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大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)69号 判決 1968年4月26日

原告 平山信六

被告 東淀川税務署長

訴訟代理人 氏原瑞穂 外五名

主文

原告等の被告が平山信六に対し昭和三九年一月二九日付でなした昭和三六年分所得税の更正決定および重加算税賦課決定のうち課税総所得金額金四、〇四九、九八四円を超える部分の取消を求める訴はこれを却下する。

被告が平山信六に対し昭和四〇年四月一二日付でなした昭和三六年分所得税の再更正決定および重加算税賦課決定のうち再更正決定の課税総所得金額金五、七〇五、三一一円、重加算税賦課決定の税額金九二一、五〇〇円をそれぞれ超える部分を取消す。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

(当事者双方の申立て)

第一原告等の申立て

被告が平山信六に対し昭和三九年一月二九日および同四〇年四月一二日付でなした昭和三六年分所得税の更正決定および加算税賦課決定のうち課税総所得金額金四、〇四九、九八四円を超える部分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二被告の申立て

〔本案前の申立〕

原告等の訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

との判決を求める。

〔本案の申立〕

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

との判決を求める。

(当事者双方の主張)

第一原告等の主張の請求原因

一  原告等の被承継人平山信六(原告平山とよの夫、同平山美江の父)は被告(当時淀川税務署長、以下同じ)に対し、昭和三六年度の所得税について、別表一(A)確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は昭和三九年一月二九日付で右平山信六の右年度の所得税について別表一(B)更正欄記載のとおり更正決定ならびに重加算税賦課決定(以下更正決定等という)をした。

そこで右平山信六は昭和三九年二月二五日被告に対し右処分につき異議の申立てをしたところ、同年七月一一日大阪国税局長に対する審査請求とみなされ(右平山信六は同年五月二四日国税通則法第八〇条第一項かつこ書により審査請求としない旨の申出を行つた後同年七月一一日右申出を撤回した)、同国税局長は昭和四〇年四月一五日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、その頃右平山信六に通知した。

ところで被告は右国税局長の審査裁決に先立ち同年同月一二日に右平山信六の右年度の所得税につき更に別表(C)再更正欄記載のとおり再更正決定および重加算税賦課決定(以下再更正決定等という)をし、同年同月一四日頃右平山信六に通知してきた。

二  しかるところ、右平山信六の右年度の課税総所得金額は金四、〇四九、九八四円であつて被告のなした前記各処分のうち右金額を超える部分は違法である。

右平山信六は原告平山とよの夫であり、同平山美江の父であるところ、昭和四一年八月一八日に死亡し、原告等はその相続人としてその権利義務一切を承継した。

よつて、原告等は被告に対し右各処分のうち課税総所得金額金四、〇四九、九八四円を超える部分の取消を求める。

第二被告の答弁

一  請求原因第一項の事実は認める。

二  同第二項のうち相続関係は認めるがその余は争う。

第三被告の主張

〔本案前の主張〕

一 被告が本訴において取消を求める処分のうち、昭和三九年一月二九日付の更正決定等については同四〇年四月一二日付でなされた再更正決定等により当然に消滅したものというべきである。

二 また右昭和四〇年四月一二日付の再更正決定等については平山信六は所定の期間(国税通則法第七六条参照)内に異議申立をせず、不服申立期間を徒過したので、不服申立の前置を経ないものとして国税通則法第八七条により訴を提起し得ないものである。

よつて原告の本件訴は不適法なものとして却下されるべきである。

〔本案の主張〕

一 被告は平山信六の昭和三六年分所得税の確定申告(申告内容は別表一(A)欄のとおり)について調査したところ、譲渡所得が申告と異るので、昭和三九年一月二九日付で更正決定等(その内容は別表一(B)のとおり)をし、更に同四〇年四月一二日付で再更正決定等(その内容は別表一(C)欄のとおり)をしたのである。

二 平山信六の昭和三六年分所得税の総所得金額は同人の申告による不動産所得金六九、〇四〇円、給与所得金四五五、〇〇〇円の他に次のとおり譲渡所得金一〇、三一一、二一一円あるので金一〇、八三五、三五一円となり、これから別表一(C)欄のとおり社会保険料控除額金一四、九四〇円、基礎控除額金九〇、〇〇〇円合計金一〇四、九四〇円を控除すると課税総所得金額は金一〇、七三〇、三〇〇円となる。

三 譲渡所得金一〇、三一一、二一一円の明細は次のとおりである。

(一) 譲渡価額金三一、四〇〇、〇〇〇円

譲渡資産、譲渡時期、譲渡先、譲渡価額は別表二記載のとおりである。

(二) 取得費用(取得価額)金九、九七六、九七七円

前記譲渡資産の取得費用は別表三記載のとおりである。

(三) 譲渡経費金六五〇、六〇〇円

前記譲渡資産の譲渡経費は別表四記載のとおりである。

(四) 譲渡所得金一〇、三一一、二一一円

前記譲渡資産の譲渡所得は(一)の譲渡価額金三一、四〇〇、〇〇〇円から(二)の取得費用金九、九七六、九七七円および(三)の譲渡経費金六五〇、六〇〇円を控除し、特別控除金一五〇、〇〇〇円を差引いた金額の二分の一に当る金一〇、三一一、二一一円となる。

以上のとおり被告のなした更正決定および再更正決定には違法がない。

四 また重加算税賦課決定も次のとおり適法である。

(一) 原告は昭和三六年中に前記三件の資産を譲渡し、確定申告書を提出しているが被告が調査したところ、左記のとおり各取引について事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づいて所得計算を行い不当に所得税を免れていたことが判明したので、被告は正当税額を追徴し、あわせて重加算税を賦課したものである。

なお、本件についての確定申告期限は昭和三七年三月一五日であつて、国税通則法(昭和三七年四月二日法律第六六号)の施行前のものであるので、同法附則第九条によつて従前の所得税法第五七条を適用し、重加算税額を徴収したものであつて、この点につき何らの違法はない。

(1) 有限会社大原製作所に対し譲渡したもの

現実には六三〇万円にて譲渡を行つているにかゝわらず、これを一九五万円とし事実を隠ぺいしている。

(2) 大村徳市に対し譲渡したもの

現実には二一〇万円にて譲渡を行つているにかゝわらず、これを六五万円とし事実を隠ぺいしている。

(3) 日本車輛製造(株)に対し譲渡したもの

現実には二、三〇〇万円にて同社に譲渡を行つているにかゝわらず、これを山崎一登に対し九五〇万円にて譲渡したるごとく両者通謀し架空の売買契約書を作成し、事実を仮装し、隠ぺいしている。

(二) 前項で述べたところにより重加算税の計算を行うと

(1) 原告の申告額

譲渡収入金合計一二、一〇〇、〇〇〇円から必要経費合計一〇、六二七、五七七円を差引くと譲渡差益は一、四七二、四二三円となり、特別控除一五〇、〇〇〇円を控除し残額を1/2すると、譲渡所得金額は六六一、二一一円となる。

これに不動産所得六九、〇四〇円と給与所得四五五、〇〇〇円を加えると、総所得金額は一、一八五、二五一円となり、諸控除を行い税額を算出すると一六六、八九〇円である(別表一の(A)欄参照)。

(2) 被告の調査による額(再更正後の数字で別表一の(B)欄)

前記のとおり総所得金額は一〇、八三五、二五一円となり諸控除((1)と同額)を行い税額を求めると四、五四四、九六〇円となる。

(3) 右(2)の税額四、五四四、九六〇円から原告の申告している(1)の税額一六六、八九〇円を差引くと、四、三七八、〇七〇円の増差税額ができるが、これが仮装、隠ぺいした所得に対する税額となる。よつて、これを基礎として四、三七八、〇〇〇円(千円未満端数切捨て)に一〇〇分の五〇を乗じて得た金二、一八九、〇〇〇円が重加算税額となる。

第四被告の主張に対する原告の答弁と主張

〔本案前の主張について〕

一 被告は昭和三九年一月二九日付の更正決定等は同四〇年四月一二日付の再更正決定等により消滅したと主張するが、その主張は誤りである。原告は確定申告に際し譲渡所得を金六六一、二一一円として申告したのに対し被告はこれを更正処分において金九、一一一、二一一円と査定し、更に再更正処分において金一〇、三一一、二一一円と訂正してきたのであつて、再更正決定は更正決定の単なる変更に過ぎないのである。右各処分の通知書の冒頭に「この通知書の内容について不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から超算して一ケ月以内に(空白)税務署長または(空白)国税局長に対して異議申立てまたは審査請求をすることができます。」と不動文字で記載されているところ、被告は右更正決定等通知書についてはその空白部分に「淀川」と記載し、「または国税局長」及び「または審査請求」を抹消して、右更正決定等に不服のある場合は淀川税務署長に異議の申立てができる旨を明らかにしているのに対し、右再更正決定等通知書については右不動文字の記載全部を抹消し、右再更正決定等については右更正決定等の変更であるから異議の申立てをする必要のないことを指示しているのである。なお国税通則法第二六条は更正又は決定処分をした「課税標準等又は税額等」がその後の調査などで「過大又は過少であることを知つたとき」はその「課税標準等又は税額等」を「更正」すると規定しているがこれは原更正処分の存在を前提としなければ更正処分もあり得ないのであり、更正決定が再更正決定により消滅したとする被告の見解は誤りである。

仮りに被告主張のように前記更正決定等は再更正決定等により消滅するものとすれば、前記のとおり被告において再更正決定等通知書の冒頭に記載された不動文字を抹消して再更正決定等についての異議申立て、審査請求の道を封じているのであるから右再更正決定等は無効である。

二 国税通則法第八七条第一項第四号後段、行政事件訴訟法第八条第二項第三号において、正当理由のある場合には訴願前置を経ることなく直接訴を提起できるのである。しかして現行行政事件訴訟法では訴願前置制度は例外であり、例外規定は狭く解するのが法解釈の原則である。本件においては右更正決定等については原告の審査請求が棄却され、少くとも再更正決定等のあつた日より三ケ月以内に適法に訴訟が係属しているのであるから、この額を上廻る再更正決定等につきわざわざ審査請求を経ることなく直接訴訟にもち込むことは国税通則法第八七条第一項第四号後段による正当な理由が原告にあるものというべきである。そしてこのように解することは同法同条同項第三号の趣旨にも添うものである。

また前述したように被告が再更正決定についての異議申立て、審査請求の道を封じているのであるから不服申立の手続を経なかつたことにつき正当な理由があるものというべきである。

〔本案の主張について〕

一 被告の主張第一項のうち、原告がその主張のとおりの確定申告をしたこと、被告がその主張のとおりの各処分をしたことは認めるが、その余は争う。

二 被告の主張第二項のうち原告の昭和三六年分の所得税について、原告はその申告のとおり不動産所得金六九、〇四〇円、給与所得金四五五、〇〇〇円あつたこと、課税総所得金額の算定について総所得金額から控除すべき額は社会保険料控除額金一四、九四〇円および基礎控除額金九〇、〇〇〇円合計金一〇四、九四〇円であることは認めるがその余は争う。

原告の譲渡所得は金三、六三〇、八八四円であり、これに右不動産所得、給与所得を加えると総所得金額は金四、一五四、九二四円となり、これから社会保険料控除額、基礎控除額を差引くと課税総所得金額は金四、〇四九、九八四円となる。

三 被告の主張第三項の原告の譲渡所得は金一〇、三一一、二一一円であるという主張は争う。

(一) 譲渡価額は金三一、四〇〇、〇〇〇円であるとの主張は争う。

別表二記載のうち譲渡資産、譲渡時期、譲渡先、(ハ)の物件の譲渡額は認めるが、(イ)、(ロ)の物件の譲渡価額は争う。(イ)の物件の譲渡価額は金四、九五〇、〇〇〇円であり、(ロ)の物件の譲渡価額は金一、六五〇、〇〇〇円である。従つて原告の(イ)、(ロ)、(ハ)の各物件の譲渡価額は合計二九、六〇〇、〇〇〇円である。

(二) 取得費用(取得価額)は金九、九七六、九七七円であるとの主張は争う。

別表三記載のうち仲介手数料、整地費、登記料、雑費は認めるが土地対価は争う。原告の譲渡資産(土地)の対価は金一八、〇〇〇、〇〇〇円であり、更に原告は右資産(土地)を取得するためにその代金を銀行等から借受けたため銀行利子等金七〇七、二五五円を支出している。従つて原告の右土地の取得費用(取得価額)は金二〇、六八四、二三二円である。

(三) 譲渡経費は金六五〇、六〇〇円であるとの主張は争う。

別表四記載のうち雑費を除く部分は全部認める。原告の支出した雑費は金三三三、四〇〇円であり、更に原告は被告の主張するほか右土地の譲渡につき、仲介世話料として山崎一登に金五四〇、〇〇〇円、坂谷満寿江に金五〇、〇〇〇円、竹田実市に金五〇、〇〇〇円を支出しており、譲渡経費は合計金一、五〇四、〇〇〇円である。

(四) 従つて原告の譲渡所得は(一)の譲渡価額金二九、六〇〇、〇〇〇円から取得経費(取得価額)金二〇、六八四、二三二円および譲渡経費金一、五〇四、〇〇〇円を差引き、更に特別控除額一五〇、〇〇〇円を控除し、残額の二分の一を算出すると金三、六三〇、八八四円となり、右金額が譲渡所得額である。

四 被告の主張第四項の重加算税の課税要件は争う。

第五原告の主張に対する被告の反論

〔本案前の主張について〕

原告の国税通則法第八七条第一項第四号後段による正当理由の主張について。

旧行政事件訴訟特例法において、訴願前置制度が認められていた根拠としては、主として行政権に一応反省の機会を与え、その自主的処理に期待することが、当該行政行為の合法性のみならず合目的性を確保することができて当事者にとつても有利であるのみならず、事案の事実に即した処理を期待できるということにある。

しかしこの訴願前置制度は、不備、不統一を避けることが出来ず、却つて、当事者の権利救済を阻害する面もあつたので、現行行政事件訴訟法では処分の取消しの訴えについて訴願前置制度をとらないこととなつたのである。

それにも拘らず税務訴訟については不服申立ての前置が定められている(国税通則法第八七条)。その理由は次の諸点にあるものと考えられる。即ち、

<1>、租税の賦課に関する処分については課税標準の認定が複雑かつ専門的であるから出訴に先立つて不服申立て手続を要求することは行政庁の知識と経験を活用して訴訟にいたることなく事件の解決を図ることが出来ること。

<2>、訴訟に移行した場合に事実関係の明確化に資することが出来ること。

<3>、国税の賦課は大量的、回帰的であるから、不服申立ての前置を要求することは裁判所が訴訟のはん濫に悩まされることを回避しうること。

<4>、税務行政の統一的運用に資すること。

等である。

このような理由から不服申立ての前置制度がとられている税務訴訟において問題となるのは更正決定がなされ、それについては適法に不服申立てがなされている間に、或いはその不服申立てについて裁決を経ていつでも出訴できる状態にある間に、再更正決定がなされた場合(更正決定に対し、すでに訴が適法に提起されている場合には国税通則法第八七条第一項第三号により、再更正決定に対し不服申立てをすることなく、直ちに出訴することができる)等再更正決定についても重ねて不服申立てをなす必要があるかどうかということである。

被告はこの点について、前記税務訴訟に不服申立ての前置制度が認められた理由等を勘案すれば、再更正決定についても不服申立て手続をとらなければならないと考える。

もつとも再更正決定に対し不服申立てをしても全く無意味で、前記不服申立ての前置制度が認められた理由を満足させることが全く期待できない場合は、不服申立て手続をとらせることにより、被処分者の権利救済はそれだけ、遅延し、被処分者に不利益を与えることになるから、不服申立て前置制の本来の目的と背反するものと言うべく、このような場合には不服申立ての前置を要せず直ちに出訴することが出来、従つて、不服申立てを経ないことにつき正当事由があるというべきかも知れない。

しかしながら税務に関する通常の事案においては、更正決定と再更正決定がなされた場合に再更正決定につき、不服申立てを経ない正当な理由がある場合は考えられないのである。特に本件処分の場合、譲渡所得は三筆の土地の譲渡に関するものであり、更正決定を是認した裁決は一筆について実額を他の二筆について一種の評価を行ない、譲渡価額を認定したものであるから(甲第三号証参照)、再更正決定により増額した譲渡価額について不服申立てを行なえば、審査庁は処分庁とは別個の立場から該譲渡価額認定の是非について新たに調査判断しうる余地があるといわなければならない。従つて、再更正決定に対し不服申立てを行なうことが全く無意味だということは出来ない。

よつて原告の不服申立てを経ないことにつき正当な理由があるとの主張は失当である。

〔本案の主張について〕

一、銀行利子等の支出七〇七、二五五円について

原告は本件不動産の取得価額に加算するものとして、右の金額を主張される。

しかし原告は本件土地の買入れに際し、江商株式会社から五百万円の融資を受けたことは乙第八号証(原告の陳述書)からも明らかであるが、この金員について利息の約定およびその支払の事実はない。又、他に本件不動産買入れのための借入金があつたことを窺うに足りるものは全く見当らない。

二、仲介世話料五四〇、〇〇〇円の支払について

原告は山崎一登に対し譲渡に要した費用として金五四〇、〇〇〇円を支払つた旨主張され、甲第五号証の三によれば、右山崎は昭和三九年四月ごろ五〇〇、〇〇〇円を受領した旨の記載がなされている。

しかしながら本件不動産のうち、日本車輛株式会社に譲渡した分について(他の二件の譲渡については同人が売買の仲介を行つていない。)は昭和三六年一〇月六日契約成立と同時に右会社は売買代金全額を支払つているのである。そうして不動産仲介手数料代金等は売買代金弁済とともに支払われるのが通常であるところ、右五〇〇、〇〇〇円は、右甲第五号証の三によれば右売買契約が成立し代金が完済されて後二年有半も経過して授受されたこととなり、これを直ちに原告主張の仲介手数料(又は仲介世話料)と認めることは甚だ疑わしいといわざるをえず、かえつて乙第一一号証によれば、昭和三九年六月三〇日当時においてさえ右山崎は、右売買契約に対し課税庁に対し虚偽の申述をしていたことが明らかであり、しかも仲介手数料(又は世話料)を合計金七九〇、〇〇〇円とする契約が右山崎との間で締結されたことも明らかとはいえないのであつて、これらのことからするならば、右五〇〇、〇〇〇円は明らかに原告の本件課税につき右山崎に右の虚偽の申述をさせるための謝礼金であつたものといわざるをえないところである。

三、原告の計算によれば譲渡に要した費用は合計一、五〇四、〇〇〇円ということになるようであるが、そのうち仲介世話料五四〇、〇〇〇円(山崎一登支払分)同五〇、〇〇〇円(坂谷満寿江支払分)同五〇、〇〇〇円(竹田実市支払分)および雑費三三三、四〇〇円は本訴提起後初めて原告において主張されたものでにわかにその主張を認容することはできない。

(証拠関係)<省略>

理由

(本案前の主張に対する判断)

本件記録によると請求原因第一項の事実、平山信六は昭和四〇年四月一二日付再更正決定等について不服申立て手続を経ていないこと、平山信六は昭和四〇年七月一〇日当裁判所へ被告に対し更正決定等ならびに再更正決定等の各取消の訴を提起したこと、平山信六は昭和四一年八月一八日に死亡し、原告等が同人の遺産を相続したことが認められる。

(一)  先ず被告は更正決定等はその後になされた再更正決定等により当然消滅し、右更正決定等の取消を求める訴はその対象を失つたのであるから却下されるべきであると主張するので判断するに本来更正決定等と再更正決定等は別個独立の行政処分であり、先になされた更正決定等は後になされた再更正決定等により取消され、原告等が本訴によつて取消を求めている更正決定等は消滅したものというべきである(昭和四二年九月一九日最高裁判所第三小法廷判決参照)から原告等の更正決定等の取消を求める訴はその利益を有しないものとして却下を免れない。

ところで原告等は本件各処分の通知書の冒頭に「この通知書の内容について不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して一ケ月以内に(空白)税務署長または(空白)国税局長に対して異議申立てまたは審査請求をすることができます。」と不動文字で記載されているところ、被告は更正決定等通知書についてはその空白部分に「淀川」と記載し「または国税局長」および「または審査請求」を抹消して右更正決定等に不服ある場合は淀川税務署長に異議申立ができる旨を明らかにしているのに対し、右再更正決定等通知書については右不動文字の記載全部を抹消して再更正決定等についての不服申立ての道を封じているのであるから右再更正決定は無効であると主張し、成立に争のない甲第一、二号証によると本件各処分の通知書にはその冒頭に原告主張のとおりの不動文字による記載があり、被告はその部分を原告等主張のとおり記入、抹消してそれを平山信六に交付したことが認められるところ、行政不服審査法第五七条第一項には「行政庁は審査請求若しくは異議申立て又は他の法令に基づく不服申立てをすることができる処分を書面でする場合には処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を教示しなければならない。」と規定しており、国税関係処分である前記再更正決定等についても被告はその通知書において右行政不服審査法の規定にもとづき前記更正決定等の場合と同様の教示をしなければならなかつたことは明らかである。しかしながらそれだからといつて不服申立をすることができる処分について教示を行わなかつたとき、または誤つた教示を行つたときにはそれによつてその教示にかかる処分は無効になるものと解することはできない。行政不服審査法第一八条、第一九条、第四七条、第五八条、国税通則法第七九条第二項第一号も不服申立てをすることができる処分について教示を行わなかつたとき、または誤つた教示を行つたときには教示にかかる処分が有効なことを前提として処分を受けた者に対しては教示を行わなかつたこと、または誤つた教示を行つたことによつて受ける不利益の救済をはかつているのである。従つて本件再更正決定についてもこれを無効ということができず被告がその通知書の冒頭の教示に関する不動文字を抹消して不服申立てについて教示しなかつたことにより平山信六ひいてはその相続人である原告等の蒙る不利益の救済については行政不服審査手続上不服申立て期間経過後においても申立てを認めるべきものか否か等の点から考慮すべきものである。

(二)  次に被告は再更正決定等については平山信六は所定の期間内に異議申立てをせず、(不服申立期間を徒過し)不服申立ての前置を経ていないから国税通則法第八七条により訴を提起し得ないものであるから原告等の再更正決定等の取消を求める訴は不適法であると主張するところ、平山信六が再更正決定等について不服申立てをすることなく、昭和四〇年七月一〇日当裁判所に被告に対し更正決定等および再更正決定等の取消の訴を提起したことは先に認定したとおりである。

ところで原告等は本件においては更正決定等については原告の審査請求が棄却され、少くとも再更正決定等のあつた日より三ケ月以内に訴訟が係属しているのであるからこの額を上廻る再更正決定等につきわざわざ審査請求を経る必要はなく、また被告が再更正決定等通知書の教示に関する不動文字を抹消して平山信六に対し不服申立て手続を要しないことを明示して再更正決定等に対する不服申立の道を封じているのであるから不服申立ての手続を経ないことにつき国税通則法第八七条第一項第四号にいう正当な理由があるものというべきであると主張するので検討する。

国税通則法第八七条第一項の規定を形式的に解するときは本件の如く、更正決定についての審査請求後その裁決前に再更正決定がなされた場合においても、その再更正決定の取消の訴を提起するには、再更正決定について不服申立てを経なければならないということになろう。しかしながら国税に関する法律にもとづく処分について不服申立ての前置が定められている理由は被告の主張するとおり(第五原告の主張に対する被告の反論〔本案前の主張について〕(一)<1>ないし<4>)であるから不服申立てをしてもそれが容れられることが全く期待できない場合とか、実質的にはすでに処分についての不服申立てを経たのと同様の情況にある場合には不服申立てを前置するについての本来の効用を期待することができないのであり、従つてこのような場合には取消を求める処分につき審査裁決を経ないことにつき正当な理由があるものとして直接訴を提起し得るものといわなければならない(国税通則法第八七条第一項第四号)。

そこで本件についてこれをみるに成立に争のない甲第一、二、三号証、乙第七、八号証、証人内山勇雄の証言ならびに弁論の全趣旨によると、被告は平山信六の昭和三六年分所得税について昭和三九年一月二九日付で別表二(イ)(ロ)(ハ)記載の譲渡資産の譲渡に関する譲渡所得について、申告洩れがあるものとして更正決定等をなしたところ、平山信六は同年二月二五日被告の認定課税した譲渡所得が存在しないとして被告のなした更正決定等を全部不服として異議の申立てをしたこと、右異議申立ては同年七月一一日審査請求とみなされたのであるが、その審査の過程において審査庁である大阪国税局長が調査した結果平山信六の前記譲渡資産の譲渡に関する譲渡所得は原処分を上回るものと認められたので、審査庁は被告にその旨を連絡するとともに昭和四〇年四月一五日付で棄却の裁決をしたこと、被告は大阪国税局長の連絡にもとづき右審査裁決の三日前である同年同月一二日付で再更正決定等をし、同年同月一四日頃平山信六に通知したこと、そこで平山信六は昭和四〇年七月一〇日当裁判所へ被告に対し更正決定等および再更正決定等の取消の訴を提起したこと認められる。

右認定事実によると被告のなした更正決定は別表(イ)(ロ)(ハ)記載の譲渡資産の譲渡に関する譲渡所得についてなされたものであり、平山信六は被告の認定課税した譲渡所得全部が存在しないことを理由に異議を申立て、それが審査請求とみなされて審査庁である大阪国税局長のもとにおいて審査されることになつたのであるが、大阪国税局長は、その調査資料により右資産譲渡にもとづく譲渡所得が原処分を上回ることが認められるとしてその内容を被告に連絡し、被告はそれにもとづき再更正決定等をし、大阪国税局長はその直後審査請求を棄却しているのであつて、右再更正決定等については実質的には不服申立てがあつたのと同様の審理がつくされているのである。ちなみに国税通則法第八二条は更正決定等について不服申立てがなされている場合において、当該更正決定等にかかる国税の課税標準等又は税額等についてなされた他の更正決定等があるときは、その不服申立てを受けた者は、行政不服審査法の規定によるもののほか、当該他の更正決定等についてあわせて審理することができ、その場合にはその不服申立てを受けた者は、当該不服申立てについての決定又は裁決において当該他の更正決定等の全部又は一部を取消すことができることになつているのである。さらに本件においては前記認定のように被告が再更正決定等をした際その通知書冒頭の教示に関する不動文字を抹消して不服申立てについての教示をしなかつた(右不動文字を抹消した点をとらえると教示をしなかつたというよりは不服申立をしなくてもよい旨を暗黙に教示したと認められないでもない)のであつて、先に認定した再更正決定等および審査裁決に至る事情を考え合わせると平山信六にとつて再更正決定等について不服申立てをすることなく直接訴を提起したことについて無理からぬ点も見受けられるのである。従つて本件においては平山信六が再更正決定等の取消の訴を提起するにあたり不服申立てを経ないことについて正当な理由があつたものというべきである。もつとも右教示に関する点については不服申立て手続上救済をはかればよく、不服申立て前置を不要ならしめる理由とはならないものと解し得ないではなく、また被告の主張するように再更正決定等に対し不服申立てをすれば更正決定等についての審査裁決の結果と異つた調査判断が得られる余地はないとはいえないとしても、その期待できるところは少く、それよりも不服申立てを経ることなく直接再更正決定等の取消の訴を許容することにより速かに被処分者の権利の救済をはかる方が制度の趣旨に合するものというべきである。

以上のとおりであるから原告等の再更正決定等の取消を求める訴は適法なものであり、被告の主張は失当である。

(本案の主張に対する判断)

一  平山信六の昭和三六年分の所得税の不動産所得は金六九、〇四〇円、給与所得は金四五五、〇〇〇円であることは当事者間に争がない。

二  そこで譲渡所得額について検討する。

(一)  譲渡価格について

譲渡資産、譲渡時期、譲渡先は別表二記載のとおりであることは当事者間に争がない。

(イ) 被告は別表二(イ)の物件の譲渡価額は金六、三〇〇、〇〇〇円であると主張するのに対し原告等は金四、九五〇、〇〇〇円であると主張するので検討するに成立に争のない乙第三号証の一、二、三、証人内山勇雄、同高橋清の各証言とそれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、二(但し官署作成部分は当事者間に争がない)によると平山信六は別表二(イ)の物件を有限会社大原製作所に金六、三〇〇、〇〇〇円(三・三平方メートル〔一坪〕当り金二一、〇〇〇円)で譲渡したことが認められ、右認定に反する原告平山美江本人尋問の結果は信用することができない。

(ロ) 被告は別表二(ロ)の物件の譲渡価格が金二、一〇〇、〇〇〇円であると主張するのに対し原告等は金一、六五〇、〇〇〇円であると主張するので検討するに成立に争のない乙第二号証の一、証人大村徳一、同内山勇雄の証言とそれにより真正に成立したものと認められる乙第二号証の二、同第六号証によると平山信六は別表二(ロ)の物件を大村徳一に金二、一〇〇、〇〇〇円(三、三平方メートル〔一坪〕当り金二一、〇〇〇円)で譲渡したことが認められ、右認定に反する原告平山美江本人尋問の結果は信用することができない。もつとも成立に争のない甲第六号証、証人大村徳一の証言原告平山美江本人尋問の結果の一部によると平山信六と大村徳一との間で所得税の課税を免れる目的で右物件の価格を金六五〇、〇〇〇円とする売買契約書(甲第五号証)を作成したのであるが後に原告平山美江が右書面の物件価額の記載「六拾五万円」の上に「百」を書加えて「百六拾五万円」としたもので真実の譲渡価額を記載していないことが認められる(右認定に反する原告平山美江本人尋問の結果の一部は措信できない)ので、右甲第五号証の存在をもつて右物件価額を認定する資料とはなし難い。

(ハ) 別表二(ハ)の物件の譲渡価額が金二三、〇〇〇、〇〇〇円であつたことは当事者間に争がない。

そうすると別表二(イ)(ロ)(ハ)の各物件の譲渡価額は被告の主張するとおり合計金三一、四〇〇、〇〇〇円となる。

なお、成立に争のない乙第七、八号証、同第九号証の一ないし四と証人内山勇雄の証言によると平山信六は更正決定等に対し異議申立てをした際淀川税務署長に対し提出した異議申立て書(乙第七号証)、添付書類(乙第八号証、同第九号証の一ないし四)には別表二(イ)(ロ)(ハ)の各物件の譲渡価額として右認定の各価額より少額の記載があるが、証人内山勇雄、同高橋清、同大村徳一の各証言および弁論の全趣旨によると右各書面の記載は平山信六が所得を隠すため虚偽記入したことによるものであることが認められ、他に右認定に反する証拠がない。

(二)  取得費用(取得価額)について

別表三記載のうち平山信六は仲介手数料金二五〇、〇〇〇円を村田不動産(村田はつ)に、整地費金一、六一〇、七〇〇円を小峯建設に、登記料金一六、二七七円を斉藤兼にそれぞれ支払い、雑費金一〇〇、〇〇〇円を要したことは当事者間に争がない。

被告は本件譲渡資産の各物件の買受価額(土地対価)は合計金八、〇〇〇、〇〇〇円であると主張するのに対し原告等は金一八、〇〇〇、〇〇〇円であると主張するので検討するに、平山信六は右各物件を渡辺正治、松本金蔵、須賀喜八郎、熊本政吉から買受けたことは当事者間に争がなく、証人山田常治、同村田はつの各証言とそれにより真正に成立したと認められる甲第四号証の一、二および原告平山美江本人尋問の結果によると平山信六は自己が代表取締役である光食品工業株式会社の名義で昭和三五年九月一七日右各譲渡人の代理人である山田常治、小峰貞蔵との間で村田はつ、安藤乕二、荒川久雄の仲介による右各物件を金一八、〇〇〇、〇〇〇円で買受ける契約を締結し、同日頃金三、五〇〇、〇〇〇円、同年同月一五日頃、残金一四、五〇〇、〇〇〇円を支払つた後自己名義に右各物件の所有権移転登記をしたことが認められる。なお、成立に争のない乙第五号証(土地売買契約書)、乙第七号証、第九号証の一、証人内山勇雄の証言によると平山信六と右各売渡人の代理人山田常治、小峰貞蔵との間において売買価額を金八、〇〇〇、〇〇〇円とする売買契約書が作成されており、平山信六は異議申立、審査請求を通じて買受価額を金八、〇〇〇、〇〇〇円と主張していた事実が認められるが、前記乙第四号証の一、二、証人山田常治、同村田はつの各証言、原告平山美江本人尋問の結果によるとそれは売渡人側の要請により平山信六と右各売渡人の代理人である山田常治、小峰貞蔵との間において税務対策上金八、〇〇〇、〇〇〇円とする売買契約書を作成し、平山信六はそれにもとづき確定申告をし、異議申立て、審査請求において買受け価額を金八、〇〇〇、〇〇〇円と主張していたことが認められるので、右事実があるからといつて前記認定を左右することができず、他に右認定に反する証拠はない。

次に原告等は右各譲渡資産を取得するためにその代金を銀行等から借り受けたため銀行利子等金七〇七、二五五円を支出している旨主張するので検討するに前記甲第四号証の二、乙第八号証、原告平山美江本人尋問の結果の一部によると平山信六は香辛調味料の製造販売を目的とする光食品工業株式会社の代表取締役をしていたのであるが、右会社は昭和三五年四月頃即席チキンラーメンの製造販売をはじめたところ、注文が殺到したのが江商株式会社と提携して同会社から資金を得て(これが資金の貸付になるのか出資になるのか判然としない)、その事業を拡張することになり、とりあえず工場敷地の購入資金として金五、〇〇〇、〇〇〇円の融資を受けたこと、右光食品工業株式会社の代表取締役である平山信六は右会社の工場敷地とする目的で右江商株式会社から融資を受けた金五、〇〇〇、〇〇〇円に不足分を調達して自己のため前記各譲渡資産を購入したことが認められるが、平山信六が右譲渡資産の買受けのため借受けた資金の利息の支払をしたという原告平山美江本人尋問の結果の一部はそのまま信用し難く、他に右原告等の主張を認め得る証拠はない(原告平山美江本人尋問の結果によると江商株式会社から融資を受けた金五、〇〇〇、〇〇〇円について日歩二銭六厘の利息が附せられていたことが窺われるのであるが、それは江商株式会社と光食品工業株式会社との関係であり、平山信六は右各譲渡資産購入のため使用した金五、〇〇〇、〇〇〇円に利息の支払をしたと認められる証拠はない)。そうすると原告等の右主張は認められないことになる。

もつとも一般に必要経費の点も含め課税所得の存在について課税庁に立証責任があると解されるのであるが、必要経費の存在を主張、立証することが納税者にとつて有利かつ容易であることに鑑み通常の経費についてはともかくとして原告等が右に主張するような利息の如き特別の経費についてはその不存在につき事実上の推定が働くものというべく、その存在を主張する納税者は右推定を破る程度の立証を要するものといわなければならない。本件においては右推定を覆すに足る証拠はない。

以上の認定によると右譲渡資産の取得費用(取得価額)は土地対価金一八、〇〇〇、〇〇〇円、仲介手数料金二五〇、〇〇〇円、整地費金一、六一〇、七〇〇円、雑費金一〇〇、〇〇〇円合計金一九、九七六、九七七円となる。

(三)  譲渡経費について

別表四記載のうち雑費を除き、その余の費目、支払金額、支払先については当事者間に争がない。

原告等は右譲渡資産の譲渡につき山崎一登に仲介世話料として更に金五四〇、〇〇〇円を支出している旨主張するので検討する。

別表二(ハ)の物件は昭和三六年一〇月六日に平山信六から日本車輛製造株式会社に譲渡されたこと、土地譲渡についての仲介世話料として山崎一登が平山信六から金二五〇、〇〇〇円を受領していること(成立に争のない甲第五号証の一によると右金員を受領したのは昭和三六年一〇月七日であることが認められる)は当事者間に争がない(なお証人山崎一登の証言によると山崎一登が平山信六のために売買の仲介をした土地は別表二(ハ)の物件だけであることが認められる)ところ、成立に争のない甲第五号証の三、証人山崎一登の証言、原告平山美江本人尋問の結果によると山崎一登は昭和三九年四月(平山信六が更正決定に対して異議申立てをした後である)平山信六方において同人から金五〇〇、〇〇〇円を受領し、それと引換えに「金五拾万円、但し芝字広面の土地世話料」と記載した領収証を同人に交付していることが認められる。そこで平山信六から山崎一登に対する右金五〇〇、〇〇〇円の支払がその領収証の記載のとおり土地(別表二(ハ)の物件)仲介世話料として支払われたものかどうかについて考えてみるに、証人山崎一登の証言、原告平山美江本人尋問の結果中右金五〇〇、〇〇〇円が右土地の仲介世話料として支払われたとする供述部分は極めて疑わしく、被告の主張するとおり山崎一登が平山信六の税務対策のために活躍した対価として支払われたものと推認せざるを得ない。

すなわち不動産仲介手数料等は特別の事情のない限り当該不動産の売買契約が成立したときもしくは代金支払のときに支払われるものであるところ、本件においては昭和三六年一〇月六日に平山信六と日本車輛製造株式会社との間に売買契約が成立し、その当時代金の支払が全部済まされ、山崎一登もその仲介手数料として金二五〇、〇〇〇円を受領している(成立に争のない甲第五号証の二によると竹田実市が昭和三六年一〇月八日に仲介手数料として平山信六から金二五〇、〇〇〇円を受領しており、また後記のとおり昭和三六年一〇月七日に坂谷満寿江が土地世話料として金五〇、〇〇〇円を受領している)にもかかわらず、特別の事情も見当らないのに二年半を経過するに至るまで金五〇〇、〇〇〇円の仲介手数料の支払がなされないままになつているというのは極めて異例であること、本件各譲渡資産を取得した際の仲介手数料は売買価額金一八、〇〇〇、〇〇〇円について金二五〇、〇〇〇円であるのに対して右資産を譲渡した際の仲介手数料は売買価額金三一、四〇〇、〇〇〇円について山崎一登、竹田実一の受領した各金二五〇、〇〇〇円及び後記認定の坂谷満寿江が受領した金五〇、〇〇〇円計金五五〇、〇〇〇円とすれば右取得時の仲介手数料の割合とほぼ見合うものであり(竹田実市、坂谷満寿江は別表二(ハ)の物件の譲渡直後右各金員を受領しているのであるから右物件についての仲介手数料を当然含んでいるものと解される)これに更に金五〇〇、〇〇〇円を加えると極めて高額の仲介手数料となること、証人山崎一登の証言、原告平山美江本人尋問の結果によるも別表二(ハ)の物件の売買契約が成立した当時、平山信六と山崎一登の間で当時支払を済ませた金二五〇、〇〇〇円以上の仲介手数料を支払う旨の契約が成立していたとは認め難いこと(右両者の供述中右部分の供述はあいまいである)、成立に争のない乙第七、八号証、同第九号証の一ないし四弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一一号証、原告平山美江本人尋問の結果および弁論の全趣旨によると平山信六は被告から昭和三九年一月二九日更正決定を受け、これに対し異議の申立てをしたのであるが、その申立書および添附書類には不実の記載(特に取得価額、譲渡価額について)をし、また虚偽記載のある資料(乙第五号証)を提出し、山崎一登に右金五〇〇、〇〇〇円を支払つた頃同人を淀川税務署に出頭させて虚偽の陳述をさせ、また虚偽の内容の事実証明書を被告に提出させる等して平山信六の被告に対する虚構の事実の立証に協力させていることが認められること等を綜合すると証人山崎一登の証言、原告平山美江本人尋問の結果、および右甲第五号証の三の記載にかかわらず、右金五〇〇、〇〇〇円は山崎一登が平山信六の税務対策のために活躍した対価として支払われたものと推認せざるを得ないのである。そして更に平山信六は山崎一登に対し金四〇、〇〇〇円を支払つたと認め得る証拠はない(この点に関する原告平山美江本人尋問の結果は信用し難い)。

次に原告等は本件譲渡資産譲渡の仲介世話料として坂谷満寿江および竹田実市に金五〇、〇〇〇円宛支払つた旨主張するので検討するに原告平山美江本人尋問の結果とそれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証の四によると平山信六は昭和三六年一〇月七日に右譲渡資産の竹田実市、坂谷満寿江に対する土地世話料として金五〇、〇〇〇円を坂谷満寿江に支払つた事実が認められるが、竹田実市に金五〇、〇〇〇円を支払つた事実はこれを認めるに足る証拠はない(右認定に反する原告平山美江本人尋問の結果は信用し難い)。

次に被告は本件譲渡資産を譲渡するについて雑費金一二〇、〇〇〇円を要したと主張するのに対し原告等は金三三三、四〇〇円を支出したと主張するので検討するに前記三筆の譲渡資産を二回に分けて譲渡するに直接必要な諸雑費は昭和三六年当時においては原告の住所地である大阪と右物件所有地である川口市の離距を考慮に入れても通常の場合被告の主張する金一二〇、〇〇〇円をもつてまかなえるものと認められる。そうすると右金額を超える部分については原告等においてこれを立証すべきところ、原告平山美江本人尋問の結果中右雑費に関する部分は具体性がなく、またその供述内容もそのまま信用し難く、他に平山信六が被告の主張する右金額を上廻る雑費を支出したと認め得る証拠はない。

そうすると平山信六は右譲渡資産を譲渡するにつき雑費として金一二〇、〇〇〇円を支出したものと認めるのを相当とする。

以上の認定によると右譲渡資産を譲渡するについて要した譲渡経費は仲介手数料金五五〇、〇〇〇円(山崎一登、竹田実市に各金二五〇、〇〇〇円、坂谷満寿江に金五〇、〇〇〇円)、分筆登記料金五、〇〇〇円(広瀬宏)謄本料金一、三〇〇円(斉藤兼)、広告料金二四、三〇〇円、雑費金一二〇、〇〇〇円合計七〇〇、六〇〇円となる。

以上認定の事実にもとづいて譲渡所得を算出すると次のとおり金五、二八六、二一一円となる。

譲渡価額金三一、四〇〇、〇〇〇円から取得費用(取得価額)金一九、九七六、九七七円および譲渡経費金七〇〇、六〇〇円を差引き、更に特別控除額金一五〇、〇〇〇円を控除しその一〇分の五を乗ずると譲渡所得は金五、二八六、二一一円と算出される。

三  そうすると平山信六の昭和三六年分所得税の総所得金額は不動産所得金六九、〇四〇円、給与所得金四五五、〇〇〇円、譲渡所得金五、二八六、二一一円を加算した金五、八一〇、二五一円となり、課税総所得金額は右総所得金額から社会保険料控除額金一四、九四〇円および基礎控除額金九〇、〇〇〇円を控除した金五、七〇五、三一一円となる。

四  従つて被告が昭和四〇年四月一二日付で平山信六に対してなした再更正決定のうち課税総所得金額金五、七〇五、三一一円を超える部分は所得がないのに課税したものとして違法なものというべく、取消を免れない。

五  次に重加算税の点について判断する。

本件についての確定申告期限は昭和三七年三月一五日であるから加算税については国税通則法附則第九条により旧所得税法(昭和二二年法律第二二号)第五七条(従前の規定)が適用されることになるところ、前記認定の事実から平山信六は所得税額の計算の基礎となるべき事実(譲渡資産の譲渡額および取得額)を隠ぺい仮装し、それにもとづき確定申告書を提出していたことが明らかである。

ところで平山信六の確定申告(別表一(A)欄)にもとづき税額を算出し、源泉徴収税額(この額については当事者間に争がない)を控除すると要納付税額は金一六六、八九〇円となる。また前記認定の平山信六の課税総所得金額五、七〇五、三一一円を基礎にして税額を算出し源泉徴収税額を控除すると要納付税額は金二、〇一〇、一八〇円となる。そして前記認定額を基礎にして算出した要納付税額から平山信六の申告を基礎にして算出した要納付税額を差引いた差額金一、八四三、二九〇円が隠ぺいされた事実にもとづく所得に対する税額となる(このことは前記認定から明らかである。)従つてこの金額金一、八四三、二九〇円(一、〇〇〇円未満の端数は切捨て)に一〇〇分の五〇を乗じて得た金九二一、五〇〇円が重加算税額となる、よつて被告が昭和四〇年四月一二日付で平山信六に対してなした重加算税賦課決定のうち右金九二一、五〇〇円を超える部分は違法なものとして取消を免れない。

六  以上のとおりであるから原告等の被告が平山信六に対してなした昭和三六年分所得税についての昭和三九年一月二九日付更正決定および重加算税賦課決定の取消を求める訴は不適法なものとして却下することとし、被告が平山信六に対してなした昭和三六年分所得税についての昭和四〇年四月一二日付再更正決定および重加算税賦課決定の取消を求める訴については、その請求のうち再更正決定の課税総所得金額金五、七〇五、三一一円を超える部分および重加算税賦課決定の税額金九二一、五〇〇円を超える部分は正当としてこれを認容し、その余の部分は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 長谷喜仁 光辻敦馬)

別表一

(A)

確定申告

(B)

更正

(C)

再更正

不動産所得

69,040

69,040

69.040

給与所得

455,000

455,000

455,000

譲渡所得

661,211

9,111,211

10,311,211

1,185,251

9,635,251

10,835,251

社会保険料

14,940

14,940

14,940

基礎

90,000

90,000

90,000

控除計

104,940

104,940

104,940

課税総所得金額

1,080,300

9,530,300

10,730,300

算出税額

211,590

3,952,650

4,589,665

源泉徴収税額

44,700

44,740

44,740

差引納税額

166,890

3,907,950

4,544,960

増差税額

3,741,060

4,378,070

重加算税額

1,870,500

2,189,000

別表二~四<省略>

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