大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)1112号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、原告が、従来より、肩書地において旅館業(「有楽」)を営んでいたものであること、被告芝田が、昭和一八年頃、会社員として大阪市西区信濃橋所在の勤務先三階に居住していたが、妻子のある身であつて、現に肩書地でともに生活していること、同被告が、昭和三三年ならびに昭和三七年の二回にわたり、いずれも河内長野市々会議員に当選したこと、原告がその主張第二項3のとおり調停の申立をしたが、不成立となつたこと、原告が、昭和四〇年二月二日から同年八月二一日までの間に被告西山方を九回程訪れたこと、被告西山が祈祷を業とするものであることはいずれも当事者間に争がない。
二、まず、原告の被告芝田に対する内縁関係解消による慰藉料請求について考えてみる。
<証拠>によれば、原告(明治三三年生れ)は、かつて内縁の夫との間に一子をもうけたが二六才位の頃、同人らと別れて一人で生活していたところ、昭和一八年頃、たまたま原告方旅館に宿泊した被告芝田と懇意となり、その後、しばしば同被告が原告方に宿泊を重ねるうち、原告と被告芝田との間で情交をもつようになつた。被告芝田は、その頃、別居中の妻があつたが、原告には妻とは既に死別したと話していたため、原告は同被告と共同生活を営む積りでこれを迎えいれていたが、被告芝田は、昭和二〇年三月頃、空襲で大阪市内より焼出され、河内長野市内に帰つて妻子と共同生活をするようになり、昭和二一、二年頃には原告も右の事実を知るに至つた。原告は同被告にその非を責めたが、結局、その後も従来どおり同被告を迎えて関係を続け、同被告も大半の日を原告方ですごすような有様であつた。被告芝田は、昭和三三年と昭和三七年にいずれも河内長野市々会議員選挙に立候補して選挙運動を行い、原告も旅館を応援弁士の宿舎に提供したり、食事の準備をするなどしてこれを援助した。ところが昭和三九年四月頃から被告芝田が被告西山を知り合い、同被告のもとに祈祷を受けるために通うようになつたところ、かねてから被告芝田の異性関係に不信をもつていた原告は被告芝田と同西山との間を疑うようになり、被告芝田を責め、または同被告に被告西山のことを悪くいつたりするようなことがあつて被告芝田が次第に原告を避けるようになり同被告から別れ話が持ち出され原告と同被告との間で互に口論し、原告と被告芝田との間は冷めたさを増していつた。昭和四〇年一月二二日、原告と被告芝田と電話で通話中、被告芝田は原告に対しお前のような女と付合つていると人格にかかわるから今夜限り別れると告げた。以上の事実を認めることができ、被告芝田本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できない。他に右認定に反する証拠はない。
三、以上認定事実によれば、原告は、当初、被告芝田と関係をもつに至つた頃は、被告芝田には配偶者がないものと考えていて、将来、夫婦としての共同生活を営む積りであつたところ、その後、被告芝田に配偶者のあることが分り、同被告の従前の処置を非難したものの、結局、その現状を是認しその立場に甘んじて同被告と関係を続けようとしたのであるから、その段階において、少くとも、原告はそれまでの同被告の処置を一応寛恕した上で、同被告の配偶者の存在を認識しながら、改めて、同被告との関係を継続したものであつて、一方、被告芝田と配偶者との関係は事実上の離婚状態にまで立至つていなかつたと見ることができる。一般に、男女関係の形態は種々であつて、法律上の夫婦ということのできるものの外にも、社会的事実として夫婦と同様の共同生活体を営みながらただ婚姻届を欠くために法律上の夫婦と認められないものいわゆる内縁といわれるものもあつてこのような関係の場合、これを不当に破棄した者に対しその責任を課し得る場合のあることは当然であるが、この場合と単なる妾関係または私通関係とは明らかに区別されるべきである。これを本件についてみるに原告と被告芝田との当初の関係においては原告は被告芝田に配偶者のあることを知らず、自らは夫婦として共同生活を営む積りであつたからその段階で被告芝田が不当に右関係を破棄したとすれば或いは同被告が何等かの形で責任を負うべきことも考えられないではないが、同被告に配偶者のあることが原告にも判明してから後においては原告の被告芝田との共同生活に対する認識も、当然、従前とは異つてきたであろうし、一方において被告芝田が依然として妻子とも共同生活を維持していたとの生活状態にかんがみるときは原告と被告芝田との関係はさきに記述した内縁というには当らないし、また、前記認定事実のもとにおいて被告芝田が原告との関係を解消したとしてもこれを不当として同被告に法律上の損害賠償の責を課するのは相当でないと解する。他に同被告に右解消をもつて不当となし、損害賠償責任を課するを相当と考えられるような事情を認め得る証拠はない。
(中村捷三)