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大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)68号 判決 1966年10月28日

原告 林清一

被告 大阪府建築主事

訴訟代理人 川井重男 外一名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、まず、原告が本件訴を提起する利益を有するか否かについて判断するに、行政処分の取消しの訴につき法律上の利益があるというのには、まず、当該行政処分によつて権利又は法的に保護されている利益を侵害され、又は法律上の不利益を受けた場合でなければならない。

ところで、本訴は原告が建築主となつて新築した住宅(成立に争のない乙第五号証によると、その構造等は、耐火構造平家建住宅建築面積五六・七三二平方米であることが認められる。)について、被告が検査済証を交付した処分の取消しを求めるものである。建築基準法によれば、建築主は建築物の建築等の工事を完了した場合にはその旨を建築主事に届け出るべきこと、建築主事は右届出を受理した場合には届出に係る建築物及びその敷地が敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基く命令及び条例の規定に適合しているかどうかを検査し、適合していることを認めたときは、当該建築物の建築主に対して検査済証を交付すべき旨等規定されている(同法第七条)。右規定に徴すれば、原告の新築に係る住宅につき被告が本件検査済証を交付した処分は、右住宅が前記各法令の規定に適合すもるのである旨の判断を、行政機関である被告が表示し、確認したものであることが明らかである。右処分がなされることによつて右住宅はその敷地、構造及び建築設備に変更がない限り建築基準法又はこれに基く命令もしくは条例の規定に違反する建築物としてじ後行政庁により除却、移転等の措置をとられることがなくなるわけである(同法第九条参照)。したがつて、本件検査済証の交付処分によつて原告は行政法上利益を得ることはあつても、反対に、これによつて自己の権利又は法的に保護されている利益を侵害されたり、法律上の不利益を課されることはないものというべきである。してみれば、原告は本件処分の取消しを求める訴の利益を欠いているものといわねばならない。

二、原告は、新築工事の請負人である武田に対し請負契約の不履行による遅延損害金を請求する前提として、本件処分の取消しを求める訴の利益があると主張するけれども、前述のとおり、被告がなした本件検査済証の交付は、原告の新築に係る住宅及びその敷地が敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基く命令及び条例の規定に適合するものであることを確認した処分であつて、武田が原告との間の請負契約につき債務の本旨に従つた給付をなしたか否かにつきなんら判断したものでないことはいうまでもない。したがつて、原告が武田に対し請負契約の不履行による遅延損害金を裁判上又は裁判外において請求する場合、被告が本件検査済証を交付したことは、法律上なんら原告に不利に作用するものではない。

もちろん、右遅延損害金請求訴訟において、武田が債務の本旨に従つた給付をなしたかどうかの点に関し、本件検査済証を証拠資料のひとつとして用いることは可能であり、あるいはこれによつて原告が不利益を感じているとしても、その不利益は本来事実上の不利益であつて、法律上の不利益ではない。すなわち、原告は武田に対し請負契約の不履行による民事上の責任を裁判上追求する場合、武田の債務不履行の事実を主張し、その事実を立証するためにあらゆる証拠資料を提出しうるのであつて、そのための一切の手段は本件検査済証の交付によつてすこしも妨げられるものではないし、裁判所が武田の債務不履行の事実の認定に関し本件検査済証に拘束されるものでないことはいうまでもない。

したがつて、原告が武田に対し請負契約の不履行による遅延損害金を請求する場合、被告が本件検査済証を交付したことは原告に対しなんら法律上の不利益を及ぼすものではないから、遅延損害金を請求する前提として、本件検査済証を交付した処分を取消すべき法律上の利益があるものとはいえない。

三、なお、原告は武田が本件検査済証を所持しているため、新築に係る住宅の保存登記ができないので、本件検査済証の交付処分の取消しを求める訴の利益があると主張する。右主張の趣旨は、不動産登記法第九三条第二項によれば、建物の表示の登記を申請するには申請書に申請人の所有権を証する書面を添付することを要するところ、武田が本件検査済証を所持し、原告に引渡さないので、所有権を証する書面として本件検査済証を登記申請書に添付することができず、新築家屋の保存登記ができないというにあると解されるが、原告が登記申請のため本件検査済証を必要とするというのであれば、武田に対し私法上の権利に基いて民事訴訟によりその引渡しを求めれば足りることであつて、そのために本件処分の取消しを求める法律上の利益があるものとはとうてい解することはできない。

四、以上説示したとおり、原告は本件処分の取消しを求める法律上の利益を欠いているから、本件訴は不適法な訴として却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 高橋欣一 高升五十雄)

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