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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)5883号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕そこで右解約申入に正当事由の有無につき判断する。

<証拠>を合せて考えると、次のとおり認められる。

被告忠善は、同二八年一一月三〇日ごろ本件家屋に入居したが、入居したのは同被告の一人だけで、同被告が本件家屋の使用許可を受けるに際し原告に提出した入居申込書記載の同居親族たる妻ひな子、長女節子、次女君子、四男明宏はいずれも入居せず(妻ひな子は香川県で教員をしており、学校の関係で上阪できなかつた。)しかも同被告が入居していた期間も僅か二、三年くらいに過ぎなかつた。上田鉄男が本件家屋を含む大阪府営庭窪西住宅の監理員になつた同三三年八月当時、本件家屋には坂井とし子なる者とその子供二人が入居しておつた(上田鉄男およびその妻上田羊子は坂井とし子を同被告の妻と思つていた。)が、同人らは同三八年三月中ごろ、水道、電気等は停め、荷物を全部持ち出し家屋を退居した。その後同年五月ごろ、同被告が右監理員方を訪れ自分と子供が本件家屋に帰つて来て住む旨を告げたが、その後同被告は住まず、同年六月に同被告の娘の君子とその友人(または従姉妹)の二人が入居したが、監理員より、入居申入書記載の同居親族でない友人は入居できないと告げられ、友人のみは三ケ月程して退居し、君子も翌三九年六月には退居した。そしてその後、同被告は本件家屋の賃料を毎月監理員宅へ被告省三らに持参させまた自ら持参してはいたが、本件家屋は雨戸を閉めたままで、庭に雑草の繁茂するに任せていた状態で、空家同然のままにして放置していた。ところが、同四〇年一月末ごろ、大阪府建築部住宅管理課員の森光俊之は、秋山某より「本件家屋では入居者が出てしまい、同居親族でもない坂井とし子なる者が居住している。」との抗議電話を受け、実情を調べるべく同年二月六日被告忠善を呼び出して尋ねたところ、同被告は、現在大阪市西区の宮崎和子方に居ることは認めるが、これはたまたま自分の仕事の関係で工場の管理のために行つているだけで、本件家屋の方にも帰つていてそこを居住地にしているので、将来は本件家屋に子供を入れたいという趣旨の返答をした。森光は更に調査を行なつたが、同年三月二五日同人が調査のため本件家屋に赴いた当時も本件家屋には誰も住んでおらず、空家のような状態であつた。同年四月初めごろ大阪市西区九条南通四丁目二二番地第一の宮崎和子方の近所の人々の話によると、同被告はずつと以前から子供と一緒に宮崎方に住んでおり、長女は今度近くの小学校に入学するということで、同被告が別に住居を有しているということは知らない様子であつた。なお、宮崎は一〇年くらい前より右住居に住み、同人と同被告との間には三人の子供があり、うち二人は勘原姓になつている。また、同被告は宮崎方の隣りで勘原工業所を経営し、同所の敷地の一部として宮崎方の庭を使用しており、宮崎は同所の株主で、宮崎の外、従業員はいない。原告より同被告に対する前記解約申入れがあつた後の同年六月ごろ原告は同被告を相手に調停を申し立てたが、その席上同被告は息子の省三(被告省三)を本件家屋に入れるんだとの発言をした。調停は同年八月に不調となり終了したが、その少し前まで本件家屋は前記のごとく雨戸を閉じ空家同然のまま放置されていたが、そのころから被告省三が原告や監理員に断りなしに本件家屋に時折出入するようになつた。その後同年一〇月より後になつてから週に一回くらい本件家屋に電灯が点くようになり、たまたま本件家屋にやつて来た被告忠善は監理員の妻上田羊子に会つた際、理髪業をやつていて月曜日が休みだから月曜日に帰つて来ますと語つた。

右のとおり認められ、<証拠略>。

右事実によれば、被告忠善は同二八年一一月三〇日ごろ入居以来本件家屋に僅か二、三年居住したのみで、その後同三三年八月頃以降は本件家屋で寝泊りすることは殆んどなく、更にその後同三九年六月過ぎ以降は本件家屋を空家同然の状態に放置し、同四〇年一〇月以後も週に一回くらい同被告または被告省三が寝泊りしていた程度であり、かつ、同三八年六月ごろから約一年間被告忠善の娘君子が居住した外、本件家屋の使用許可を受けるに際し同被告が原告に提出した入居申込書記載の同居親族は全然本件家屋に居住したことがないものであり、他方、同被告は大阪市西区九条南通四丁目二二番地第一の宮崎方に同人との間に生れた子供と共に少くとも数年前より事実上居住し、同人方に生活の本拠を置いているものというべきであり、結局本件家屋の賃貸借契約の前記解約申入れが同被告に到達した同四〇年四月一二日当時においても、またその後六ケ月の間においても、同被告は本件家屋の使用を必要としなかつたというべきである。(被告省三は前記入居申込書記載の同居親族ではなく、且つ、大阪府知事の同居承認も得ていないこと後述のとおりであるから、同被告の使用の必要については顧慮すべきでない。)

他方、公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進のために設けられているもの(公営住宅法一条参照)であり、また公営住宅法施行後今日に至るまで公営住宅を必要とする住宅に困窮する低額所得者が多数存在することも公知の事実であるから、前記解約申入れが被告忠善に到達した同四〇年四月一二日当時に件おいても、またその後六ケ月の間においても、原告は本件家屋を必要としたというべきである。

そうだとすれば、原告が同被告に対してなした前記解約申入れには正当の事由があるものというべきである。(前田覚郎 木村輝武 古川正孝)

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