲で正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 谷水央)