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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2537号・昭41年(ワ)7037号 判決

原告 山崎松雄

<ほか八名>

原告九名訴訟代理人弁護士 阿部甚吉

同 太田忠義

同 滝井繁男

被告 大阪府

右代表者知事 左藤義詮

右訴訟代理人弁護士 道工隆三

同 中務嗣治郎

同 加地和

同 山村恒年

第一 主文

一、被告は、

原告山崎松雄に対し  八四〇、〇〇〇円

同 山崎信子に対し  六〇〇、〇〇〇円

同 山崎勝範に対し  三〇〇、〇〇〇円

同 季原キミヱに対し 三〇〇、〇〇〇円

同 南和子に対し   三〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四一年六月四日(原告勝範については昭和四二年一月一五日)から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、右原告中原告山崎勝範を除く四名のその余の各請求および原告山崎訓代、同山崎耕一、同山崎高平、同山崎繁彦の各請求を棄却する。

三、訴訟費用中、原告山崎松雄、同山崎信子、同山崎勝範、同季原キミヱ、同南和子と被告間に生じた分は被告の負担とし、その余の原告四名と被告間に生じた分は同原告四名の負担とする。

四、この判決一項は、かりに執行することができる。

第二 原告らの申立て

被告は、

原告松雄に対し 一、二九一、八〇〇円

同 信子に対し 一、〇〇〇、〇〇〇円

同 訓代に対し   一〇〇、〇〇〇円

同 耕一に対し   一〇〇、〇〇〇円

同 高平に対し   一〇〇、〇〇〇円

同 繁彦に対し   一〇〇、〇〇〇円

同 勝範に対し   三〇〇、〇〇〇円

同 キミヱに対し  五〇〇、〇〇〇円

同 和子に対し   五〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する本訴状送達日の翌日(昭和四一年六月四日、ただし勝範については昭和四二年一月一五日)から各支払いずみまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第三 争いのない事実

一、交通事故発生

とき  昭和四〇年一〇月六日午前一一時二〇分ごろ

ところ 大阪市北区浮田町二一番地先路上

事故車 自動二輪車(大け六〇八号)

運転者 訴外荒木廉好

死亡者 山崎ナツイ(当時六三才)

態様  亡ナツイが北から南に向けて横断歩行中、事故車が東から西に向け進行してきて接触し、ためにナツイはその場に転倒して脳挫傷、頭部皮下出血、右下腿挫傷の傷害を負い即日死亡した。

二、事故車の運行供用関係

訴外荒木は大阪府警交通機動警ら隊員であり、交通取締用特殊自動車(いわゆる白バイ)を運転し職務に従事中、本件事故を起こしたものである(以下事故車を被告車という)。

第四 争点

(原告らの主張)

一、被告の責任原因(自賠法三条、予備的に国賠法一条)

訴外荒木は、交差点附近の横断者の多い場所にさしかかったのであるから当然徐行すべきであるのに、これを怠り、かなりの高速でしかも前側方にじゅうぶん注意を払うことなく漫然進行した過失により、横断中被告車の接近に気づき立ちどまっていた亡ナツイに接触し、その衝撃により同女をはねとばしたものである。

二、原告らの損害

(1) 亡ナツイとの身分関係

原告松雄、同キミヱ、同和子は亡ナツイの実子、原告信子は亡ナツイの実子亡武雄(昭和三七年死亡)の妻、原告訓代、同耕一、同高平、同繁彦は亡武雄と原告信子間の実子で亡ナツイの孫、原告勝範は亡武雄と先妻シズ子間の実子で亡ナツイの孫にあたる。

(2) 数額

(イ) 原告松雄                 計一、二九二、八〇〇円

A 医療費    五一、五〇〇円

(争いがない)

B 葬祭費   一四一、三〇〇円

(右は一四〇、〇〇〇円の限度で争いがない)

C 慰謝料 一、〇〇〇、〇〇〇円

D 弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円

以上の内金一、二九一、八〇〇円を請求する。

(ロ) 原告信子(慰謝料)             一、〇〇〇、〇〇〇円

(ハ) 原告順代、同耕一、同高平、同繁彦(各慰謝料) 各一〇〇、〇〇〇円

(ニ) 原告勝範(慰謝料)               三〇〇、〇〇〇円

(ホ) 原告キミヱ、和子(各慰謝料)         各五〇〇、〇〇〇円

(3) 慰謝料発生の根拠

亡ナツイの一家は家族が力をあわせて山崎運送店を経営しており、経営名義人は原告信子であったが、先代からの家業の支柱として亡ナツイは不可欠の存在であった。同女はきわめて健康で、夫平助の死後は亡夫の個人的信用を事実の支えとし、みずから得意先との交渉、集金等にあたっており、当日も集金の帰途本件事故にあったものであって、家族内のことであるから労務の対価をえてはいなかったが、同女が運送店に対してもたらしていた利益は相当高額にのぼっていた。ただ、その利益額を正確に立証することは、ことがらの性質上困難であるので同女の逸失利益の賠償を請求しないだけのことである。したがって、この事情は当然慰謝料額の算定にあたり考慮されるべきである。

つぎに、原告松雄と同信子は、山崎運送店の関係者としてナツイの死亡により事業経営に大打撃をうけ、それにともない減収もし、その打開のために多くの労を余儀なくされたものであるから、この事情は慰謝料算定のうえで考慮されるべきである。

原告訓代、同耕一、同高平、同繁彦は亡ナツイの孫であるが、早く父親を失った孫達をふびんに思った亡ナツイは、ことのほか孫達をかわいがり、同人らも祖母になついていたのであるから、祖母を失った孫達の精神的苦痛は大きく、これはじゅうぶんに慰謝されるべきである。

また、原告勝範は同じく亡ナツイの孫であるが、親を失い亡ナツイがその後見人の地位にあったものであるから、まさしく親に代わるものを失ったのであって、その悲しみは大きく、これに対しじゅうぶんな慰謝料が支払われるべきである。

以上のような事情にあるのに、被告側は本件事故に対しなんらの責任も感じないかのごとく、亡ナツイの遺族を弔問するなどの慰謝の方法をなんら講じていないのみならず、本件事故があたかも亡ナツイの一方的過失にもとづくものであるかのごとく新聞記者に発表したため、そのような事実に反する記事が報ぜられ、遺族は大きな精神的打撃をこうむった。

(被告の主張)≪省略≫

第五 証拠

≪省略≫

第六 争点に対する判断

一、被告の責任原因(自賠法三条)

被告車の運転者訴外荒木に運転上の過失がなかったとは認められない。

二、原告らの損害

(1) 亡ナツイとの身分関係

原告ら主張のとおり認められる(原告松雄本人尋問の結果)。

(2) 数額

(イ) 原告松雄            計八九一、五〇〇円

A 医療費    五一、五〇〇円

(争いがない)

B 葬祭費   一四〇、〇〇〇円

(右同)

右をこえる額を認めるにたる証拠はない。

C 慰謝料   六〇〇、〇〇〇円

D 弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円

(原告松雄本人尋問の結果)

(ロ) 原告信子(慰謝料)        六〇〇、〇〇〇円

(ハ) 原告勝範(慰謝料)        三〇〇、〇〇〇円

(ニ) 原告キミヱ、同和子(各慰謝料) 各三〇〇、〇〇〇円

(3) 慰謝料算定の理由

原告松雄本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、つぎの事実が認められる。

(イ) 山崎運送店は、亡ナツイの夫平助がこれを創立したものであり、平助の死後は長男武雄が経営権を相続し妻信子名義で経営していたが、昭和三七年に武雄が死亡してからは原告松雄(既婚)が実質上の経営者となったこと。

(ロ) 亡ナツイは夫平助の生存中から山崎運送店の経営に協力してきたものであるが、事故当時六三才とはいえ健康であり、同運送店の得意先との交渉や集金等にあたり同店の経営上かなり重要な役割を果していたこと。

(ハ) 原告信子は夫武雄の死後も亡ナツイと同居し、もっぱら同家の家事を担当し、右運送店の経営は名義のみで実際には原告松雄と亡ナツイにまかせていたこと。

(ニ) 原告訓代、同耕一、同高平、同繁彦、同勝範はいずれも幼くして父武雄を失ったので、亡ナツイはこの孫達に愛情を注いでおり、ことに勝範に対しては、同人が実母とも別れていたこともあって、みずから後見人となり、実子同様に育てていたこと。

(ホ) 原告キミヱ、同和子は、事故当時すでに他家にとついでいたこと。

以上認定の事実によると、原告らはナツイの死亡により、程度の差はあるにしても、相当な精神的苦痛をうけたと推察される。

ところで、原告らのうちには、亡ナツイの子でない者六名が含まれており、これらに対しても、子と同様に慰謝料請求権を認めることができるかどうかは、民法七一一条の規定との関係上、一個の問題であるが、同条は死亡者と一定の身分関係がある者は当然に右の請求権が認められることを規定したにとどまり、それ以外の者の請求権を一般的に否定したものとは考えられず、同条に定める近親者以外の者でも、被害者と特別の関係がありその死亡により深甚な精神的苦痛をうけたことを立証すれば、民法七〇九条・七一〇条により、右精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができると解するのが相当である。

そこで、右解釈を前提として、原告らのうち亡ナツイの子でない原告六名につき、右請求権を認めることができるかどうかにつき判断する。

まず、原告勝範は、親権者がいないため亡ナツイがその後見人となり、実子同様の面倒をみており、同原告も亡ナツイを実母同様に慕っていたことがうかがわれるのであるから、同原告がナツイの死亡により親を失ったのとかわらぬ深甚な精神的苦痛をうけたことは容易に推認される。

また、原告信子は、夫武雄の死後も山崎家にとどまり亡ナツイとともに苦楽をともにしてきたものであり、同原告にとりナツイは経済的精神的支柱であったことがうかがわれ、同女の死後は従前のように山崎運送店の経営に無関心ではすまされず、経営上の苦労を余儀なくされるであろうし、また義弟らに対し肩身のせまい思いをすることもあながちないとはいえないから、同原告もナツイの死亡により深甚な精神的苦痛をうけたものと推認される。

しかし、原告訓代、同耕一、同高平、同繁彦には母信子がいるのであるから、同原告らがナツイの死亡により深甚な精神的苦痛をうけたとは認めがたい。

よって、亡ナツイの子でない原告六名のうち、原告勝範と同信子に対してはその精神的苦痛に対する慰謝料請求権を認めるべきであるけれども、その余の原告四名に対し右請求権を認めることはできない。

以上の理由により、前認定の事実その他本件証拠に現われた諸般の事情を勘案して、前記のとおり慰謝料を算定した。

三、亡ナツイの過失の有無≪省略≫

四、原告松雄に対する損害のてん補

医療費五一、五〇〇円(争いがない)

五、結論

被告は、本件事故による損害賠償金として、

原告松雄に対し  八四〇、〇〇〇円

同 信子に対し  六〇〇、〇〇〇円

同 勝範に対し  三〇〇、〇〇〇円

同 キミヱに対し 三〇〇、〇〇〇円

同 和子に対し  三〇〇、〇〇〇円

および右各金員に対する昭和四一年六月四日(原告勝範については昭和四二年一月一五日)から各支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならないけれども、その余の原告四名に対する賠償義務はない。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

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