大判例

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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)1467号 判決

原告

茨木交通株式会社

原告

曾根伊三男

右両名代理人

中坊公平

ほか一名

被告

竜宝堂製薬株式会社

右代理人

竹内知行

ほか一名

第一 主文

一、被告は、

原告茨木交通株式会社に対し五六六、三二九円、

原告曾根伊三男に対し七〇〇、六七七円、

および右各全員に対する昭和四一年三月二九日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決一項は、かりに執行することができる。

第二 原告の申立て

被告は原告会社に対し五六六、三二九円、原告曾根に対し七〇〇、六七七円、およびこれらに対する昭和四一年三月二九日(本訴状送達翌日)から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第三 争いのない事実

交通事故発生

とき 昭和四〇年九月二五日午後一〇時ごろ

ところ 大阪市大淀区豊崎西通り三丁目五番地新淀川橋上

事故車 (1) 被告所有のトヨエース自家用貨物四輪車(大阪四よ二四三一号、以下被告車という)

(2) 原告会社所有のセドリック中型乗用車(大阪五か三三号、以下原告車という)

運転者 (1) 訴外大木義郎

(2) 原告曾根

態様 両車が衝突し破損した。

第四 争点

(原告らの主張)

一、被告の責任原因

原告会社の損害につき民法七一五条一項、原告曾根の損害につき自賠法三条または民法七一五条一項。

(1) 民法七一五条一項

本件事故は訴外大木が無免許でしかも飲酒めいていの状態において被告車を運転中、前方注視義務および区分通行義務に違反し、とつぜん車体をセンターライン反対側に突入させた過失により発生した。

ところで、被告はその製品運搬のため日常被告車を使用しており、訴外島田利彦は被告の社員としてその職務上常時自動車の運転を行なつていた者であるが、本件事故当日業務に関し被告車を運転中、たまたまその友人である前記大木にこれを貸与した。当夜島田は大木らとともにビールを飲んでおり、大木が無免許であり飲酒めいていしていることはよく知つていたのであるから、大木に被告車の運転をゆだねるときは容易に事故が発生することをじゆうぶん予測できたにもかかわらず、あえて大木の運転を認めた点に車両保管上の過失があり、この過失により本件事故が発生した。

かりに、島田が大木に被告車を喝取されたものであるとしても、島田は被告車の保管に万全を尽くしたとはいえず、飲酒めいていした大木にこれを喝取されるにつき過失があつた。すなわち、島田が大木らに最初出会つたという吹田駅前には警察官派出所があり、また被告車を喝取されるまでに島田は一度被告会社の寮に帰つているのであるから、他からの救助を求めるべきであり、それは可能でもあつた。さらに、被告車のエンジンキーを渡す際にも、なんらの抵抗をしていないし、キーを手交後も警察に届け出るなどの処置をとつていないのみならず、喫茶「プリンス」内で大木の友人らと二時間近くも騒いでいたのである。島田が事前に断固たる処置をとつていさえすれば、被告車は喝取されなかつたはずであるし、本件事故にも至らなかつたことは明白であるから、島田が被告車を喝取されたのは同人の過失であり、右事故はこの過失に起因する。

そして、島田の以上の過失は業務執行に関し犯されたものというべきである。けだし、業務の執行とは行為の外形上会社の職務執行行為とみられれば足り、現実に職務中であつたか否かの内部関係に左右されるものではないからである。

(2) 自賠法三条

前述のように、大木は島田の了解のもとに一時被告車を借り受けて運転していたもので、短時間後には島田に返還する予定であつたから、被告車に対する一般的支配力が排除されておらず、したがつて被告においてなお運行供用者たる地位にとどまつていたというべきである。

二、原告らの損害

(1) 原告会社五六六、三二九円

原告車を修理しようとしたが、六〇一、八二〇円の多額の修理費を要し、かつそのため休業による損害が二六四、七五〇円にも及ぶので、これをスクラップとして売却し新車と買い替えた。原告車は昭和四〇年三月一六日八三八、五〇〇円で買い受けたものであるが、本件事故日までに約七か月使用していたので、その営業車としての法定償却率0.536を滅額した価格は五七六、三二九円となるところ、これより右スクラップ売却代一〇、〇〇〇〇円の利益を控除した差額が損害である。

(2) 原告曾根

(イ) 受傷部位・程度

左外傷性股関節脱臼、下顎部・前額部・両下肢挫傷の傷害を受け、昭和四〇年九月二五日から北野病院に入院し同年一一月二八日退院し、その後も通院して治療を受けた。その結果ほぼ正常にもどつたが、なお翌四一年一二月まで長途歩行などは避けなければならなかつた。

(ロ) 数額   合計 七〇〇、六七七円

(A) 入院治療費 九六、四一五円

(B) 入院中付添料 六六、〇八〇円

(C) 逸失利益 二三八、一八二円

原告会社にタクシー運転手として勤務し、本件事故当時一日平均一、八七五円四五銭の給与を受けていたが、昭和四〇年九月二六日から翌四一年一月三〇日まで一二七日間欠勤し、その間の給与を失つた。

(D) 慰謝料 三〇〇、〇〇〇円

以上すべての事実をしんしやくすべきである。

(被告の主張)

一、訴外島田利彦はもと被告の社員であつたが、運転手ではなく総務部総務課に所属しており、本件事故当夜被告の内部規定に違反して被告車を持ち出し、つり道具屋におもむいたところ、訴外大木およびその友人数名になんくせをつけられ、金員を喝取されたうえ被告車を奪われた。本件事故は大木が島田から奪つた被告車を運転中に発生したものであるから、被告は民法七一五条一項、自賠法三条による損害賠償義務を負わない。

二、訴外島田が大木に被告車を強奪あるいは喝取された事情はつぎのとおりである。

(1) 島田は本件事故当日(土曜日)勤務終了時の午後五時三〇分まで就業し、その住居たる会社内の寮に帰つたが翌日は日曜日で上司、同僚と魚つりに行く約束をしていたため、同日午後六時ごろ国鉄吹田駅前の広畑つり道具店に買物に行こうとした。被告は会社所有車の夜間使用私的使用を禁止していたのであるが、島田は会社内に被告車があるのを見て無断でこれを持ち出し、国鉄吹田駅前付近まで乗つて行つた。

(2) そして広畑つり道具店に入るべく駐車場所を求めて付近を見まわしていたところ、とつぜん二名のチンピラ風の男が「なんでおれに面を切つたか」となんくせをつけてきた。この二名のうち一名が本件事故を起こした大木であり、当時島田は一面識もなく氏名すら後日知つたものであるが、「車から降りてこい」とすごむのでこわくなつた島田が降りたところ、右二名は「人間的な誠意を示せ」「お前は何組か」などとすごんだので「すみません」とあやまつたが、大木は「ゴタゴタいわずにちよつとこい」と申し向け、島田の肩を抱え込んで約六〇〇メートル離れた工事中のうす暗い建築現場の奥に連行した。

(3) その場所で再び大木は「さつきのことはどうしてくれる」「お前も人間なら誠意を示せ」とすごんだので島田は幾度もあやまつたが、大木は「ゴチャゴチャいうな」とその場にあつた棒切れを取り上げ「コラお前が先におれを殴れ。そのあとおれがお前ひとりぐらい殺してもどういうことはないんだぞ」となおすごむので、島田はさらにあやまり「なんとか話合いで解決して欲しい」旨述べたところ、大木は「今金をいくら持つているか。会社へ行けばいくらあるか」と聞くので、島田において「今は五〇〇円しか持つていないが、会社へ帰れば二、三千円はある」と答えると、「とにかく連れのいるところへこい」といわれ、恐怖のあまり付近の交番も目に入らず被告車の駐車場所まで連行された。

(4) そこで大木ほか一名は被告車に乗り込み、島田を真ん中にはさみ大木が運転して被告会社寮付近まできたので、島田は「用があるから許してくれ」といつたところ、大木は車を止め「金を持つてこい」と申し向けた。島田は帰寮しどうしようかと思案したが、車を取られており金さえ渡せば車を返してもらえるし、このままではまた何をされるかもわからないと考え、二、〇〇〇円を持つて大木らのところへもどつた。

すると大木は「いくら持つてきたか」というので「二、〇〇〇円持つている」と答えたところ、「車に乗れ」と命じ再び島田は車に乗せられて阪急電車正雀駅前の喫茶店「プリンス」に連れて行かれた。

(5) 同店にはチンピラ風の男四、五名がいたが、皆大木の知合いらしくビールを注文しており、島田はこれらの者に囲まれ「飲め」といわれるままビール一杯を飲んだ。そうしているうちに、大木が島田に対し「ちよつとこい」といつて同人を同店洗面所に連れて行き、「金を出せ」と申し向けて二、〇〇〇円を喝取した。島田はこれで帰れると思いその旨述べたところ、大木は「今日は土曜日じやないか」といつて帰ることを許さなかつたので、島田はやむなくまた席に座つていると、午後九時三〇分ごろ大木と見知らぬ男が「車のキーを貸せ。すぐ帰つてくるから」というので、島田は「九時半には寮に帰らんといかん。車を貸すことはできない」と断わつたが、四、五名が島田を取り囲み激しく「車を貸せ」とすごむので、島田はこれ以上断わるとどのような危害を加えられるか知れないとこわくなり、ついに被告車のキーを大木に手渡した。そして大木らは車に乗りどこともなく出て行つた。

(6) 島田はしかたなく店外に出て車の帰るのを待つていたが、そこに大木の仲間四、五名が寄つてきて、うち一名が四、五〇センチメートルのさやに入つた刀をふろしきから出して見せ「こんなのもあるぞ」とすごむので、島田はこれはえらいことだ、彼らのいうことを聞かねば何をされるかもわからないと考え、だまつて外で車の帰りを待つているうちに本件事故の発生を知つた。

第五 証拠<略>

第六 争点に対する判断

一被告の責任原因

(1) 原告会社の損害について(民法七一五条一項)

<証拠>を総合すると、つぎの事実が認められる。

(イ) 訴外島田利彦(当時二二才)は被告会社総務部総務課に所属し労務関係の仕事を担当していたが、自動車の運転免許を持ち監督官庁との連絡などのため日ごろから自動車を運転していた。

(ロ) 本件事故当日(土曜日)午後五時三〇分ごろ、島田は社用で被告車を運転し社長宅まで行き用件をすませて帰社したが、翌日は日曜日で上司、同僚ららと魚つりに行く約束をしていたので、後刻被告車を運転してつり道具を買いに行くつもりでエンジンキーを点火装置に差し込んだまま会社内に駐車しておき、その旨車両保管責任者に伝え了解を得たうえ一たん社内の独身寮に帰つた。

(ハ) 島田は同日午後六時ごろ被告車を運転して国鉄吹田駅前の広畑つり道具店に向かい、同店付近で適当な駐車場所を求めてあたりを見まわしていたところ、一見不良青年風の大木義郎と田辺詔雄(いずれも当時二〇才前後)の二名から「なんでおれの面を切つたか」となんくせをつけられた。当時島田はこれら二名の者とは一面識もなかつたが、「車から降りてこい」と申し向けられるや「何や」と叫んで降車し、その場でしばらく口論をしているうちに、大木らから「場所が悪い。ちよつとこつちへこい」といわれ、両側からはさみつけられるようにして、裏通りにある工事現場の奥まで連行された。

(ニ) その場所で大木は「さつきのことはどうしてくれる」「お前も人間なら誠意を示せ」などとすごみ、その場にあつた長さ約六〇センチメートルの棒切れを取り上げ「コラお前が先におれを殴れ。おれが倒れなかつたら今度はおれがお前を殴り倒してやる」などと脅迫したので、あたりはすでにうす暗くなつているし二対一ではとうていかなわないと観念した島田において幾度もあやまつたが大木はこれを聞き入れず、ついに「仲直りに一杯飲みたいが金の都合できんか」と金員の提供方を要求するに至つた。島田はもしこの要求に応じないときはいかなる危害を加えられるか知れないと感じ、寮に帰れば二、三千円はある旨答えたところ、大木らは島田について寮まで行こうということになつた。

(ホ) そこで右三名は再び被告車の駐車場所にもどり、島田が運転すべく運転台に座ろうとしたが、大木はこれをさえぎり自分で運転するというので、島田において運転免許の有無を尋ねたところ大木は確答せず「毎日運転している」といいながら、島田を真ん中にはさみ被告車を運転して被告会社寮付近まできた。そこで大木は停車し島田に寮まで行つて金員を持つてくるよう命じたが、大木らの態度から判断してこのままでは被告車を奪われるかも知れないと感じた島田において、「とにかく車だけは返してくれ。あとから人間的な誠意とか話合いでなんとかしたい。車だけ返してもらつて会社に置いていくから」と被告車の返還方を哀願した。しかし大木は「この車で連れのところへ行くからお前金を持つてこい」となおも強要するので、島田はやむなく車内に大木らを残したまま帰寮し、どうすべきかあれこれ思案するうち、寮の管理人や警察に連絡をとり救助を求めることも頭に浮かんだが、そのようなことをすると後日大木らから何をされるかわからないし、他人に迷惑を及ぼすことなく自分だけでこの場を切り抜けたほうがよかろうと判断し、二、〇〇〇円を持つて大木らのところへもどつた。大木は島田が金員を持つてきたことを確かめたうえ、同人を再び被告車に乗せこれを運転して阪急電車正雀駅前の喫茶店「プリンス」に向かつた。

(ヘ) 三名が同店に到着したのは同日午後八時ごろであつたが、島田は被告車のエンジンキーを抜き去り大木らの案内で同店に入つた。店内には大木の知合いらしい不良青年風の男四、五名がいたが、島田はこれらの名前を紹介され恐怖はつのる一方であり、早く大木らから解放されたいと思いつつ、すすめられるままビールを飲んでいるうちに、大木から「ちよつとこい」といわれ、同店の洗面所に連行されたうえ金員の提供方を要求された。島田は大木らの言動により恐怖を覚えていたので、すなおに二、〇〇〇円を大木に交付し再び座席にもどつていると、午後九時三〇分ごろになり大木らから被告車の一時貸与方を申し入れられた。島田は門限時刻を告げ被告車の貸与を極力拒絶したけれども、四、五名の者が取り囲んで激しく「車を貸せ」と要求するので、島田はこれ以上断わるとどのような危害を加えられるか知れないと考え、ついに断わりきれず被告車のエンジンキーを大木に手渡した。大木はこれを受け取りすぐ帰つてくるからといい残し、仲間二名を乗せて被告車を運転し大阪市内に向かつた。

(ト) 島田はしかたなく店外に出たまま車の帰るのを待つていたが、そこに大木の仲間四、五名が寄つてきて店内に連れもどされ、そのうちの一名がふろしきに包んだ日本刀のようなものを示したりするので、相手のいうまま店内で車の帰りを待つているうちに本件事故の発生を知つた。

(チ) 大木は自動三輪車の運転免許を持つていたのみで、被告車を運転するのに必要な第一種普通自動車の運転免許を有しなかつたが、あえて飲酒のうえ被告車を運転し時速五〇ないし六〇キロメートルで南進中、前方注視を怠り右高速度のままジグザグ運転をしつつ中心線を大きく右に越えて対向車道上に進出した過失により、折りから対向北進してきた原告車を発見するもなんらの処置をとることができず、直進して激突するに至つた。

<反証省略>

以上認定の事実にもとづき判断すると、訴外島田は喫茶店「プリンス」において大木に対し被告車を任意に一時貸与したものではなく、大木ら不良グループの一連の脅迫的言動に恐怖を覚え意思の自由を相当程度制限された状態のもとに、これを一時奪われたものと認めるのが相当である。

とすると、訴外島田が大木に対し任意に被告車を貸与したことを前提とする原告会社の主張は、その余の点につき判断を加えるまでもなく理由がない。そこで進んで、訴外島田が被告車を奪われたことにつき自動車保管上の過失があり、この過失により本件事故が発生した以上被告は使用者責任を免れない旨の原告会社の主張の当否につき判断する。

まず、訴外島田は通常であれば勤務時間後は被告車のエンジンキーを会社の車両保管責任者に返還すべきであるのに、当日は後刻私用のためこれを利用するつもりであつたので、キーを点火装置に差し込んだまま会社に駐車しておき、その旨右責任者に伝え了解を得ていたわけであるから、右の事情を客観的に観察すると、右車両保管責任者は勤務時間後における被告車の管理を島田にゆだね、同人において右責任者に代わつてみずから職務として被告車を保管すべき義務を負担したものとみなされ、したがつて、もし島田が被告車保管上の過失により他人に損害を加えた場合は、右過失と損害の間に相当因果関係があるかぎり、被告が使用者として賠償義務を負うべきものといわなければならない。

つぎに、自動車の運転はきわめて危険度の高い行為であるから、その保管責任者としては、これを他人に無断で運転されたり奪われたりすることのないよう万全の注意を払うべきはもとより、みだりに他人に貸与すべきものでなく、貸与するときには相手方の運転免許の有無、運転技術の巧拙などをじゆうぶん調査し、未熟な無謀運転による事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのはいうまでもないことである。したがつて、本件の場合被告車の保管責任者たる訴外島田としては、運転免許の有無が明らかでなく、しかも不良青年グループに属する無謀な大木にこれを運転されることの危険性に思いをいたし、同人にその運転をさせないよう可能なかぎりの努力をなすべきであつたといわなければならないところ、大木らにつきまとわれている間は前記のように意思の自由を相当程度制限されていたと認められるのであるから、その間において島田が大木の被告車運転を妨げるに足る効果的な処置(警察への通報など)をとることは不可能であつたものというべきである。しかしながら、島田は喫茶店「プリンス」において被告車を奪われるに至るまでに、一時大木らの支配を脱し被告会社の寮に帰り意思の自由を回復しうる機会を得ているのであるから、このとき他の社員や寮の管理人に対し事情を打ち明け相談し、場合によつては警察に連絡することも可能であつたはずであり、島田がかような断固たる処置をとつていれば、大木らは被告会社付近に車を残して逃走したであろうと考えられるのである。しかるに、島田は後日の「お礼参り」を恐れ、だれにも相談することなく大木の要求どおり寮から金員を持ち出し、再び不良グループの支配下に入つたのであるから、島田には右の時点において被告車保管責任者としての前記注意義務を尽くさなかつた過失があるといわなければならない。

そして、本件の場合訴外島田に右過失がなかつたとするならば、すなわち同人において前記のような断固たる処置をとつていれば、ただちに被告車を会社に持ち帰ることができ後刻大木にこれを奪われることもなく、したがつて当然本件事故も発生しなかつたものと考えられるから、本件事故の発生と島田の右過失の間に条件的な因果関係を認めてさしつかえない。問題は島田が右の過失を犯す際に、その後大木に被告車を奪われ事故の発生に至るおそれのあることを予見できたかどうかにあるが、前認定のとおり、当時大木は島田の哀願にもかかわらず被告車を島田に渡そうとせず、かえつてこれを運転して仲間のところに行き島田に金員を提供させて仲直りの酒を飲む意思を表明しており、島田は大木の属する不良グループの根城に連行されたうえ飲酒などさせられることが明白であつたのであるから、夜おそくかかるグループの中に連れ込まれれば容易に抜け出すことができなくなるのはもとより、金員のほかに被告車までも奪われるおそれがあり、かつ被告車を奪われれば、きわめて無謀な不良グループの仲間が飲酒のうえ交通法規をまつたく無視した運転をして、第三者に対し損害を加えるような交通事故を起こすおそれのあることは、島田において相当の注意を払えば予見しえたものというべきである。してみると、島田の前記保管責任者としての過失と本件事故による原告会社の後記損害との間には相当因果関係があるものということができる。

以上の理由により、被告は本件事故による原告会社の後記損害につき民法七一五条一項により賠償義務を免れない。

(2) 原告曾根の損害について(民法七一五条一項)

被告車が被告の所有に属するものである以上、一般的・抽象的にその運行支配と利益は通常被告に帰属するものと解すべきであるが、前認定のように被告車が被告社員島田から大木により奪われた以上、たとえ短時間後に返還が予定されていたとしても、被告は右の奪われた時点において被告車に対する一般的・抽象的な運行支配と利益を失い、運行供用者たる地位を離脱したものと解するのが相当である。とすると、本件事故は被告が右運行供用者たる地位を離脱している間に発生したものというべきであるから、被告において右事故当時被告車を自己のため運行の用に供していたと認める余地はない。もつとも、前記のようにして訴外大木の無謀運転が被告社員島田の過失により可能になつたといえる以上、右運転中の人身事故につき被告が自賠法三条による賠償責任を負うべきであるとする見解もあるが、ドイツ道路交通法のように「自動車の(無断)利用が保有者の過失によつて可能ならしめられた場合には、保有者も利用者とともに損害賠償義務を負う」旨の明文の規定を欠くわが国自賠法のもとでは、右の見解は文理解釈上無理でありにわかに賛成しがたい。

そうである以上、被告は原告曾根の後記損害につき自賠法三条により賠償義務を負うべきである旨の同原告の主張は理由がないといういわなければならないが、前記(1)に説示したのと同様の理由により、被告は右原告の損害につき民法七一五条一項により賠償義務を免れないのである。

二原告らの損害

(1) 原告会社 五六六、三二九円

<証拠>を総合すると、原告車は昭和四〇年三月一六日八三五、〇〇〇円で購入された営業車であるが、本件事故当時の価格は五七六、三二九円であつたこと、事故のため大破し修理不能となつたので、スクラップとして一〇、〇〇〇円で売却せざるをえなかつたことが認められる。

(2) 原告曾根

(イ) 受傷部位・程度

<証拠>によると、左外傷性股関節脱臼の傷害を受け、約二か月間の入院治療をした結果ほぼ正常にもどつたが、昭和四一年一二月ごろまで長途の歩行などは避けなければならず、運転手としての職務遂行にもかなりの不自由を感じたことが認められる。

(ロ) 数額 合計七〇〇、六七七円

(A) 入院治療費(原告会社立替え)

九六、四一五円

(B) 入院中付添料(右同)

六六、〇八〇円

(以上<証拠略>)

(C) 逸失利益(原告会社立替え)

二三八、一八二円

原告曾根主張のとおり<証拠略>

(D) 慰謝料 三〇〇、〇〇〇円

以上すべての事実(とくに入院治療期間)をしんしやくした。

三結論

原告会社の本訴請求および原告曾根の民法七一五条一項にもとづく本訴請求は、いずれもすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。(谷水央)

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