大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)48号 判決 1970年5月12日
原告 磯橋庄太郎
被告 茨木税務署長
訴訟代理人 叶和夫 外六名
主文
一、被告が原告に対し、昭和三六年六月二七日付をもつてなした原告の昭和三五年七月三日から同三六年三月二二日までの昭和一五年法律第四〇号物品税法第一条第二種甲類、第二号に該当するゴルフボール製造に対する物品税賦課決定処分(但し昭和三九年八月一五日付大阪国税局長の裁決により税額金五六一、〇五〇円と変更されたもの)のうち税額金三四四、八〇〇円を越える部分を取消す。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
(原告)
主文第一項掲記の処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(被告)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第二、当事者双方の主張ならびに答弁
(原告の主張)
一、原告は、大阪府高槻市大字土橋二〇番地において、練習用ゴルフボールの修理を業としていたものである。
二、被告は、昭和三六年六月二七日原告が昭和三五年七月三日より同三六年三月二二日に至る間当時施行の物品税法(以下旧物品税法という。)第一条第二種甲類第二号に該当するゴルフボール五一、〇六五個を製造移出したとして、その課税標準額を金一、八七〇、三〇〇円、税額を金九三五、一五〇円とする物品税賦課決定処分をし、その頃その旨原告に通知した。
三、そこで原告より被告に対し、昭和三六年八月三日再調査の請求(昭和三四年法律第一四七号国税徴収法第一六六条第一項本文)をなしたところ、同年九月四日同法第一六七条第三項第一号によりみなす審査請求と取扱われ大阪国税局長は昭和三九年八月一五日付をもつて、原処分の一部を取消し、(課税物件三〇、六三九個、課税標準額金一、一二二、一〇〇円、税額金五六一、〇五〇円)とする裁決をなし、同月末頃原告に通知した。
四、しかし、原告は後述のとおりゴルフボールの修理をしたことはあるも、これを製造したことはないから原処分は全て違法であるのでその取消を求める。
(被告の答弁ならびに主張)
一、請求原因第一項(たゞし、営業種目は後述のようにゴルフボールの製造である)、第二項、第三項(たゞし通知の日は昭和三九年八月一五日頃である)の事実は認める。同第四項の主張は争う。
二、原告は昭和三五年七月三日より同三六年三月二二日に至る間大阪府高槻市大字土橋二〇番地において、五一、〇六五個の古ゴルフボールを近隣のゴルフ練習場から買取り、うち二〇、四二六個は表皮(ガタパーチヤ)の一部が損傷していた程度であつたから所謂局部修理をし、のこり三〇、六三九個の古ゴルフボールについては、その表面にかぶせてあるガタパーチヤを取り除きその内部を剔出し、新製品の製造工程と同じ方法で、芯に巻かれているゴム糸の破損した部分を新しいゴム糸と取り替えたのちこれに別のガタパーチヤをかぶせ新たなゴルフボール(再生ゴルフボール)を製造し、これらを製造場から移出して別表記載のごとき建値、移出価格で販売したものである。
原告が製造したゴルフボールは、旧物品税法第一条第二種甲類第二号ゴルフ用具に該当し(ゴルフボールとは社会通念上一般にゴルフ用のボールとして取引され、かつ、使用されているものの全てを指称するものであつて、それが競技場において使用されるものであると練習場で使用されるものであるとを問わない。けだし、両者はその性状、形態において本質的な差異がなく、かつ非課税規定によつて不課税の取扱がされていないからである)、また、前記ゴルフボールのガタパーチヤ等を取り替える行為は課税物品の「製造」に該当する。すなわち、旧物品税法に規定する「製造」とは、材料又は原料に物理的もしくは化学的な変化を与え、若しくは操作を加え、新たな課税物品をつくり出す行為一般を指称し、その使用した材料又は原料についてはその新古を問わず、さらにそれが素材であると製品であるとを問わない。しかして、ある事実行為が税法上の「製造」に該当するかどうかについては究極的には社会通念によつて判定すべきもので、その物品の所有権または当事者間における取引にあたつての法形式とは別異の考察によるべきものであり前記のごとき原告の加工行為が製造に該当することは明らかである。しかして、再生ゴルフボールの取扱については、昭和二九年九月一日物品税法基本通達の改正により、破損したガタパーチヤを取り替える行為はゴルフボールの製造として取り扱うこととなりその後現在に至つている。たゞ本件製造行為のなされた当時実施されていた昭和三四年七月一日物品税基本通達第三三条但書によると消費者提供の古物に加工又は改造を施す場合には、製造として取り扱わないものとされ、右通達施行後は製造者が消費者から古ゴルフボールの提供をうけ、それに加工をした場合に限つてその行為を製造として取り扱わず、したがつて物品税も賦課していなかつたが原告は、一般不特定多数の者から古ゴルフボールを買入れ、これに加工して販売していたのであるから右通達但書の規定する場合に該当せずこれの移出の際物品税納付義務を負うのは当然である。
三、ところが原告は旧物品税法第一五条の規定により、営業開始申告書を政府に申告し、同法第八条第一項の規定により、製造場から移出したゴルフボールにつき、毎月ごとに数量及び価格を記載した申告書を翌月一〇日までに提出しなければならないのに、これを提出しなかつた。
そこで、被告は同法第一八条第三項の規定により課税物品をゴルフボール五一、〇六五個とする前記賦課決定(計算の根基は別表参照)をしたが、原告の審査請求により大阪国税局長において調査したところ、右課税物品のうち二〇、四二六個課税標準額金七四八、二〇〇円については局部修理であることが判明したので、同局長は原処分のうち右部分を取り消したものであつて被告の原告に対する処分は適法である。
(被告主張に対する原告の答弁ならびに主張)
原告が古ゴルフボールを「買い取つて」これに加工して新しいゴルフボールを「製造」して販売したとの主張は争うが、その余の事実は全て認める。
本件課税物品たる古ゴルフボール三〇、六三九個のうち、二七、二九九個は近隣のゴルフ練習場から預つて帰つたものであり、原告は相手方に古ボールの代価を支払つていない。その余の三、三四〇個は相手方が贈与するといつたのであるが、若干の謝礼を払つて持ち帰つて、補修していたところ、これを知つた先方のゴルフ練習場は、前に払つた謝礼金を返還し修理代を支払うから、右補修にかかるボールを返却して欲しいというので、これを右練習場に引渡したのであつて、実質的には前記のものと異ならない。
したがつて、原告は三〇、六三九個の古ゴルフボールを「買い取つた」こともなければ、補修にかかるゴルフボールを販売したこともない。只修理したゴルフボールを近隣のゴルフ練習場に練習用として納品していたものである。
次に物品税法に云う製造の概念は、同法の立法趣旨に沿つて目的論的に定立されなければならない。原告は古ゴルフボールに加工する際、ボールの芯を形成しているゴム糸までは取り替えてはいないのであつて、唯表皮を削がすについて若干損傷を受けるゴム糸の補充をなしたうえ、別の表皮(ここに別の表皮といつても古ボールから剥ぎ取つた表皮を原材料としてこれを練り直して再生して作つた表皮である)と取り替えたに過ぎないから社会通念上製造とは云えず、修理にすぎない。これを製造概念に包摂し、物品税を賦課せんとする被告の立場は、物品税を二重取りしようとするものであつて許し難いものである。
(原告の仮定的主張)
一、物品税は租税転稼を前提とするものであるところ、原告の取り扱うボールの単価は六〇円程度のもので、到底右単価に物品税五〇%を加算した単価九〇円での市場価格形成は不可能のものであり、従つて、そこに於いては租税転稼等はありえない。更にまた原告の営業上の利潤は極く少ないのであるから、高額の物品税を負担する能力は皆無であり、それでは原告の営業はなり立たない。
然らば、本件課税処分はまさに物品税という名目による所得税の二重取りであり、原告の営業権、生存権を侵害する違憲、違法のものである。
二、以上の主張が認められないとしても、被告のなした本件課税処分は信義誠実、禁反言の原則に反する違法があり取消さるべきものである。
即ち、本件ゴルフボールの物品税賦課の仕方については昭和三四年七月一日の物品税基本通達によつて処理され、従つて原告等の同業者はいずれも非課税の取扱いを受け、原告もその様な税務指導を受けていたのである。
ところが、昭和三八年三月一九日に前示通達が改正され、消費者提供の古物に補修を加える場合も製造とみなして課税することとなつた。
この通達に勇気づけられた被告は突如として原告に対し遡つて昭和三五、三六年度分にも本件の様に課税して来たのである。そのために、原告もその当時は非課税と信じてそのつもりで経営していたので、一度に過年度に遡つて多額の課税をされ、甚大な支障を蒙つているものである。
被告の処分は明らかに禁反言の法理ないしはそれを含む信義誠実の原則からみて許すべからざる違法がある。
(原告の右主張に対する被告の答弁)
一、二の主張はいずれも争う。
原告の同業者がいずれも非課税の取扱いを受けていたことおよび原告に対し同様な税務指導をなしていたことはない。又本件処分は昭和三八年三月一九日物品税基本通達を遡及適用したものではなく、前記のとおり原告は不特定多数の者から古ゴルフボールを買い入れて製造していたものであるから、昭和三四年七月一日物品税基本通達第三三条但書の適用がないものとして処理したに過ぎない。
したがつて、本件課税処分は禁反言の法理および信義誠実の原則に何等違反するものではなく適法である。
第三、証拠関係<省略>
理由
一、請求原因第一(但し、営業種目については後述のとおり争がある)、第二、第三項の事実および、原告は政府に申告することなく、昭和三五年七月三日から同三六年三月二二日に至る間にゴルフ練習場等から収集(その方法が預託であるか否かは後述三のとおり争いがある)した古ゴルフボールに加工(その程度が単に修理に止まるか、製造となるかは後述二のとおり争いがある)してこれを移出していたこと、前記期間中原告の取り扱つたゴルフボールの数は五一、〇六五個であつて、そのうち二〇、四二六個(全体の四割)は裁決により局部修理と認められ本件課税物品より除外されたこと、その余の三〇、六三九個(本件課税物品―全体の六割)は表皮(ガタパーチヤ)を取り除き、芯に巻かれたゴム糸の破損部分を新しいゴム糸で巻きかえこれに新しいガタパーチヤをかぶせて近隣のゴルフ場等に納品していたこと、ゴルフボールの建値、移出価格本件物品税額算定の根基は当事者間に争いはない。
二、被告は本件課税物品(三〇、六三九個の練習用ゴルフボール)に対する原告の加工が、所謂製造に該当するとし、原告はこれを争うので検討する。
いずれも成立に争いのない乙第一号証の二、同第一一号証、同第一四、一五号証、同第二〇号証、証人池原俊一の証言および原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によると、ゴルフボールの構造は、中心に「センター」と呼ばれる部分があり、そのうえにゴムテープを巻き、更にゴム糸を巻き表皮(ガタパーチヤ)をかぶせたものと、ゴムテープを巻かないでセンターに直接ゴム糸のみを巻き表皮をつけたものとがあること、ボールには大と小とがあるが、原告の取り扱つていたのは大であつて、その直径は四二、五ミリないし四二、七ミリであつて芯の直径は三五ミリ、表皮の厚さは一一、五ミリで、ゴム糸の部分は約六ミリ位であつたことセンターは飛翔率、平衡度を決める最重要部分であつてゴルフボールの性能はセンターにより大きく左右されるが、コース用ボールと練習用ボールにはこの点に材質上格差があること、次にセンターにゴムテープ又はゴム糸を球面状に平衡を保つて巻き付けることがボールの平衡度を高めるため重要であること、ゴムテープを平衡を保つて球面上に巻き付ける作業は高度の技術を要し、原告等弱小企業では技術的に不可能であること、表皮をかぶせる作業は技術的には他の部分に比して容易でどの業者がしてもほゞ同様であること、新品の場合、製作費はセンターとゴム糸の部分が三分の二、表皮の部分が三分の一であること(新品の場合は古ボールの再生の場合に比しゴム糸の巻付け作業が簡単なためその部分の製作費が安くてできる)、本件課税物品に対し原告のなした加工の方法は、近隣のゴルフ練習場等から使用不可能になつた古ゴルフボールを一個五、六円位で入手しその古ボールの表皮を剥ぎ取り、表皮の下に巻き付けてあるゴム糸が使い古されたため切れているので、その破損部分を解きほぐし、その上から新しいゴム糸を巻き付けて直径四〇ミリ位までとして(新らしく巻きつけるゴム糸の厚さは通常一ミリないし一、五ミリ、最高で二ミリ程度で、それ以上巻き替えを要するものは経費倒れとなるので加工せずに廃棄していた。)、次に再生ガタパーチヤ(古ボールのガタパーチヤを三分の二、新品のガタパーチヤを三分の一の割合で練り合せ、再生したもの。原告は訴外大西ゴムに練り賃を支払つて再生を依頼していた。)をプレス機でこれに焼き付け、乾燥させ、耳取りした上これを磨き、その上に白ペンキをぬり、ネーム等を入れて仕上げをしていたこと。完成品は外見上は新品ボールと同じ位立派になり区別は困難であるが、両者は耐久力に差があるのみか、ボールの重さも不揃いであること、使い古されたボールはセンターおよびゴム糸の部分が楕円形に変形しているが、これを矯正しないまま表皮(ガタパーチヤ)を円形の型にはめて焼きつけるため表皮の厚さも不揃いであること(新品の表皮は一ミリないし一、五ミリでその厚さは均等。)、そのため新品に比べ飛翔率、平衡度が劣ることが推測されるが、ネツトを張つた狭い練習場ではこの点はあまり重視されないので、取引価格も練習用の新品が約六〇円であつたのに対して約一〇円位安い程度であつたこと、(末端消費価格は新品一〇〇円ないし一二〇円、再生ボール八〇円ないし九〇円)加工費用の概算は、古ボール六円、ゴム糸五円、ガタパーチヤ三円ないし四円、外皮取り手間代七円、ペンキ代三円、電気水道等四円、工賃一〇円、その他(運賃等)三円計四一円ないし四二円であつたこと、等の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで、或る物に対する事実的加工行為が新たな物の製造に該当すると評価されるのは、右行為が既存の価値の修復という限度を越え、加工対象物を一素材として別個の新たな価値物を創造する行為であると評価される場合をいうものにほかならないが、税法が人の経済行為をその対象とするものである以上、物品税法にいう製造にあたるか否かの判断にあたり、加工行為に対し右に述べた新たな価値物の創造という評価をなすべきか否かの指標として、対象物に対する加工の程度という技術的要因は無視できないとしても、加工行為による価値の増大の程度という経済的要因がより重要な役割をはたすものと解するのが相当である。
そして前記認定の事実によれば、原告の本件課税物品に対する加工行為は、ゴルフボールの最重要部分たるセンターには全く及ばず、次に重要な部分であるゴム糸部分についてはその一部を取り替えるにすぎず、さして重要でもなく、また製造工程上最も平易な表皮を取り替えることがその主要な作業であつたにすぎないものであるが、加工行為の対象たる古ボールは表皮の破損のためもはや使用に耐え得ないもので一個五・六円程度で取引されていたのに対し、加工後の再生ボールは古ボールとは全く面目を一新し、外形上は新品とほとんど区別のつかないものであり、新品に比べてその性能に多少劣る点があるとはいえそれは練習用という使用目的上さして重大なものではなく取引価格も新品の練習用ゴルフボールよりわずか一〇円程度安い五〇円前後であつて、古ボールの約一〇倍の価格であつたことなどを考慮すれば、原告の古ボールに対する加工行為は、事実的加工作業の程度は右のごときものであつても物品税法上はもはや既存の価値の修復という限度を越え古ボールとは全く別個の新たな価値物の創造として評価されるべきであり、従つて製造に該当するものと認めるのを相当とする。
三、次に原告の通達違反ならびにこれに基く信義則違反および禁反言則適用の主張について判断する。
昭和三四年七月一日物品税基本通達第三三条但書には、消費者提供の古物に加工又は改造を施す場合には製造として取り扱わない旨の規定がなされ、右通達実施後は製造者が消費者から直接古ゴルフボールの提供を受け、それに加工した場合には製造として取り扱わず従つて物品税も課税されていなかつたこと、原告の本件課税物品に対する製造行為が右通達の実施中になされたものであることは当事者間に争いがない。ところで、通達は上級行政庁が下級行政庁に対し、法令の運用方針又は取扱準則を示しまた法令の解釈基準を明らかにすることによつて行政事務処理を統一的、合理的に、また円滑に処理することを目的とするものであつて、下級行政庁を拘束するに止まり、法規たる性格を有するものでないことはもとよりのことである。しかしながら、通達によつて示達された内容が税務行政の執行一般において実現されているに拘らず、しかも或る個別的具体的場合につき右通達が定める要件を充足しているものに対し通達に反して納税者に不利益な課税処分をするならば、本件のごとき間接税たる物品税の場合においては税額は本来取引価格の中に折り込まれるのであるから、通達に従い課税の対象とならないと信じて物品税を含まない価格で取引したにもかかわらず後に課税されることになつて納税者に不測の損害を与えるばかりでなく、租税法の基本原則の一つである公平負担の原則にも違背することになり違法な処分といわなければならない。
そこで原告の本件課税物品たるゴルフボールに対する加工行為が右通達第三三条但書の規定する場合に該当するか否かについて検討する。
いずれも成立に争いのない乙第一四ないし第二二号証ならびに原告本人尋問の結果によると、本件課税期間中原告の取り扱つたゴルフボール五一、〇六五個のうちには納品先から古ボールを買い取り、それに対応する数量のゴルフボールを納品している場合(以下区分Aという。)、仕入先と納品先は全く別であつて納品先からは古ボールを仕入れていない場合(以下区分Bという。)、納品先からは古ボールを預つて帰りそれに対応する数量のゴルフボールを納品している場合(以下区分Cという。)、以上三種類の取引形態があつたこと、右各区分に属するゴルフボールの数量は区分Aが一五、七九一個、同Bが二四、〇〇五個、同Cが一一、二六九個であつたこと、区分Aについて買入の形式をとつた理由は、原告が営業を始めて間がなく十分の信用がなかつたので保証金の意味で古ボールを買い受けたものであること、区分A、同Cの場合も原告は受入れた古ボールを受入先ごとにわけることなく一括して加工しており、必ずしも受入れた古ボールと同一物を受入先に納品しておらず、時には先に手持の加工ボールを納品し、右納品に対応する数量の古ボールを後から受入れている場合もあること、以上の事実が認められ右認定に反する証拠はない。
右認定の事実によれば区分Bは消費者提供の古ボールに加工を施した場合に該当しないことは明らかであり、また区分Aの場合も買取代金は保証金としての意味をもつていたにせよ原告は一旦古ボールを買い取つたのであるから、仕入れの古ボールと納品ボールとの間にはもはや客観的にも主観的にも対応関係は認められず、仕入先に仕入個数に対応する数量のボールを納入したとしても、それはたまたま納入先において売渡した古ボールと同数のボールを補充する必要があつたことから納入先の要求により仕入個数と同数のボールを納入していたにすぎないものというべきであり、前記通達にいう消費者提供の古ボールに加工を施した場合には該当しないものというべきである。しかしながら、区分Cの場合においては原告は古ボールの預託を受け、これと同数のボールを預託先に納入しているのであり、預託を受けた古ボールと同一物を納入しておらず、時には先に手持の加工ボールを納入し、後にこれに対応する数量の古ボールの預託を受けている場合もあるとはいえ、本件ゴルフボールは全くの代替物であり、個々の特性が問題となり得る余地はなく、それ故にこそ預託先に古ボールと同一物を納入しなくても取引上なんら差しつかえがなかつたのであるから、右のごとき事情があつたとしてもなお、前記通達にいう消費者提供の古物に加工を加えた場合に該当するという評価がなされて然るべきである。それゆえ本件課税物品のうち区分C該当分は前記通達第三三条但書規定の場合に該当し課税の対象になしえないものというべきであるが、区分A、同B該当分については右規定の場合に該当せず、課税の対象となるものというべきであつて、区分A同B該当分に関する限り原告の通達違反ならびにこれに基く信義則違反および禁反言則適用の主張は理由がないといわなければならない。
四、そこで進んで本件課税物品中前記認定の課税の対象となるべき区分A、同B該当のゴルフボールの個数、移出価格ならびに原告の納付すべき税額如何について検討する。
本件課税期間中原告が取り扱つたゴルフボール五一、〇六五個のうち本件課税処分の対象となつたのは三〇、六三九個(全体の六割)で、その余の二〇、四二六個(全体の四割)は裁決により製造ではなく局部修理と認められ課税の対象から除外されたことは前記のとおりであり、前顕乙第一五号証および原告本人尋問の結果によると局部修理の分は裁決認定のとおり原告の取り扱つたゴルフボールのうちの四割であることが認められるところ、原告本人尋問の結果によると手を加えたゴルフボールを古ボールの受入先に納品するという区分A、同Cの場合の納品ボールは本件課税対象物品たるいわゆる再生ゴルフボールであつて、局部修理を施したにすぎない分は仕入先とは別のところへ納品していた事実が認められ右認定に反する証拠はない。それゆえ局部修理たる前記二〇、四二六個のゴルフボールの取引形態はすべて区分Bの場合であつたものと認定するのが相当である。従つて本件課税物品中課税の対象となるべき区分A、同B該当のゴルフボールの数量は区分Aの一五、七九一個に区分Bの二四、〇〇五個から前記局部修理の二〇、四二六個を差引いた三、五七九個を加算した合計一九、三七〇個であつたということができ、原告がこれらのゴルフボールを移出したことは当事者間に争いがないので、原告は右一九、三七〇個のゴルフボールの移出価格に対し旧物品税法所定の税率を適用して算出された額の物品税を納付すべき義務を負うものというべきである。そして前顕乙第一三、一四号証によると区分A該当の一五、七九一個のゴルフボールの移出価格は金八二四、二〇〇円、区分B該当の二四、〇〇五個のゴルフボールの移出価格は金一、四〇九、九二五円であることが認められ、一方前顕乙第一五号証によると、原告は再生ボールと局部修理ボールとの間に格別の差を設けず両者同一価格で取引していたことが認められるので、区分Bのうち課税対象となるべき前記三、五七九個のゴルフボールの移出価格は左記の算式(1)のとおり金二一〇、二一一円となり、結局課税の対象となるべき前記区分A、同Bの一九、三七〇個のゴルフボールの移出価格は左記の算式(2)のとおり金一、〇三四、四一一円となる。
算式(1) 1,409,925円×3,579/24,005=210,211円(円未満切り捨て)
算式(2) 824,200円+210,211円=1,034,411円
(区分A) (区分B)
よつてこれに対する課税標準額は金六八九、六〇〇円、税額は金三四四、八〇〇円となり(旧物品税法第二、三条、当時施行の国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律第五条をそれぞれ適用)、原告は右税額の限度において物品税の納付義務があるというべきである。
五、次に原告は、本件再生ボールは物品税を加算した価格での市場価格形成は不可能なものであり、従つてそこに於いては租税転稼はあり得ず、また原告の営業上の利潤はごく少なく高額の物品税を賦課されれば営業がなりたたないので本件課税処分は物品税という名目による所得税の二重取りであり、原告の営業権、生存権を侵害する違憲、違法のものであると主張するので判断する。
本件ゴルフボール再生に要する費用の合計は四一円ないし四二円であり、一方新品の練習用のゴルフボールの取引価格は当時約六〇円であつたことは既に認定のとおりである。従つて仮に本件再生ボールを新品と同一価格の六〇円で取引し得たとしても、それに対する物品税は二〇円であるから原告の手元には四〇円しか残らず結局経費倒れとなるので、本件再生ボールに限つていえば物品税を課税すれば原告の営業が成りたたなくなることは原告主張のとおりである。しかしながら、ある商品の製造原価が製造方法が拙劣である等の理由により、それと同じ価格の他の類似の商品の製造原価に比べて高くかかりすぎるため右商品を製造販売する営業が経済的になりたち得ないという現象はままあることであり、本件も右の場合と同様に新品の練習用ゴルフボールの製造原価に比べて本件ゴルフボールの再生に要する費用が高くかかりすぎたため古ボールを再生して販売するという形態での営業が経済的になりたち得なかつたことを示すものにすぎず、その原因が物品税の課税にあるとしても本件再生ゴルフボールが新品の練習用ゴルフボール同様旧物品税法に規定するゴルフ用品に該当するものである限り右の理由をもつて本件物品税課税処分を違法であるということはできない。よつて原告の主張は理由がない。
六、以上のとおりであつて、原告は本件課税期間中のゴルフボールの製造に対し金三四四、八〇〇円の物品税の納付義務があり、それを越える額の物品税の納付義務はないので、被告のなした本件物品税賦課決定処分は右税額の限度において適法であるが、これを越える部分は違法であり取消されるべきである。よつて原告の本訴物品税賦課決定処分取消請求のうち金三四四、八〇〇円を越える部分の取消を求める部分は理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 日野達蔵 仲江利政 南三郎)
別表<省略>