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大阪地方裁判所 昭和41年(ヨ)2289号 判決 1967年9月29日

申請人 松村勇

被申請人 誠和運輸株式会社

主文

本件仮処分申請は、これを却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

第一、(当事者の求める裁判)

申請人代理人は、「被申請人は申請人を従業員として取り扱いかつ申請人に対し昭和四一年五月五日以降毎月末日限り一ケ月金四六、〇二八円の割合による金員を支払え。申請費用は、被申請人の負担とする。」との判決を求め、被申請人代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、(申請理由)

一、被申請人(以下単に会社という)は、従業員約一〇名で運送業を営む株式会社であり、申請人は昭和三九年四月会社に入社し以来会社において自動車運転手として勤務し後記解雇の意思表示を受けた同四一年五月五日当時毎月末限り金四六、〇二八円の平均賃金の支払を受けていた。

二、会社は、同年五月五日申請人に対し、同人が同年四月二六日の勤務終了後平野小学校で開かれた日本共産党の演説会に会社の車輛を使つていつた行為が就業規則一〇八条一四号所定の「無断で会社の車輛を使用したとき」に該当するものとして懲戒解雇の意思表示(以下単に本件解雇という)をした。

三、本件解雇は次の理由により無効である。

(一)  就業規則の適用の誤り

申請人はかねて会社から会社所有の自動車で勤務地に通勤することおよびこれを私用に供することを承認されていたところ、本件解雇の直接の理由となつた平野小学校での日本共産党の演説会をききに行くために使用した自動車は会社から私用に供することを承認されていた自動車であるから同行為について就業規則一〇八条一四号を適用することは誤であり同規則適用の上なされた本件解雇は無効である。

(二)  (不当労働行為)

(1) 申請人の組合活動

(A) 会社では中小企業の常として労働条件悪く、従業員の間では特に低賃金の上重労働でしかも残業の多いこと有給休暇が自由にとれないことなどについて強い不満があつた。申請人は入社後右実情をまのあたりにみて労働者の権利を確保するため労働組合の結成を企図し、まず同四〇年八月頃大阪市内西成区東住吉区に職場を持つ中小企業の労働者で組織する南大阪金属合同労働組合(以下単に組合という)に個人加入するとともに、その頃から会社内に組合の分会を結成すべく準備活動をはじめ、同年一一月二七日頃従業員数人を会社従業員寮に集め分会結成の話合を持ち自らこれを指導した。

(B) 申請人は、会社から後記退職をせまられた際組合と連絡をとり会社に対し組合員であることを正式に通告するとともに組合員として退職勧告の撤回を申し入れ、それに成功した。

(C) 申請人は、申請外小川弘志が会社から解雇の意思表示を受けた際同解雇の撤回問題について、またある時は賃上問題について、組合委員長らとともに会社に交渉するなど終始積極的な組合活動をつづけた。

(2) 会社の反組合活動

(A) 会社は、申請人の前記同年一一月二七日の行動から申請人が組合分会結成の準備をすすめていることを察知し、その頃から組合結成の動きを極度に警戒し、申請人を会社から排除すべくその頃前記従業員寮での集りが同寮の無断使用であるとし、またあるいは申請人が得意先でささいな争いをおこしたことなどを口実に申請人に退職をせまり、組合の反対にあいこれを撤回した。またあるときにはわざとつり銭を多くわたして申請人の失策をまちうけたりなどして解雇の機会をねらつていた。

(B) 同四一年初頃組合分会の結成に熱心であつた小川弘志を解雇した。

(C) 同じ頃労務対策担当者として申請外西岡栄雄を雇い入れ、同人をして同年三月頃労務対策の一環として懲戒処分理由をたくさん盛つた就業規則を作らせた。

(D) これら会社の攻撃により会社内に一時数人に達した組合員も同年五月頃には申請人一人になつてしまつた。

以上本件解雇は、申請人が会社の自動車を無断で使用したことを理由とするものであるが、その理由のないこと前記(一)で述べたとおりで、真の理由は申請人を会社から排除すべくその機会をねらつていた会社がたびたびの失敗にこりず、あくまでも企業内の唯一の組合員たる申請人を会社外に排除し組合の影響力を抹殺せんとの企図のもとにしたものであつて労働組合法七条一号に該当し無効である。

(三)  本件解雇は申請人が日本共産党の演説会をききに行つたこと、つまり同人が同党の政策に同調もしくは関心を寄せていることを理由とするもので、同人の思想信条を理由とするものであるから、憲法一四条労働基準法三条に違反し無効である。

四、前述のとおり本件解雇はいずれの理由によつても無効で、申請人は依然会社の従業員たる地位を有する。よつて申請人は、会社を相手として解雇無効従業員たる地位の確認の訴を提起すべく準備中であるが、同人は会社から支払を受ける賃金を唯一の生計の資とする労働者であるところ会社は申請人に対し就労を拒否するばかりか賃金の支払もしない、このまま推移するときは回復することのできない損害を生ずることが明白であるから本件仮処分申請に及ぶ。

第三、(会社の答弁及び主張)

一、申請理由一および二の事実は認める。

同三の(一)の事実中申請人が会社従業員寮から勤務地に会社の自動車で通勤することを認めたことおよび主張のような内容の就業規則の条項のあることは認めるがその余の事実は否認する。

会社の車輛での通勤を認めていたのは次の理由によるものである。すなわち、会社は営業所を肩書地においていたが地価の高い市内に車庫を設置することが出来ず、申請人らの居住する従業員寮に車庫を併設し、入寮者には出勤時に担当車を運転して会社に出勤し会社の指示に従い各得意先に赴かせるようにしていた。申請人は、本件解雇前二週間位から市内長居町所在の銀座アスター大阪出張所に赴き運送の業務に従事するよう指示されていたが、同出張所は会社営業所とは反対のしかも遠方に位置するので寮から会社営業所によらず直接同出張所に赴くようはからつていたもので、あくまで事業運営上の理由によるものであり、決して申請人が私用に供することを認めていたものではない。同三の(二)の事実中同四〇年一一月二七日頃会社が申請人に対し同人が得意先でいさかいをおこしたことを理由に退職勧告したこと、それを撤回したこと、同四一年初頃会社が申請外小川弘志を解雇したこと、同年一月頃申請外西岡栄雄を採用したことおよび同年三月頃就業規則を改定したことは認める。申請人が主張の組合に個人加盟していたことは知らない、その余の事実は否認する。申請人に対する退職勧告を撤回したのは、当時組合の池田某が仲に入り申請人ともども以後得意先でいさかいをおこさない旨誓約したので撤回したまでで組合の反対によるものではなく、申請外小川弘志の解雇については同人が得意先でシヤンペンを盗取し、会社の信用を失墜したことによるもので組合とは何ら関係はない。本件解雇についても申請人の組合活動と何ら関係はない。申請人と会社代表者は二〇年来の知人関係で、申請人が会社に入社するに至つた経過も昭和三八年当時申請外朝日タクシーの組合専従者であつた申請人が会社代表者のもとをおとずれ組合専従で給料も安い上購売部の不正事件について連帯責任をとり同社を辞めざるを得ない。ついては白タク営業をはじめたいから月賦手形に裏書してもらえないかと依頼があつたことから会社に入社するようになつたものである。したがつて申請人が組合活動家であることは会社代表者においては知悉していたことである。

同三の(三)の事実は否認する。

同四の主張は争う。申請人は、同四一年六月以降同年九月迄申請外日之出タクシーにおいて、同年一〇月以降同年一二月八日迄申請外第一タクシーにおいてそれぞれタクシー運転手として稼労し、会社から支払を受ける以上の収入を得ているばかりか、同人の妻は同年一月以降申請外山口包装工業株式会社に勤務し月額一五、〇〇〇円の収入を得ているから直ちに仮処分決定を受ける必要性はもうとう存在しない。

二、(解雇理由)

(一)  (服務規律違反)

会社においては、営業用自動車の無断使用については、大阪陸運局からの指示や近時交通事故による賠償義務の巨額化、使用者責任の普及化にともない会社営業用自動車を私用に供することを平素より厳重に禁じ、同四一年三月には就業規則を改定し以後かかる行為に対し懲戒処分をもつて臨むこととした。

申請人は、従業員寮の管理を委ねられ車輛管理者に準ずる地位にあり、しかも無断使用が就業規則違反になることを熟知しながら同年四月二六日大阪市内平野小学校で開催された日本共産党の演説会をききに行くため会社の営業用の自動車を無断で運転した。これは重大な服務規律違反で申請人の地位にかんがみるとき情状において同情に値しないから就業規則一〇八条一四号を適用してやむなく本件解雇処分に付したのである。

(二)  仮りに右主張が認められないとしても会社は次の理由で同年八月二二日申請人に対して予備的に解雇の意思表示をした(以下単に予備的解雇という)、

労働者は、使用者の総合的統一的な業務の一部を分担するものとして職務の遂行に当つては使用者の営業活動に寄与するよう誠実に努めるべきであるところ申請人は、

(1)(A) 同三九年二月頃顧客申請外大正運輸株式会社で就労中会社の倉庫積込要員の言葉使が悪いといつて職場を放棄し、

(B) 同四〇年七月頃と同年一一月頃の二回にわたり、同申請外若林酒造株式会社において就労中同社配車係に対し仕事の不平ならびに休み時間がみじかいと申し向け同人と口論し、

(C) 同年一一月二日同申請外株式会社岸本商店において就労中同社倉庫責任者に対し昼の休けい時間がみじかいと申し向け口論した。

以上のような事実があり、申請人は得意先から出入を差止められるのやむなきに至つたので、会社では申請人のたび重なる右のような行為は会社に対する非協力的態度のあらわれであると判断し、同年一一月二七日頃解雇の意思表示をした(以下単に一次解雇という)が、同年一二月四日頃組合の池田一志らを交えて話し合つた結果申請人らにおいて今後同種の行為をくり返さない旨誓約したので一次解雇を撤回した。しかしながら非協力的態度は改まらず、同四一年一月頃会社から従業員寮の電気使用料、電話使用方法、戸閉りなどについて是正するよう注意されたのにかかわらず何らの措置もとらずあくまでも非協力的態度をつづけた。

(2) 申請人は、前記のとおり従業員寮の管理を委ねられていたのであるが他の入寮者とは仲が悪く、なかんずく寮内にある便所のうち階下に設置されているものを申請人家族の専用化したり入寮者に対し午後一〇時以後の食堂の使用を禁止したり、余暇を麻雀で楽しんでいるのを妨害したりしてその溝をますます深くし、その非協調性は目にあまるものがあつた。そればかりか新入社員に対して現実とかけはなれた不平不満を申し向け同人らのそれを増大させようと煽動し従業員と会社との間の不信感をあおつた。

第四、(会社の主張に対する申請人の答弁)

会社の主張(一)についてはその不当なことは申請理由三の(一)で述べたとおり

同(二)の予備的解雇については解雇の意思表示のあつたことは認めるがその余はすべて否認する、特に(1)の(A)ないし(C)は得意先の無理難題を申請人に押付けるものである。

(疎明省略)

理由

一、被申請人が従業員約一〇名を使用して運送業を営む株式会社であり、申請人が昭和三九年四月会社に入社して以来自動車運転手として勤務して来たことおよび会社が同四一年五月五日申請人に対し、同人が同年四月二六日の勤務終了後大阪市内平野小学校で開かれていた日本共産党の演説会を傍聴するため会社の車輛を運転して行つたことが就業規則一〇八条一四号に該当するとして本件懲戒解雇の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

二、会社は、申請人が前記演説会をききに行くため会社の営業用自動車を無断で使用した行為が重大な服務規律違反で就業規則一〇八条一四号の「無断で会社の車輛を使用したとき」に該当するから懲戒解雇したものであると主張し、申請人はこれを争うので判断する。

(一)  申請人の主張はまず、会社はかねてから申請人に対し会社の車輛を私用に使うことを認めていたから申請人には右就業規則に該当する行為はないものというべく、同規則を適用してなされた本件懲戒解雇はひつきよう同規則の適用を誤つたもので無効であるというにあるからこの点を判断すると、成立に争いのない甲第三、第六号証、同乙第一二ないし第一五号証、証人池田茂の証言および申請人本人尋問の結果の一部、ならびに被申請人代表者本人尋問の総果を綜合すると会社は肩書地に営業所を設け一〇数台の営業用自動車をもつて運送業を営んでいたが、その営業方法は得意先に専属的に運転手および車輛を提供しその指示のもとに運送品を運送するという形態をとつていたこと、営業所において営業用自動車を格納するだけの場所的余裕がなかつたため大阪市内東住吉区加美松山町所在の従業員寮に車庫を併設して同自動車を格納していたこと、寮に居住する従業員らは毎朝担当車を運転して会社に出勤し会社からその日の配車先の指示を受け各得意先に赴き夕方には右と逆の経路で帰寮していたこと、営業用自動車を私用に供する場合には会社に届け出てその許可を受けることとなつていたが市内の場合には申請人が会社代表者に代つて許可を与えることがあつたこと、しかしながら会社営業所と車庫とがかなり離れていたことも手伝いその管理はかならずしも良好とはいえずしばしば無断で私用に供されることがあつたこと、申請人入社後も清水某が営業用自動車を運転して銭湯に行つたことが申請人に発覚しその詰問を受けこれがきつかけとなり同人は退職するに至つたこと、その後も会社の注意にもかゝわらず営業用車輛の無断使用は後を断たなかつたこと、社会一般では従業員の無断使用中の事故において会社の損害賠償責任を肯定する事例が多くしかもその賠償額も漸次多額化する傾向にあること会社では右傾向にかんがみ又企業防衛の点からも営業自動車の無断使用については以前にまして厳重な態度で臨むこととし同四一年一月頃申請外西岡栄雄を招聘して同年三月頃従業員全員の意見を徴して就業規則を改定し車輛の無断使用については懲戒解雇処分をもつて臨む態度を打ち出しその一〇八条一四号においてその旨明記したこと、申請人は会社に入社する以前から会社代表者とは懇意な間柄であつた上入社後は従業員寮の管理を依頼され同人の無断使用については黙認されていたが右規則の改定に際しては同人も右規則に服しその適用について何人もその例外は認められなくなつたこと、申請人は本件解雇の意思表示を受ける約二週間位前から同市内長居町所在の銀座アスター大阪出張所に赴き会社の商品を運送する業務に従事するよう命ぜられていたが同出張所は会社営業所とは反対の方角にあつたので同人は毎朝営業所に立寄ることがなく会社の営業用自動車を運転して直接同出張所に出向いて行きそこに常置する会社の営業用自動車で同出張所での業務に従事していたこと、同年四月二六日右出張所での勤務終了後の夜七時頃その日たまたま同市内平野小学校で開かれていた日本共産党の演説会を傍聴するため毎朝出勤に使用している会社の営業用自動車を運転して行きその間附近の杭全神社境内に駐車していたことが疎明される、甲第二、第六号証の記載中右疎明事実に反する部分および申請人本人の尋問の結果中右疎明事実に反する部分は採用しない。

右事実によれば被申請会社のような規模の会社では従業員による自動車事故が発生し、しかも死傷事故をおこした場合企業の運命をも左右する結果にもなりかねないことは容易に想像されるところ会社がかゝる事態を未然に防止するため前記のように従業員による車輛の無断使用について厳重な態度で臨むこととしたことは充分理由のあることでありひとり申請人の行為についてのみ就業規則一〇八条一四号の規定を度外視して黙認することは同規則を改定した意図に反し企業の秩序をそこなうこととなる、そうだとすれば前記申請人の行為について会社がとつた措置は違法不当とはいえず充分肯首しうるところである、この点の会社の主張は理由があり、申請人の主張は理由がない。

(二)  次に申請人は、本件懲戒解雇は組合活動家である申請人を会社から排除する意図のもとになされたもので不当労働行為を構成し無効である旨主張するので判断するに

(1)  (解雇理由)は前記(一)で疎明のとおり。

(2)  (申請人の組合活動)成立に争いのない甲第二ないし第四号証、乙第一四号証、証人清藤文彦の証言および申請人本人尋問の結果の一部を綜合すると、申請人が入社した当時会社では労働条件はかならずしも満足すべきものではなく特に有給休暇の点については充分確保されていなかつたことが認められ申請人はこれに不満を持ち同四〇年八月頃まず大阪市内西成区東住吉区に職場を持つ中小企業の労働者で組織する南大阪金属合同労働組合に個人加盟し順次従業員に働きかけ一時は数名の従業員とともに組合の分会を結成したこと、同年一〇月頃従業員を前記従業員寮に集めて待遇改善問題について話し合い一律三、〇〇〇円の賃上を含む四項目からなる要求をまとめて会社に提出し結果的には物価手当という名目の金員を獲得するにとどまつたが一応の成功をおさめたこと、申請人はその間指導的立場にあつたこと、同年一一月二七日頃会社から申請人が得意先である若林酒造においていさかいをおこしたことを理由に解雇の通告(以下一次解雇という)を受けた際組合員であることを明かにし組合協議会議長申請外池田一志らとともに解雇撤回の交渉をもつたことその結果解雇の意思表示が撤回されたことが疎明される。

(3)  (会社の反組合活動)

申請人主張(A)の事実については主張の頃会社から一次解雇の意思表示がなされたことは前記(2)で疎明のあつたとおりであるが、同解雇が申請人の組合活動の故をもつてなされたもので会社においてその非を認めて撤回したとの点についてはこれを疎明する資料はなく、成立に争いのない乙第一号証同第一四号証被申請人代表者本人尋問の結果によると、むしろ申請人が得意先でそこの職員から多少の無理を強いられた場合にその問題を会社に持ち帰り会社の問題として会社代表者らと話し合つて対処することなく得意先で口論し出入を差止められるという事態をおこしたので会社から会社の従業員として不適当であるとして転職をすすめたところ申請人らにおいて今後はかゝる事態になつた場合には会社全体の問題として話合つて解決し決して得意先で直接口論喧嘩ざたをおこさない旨申出たので会社においてこれを了承し復職を認めたことがうかがえる。

同(B)(C)の主張については前記甲第二、第三号証の一部乙第一四号証被申請人代表者本人尋問の結果によると主張の頃小川弘志が会社を退職したこと西岡栄雄が雇入れられたことが疎明されるが同事実が組合攻撃の意図をもつてなされたとの点については本件全疎明資料によつてもこれを疎明するに足らない、前掲疎明資料によればその理由は前者については小川弘志が得意先で商品盗取の疑をかけられたほか無届欠勤営業用自動車の無断使用等の事実が重なつたため自ら退職して行つたことがうかがえる。後者については前記(一)で疎明のとおりである。

同(D)の主張については前掲甲第二、第三号証申請人本人尋問の結果によると一時数名に達していた組合分会員が本件解雇当時申請人一名に減じていたことが疎明されるが、本件全疎明資料によるもそれが会社の働きかけによるものであるとの疎明はない。

(4)  (結論)申請人が組合員であり積極的な組合活動家であることは(2)で疎明のあつたとおりであるが、前掲乙第一四号証、被申請人代表者本人尋問の結果によると申請人と会社代表者は以前同じ職場でともに働いていたことのある旧知の間柄であり、その後申請人は申請外朝日タクシーに勤務しその間組合専従者をしていたが収入が少かつたので転業を企図し、会社代表者にその事情を打ち明け話し合いの上会社に入社することとなつたことおよび会社代表者は同人ら家族を従業員寮に居住させ同寮の管理を依頼し給料の外に管理手当を支給していたことが疎明される。右事実によれば会社は申請人の経験・人となりを熟知して採用したのであり、同人をことさら嫌悪していたとは考えられない、しかも会社の解雇事由およびそれが充分肯首しうるものであること前記(一)のとおりであるところ、前掲乙第一四号証被申請人代表者本人尋問の結果により疎明される無断使用の発覚の経緯すなわち同年四月二六日夜会社代表者がかつての雇主であつた申請外菊池運送の主人方をたずね用談中会社車庫から何人かが会社の営業用自動車を運転して出て行くのを発見したので詰問すべく用談を一時中止してその後を追い杭全神社の境内で該自動車が駐車しているのを発見し鍵をとりはずし証拠保全をしたうえ運転者を探した結果それが偶々申請人であつたことにかんがみるとき本件懲戒解雇が会社代表者が組合活動家としての申請人をことさら嫌悪して排除するためになされたものとはいえず仮りにそれが申請外人であつても同じ結果になつていたろうことがうかがえる。そうだとすれば本件解雇の決定的原因が申請人の組合活動を嫌悪した会社が同人を排除するためであつたとする申請人の主張は理由がない。

(三)  最後に本件懲戒解雇は申請人の思想信条による差別待遇であるとの主張について判断すると、本件懲戒解雇の発端となつたのが申請人が会社の営業用自動車を運転して平野小学校で開かれていた日本共産党の演説会を聴きに行つたことにあることは前記(一)疎明のとおりであり、右事実からすれば同人が日本共産党の考え方に同調ないし賛同する考え方を持つているであろうということは想像されなくはないが、前記疎明のあつた本件解雇理由、申請人の会社入社経過及びその処遇、車輛無断使用の発覚の経緯に徴するとき同人の思想信条が本件解雇の決定的原因となつたとはとうてい考えられない、この点の申請人の主張も又理由がない。

三、以上の判示に従えば申請人に対する本件解雇は就業規則に基づくものであり不当労働行為および思想信条による差別取扱にあるものであるとはいえないから有効でありその無効を前提とする本件仮処分申請は結局被保全権利の存在につき疎明なきに帰しかつ保証をもつて右疎明に代えることは適当でないので右申請は失当として却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高林克巳 小北陽三 近藤寿夫)

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