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大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)64号 判決 1974年3月12日

大阪市東住吉区西鷹合町一-七二

原告

東條重一

右訴訟代理人弁護士

永岡昇司

小林勤武

香川公一

服部素明

三上孝孜

荒木宏

右訴訟復代理人弁護士

東垣内清

平山正和

大阪市東住吉区中野町一三三

被告

東住吉税務署長

佐竹三千雄

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

山内宏

右両名指定代理人

陶山博生

中島揚一

伊藤勝皓

黒木等

井上修

右当事者間の行政処分取消請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告東住吉税務署長が昭和三九年三月二一日付でした原告の昭和三七年分所得税額を金三五、七五〇円とする更正処分、ならびに過少申告加算税金一、七五〇円とする賦課決定処分(ただし、後掲被告大阪国税局長の裁決により、それぞれ減額された)はいずれもこれを取消す。

被告大阪国税局長が、原告の右各処分に対する審査請求につき昭和四〇年三月三一日付でした、所得税額を金一八、二八〇円とし、過少申告加算税を金九〇〇円とした裁決を取消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

二、被告ら

主文同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、クリーニング業を営む者であるが、被告署長に対し、昭和三七年分所得税の総所得金額を金二二八、二九八円と確定申告したところ、被告署長は、昭和三九年三月二一日付で、右金額を金六九六、一四九円とし、税額を金三五、七五〇円とする更正処分ならびに、過少申告加算税を金一、七五〇円とする賦課決定処分をした。原告はこれに対し、異議申立をしたが棄却されたので、被告局長に審査請求をしたところ、被告局長は、昭和四〇年三月三一日付で、総所得金額を金五七九、一五四円、税額を金一八、二八〇円とし、過少申告加算税を金九〇〇円と裁決した。

2  しかしながら、被告署長の本件処分には、次のような違法がある。

(一) 被告署長は、国税通則法二四条に違反し、何らの調査もしないで、本件処分をしたから、本件処分には手続上の違法がある。

(二) 原告の総所得金額は確定申告のとおりであるから、被告署長の本件処分には、原告の所得を過大に認定した違法がある。

3  被告局長の本件裁決は、原告の要求にかかわらず、原処分庁に弁明書の提出を求めず、さらに原告が原処分の理由となつた事実を証する書類の閲覧を請求したのを拒否し、行政不服審査法二二条、三三条二項に違反した手続によりなされたもので、審理不尽の違法がある。

4  よつて被告署長の本件各処分および被告局長の本件裁決の各取消を求める。

二、請求原因に対する被告らの答弁

請求原因1の事実を認める。同2、3の主張を争う。

三、被告署長の主張

1  本件処分の経過

被告署長は、原告の昭和三七年分所得税の調査をするため、原告に対して事業に関する帳簿書類の提示を求めたところ、原告は、わずがに現金出納帳兼日計表兼入出金伝票を提示したのみで、その他の帳簿書類についてはこれを提示せず、しかも提示された右伝票もその記載は不充分かつ不正確なもので、これらのみによつては到底適正な所得の実額を算定することはできなかつた。そこで被告署長は、やむなく、原告の申立ならびに原告の取引先および同業者等を調査した結果等にもとづいて原告の所得金額を推計したところ、確定申告額と相違したので本件処分をしたものである。したがつて本件処分が何らの調査なくしてなされたとする原告の主張は失当である。

2  総所得金額

(一) 原告の昭和三七年分の総所得金額(事業所得の金額)は別表A欄のとおり金一、一五三、九七五円であり、この範囲でなされた本件処分に違法はない。

(二) 収入金額ならびに特別経費中、外注工賃の算定根拠は次のとおりである。

(1) 収入金額

原告は、申告に際し、収入金額を金三、七八四、二八〇円と計上していたところ、特別経費である外注工賃のうち、大阪府洗染業協同組合(以下協同組合という)に対するドライ工賃として後記(2)のとおり金四〇八、七三四円を支払いながら、確定申告に際して、ドライ工賃に計上した金額は金二〇八、八九三円に過ぎず、その差額金一九九、八四一円が計上洩れとなつていた。そして、原告の計上したドライ工賃金二〇八、八九三円に見合うドライクリーニングによる収入として原告が計上した金額は、金八〇〇、七四四円であるから、右計上洩れのドライ工賃に見合うドライクリーニングによる収入も当然存在するはずである。そこで、原告計上のドライクリーニングによる収入の原価率(ドライ収入に対するドライ工賃の割合)により右計上洩れのドライ収入を算出し、これを原告申告の収入金額に加算すると、原告の収入金額は、次のとおり金四、五五〇、三二一円となる。

<省略>

原告計上の収入金額(3,784,280)+計上洩れ収入金額(766,041円)=収入金額(4,550,321円)

(2) 特別経費中の外注工賃

ドライ工賃 四〇八、七三四円

原告は、協同組合にドライクリーニングを委託するとき、「東条」ならびに「別東条」、「<別>東条」という名義を用いて加工申込を行い、協同組合においても、受託品を加工納入するとき、「東条殿」、「別口東条殿」、「<別>東条殿」として委託品納品書を作成して原告に交付していた。そして原告の昭和三七年分ドライ工賃の支払額は、東条名義のものが合計金二一六、七二九円であり、それ以外の名義のものが合計金一九二、〇〇五円である。

四、被告局長の主張

1  原告は、本件に関して、被告局長に対して、弁明書副本送付請求ならびに行政不服審査法三三条二項による書類閲覧請求をしていないから、原告の主張はその前提を欠くものである。

2  被告局長は、本件審査請求の審理にあたり、原処分庁たる被告署長に対して弁明書の提出を求めていない。しかし行政不服審査の手続において、審査庁が行政不服審査法二二条により処分庁に対し弁明書の提出を求めるか否かは、審査庁の自由裁量に属する事項であるから、本件審査手続において被告大阪国税局長が被告署長に弁明書の提出を求めることなくして裁決したとしてもこれをもつて本件裁決が直ちに違法であるということはできない。

五、被告署長の主張2(総所得金額)に対する原告の答弁

1  被告署長の主張2(一)に対する認否および主張額は別表B欄のとおりである。

2  被告署長の主張2(二)の主張を争う。

被告署長主張のドライ工賃について。

原告が協同組合に委託するのは、単にドライ加工のみでなく、洗張りの染色原生、修理防水等の作業も少くないので、原告は、右の区分に従い、ドライ加工を東条名義で、洗張り等を別口東条名義で委託していたのである。そして、昭和三七年分の東条名義の支払金額は合計金二〇九、四八五円であり、別口東条名義の支払金額は合計金一九二、〇五二円である。

第三、証拠

一、原告

1  甲第一号証を提出。

2  証人竹見富夫の証言および原告本人尋問の結果を援用。

3  乙号各証の成立を認める。

二、被告ら

1  乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし九、第六、第七、第八号証の一、二を提出。

2  証人高橋敏朗、同森本喜重の各証言を援用。

3  甲第一号証の成立を認める。

理由

一、請求原因1の事実(被告らの処分、裁決)は当事者間に争いがない。

二、まず、被告署長の本件処分について判断する。

1  本件処分の前提としての調査の有無について。

証人高橋敏朗の証言ならびに弁論の全趣旨によれば、被告署長は、原告の昭和三七年分所得税の調査をするため、原告に対して事業に関する帳簿書類の提示を求めたところ、原告は、わずかに現金出納帳兼日計表兼出入金伝票を提示したのみで、その他の帳簿書類についてはこれを提示せず、しかも提示された右伝票のみによつては、原告の適正な所得の実額を算定することができなかつた。そこで被告署長は、原告の申立ならびに原告の取引先および同業者等を調査した結果等にもとづいて原告の所得金額を推計したところ、確定申告額と相違したので本件処分をしたことが認められる。右認定事実によれば、本件処分は調査にもとづいて行なわれたことが明らかであるから、そこに手続的違法は何ら存在しない。

2  原告の総所得金額

(一)  被告署長の主張2(一)別表A欄中、一般経費、雇人費、地代家賃、支払利子、専従者控除の各金額については当事者間に争いがない。

(二)  そこで原告の収入金額について検討する。

成立に争いのない乙第一ないし第四号証に証人高橋敏朗、同竹見富夫の各証言および原告本人尋問の結果(但し、後記措信し難い部分を除く)を総合すると、原告は、昭和三七年分の所得税の確定申告に際し、収入金額を金三、七八四、二八〇円と計上したこと、特別経費である外注工賃のうち、協同組合に対する同年分のドライ工賃として東条名義で金二一六、七二九円、<別>東条等の名義で、金一九二、〇〇五円、以上合計金四〇八、七三四円を支払いながら、確定申告に際してドライ工賃に計上した金額は、金二〇八、八九三円に過ぎず、その差額一九九、八四一円が計上洩れになつていたこと、原告の計上したドライ工賃金二〇八、八九三円に見合うドライクリーニングによる収入は、金八〇〇、七四四円であること、以上の事実が認められる(原告は、<別>東条等の名義は、原告の協同組合に対する洗張り、染色原生、修理防水等の委託の支払であると主張するが、<別>東条等の名義が協同組合に対するドライ工賃の支払であることは、前掲乙第四号証、証人竹見富夫の証言および原告本人尋問の結果によつて明らかであり、右主張は到底採用できない。また原告は、本人尋問の際、原告の雇人であつた秋田和彦が昭和三五年ころ独立して松原市天美でクリーニング業を開業したので、同人のドライ加工を同年から昭和三九年ころまで<別>東条等の名義で協同組合に委託していた旨供述している。けれども、右供述は、原告の本訴における右主張とくいちがうのみならず、成立に争いのない乙第八号証の一によれば、秋田がクリーニング業法第五条によつてクリーニング所開設の届出をしたのは昭和三九年二月一八日であることが認められ、従つて、特段の事情がない限り(本件において特段の事情は見出し難い)秋田が原告方から独立したのは、右時点以降であると推定されるから、原告の右供述を直ちに信用する訳にはいかない)。

右認定事実によれば、原告の確定申告に計上洩れの右ドライ工賃金一九九、八四一円に見合うドライクリーニングによる収入も当然存在するはずであり、これを推計するには、被告署長主張2(二)(1)に記載された方法算式によることが相当であり、これに必要な数値は前認定のとおりであるから、右計上洩れのドライクリーニングによる収入は、被告署長の計算通り金七六六、〇四一円となる。これを前認定の原告の確定申告における収入金額金三、七八四、二八〇円に加算すると、原告の昭和三七年分の収入金額は金四、五五〇、三二一円となる。

(三)  外注工賃について

協同組合に対する外注工賃(ドライ工賃)として金四〇八、七三四円が支払われたことについては前認定のとおりであり、協同組合以外の外注工賃(縫製加工その他)が金七七、七〇〇円であることについては、原告において明らかに争わない。

(四)  以上によれば、原告の昭和三七年分総所得金額は、別表C欄のとおり金一、一五三、九七五円となり、この範囲内でなされた被告署長の本件処分に実体上の違法はない。

三、次に被告局長の裁決について判断する。

1  弁明書について

被告局長が被告署長に対し、弁明書の提出を求めなかつたことは、被告局長の自認するところである。しかし、審査手続に関して現行の国税通則法九三条のような規定のなかつた本件裁決当時においては、審査庁が処分庁に対し行政不服審査法二二条により弁明書の提出を求めるか否かは、審査庁の裁量に委ねられていたと解すべきことは、同条の文理上明らかであり、本件において被告局長が弁明書の提出を求めなかつたことが裁量権の範囲の逸脱ないし裁量権の濫用であると認むべき何らの事由もない。

2  書類閲覧請求について

原告が被告局長に対し、行政不服審査法三三条二項により、書類等の閲覧請求をした事実を認めるに足りる証拠は存しない。したがつて原告のこの点に関する主張はその前提を欠くといわなければならない。

四、以上説示したように、被告署長の本件処分および被告局長の裁決はすべて適法であり、原告の被告らに対する請求はいずれも理由がない。よつて原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 藤井正雄 裁判官 石井彦寿)

別表

<省略>

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