大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)6号 判決 1968年12月25日
原告
別紙目録
(一)、(二)記載のとおり
右訴訟代理人
東中光雄
ほか四名
被告
大阪市
右代表者市長
中馬馨
右指定代理人
末田直
ほか二名
被告
大阪府
右代表者知事
左藤義詮
右訴訟代理人
大野峯弘
主文
原告等の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
(原告等)
1、別紙目録(一)記載の原告等と被告大阪市との間において、同原告等の同被告に対する同目録(一)記載の昭和三九年一二月分割増賃料の支払義務が存在しないことを確認する。
2、別紙目録(二)記載の原告等と被告大阪府との間において、同原告等の同被告に対する同目録(二)記載の昭和三九年一二月分の割増賃料の支払義務が存在しないことを確認する。
3、訴訟費用は被告等の負担とする。
との判決
(被告等)
主文と同旨
の判決
第二、主張
一、別紙目録(一)記載の原告等の請求原因
同原告等は別紙目録(一)住宅欄記載の大阪市営住宅を賃借し、同住宅に三年以上居住している。被告大阪市は、同原告等の収入がいずれも大阪市営住宅条例第一三条に定められた収入超過基準を超えていると認定し、同条例第一四条一項、第一五条に基づき別紙目録(一)通知年月日欄記載の日付をもつて原告等に対し、昭和三九年一二月一日以降一カ月につき別紙目録(一)割増賃料欄記載の金額を割増賃料として徴収する旨の意思表示をなし、右意思表示はその頃原告等に到達した。
しかしながら、同被告の割増賃料徴収の意思表示は、以下の事由により無効である。
(一) 大阪市営住宅条例第一五条は公営住宅法第二一条の二にその根拠を有するが、右規定は左記の理由により、借家法第一条の二によつて保障された入居者の居住権を侵害し、憲法第二九条一項に違反する。
1、公営住宅の使用関係は、基本的には私法上の賃貸借関係と何ら異ならない。公営住宅が住宅に困窮する低額所得者の保護のため設置、管理されるものである以上、入居者の保護は民法、借家法より一層徹底されなければならない。従つて公営住宅法は入居者に利益になる規定に限り民法、借家法の特別法たりうるものである。
2、割増賃料が徴収されるのは、公営住宅法第二一条の二、一項により明渡努力義務を課せられた入居者がその義務を履行しないからである。つまり、割増賃料は入居者の明渡努力義務を間接的に強制するため設けられたもので、明渡努力義務と相互補完の関係にあり、たとえそれを支払つても明渡努力義務を免除されるわけではない。その意味で、割増賃料は明渡努力義務懈怠に対する行政罰的性格のものである。また、割増賃料は入居者の収入を基準として定められるので、借家法の原則である等価交換を基礎とする経済家賃の体系を根底から崩すものである。
(二) 割増賃料の徴収は、左記の理由により憲法第二五条に違反する。
1、現在における住宅難の原因は、国及び被告大阪市が低家賃住宅を大量に建設する義務を怠つたことにあるのに、同被告はその原因を原告等に転嫁し、明渡努力義務を背景にして原告等から割増賃料を徴収しようとしている。
このような割増賃料制度の現実の運用は、公営住宅入居者の文化的生活権を根本から奪つているのである。
2、公営住宅法第二一条の二、同法施行令第六条の二、同施行令附則第五項、大阪市営住宅条例第一三条によつて定められている収入超過基準は、第一種住宅につき四五、〇〇〇円第二種住宅につき二五、〇〇〇円である。今日における物価上昇は公知の事実であり、今日の物価水準からみて右収入超過基準を超える所得が一般の借家、公団住宅への立退きを義務づけられる程の高所得とはいえず、右収入超過基準は公営住宅法第一条の低所得者概念に一致しない。国および被告大阪市は、公営住宅の建設運用により国民の生活をおびやかす高家賃、住宅不足の現実を一歩でも前進させるよう努力する責務があるのであつて、誰の目にも異常な現在の一般家賃を基準として、これと公営住宅の家賃を比較検討するのは本末転倒である。
(三) 割増賃料の決定手続には地方税法第二二条違反の違法がある。
被告大阪市は原告等の収入を確定するにあたり市民税課税台帳を閲覧した。これは課税台帳の窃用を禁止した地方税法第二二条に違反する違法な行為であり、右手続違背は割増賃料徴収の意思表示をも無効ならしめるものである。
(四) よつて、同原告等は、被告大阪市との間において、別紙目録(一)記載の昭和三九年一二月分の割増賃料の支払義務が存在しないことの確認を求める。
二、別紙目録(二)記載の原告等の請求原因
同原告等は別紙目録(二)、住宅欄記載の大阪府営住宅を賃借し、同住宅に三年以上居住している。被告大阪府は、同原告等の収入がいずれも公営住宅法施行令附則第五項、大阪府営住宅管理条例第八条の二、に定められた収入超過基準を超えるものと認定し、同条施行規則第一〇条一項に基づき別紙目録(二)通知年月日欄記載の日付をもつて、原告等に対し、昭和三九年一二月一日以降一カ月につき別紙目録(二)割増賃料額欄記載の割増賃料を徴収する旨の意思表示となし、右意思表示はいずれもその頃原告に到達した。
しかしながら、同被告の割増賃料徴収の意思表示は前記一、(一)乃至(三)と同じ理由により無効である(但し、(二)の2、の「大阪市営住宅条例第一三条」を「大阪府営住宅管理条例第八条の二」に、同(四)の「大阪市営住宅条例第一四条一項、第一五条」を「大阪府営住宅管理条例施行規則第一〇条一項」に、同(四)の「別紙目録(一)」を「別紙目録(二)」に読みかえる。)。
よつて同原告等は被告大阪府に対し別紙目録(二)記載の昭和三九年一二月分の割増賃料の支払義務が存在しないことの確認を求める。
(被告等)
三、被告大阪市の答弁
請求原因のうち無効事由を争い、その余の事実を認める。すなわち、
(一) 前記第二、一、(一)について。
1、公営住宅法及びそれに基づく条例の規定は、民法及び借家法の特別法である。公営住宅法が公益その他の見地から特別の規定を設けている以上、当該規定が入居者にとつて利益になると否とにかかわらず、借家法の特別法として入居者に適用される。
2、割増賃料は原告等主張のような行政罰的性格のものではなく、住宅の使用の対価としての範囲を超えていない。割増賃料は、もともと一般の民間家賃よりも低廉な家賃で公営住宅に入居していた者が入居後低所得者でなくなつた場合に、公平の見地からこれらの者の家賃を原価家賃に近づけようとするもので、公団住宅の家賃算出方法にならつてその限度額を定めている。
従つて、割増賃料が入居者に明渡を強制している事実はない。
(二) 前記第二、一、(二)について。
1、公営住宅法第二一条の二、一項は単に入居者の努力義務を定めたにとどまり、同条二項の割増賃料も入居者に明渡しを強制するものではない。
2、収入超過基準が原告等主張の通りであることは認め、その余は否認する。
条例の定める収入超過基準は、公営住宅法第二一条の二に基づき政府において諸種の事情を勘案して定めた基準(同法施行令第六条の二、同施行令附則第五項)の範囲内で定められており、今日の諸物価等からみても決して低すぎるものではない。
同施行令第一条三号の「収入」とは、給与所得者については、所得税法による給与所得控除後の収入月額から扶養親族一人につき、二、〇〇〇円を控除したものであるから、実際の収入超過基準は四五、〇〇〇円、二五、〇〇〇円にそれら控除された額を加えたものである。即ち、扶養親族二人を有する給与所得者の場合、第一種住宅の収入超過基準四五、〇〇〇円については五九、八一四円、第二種住宅二五、〇〇〇円の収入超過基準については、三七、五九二円がそれぞれ実際の収入超過基準である。
また、家賃月額と割増賃料月額の合計額は、民間家賃に比べなお低額であつて、割増賃料が原告等の建康で文化的な生活をおびやかしている事実はない。
(三) 前記第二、一、(三)について。
被告が課税台帳を閲覧したことは認めるが、それは公営住宅法第二三条の二に根拠を有する適法行為である。
四、被告大阪府の答弁
(一) 本案前の抗弁
同原告等の請求は、当初「同被告が同原告等に対して大阪府営住宅条例施行規則第一〇条第一項に基づいてした別紙目録(二)記載の各割増賃料の微収処分を取消す。」との判決を求め、行改事件たる取消訴訟として提起・受理・審理されていたものであつて、これを前記請求趣旨・原因の民事訴訟に変更することは許されない。本件訴は却下されるべきである。
(二) 本案について。
前記第二、三の被告大阪市の答弁と同じである。
第三、(証拠関係)<省略>
理由
(被告大阪府の本案前の抗弁に対する判断)
別紙目録(二)記載の原告等は、当初、訴状記載の請求の趣旨において、「被告大阪府が同原告等に対して(中略)した同目録(二)記載の各割増賃料の微収処分を取消す。」旨のことばを用いてはいるが、訴状記載の請求原因の記載全体を総合してみると、同原告等は当初から地方公共団体(公法人)たる大阪府自体を被告としており、私法上の債務たる割増賃料債務の不存在確認を求める趣旨を汲み取る(解釈する)ことができるのであつて、同原告等は当初の行政上の請求を後に民事上の請求に変更したものということはできない。同被告の本案前の抗弁は採用できない。
(憲法第二九条違反の主張について)
一、公営住宅利用関係の性質
公営住宅法第一条は、地方公共団体が国の協力を得て一般に住宅に困窮する低所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的として公営住宅を建設するもの、と定めているので、公営住宅利用の法律関係が公の営造物利用という公法的な一面を有していることは否定しえないが、それは公権力の行使を本質とするものではなく、いわゆる公法上の管理関係と解すべきである。
そこで、更に具体的に公営住宅の利用関係の法的性質につき考えてみると、公営住宅法第一八条に基づいて事業主体の長が行う入居者の選考決定は、相手方の同意を要する一種の行政行為と考えられるけれども、入居した後の入居者と事業主体との関係は、他人の所有する家屋に居住し、その利用の対価として賃料を支払う関係にある点では私法上の家屋賃貸借契約と何ら異なるところはなく、公営住宅法自体が、賃貸(第一条)、家賃(第一条、第一二条、第一三条)、敷金(一三条)、という私法上の賃貸借契約に通常利用される用語を用いていることから考えても、特に公営住宅の利用関係を私人間の借家契約関係と区別すべき理由は見当たらない。
従つて、公営住宅の利用関係には民法、借家法が適用されると考えられるが、公営住宅は前述の通り、「住宅困窮者に低廉な住宅を与え、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与する。」という社会政策的見地から立法されたもので、同法は公営住宅を法の目的に添うよう管理運用するため必要な規定を直接設け、あるいは条例に委任しているのであるから、その範囲では、公営住宅法は私権の保護を主目的とした民法、借家法の特別法として、入居者に利益になると否とにかかわりなく優先的に適用されると解すべきである。
二、割増賃料の性格
1、<証拠>によれば次の事実が認められる。
(1)公営住宅法が制定された昭和二六年当時の国及び被告等の公営住宅運営の方針は、公営住宅に入居する資格を有するかどうかについてだけ入居者の収入を考慮するにとどまり、入居後の収入の増加は問題にせず、むしろ、公営住宅法第二四条の「公営住宅がその耐用年限の四分の一を経過した時は、建設大臣の承認を得て、公営住宅を入居者又は入居者の組織する団体に譲渡出来る。」旨の規定に従い、建設大臣が設けた一定の基準に該当するものについては入居者の意思を尊重して、議会の議決と建設大臣の承認を得て、ある程度公営住宅を入居者に売払つて行く、という方針であつた。(2)ところが住宅難は年々深刻になり、昭和三四年当時には、多くの低額所得者が収入の面では公営住宅に定める入居適格を有しながら、高い家賃で民間の借家住まいを強いられることになつた。その反面、公営住宅入居者の中には入居後収入が増え、民間の借家や公営住宅でも十分生活出来るようになりながら、家賃の安い公営住宅に依然として居住しているという現象が生れて来た。そこで、この不均衡を是正するため、「公営住宅は本来低所得者に対し低廉な家賃で家屋を供給することを目的とするものであり、このような収入超過者には国家の保護を与えるべきでない。」という見地に立つて、昭和三四年に公営住宅法を改正して第二一条の二の規定を新設し、公営住宅は三年以上入居している間に収入超過基準を超える収入を有するに至つた入居者に対し、一方で明渡努力義務を課して、出来るだけ公営住宅から他の公営住宅や民間の借家に移転する努力をしてもらうこととし、他方で、住宅事情その他の理由からどうしても明渡し出来ぬ者に対して一定の限度内で割増賃料を徴収し、国や地方公共団体の資金援助を一部打切ることにしたのである。(3)このように、明渡努力義務と割増賃料の徴収は相互に関連をもつて規定されたもので、両者はいずれも収入超過基準を越えた者に公営住宅の恩恵を及ぼすべきでないという考えを基礎にしている。しかしながら、その具体的方法として前者は公営住宅から出て行く努力をしてもらうという方法をとり、後者は国家の資金援助を一部打切るという方法をとつているのであるから、両者は別々のものであり、入居者が割増賃料を支払つても明渡努力義務を免除されるわけではない。
2、そこで、このようにして設けられた割増賃料が、従来の家賃と同様公営住宅使用の対価といえるかどうかにつき検討する。
<証拠>によれば、(1)公営住宅法第一二条に定める従来の家賃の計算方法は、第一種住宅についてはその建設費の二分の一、第二種住宅についてはその三分の二を国が補助し、その残りの建設費を一定の償却期間内に年利六分の割合で償却することとし、それに管理事務費、修繕費を加えて算出するのに対し、割増賃料の計算方法は、国庫補助金を控除しない前の建設費を基礎として、公団住宅の家賃計算で採用している年四分一厘の割合で均等計算するという方法で限度額を定め、その範囲内で入居者の収入に応じて算出すること、(2)従つて、従来の家賃算出方法は、入居者の収入との釣合を全く考慮しない、いわば建設費償却主義ともいうべきものであるに対し、割増賃料の算出方法は、建設費を基礎としている点は従来の家賃と同様であるが、収入が上れば家賃を引上げるという、いわば支払能力主義ともいうべき方法を加味した、従来の家賃の場合と異る考え方に立脚していることが認められる。
しかしながら、公の営造物としての一面を有する公営住宅の家賃体系をどのように定めるかは国の立法政策の問題であつて、国が昭和三四年の改正にあたり、従来の建設費償却主義と支払能力主義(これは憲法第二五条第一項の生存権にその思想的根拠をおくというべきである。)の折衷ともいうべき家賃体系をとることは、理論的には何ら妨げないところであり、対価性を有する前示計算方法に基づいた割増賃料が、明渡努力義務に関連して設けられたからといつて、その対価性を喪失するものではなく、それが公営住宅使用の対価であるという点に関しては従来の家賃と性格を異にするものではない。
三、なお、<証拠>によれば、原告等は昭和三四年以前の国、被告等の公営住宅の運用方針を信用して入居していたもので、一旦公営住宅に入居した以上、いつまでも居住することが出来、更に将来は公営住宅の払い下げを受けられるかもしれないという期待をいだいていたこと、そのため、昭和三四年の前記改正がなされたことにより、右期待を裏切られ、かなりの不安や動揺を受けたことが認められる。しかしながら、<証拠>によれば(1)最近における大阪府営住宅の入居応募者は定員の一〇倍乃至一四倍であり、大阪市営住宅の入居応募者は定員の約一二倍であること、(2)、国は割増賃料制度の実施にあたり住宅公団が新たに造つた住宅の一〇%、供給公社が造つた住宅の一五%を特別枠として、収入超過基準を超えた公営住宅入居者に優先的に入居させるよう行政指導をなし、昭和四〇年には約二、六〇〇件、昭和四一年には約二、〇〇〇件のあつせん例があること、また新たに住宅を建設しようとする者に対しては、住宅金融公庫から無抽選で融資する特権を与えていること、被告大阪市及び同大阪府は、毎年収入基準超過通知書を配布して明渡努力義務の発生したこと、及び希望者には公営住宅をあつせんする旨の通知をなし、年二回程度あつせんを行つていることが認められる。
そうすると、このような深刻な住宅難の現状においては、たとえそれが原告等主張の如く国の住宅政策の貧困に起因し、住宅の絶対数を大幅に増加させるのでなければ住宅難の根本的な解決にはならぬとしても、右の通り、公営住宅から出て行く者のために公団住宅を確保する等の措置を講じた上で、公営住宅を出来るだけ低額所得者に利用させるという方針をとることは、公営住宅の社会政策的役割から考えて、合理的な理由があるものというべきであり、また、同法第二一条の二、一項は、原告等に対し明渡努力義務を定めたにとどまり、入居者が努力しても他に移転することができなければ引続き公営住宅に居住出来ることを考え合せれば、原告等の受ける心理的な不安や動揺はなお公営住宅に入居する者の当然受忍すべき範囲内に属する事項というべきである。
よつて原告等の憲法第二九条違反の主張は採用しない。
(憲法第二五条違反の主張について)
割増賃料の性格及び公営住宅法第二一条の二が新設されるに至つた経過は前記認定の通りである。
ところで、公営住宅法第二一条の二、同法施行令第六条の二、同施行令付則第五項に基づき、大阪市営住宅条例第一三条、大阪府営住宅管理条例第八条の二に定められている大阪市営住宅及び大阪府営住宅の収入超過基準は、第一種住宅につき四五、〇〇〇円、第二種住宅につき二五、〇〇〇円であるが、<証拠>によれば、(1)、右金額は、給与所得者については総収入から所得税法による給与所得控除をなした収入月額から更に扶養親族一人につき月額二、〇〇〇円を控除して計算したもので、実際の収入超過基準はそれぞれ右四五、〇〇〇円、二五、〇〇〇円にそれら控除された金額を加えたものであつて、昭和四二年四月現在における扶養家族三人、合計四人の標準家族では、第一種住宅の収入超過基準四五、〇〇〇円に対応する総収入は六八、八八九円、第二種住宅の収入超過基準二五、〇〇〇円に対応する総収入は四五、四一六円で、現在の一般の所得水準から考えても、右第一種住宅収入超過基準を超えた者が、公団住宅では生活出来ぬほどの低額所得者であるとまではいえず、(2)、また、原告等が公営住宅を明渡さない場合に負担する、家賃と割増賃料の合計額の総収入に対する割合は、大阪市営住宅入居の原告等において約六パーセント乃至八パーセント、大阪府営住宅入居の原告等において約一〇パーセントの程度にとどまり、民間の借家人や公団住宅の入居者の家賃負担率に比べて相当低率であることが認められる。
従つて、以上の事実及び原告等が明渡の努力義務を負うにとどまるところから考えると、原告等は割増賃料を課せられても原告等と同程度の収入を有する民間の借家人や公団の入居者に比し、なお相当の利益を公営住宅から受けているというべきであるし割増賃料の制度は、低額所得者に住宅を供給するという社会全体の福祉向上を目的とするものであるから割増賃料の徴収が憲法第二五条に違反するという原告等の主張は採用しない。
(地方税法第二二条違反の主張について)
地方税法第二二条の立法趣旨は、地方税に関する調査の事務に従事している者が、事務に関して知りえた私人の秘密をその意に反して第三者に知らせることは、地方税法により、税の賦課徴収に必要な限度で私人に課せられた調査受忍義務の限度を越え、私人に対する違法な侵害となるので、これを防止することにあると考えられる。
ところで、公営住宅法第二三条の二は、割増賃料制度を適正に実施運用するにあたつては入居者の収入を的確に把握する必要があるので、入居者に対しては事業主体の求めに応じて報告をなすべき義務を課し、官公署に対しては、入居者が報告しない場合や報告の内容を確認する必要が生ずる場合のあることを考慮して、特段の公益上の理由がない限り事業主体の行う入居者の収入調査に協力すべきことを定めたものと解せられる。事業者が、公営住宅入居者の収入を確定するにあたり、必要な限度で市町村民税台帳を閲覧することは入居者の収入を確知する上で確実、有効な方法であり、入居者は、割増賃料を徴収されるほか、右閲覧によつて特別の不利益を蒙るとは考えられないので、市町村長が事業主体に課税台帳を閲覧させる行為は公営住宅法第二三条の二に基づく適法な行為であり、地方税法第二二条にいわゆる「事務に関して知り得た秘密をもらし、又は窃用した場合、」に該当しないというべきである。
よつて、原告等の地方税法第二二条違反の主張は採用しない。
(結び)
よつて、別紙目録(一)記載の原告等の被告大阪市に対する請求、及び別紙目録(二)記載の原告等の被告大阪府に対する請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、それぞれ民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。(山内敏彦 藤井俊彦 小杉丈夫)
目録(一) 村上造<ほか九九名>(市営住宅) 割増賃料額(昭和三九年一二月分)八四〇円<以下略>通知年月日 昭和三九年一〇月二六日<以下略>
目録(二) 佐々木一男 <ほか二二名>(府営住宅)割増賃料額(昭和三九年一二月分)四〇〇円<以下略>通知年月日 昭和三九年一〇月二四日<以下略>