大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)5842号 判決 1972年3月28日

原告 内外貿易株式会社

右訴訟代理人弁護士 岡部幸作

同 越智譲

同 佐古田英郎

右訴訟復代理人弁護士 村田哲夫

被告 川崎重工業株式会社

右訴訟代理人弁護士 山田弘之助

右訴訟復代理人弁護士 山田隆子

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

一、<省略>。

二、そこで本案について判断する。

被告が旧川崎航空機と原告主張のとおり合併してその登記を経由していること、訴外ウエーナー社が米国において法人格を有するものであること、一九六五年中および一九六六年一月中に本件オートバイにつき原告・訴外ウエーナー社および旧川崎航空機間で原告主張の台数・価格による取引がなされたこと、原告が一九六六年三月五日旧川崎航空機に対し原告の本件申入をし同年五月一六日旧川崎航空機が原告に対し本件回答をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によると、原告は輸出入業を営む会社であること、原告の代理人でその取締役の訴外豊田翁と訴外ウエーナー社の代理人でその共同経営者の一人である訴外伏屋哲郎と旧川崎航空機の輸出課長浜脇洋二とは、一九六五年六月一日米国イリノイ洲シカゴ市の訴外ウエーナー社の事務所において、暫定的契約あるいは試験的契約もしくは仮契約とも邦訳し得る表題を付した全文英文からなる契約書(甲一号証・乙二号証・ともに同文)を作成してその契約書記載の事項について合意したことを認めることができ、右契約書の記載によれば右浜脇は旧川崎航空機の輸出担当マネージヤーの肩書でこれを承認するとして署名捺印しており、この記載と<証拠>を綜合すると、右浜脇は右契約書に記載する事項について旧川崎航空機を代理して右合意をなす権限を有していたことが認められ、証言中には、右浜脇は旧川崎航空機の一課長であるから同航空機を代理する権限を有しなかったやに解せられる証言部分が存するけれども、右各証言中は勿論弁済の全趣旨によるも、右合意の法律的意味について被告の理解し本訴で主張する限度において右浜脇が同航空機を代理する権限を有していたことは共通してこれを肯認している態度が窺われるので、右認定を覆えすに足らないし、他にこれを左右するに足る証拠はない。

そうすると、右契約は米国イリノイ洲において米国において法人格を有する訴外ウエーナー社と日本国籍の会社である原告と旧川崎航空機との間で締結されたものであるから、これに適用すべき準拠法が問題となるところ、本訴は右契約中原告と旧川崎航空機との間に成立した合意につき旧川崎航空機の側に債務不履行があるとし、そうでないとしても信義則違反ないしわが日本の法令である独占禁止法に違反して不法行為を構成するから、その損害賠償を求めるものであり、右双方の間ではともにわが日本の法令にしたがって問題を処理することにつき暗黙の合意が存した点について当事者間に争いがないから、右の債務不履行については法例七条により不法行為については同一一条によりともにわが日本の法令が適用されるものである。

ところで、<証拠>によれば、右契約書においては、請求原因(1)の1ないし8に相当する事項のほか、原告はその輸出手数料として販売価格の二パーセントを上回らない限度で旧川崎航空機から支払を受ける旨、三当事者間で合意しない限りこの契約は満了失効しないが、その満了失効する場合には旧川崎航空機は原告または訴外ウエーナー社の保有する在庫品等を買取る旨の定めや、当事者の交渉が妥結しない場合はいつでも当事者がともに友好的な決定を下すと考える仲裁人の仲裁を受けることに同意する等の定めをなし、その末頃に別紙(一)のとおりの定めの存することが認められ、<証拠>を綜合すると、右契約書作成当時旧川崎航空機では原告および訴外ウエーナー社との本件オートバイの取引契約をどのようにすべきかについて種々検討中であり、そのような状況下で渡米した右浜脇と原告および訴外ウエーナー社の前示代理人らとの間でその契約条項の交渉が重ねられた末、別紙(一)の末文を除くその余の部分について三者合意の結論に達したが、その条項中には本件冒頭特約事項のように三当事者の一方のみでも同意しないと原告を介して訴外ウエーナー社をして米国の広汎な地域における独占的販売権を許容したままその部分的な改訂は勿論全部の解約もできないで一年毎に更新を余議なくされるやに解される条項を含んでいて、旧川崎航空機にとって重大な契約内容となっているので、同航空機の一課長である右浜脇一人の判断で右契約の締結に応ずることは同人の立場上困難であると判断した同人から、右契約の締結について一般的に同航空機を代表する権限を持つその上司の承諾が必要である旨を告げてこのことをその契約書中に記載すべきことを求め、右契約内容で直ちにその効力の発生を望む原告らとの交渉の末右承諾の日限を三〇日として合意に達したのが別紙(一)の末文であることを認めることができ、右末文の記載が右浜脇の上司に対する単なる儀礼的なものである旨の右豊田証人の証言部分は右認定に照らして信用できない。

右末文は英文としても不正確なものであるがその原文に比較的忠実な邦語釈としては、<証拠>を綜合して、「本契約は、日本東京駐在の旧川崎航空機の権限ある役員による解約を条件としないが、かかる役員の承諾を条件とし、その承諾があったときは契約の日付から三〇日以内に、すべての当事者に対し拘束力を生ずることが了解された。」とする文章が考えられ、右の原文は with in の前に on を入れて合意したものをミスタイプしたものである旨の証人豊田翁の証言(二回)部分は前示中二〇号証の該当部分と対照しても当裁判所の心証を惹かないし、右釈文中承諾による効力部分につき「その承諾があるとその日から三〇日以内にこの契約は関係当事者を拘束するものである。」と釈すべきであるとする右甲一三号証、証人笹森四郎の証言により成立の認められる甲二六号証は右笹森証人の証言によっても当裁判所の採らないところである。そして右釈文上からは、その契約として当事者を拘束すべき効力の発生が当事者の一方たる旧川崎航空機側の再度の意思表示にかかることすなわち停止条件的なものとして表現されているけれども、前示認定のようなその契約中その余の合意条項とこの末文を挿入するにいたった事情ことに直接その交渉にあたった訴外浜脇の右航空機側における地位に鑑みるときは、その実質は条件的なものではなくて右航空機側における右契約締結に関する代理権限の問題であることが明らかであるから、右の承諾は無権代理行為に対する追認そのものではないがこれに準じて理解すべきものである。かかる観点に立って右乙八ないし一〇号証によると右末文の意味は、「本契約は日本東京駐在の旧川崎航空機の権限ある役員の承認が契約締結の日から三〇日以内に得られたときは有効に成立するが、右承認が右期間内に得られなかった場合はその効力を生じない。」と解すべきものであり、これに反する前掲甲二六号証および証人笹森四郎の証言部分はたやすく採用できない。

したがって、右契約の効力は一に旧川崎航空機の東京駐在の権限ある役員の期間内における承認の有無にかかることとなるが、<証拠>によれば、右の権限ある役員とは当時同航空機の輸出担当取締役であった谷岡恭也のことであり、同人は右契約の締結日である一九六五年六月一日から三〇日以内は勿論その後も右承認をしていないことが認められ、他にこれに反する証拠はないから、右契約は右の承認を得ることを前提とする仮のものとしても、右期間の経過によりその効力を失ったものである。

原告は、右の承認の有無は単に旧川崎航空機の内部的手続を定めたもので右契約の効力を左右しないし、仮にそうでないとしても不承認の通告のない限り右期間の経過によりこれを承認したものとする定めであると解すべきであり、当時の川崎航空機は右契約が有効に成立したものとして原告らとその後の取引をしている旨主張するけれども、主張のように解すべきでないことは前示認定のとおりであり、<証拠>を綜合すると、原告は訴外ウエーナー社から本件オートバイの発註を受け一九六五年五月四日から翌一九六六年一月八日までに旧川崎航空機と取引を継続していることが認められるが、右五月四日の取引についてはその期日からして明らかに右契約と無関係であり、また本件オートバイの取引も一九六五年六月にほとんど集中しているが、前掲浜脇証人の証言により認められるところの原告および訴外ウエーナー社と旧川崎航空機間の本件オートバイの取引は右契約締結以前からケースバイケースの随時的取引をしていたことからすれば、他に特段の事由のない本件では右取引の継続をもって右契約にもとづくものとすることはできない。

ところで、原告はその主張する不法行為の一態様として被告がいわゆる独占禁止法二条七項、六条一項に触れる行為をした旨主張するけれども、該行為は同法二六条一項に定める審決がなされてそれが確定したときは同法二五条の訴として同法八五条により東京高等裁判所の管轄に属すべきものであるが、右の審決については原告においてその主張がなく弁論の全趣旨によればその存しないことが明らかであり、かつ原告は右のとおりこれを不法行為の一態様として主張しているので、右主張にもとづく請求は東京高等裁判所の管轄に属しないで、他の請求とともに当裁判所の管轄に属するものである。

そうすると、原告は、右契約の有効に成立しないことにより当然には本件オートバイの購入販売権を有しないのであるから、これあることを前提とする債務不履行の主張の生ずる余地はなく、同じようにして信義則違反による不法行為の主張の成立する余地のないものであり、またその主張のいわゆる独占禁止法二条七項三号、五号、六条一項に触れる行為をしたとの点は原告においてその立証がない。

三、よって、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富田善哉 裁判官 藤村忠了 渡辺雅文)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例