大判例

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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)6606号 判決

原告

中井時彦

<他一名>

右両名代理人

正森成二

徳永豪男

被告

浜口スヱミ

<他一名>

右両名代理人

浅野承治

第一 主 文

一、被告両名は、各自、原告両名に対し、各七五四、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年五月一五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告両名のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告両名の負担、その余を被告両名の負担とする。

四、この判決一項は、かりに執行することができる。

第二 原告両名の申立て

被告両名は、各自、原告両名に対し、各一、四五三、一〇三円およびこれに対する昭和四一年五月一五日(事故翌日)から支払いずみまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第三 原告両名の主張

一、交通事故発生<略>

二、被告両名の責任原因<略>

三、損害

(1) 原告両名の精神的損害 各八〇〇、〇〇〇円

死亡当時健康でありその行く末を楽しみにしていた最愛の子を失つたため原告両名の受けた精神的損害は測り知れないものがあるが、これを金銭に評価すると右の額を下らない。

(2) 亡紀美子の逸失利益 二、三〇六、二〇六円

(イ) 亡紀美子は発育良好で死亡直前まで元気であつたから、生きていれば二〇才から五五才まで働くことができた。

(ロ) 右二〇才から五五才までの同女の年平均収入は、昭和三七年度勤労者全国平均賃金現金給与額が三五三、四九六円であるから、右金額より少くない。しかるところ、全国都市勤労者世帯平均実支出総額(昭和三七年度)における一人分の平均額は多くとも一三〇、〇〇〇円であるから、同女は二〇才から五五才までの間に一年間純益二二〇、〇〇〇円以上を取得しえたはずである。

(ハ) 右の純益の死亡当時における総現価をホフマン法(年利五分の年ごと式)により中間利息を控除して算定した。

(ニ) 原告両名は右逸失利益の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した。

四、損害のてん補(自賠責保険金)一、〇〇〇、〇〇〇円

原告両名の賠償請求権に各五〇〇、〇〇〇円充当した。

五、本訴請求

各残額一、四五三、一〇三円およびこれに対する前記遅延損害金。

第四 被告両名の答弁<略>

第五 証 拠<略>

第六 当裁判所の判断

一、交通事故発生

<証拠>を、総合すると、つぎの事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

(1) 大阪市東淀川区三津屋南通り一丁目五六番地青葉幼稚園の南東角は、南北に通じる道路と東西に通じる道路の交差点に面している。

(2) 被告遠野は、昭和四一年五月一四日午前九時過ぎごろ、自動三輪貨物自動車(大六み一〇〇二号)を運転し、右交差点の東側道路から西に向け後退したうえ北に前進左折するにあたり、交差点の北西角(青葉幼稚園の南東角)附近を通過した。

(3) そのとき訴外福岡博之の運転する自動車が道路東側を南進してきたので、交差点北詰附近で両車がすれ違つたのであるが、福岡はそれより手前約二〇メートルの地点にさしかかつたとき、青葉幼稚園南東角の金網塀の前で遊んでいる中井紀美子を認めており、被告遠野の自動車とすれ違つた直後同女がその場に倒れているのを発見したので、被告遠野の自動車が同女をひいたものと直感し、ただちに同車のあとを追い停車を求めて同被告を詰問したところ、同被告は事故にまつたく気づかなかつたと答えた。

(4) 紀美子はただちに被告遠野の自動車で病院に収容されたがまもなく死亡した。死因は頭蓋底骨折と診断されたが、頭部左側に鶏卵大の陥没骨折状を呈する部分があり、左耳と鼻から多量の出血が認められ、左下肢にも傷がついていた。

(5) その後被告浜口は、原告らに対し葬式費用を支払い、示談の話をもちかけていたが、事故の翌月(六月)になつてから事故は被告遠野が起こしたものではないと主張しはじめた。

以上認定の事実をあわせ判断すると、被告遠野は三輪貨物自動車を運転して前記青葉幼稚園の南東角を左折北進するとき、同車の左側面を前記紀美子に接触させ、転倒した同女の身体左側を車輪でひいたものと推認するのが相当である。

二、被告両名の責任原因

(1) 被告浜口(自賠法三条)

前記事故車が被告浜口の保有であることは、当事者間に争いがない。

(2) 被告遠野(民法七〇九条)

<証拠>によると、同被告は亡紀美子の存在にまつたく気づかなかつたというのであるから、事故の態様が前認定のとおりである以上、被告遠野は前記交差点を左折するにあたり自車左側に対する注意を怠つた過失があるものと認めるべく、この過失が事故の原因となつたものといわなければならない。

三、損害

(1) 原告両名の精神的損害 各一、二〇〇、〇〇〇円

<証拠>によると、亡紀美子は昭和三九年三月一二日原告両名の間に生まれた二女で事故当時二才二ケ月であつたこと、原告両名の間には同女の姉(昭和三五年生)と兄(昭和三七年生)を含め三人の子供があつたこと、紀美子は健康で両親はその将来を楽しみにしていたことが認められるので、紀美子を不慮の交通事故により失つた原告両名の悲痛は測り知れないものがあるが、これを金銭に評価すると右の額が相当である。

(2) 亡紀美子の逸失利益(原告両名各二分の一相続) 一〇八、〇〇〇円

(イ) 以上認定の事情のほか、原告時彦が本件事故当時三四才で大阪機工株式会社のプレス工として稼働し生活程度は普通であつたこと(原告時彦本人尋問)や最近における進学ブームなどをあわせ考えると、亡紀美子が生存していれば、中学校から高等学校に進学し、高等学校を卒業ののちおそくとも二〇才までには就職し、同年令の女子平均賃金相当の収入を得、二五才ごろに結婚したであろうと推認される(なお最近における女子平均初婚年令がほぼ二五才であることは公知の事実である。)。

(ロ) ところで、一般に女子は結婚と前後して退職し(ちなみに、総理府統計局編昭和四〇年度日本統計年鑑四〇二ページによると、全産業の女子の平均勤続年数は三・八年の短期である)、主婦として家事労働に従事するのが通常であるから(最近では共かせぎ家庭も少なくはないが、いまだ一般的とは認めがたい)、特別の事情の認められない本件においては、亡紀美子の右稼働期間は結婚までと認めるのが相当である。

(ハ) そこで亡紀美子の逸失利益総現価(死亡時基準)をつぎのようにして算定した。

A 昭和四一年度における二〇才から二四才までの女子労働者の平均賃金は証拠上不明であるが、昭和三九年度のそれは年間約一九〇、〇〇〇円である(前記統計年鑑四〇四ページ)から、これを稼働一年後の二一才から二五才(死後一九年末から二三年末)まで五年間にわたり取得するものとする。

B その間の生活費は独身女子のつつましい性格からして、原告ら主張の年間一三〇、〇〇〇円をこえないと認められる。

C したがつて、年間純益を六〇、〇〇〇円として、二一才から二五才までの五年間に取得しうる総純益につき、年ごと式ライプニッツ法により年五分の中間利息を控除すると、左記算式のようになる。

(算式)

六〇、〇〇〇円×(一三・四八−一一・六八)=一〇八、〇〇〇円

中間利息控除につき付言するに、通常この種の計算に用いられるホフマン法は、貨幣資本が一定期間単利法で利殖されることを前提として、現在から一定期間後の貨幣資本額の現在価格(現価)を求める方法であるところ、現代においては各種の利殖方法が普及し、現実には複利の運用が行なわれているのであるから、長期間にわたる逸失利益現価の計算にホフマン法を採用すべき合理的な理由は見出せないし、あえてこれを用いると現価が異常に大きくなつて不合理をきたすのである。よつて、この種の計算には貨幣資本が複利法で利殖されることを前提とするライプニップ法を採用すべきものと考える。

(ニ) なお原告両名は、亡紀美子が主婦として家事労働に従事する間も逸失利益ありとして、その賠償を求める意思を明示してはいないが、念のためこの点につき当裁判所の見解を示しておく。一般に逸失利益と呼ばれるものは、被害者が有していた稼働能力の抽象的価値自体の喪失による損害ではなくして、被害者が稼働能力を喪失したために将来取得することができたはずの収入を喪失したことによる損害を意味するのであるから、家事労働の対価が支払われない以上、家事労働が不能となつたために喪失する収入は存在せず、したがつて逸失利益ありということはできない(もつとも、主婦の家事労働がなくなれば、当然家政婦その他の代替労働を必要とするが、そのために要する費用は、これを負担すべき者の受ける積極的損害として、賠償を求めるべきである)。

四、原告両名の損害賠償請求権 各一、二五四、〇〇〇円

(1) 固有分(精神的損害) 一、二〇〇、〇〇〇円

(2) 相続分(逸失利益) 五四、〇〇〇円

五、てん補(原告ら自認)

自賠責保険金一、〇〇〇、〇〇〇円を原告両名につき五〇〇、〇〇〇円ずつ(精神的損害に四七八、四六九円、逸失利益に、二一、五三一円)充当すると、原告両名の各請求権は精神的損害七二一、五三一円、逸失利益三二、四六九円の合計七五四、〇〇〇円残存することになる。

なお、原告両名は、右精神的損害について、明示的には各八〇〇、〇〇〇円の限度でしかその賠償を請求していないのであるが、その弁論の全趣旨から判断すると、亡紀美子の逸失利益が原告らの主張するところと異なつた認定をされる場合に備え、その主張額(二、三〇六、二〇六円)と認定額(一〇八、〇〇〇円)の差額の二分の一を前記各八〇〇、〇〇〇円に加えた各一、八九九、一〇三円の精神的損害の賠償を予備的に請求しているものと解することができるから、逸失利益認定額が右のとおりである以上、原告両名の各精神的損害を一、二〇〇、〇〇〇円と認定し、この額から前記四七八、四六九円を控除しその残額を認容しても、原告らに対しその申し立てない事項を帰せしめたことにはならないと考える。

六、結論

被告両名は、不真正連帯債務の関係で、原告両名に対し、各七五四、〇〇〇円およびこれに対する昭和四一年五月一五日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。(谷水 央)

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