大阪地方裁判所 昭和41年(行ウ)6号 判決 1967年3月28日
原告 北畑静子
被告 西成税務署長
訴訟代理人 川村俊雄 外四名
主文
原告の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、申立
(原告の求める裁判)
被告が、昭和四〇年七月一二日付で、原告の昭和三六年五月から昭和三七年一〇月まで、昭和三七年一二月から昭和三九年五月まで、昭和三九年八月から昭和四〇年一月までの各月分の物品税につき、別表一原処分、同裁決欄記載のごとくなした各決定(但し昭和三六年五月から昭和三七年三月までの各月分の物品税については賦課決定、以下同じ)および無申告加算税賦課決定ならびに昭和四〇年一一月二二日付で原告の昭和三七年一一月分、昭和三九年六月分、同年七月分の物品税につき別表一更正決定欄記載のごとくなした各更正決定および無申告加算税賦課決定はいずれもこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
(被告の求める裁判)
原告の本件訴のうち、昭和三七年一一月分、昭和三九年六月分、同年七月分の物品税更正決定および昭和三七年一一月分物品税無申告加算税賦課決定の取消しを求める部分はこれを却下する。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二、主張
(請求原因)
一、原告は古物商を営む者であるところ、昭和三六年五月から昭和四〇年一月までの各月間に、別表一原処分課税標準額欄(但し裁決、更正決定により変更のあつたものはその課税標準額欄)記載の課税標準額相当の貴石および貴金属製品等(別表一記載の各販売日当時施行の各物品税法((昭和三六年五月ないし昭和三七年三月当時施行の物品税法――以下旧物品税法という――および昭和三七年四月ないし昭和四〇年一月当時施行の物品税法――以下物品税法という――))所定の第一種の物品をさす以下同じ)を販売した。
二、しかるところ被告は昭和四〇年七月一二日付をもつて、原告に対し、昭和三六年五月から昭和四〇年一月までの各月分の貴石および貴金属製品等の販売にかかる物品税につき、その課税標準額および税額を別表一原処分課税標準額欄、同税額欄記載の各金額とする各決定および同無申告加算税につき、その税額を別表一原処分無申告加算税額欄記載の各金額とする各賦課決定をなし、そのころ原告に通知した。
三、そこで原告は、被告に対し、昭和四〇年七月一九日右各決定および賦課決定について異議の申立をしたところ、被告は同年八月二〇日これを棄却する旨の決定をなしたので、原告は同月二五日訴外大阪国税局長に対し審査請求をなしたところ、同局長は同年一一月一八日に、昭和三六年一一月分、昭和三八年五月分、同年一一月分、昭和三九年一二月分については、その物品税課税標準額および税額ならびに同無申告加算税額を別表一裁決欄記載の各金額とする裁決(いずれも原処分の一部を変更した裁決)をなし、その余の各月分については審査請求を棄却する旨の裁決をなし、そのころ原告に通知した。
四、尚又、被告は、昭和四〇年一一月二二日付をもつて、原告に対し、さきになされた物品税決定、同無申告加算税賦課決定のうち、昭和三七年一一月分、昭和三九年六月分、同年七月分につき、別表一更正決定欄記載の各金額とする各物品税更正決定、同無申告加算税賦課決定をなし、そのころ原告に通知した。
五、しかしながら、原告が別表一記載の期間内に販売した貴石および貴金属製品等はすべて古物営業法第一条第一項にいう古物(一度使用された物品もしくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入をしたものをいう。以下同じ)であつて物品税法、旧物品税法上の第一種の物品として過去において課税ずみであり、従つて右各物品税法所定の課税物品には含まれないから、右古物の小売に課税した被告の本件物品税決定、同更正決定、同無申告加算税賦課決定は法の解釈を誤つた違法な二重課税というべきである。その理由の詳細は以下のとおりである。
(一)、物品税はいわゆる消費税として奢侈品税的傾向を有する一方、いわゆる物件税たる性質をもつものであるから印紙税又は不動産取得税のような経済流通の事実を課税の対象とし取引の各段階において低率の課税を行う流通税とはその本質を異にするものであつて、物品販売のある一段階において一回課税しさえすれば、それでその目的を十分達成することができるものである。従つて物品税法および旧物品税法が第一種の物品については小売業者が小売をした際に課税する方法(以下小売課税という)をとり、第二種以下の物品については製造者が製造場から移出した際に課税する方法(以下移出課税という)をとつているけれどもその差異はあくまで徴税上の技術ないしは便宜によるもので、右両者について物品税としての本質を異にするものではない。
ところで移出課税の方法をとつている第二種以下の物品については、たとえその古物が何回かに亘つて販売された場合でも、これに対する課税が一回限りしか行なわれないことは明らかであるが、このことは、徴税方法を異にする第一種の物品についても同様でなければならないのであつて、第一種の物品に対する物品税と第二種以下の物品に対する物品税との間に本質的な差異がないとするかぎり、第一種の物品に対する物品税の課税も一回にかぎられなければならないというべきである。
しかるに、被告は物品税法第三条に規定する小売課税の趣旨を「小売課税の目的からすれば新たな課税原因の発生につき個個に課税する」ものと解して、物品税が本来消費税であり且つ物件税である性質を無視し、流通税ないしは取引税類似のものとし、本件の課税処分を行うに至つたもので、かような見解は物品税の本質を無視し、物品税法第三条の解決適用を不当に拡張したもので到底許さるべきではない。尚、被告の見解の違法なことは、もしこれを許すと、第一種の物品に対する物品税は第二種以下の物品に対する物品税とその本質を異にすることとなる点からも明白である。またもし被告の主張、すなわち、課税原因が発生すればその都度何回でも課税するとの見解を貫ぬけば、第二種の物品についても、その古物が販売されるたびに課税の対象とならなければならないにも拘らず、物品税法がこのような二重課税を予定していないことは条文上からも明白であり、被告の主張は失当である。
(二)、また物品税は昭和一二年八月一二日法律第六六号北支事件特別税法物品特別税の制定によつて創設されその後数回に亘る改正を経て現在にいたつたものである。しかしながら、右数回に亘る改正によつても、物品税の本質については何等の変更もなかつたのであつて、これらの改正はいずれも、課税対象、徴税方法、課税率の変更を中心としたものであつた。すなわち、物品税創設当時は現行法と同様、物品によつて小売課税と移出課税の二方法をとつていたのであるが、昭和二一年八月三〇日法律第一四号所得税法の一部を改正する等の法律によつて物品税の徴税の手続を簡素化し、課税の適正公平を期するため、書画および骨董を除きすべて小売課税制度から移出課税制度に改められ、右課税制度はその後七年に亘つて実施されてきた。しかして、昭和二八年五月三〇日法律第四一号物品税法の一部を改正する法律によつて、従来の第一種物品中、貴石、半貴石またはこれを用いた製品などの五品目(貴石、貴金属製品等はこれに含まれる)について徴税の合理化と課税の適正を期するため物品税創設当時と同様に小売課税制度にかえつたが、かような徴税制度は昭和三七年に改正された現行法にも踏襲されている。以上の沿革からみても明らかなとおり、小売課税制度をとるか移出課税制度をとるかはあくまでも徴税の合理化と課税の適正化を期するためのものであつて、これによつて物品税の本質に重大な差異(すなわち、移出課税の物品については課税は移出の際一回かぎりであるが、小売課税の物品については最初の小売のみに課税するだけではたらず、物品の小売がなされる都度課税されるという差異)を生ずるものではない。しかして第一種の物品についても昭和二一年の改正以来昭和二八年の改正に至るまでの間は移出課税物品として一回かぎりの課税が行われていたことは明白であり、右改正によつてもその本質には何等の変更も加えられていないのである。従つて課税ずみ物品たる古物については現行法においても第三条第一項にいう「課税物品に該当するもの」からは除外されるとみるのが当然である。
なお、昭和二八年法律第四一号の附則第四項および同法施行規則第七項の規定は第一種の物品について従前移出課税であつたものを小売課税方式に改めるに際し、改正時に小売販売業者が所持している課税ずみ物品について法改正後の小売については課税しない旨の当然のことを規定したものであるにすぎないから、右のごとき規定があるからといつて本件課税が適法となるものではない。
(三)、次に物品税法第三条第一項は第一種の物品の小売業者は、その小売をした第一種の物品(課税物品に該当するものに限る)につき、物品税を納める義務があると規定しているところから明らかなごとく、課税の対象となるものは小売業者が小売をした第一種の物品中課税物品に該当するものに限られるのである。しかるに古物についてはすでに物品税は課税ずみであつて、重ねてこれを課することは前叙のとおり許されないところであるから明文の規定が存在しなくとも古物は当然に物品税法第三条第一項の「課税物品に該当するもの」からは除外されるべきである。
しかるに被告は、物品税法は課税物品の用語を用いるにあたり、特に古物を除外するときは、その旨の特別規定をおいているので右のごとき特別の規定のないかぎり課税物品の中には古物も含まれると主張し、その根拠として物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条等を挙げている。しかしながら右各法条は被告主張のごとき内容を意味するものではない。すなわち、
(イ)、物品税法第一六条第一項は要するに第二種の物品の製造者が、その製造する第二種の課税物品の材料又は原料として第二種の課税物品を物品税法第一七条第一項、第一八条第一項の適用を受けないで受入れた場合で所定の条件を充足する場合には右製造者が課税物品を移出する際の課税税額から右材料又は原料として受入れた課税物品の課税税額を控除する(なんとなれば右控除をなさないと材料又は原料とされた課税物品については二重課税となる)ことを明らかにし、尚右材料又は原料にあたる課税物品が古物に該当する場合には右控除がなされない旨を明らかにしたものであつて、このことは右材料又は原料たる古物がすでに消費者の段階まで流通していることからみて当然のことを規定しているものである。
(ロ)、物品税法第二一条第一項は、第二種又は第三種の物品の製造者が、その製造にかかる第二種又は第三種の課税物品を製造場より輸出以外の目的で移出した後、これを輸出したときはすでに納付された又は納付されるべき物品税を還付するが、右課税物品が一旦消費者の手にわたつたことのある古物である場合には右物品税を還付しない旨の当然のことを規定しているものである。
(ハ)、物品税法第二四条は第二種の物品の製造者が、その製造にかかる第二二条第一項各号に掲げる第二種の課税物品を当該各号に掲げる者に対する販売(特殊用途に供するため免税となる)以外の目的で製造場より移出した後、右特殊用途に供された場合にはすでに納付された又は納付すべき物品税を還付するが、右課税物品が前同様古物である場合には右物品税を還付しない旨の当然のことを規定したものである。
以上明らかなごとく右の各条項は被告が主張するごとく古物が課税物品に含まれることを規定したものではない。このことは第一種の物品についても同様である。
(四)、さらに、物品税法施行令第五二条第四項の規定(課税物品の販売業者の記帳義務に関する規定)からみても古物が課税物品から除外されていることは明らかである。すなわち右規定は、第一に課税物品の販売業者に対し購入した課税物品および販売した課税物品につき、その種別、類別、号別ごとに品名、数量等に記帳義務を課し、第二に販売した課税物品が古物である場合および施行令第五二条第五項の規定に該当する場合を除き、課税物品の買受人が、課税物品の製造者もしくは販売業者または課税物品を材料もしくは原料とする他の物品の製造者である場合で、右課税物品の販売が小売に該当せず従つて課税対象とならない場合にかぎり、特に買受人の住所および氏名又は名称を記帳することを要求している。ところで第二の場合に買受人に関する事項の記帳を義務づけているのは右課税物品の売買が課税の対象とならず、従つてその後になされる右買受人による小売を適確に把握して課税する必要からである。そうすると古物の販売についても右買受人に関する記帳義務を要求しているのは前同様古物が課税物品から除外されているからに他ならないというべきである。
(五)、物品税法上、第一種第一類の物品(貴石、貴金属製品等もこれに含まれる)の税率は物品の価格の一〇〇分の二〇である。ところで第二および第三種の物品は移出課税であるため製造価格を基準として課税されるのに対し、第一種の物品は小売課税であるため製造価格に中間の販売業者の利益を加算した小売価格を基準として課税されるため、製造課税の税率と比較して消費者の税負担率は相当高いものとなる。ところで、流通税又は取引税として現存するものは、取引の各段階についてそれを課税の対象とする反面課税率は極めて低率である。はたしてしからば第一種の物品につき前述のごとき高率の税金を小売の都度課税することは現行税法体系上到底首肯することはできず、従つてその課税は一回にかぎられるべきであるからすでに課税ずみの古物は課税対象から除かれるべきである。
(本案前の抗弁)
原告の昭和三七年一一月分、昭和三九年六月分、同年七月分の物品税に対する被告の昭和四〇年七月一二日付決定および同日付昭和三七年一一月分無申告加算税賦課決定と同年一一月二二日付更正決定とは別個の行政処分であり、昭和四一年一二月五日の口頭弁論期日において右決定および賦課決定の取消を求める訴を取下げ、新たに更正決定の取消を求める訴を提起したのは訴の変更と解されるところ、後の更正決定の取消を求める訴の提起についてはすでに出訴期間を徒過しているものであるから却下を求める。
(本案に対する答弁)
一、請求原因一ないし四の事実は認める。同五の主張は争う。
二、物品税は財政学上一般に消費税とされている。そして消費税とは、消費の事実に対して課せられる税であり、消費税の容体は消費という事実であるといわれている。このように消費という事実をとらえ、これに税を課する理由は消費が所得の存在を前提とするため、そこに担税力が存在すると考えられるからである。換言すれば、消費という事実によつて消費者はそこに所得が存在することを表現しているので、この消費に示される担税力に応じて税を課そうとするのである。
右に述べたように、消費税は消費の事実をとらえ、そこに担税力があるものとして税を課するものであるから、その精神からすれば消費の最終段階に達するところ、すなわち、消費者の消費行為を直接に捕捉して課税する(直接消費税)のが最も本来の趣旨に合致したものということができる。しかし、このような直接消費税の方法による課税は少数の例外を除き課税技術上極めて困難なことに属し、殆ど不可能に近いところから、それ以前の段階において課税する間接消費税の方法が考案されるにいたつた。かようにして物品税は、間接消費税の体系に属する租税であり、消費者に税負担を転稼する建前をとつているもので、窮極的な担税者は物品の消費者というべきである。そして、この間接消費税の課税方法としては、たとえば、小売課税方式、移出課税方式、引取課税方式等種々の方式が考えられるが、消費税の本質からいえば、消費者の消費行為に接近した段階で課税する小売課税方式が最も理想的な課税方式であるといわなければならない。
物品税は右に述べたとおり、消費税の本質にもとづき個々の物品の消費に示される担税力に応じて課される間接消費税であり、主として奢侈品、娯楽用品、趣味観賞用品、社交的身廻用品、し好品、便益品的なものを課税物品とするものである。そして、その物品の性質に従い、その使用消費につながるものとしての小売、移出または引取の段階に課税の時期を求め、その当事者を納税義務者としている。小売課税物品と移出課税物品との選択については、一般には貴石、貴金属製品等の趣味、し好性が高く、使用による価値の減少が小さいものを小売課税物品とし、電気製品等の規格量産的で使用による価値の減少の大きいものを移出課税物品としており、課税標準については建前として、小売課税にあつては実売価格主義をとり、移出課税にあつては抽象価格主義をとつている。
三、(一)、物品税の本質はすでに述べたとおり、個々の物品の消費に示される担税力に応じて賦課される間接消費である。従つて、課税物品は、本来その使用の前後を問わず使用消費につながるものとしての小売、移出または引取の機会がありさえすればそれが何回繰反されようと、その都度課税されるのが当然であり、それによつていわゆる二重課税の問題が生ずる余地はないのである。
叙上のごとく物品税の本質は、課税物品の使用消費という事実を課税の客体とするものであるからその課税原因が発生すればその都度課税するのが当然である。
(二)、物品税は昭和一二年八月一二日法律第六六号を以て北支事件特別税法のうちの物品特別税の制定によつて創設され、その後数回にわたり別表二記載の通り改正された。その間第一種物品の課税方法は消費税の本質から消費者にもつとも近い時点である小売の段階で課税されていたが、第二次大戦以後における流通市場がいわゆる闇市場と化し、物品税の徴収が困難となつたため昭和二一年八月三〇日法律第一四号によつて従来右小売課税方式であつた第一種物品を書画、骨董を除き、すべて移出課税方式に改めたものであるが、その後経済状況が安定してきたので昭和二八年五月三〇日法律第四一号によつて移出課税方式をとることとした右物品について再び小売課税方式をとるよう改めたものである。以上のような経緯から明らかなように、これらの改正はいずれも経済状況に応じて課税方法を実情に即するよう改めたものであり、この改正は課税の時期を時宜に応じて適正に行うようにするものであつて、これによつて物品税の本質に何等の変更を生ぜしめるものではなかつたのである。つまり小売課税方式と移出課税方式とはたんに課税の時期の差異にすぎず、これによつて物品税の本質に差異を来すものではないのである。
なお、昭和二八年五月三〇日法律第四一号物品税法の一部を改正する法律附則第四項および同法施行規則(昭和二八年五月三〇日政令第一〇一号物品税法施行規則の一部を改正する政令)附則第七項によると、改正前に移出課税とされていた第一種第一号から第五号までの物品について販売業者が所持している旨の届出をした物品(以下申告物品という)については、その申告物品を同政令施行後最初に小売した場合にのみ、その物品税を免除するものとされているが、これらの規定から考えても法律が課税原因である小売が一つの物品について数回ありうるべきことを予想するとともに、その小売の都度物品税を課税すべきものとしていることは明らかというべきである。
(三)、物品税法第三条第一項に規定する課税物品が物品税法別表に掲げられた物品のうち同法第九条に規定された非課税物品を除くものを指称することは同法第二条の明規するところであつて、原告の主張する古物が課税物品から除外される旨の明文の規定は何ら存しないのである。のみならず、物品税法は課税物品の用語を用いるにあたり、特に古物を除外するときには、その旨の明文の規定をおいているのであつて、この点から考えると、同法は課税物品のうちに古物を包含することを当然の前提とするものであるといわなければならない(物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条等)。つまりたとえ古物であつても、それが法別表に掲げられた物品に該当するかぎりは、課税物品に該当することは物品税法の建前からして疑のないところといわざるをえない。物品税法第三条第一項のかつこ書の規定は、同法が課税物品について掲名主義をとつているため、条文の規定に第一種の物品とした場合、同法第九条に規定する非課税物品をも含むこととなるので、これを排除するために設けられた規定にすぎないのであつて、それ以上の意味をもつものではない。
(四)、尚又、物品税法施行令第五二条第四項において、販売業者が課税物品を製造者又は販売業者に販売し、従つて小売に該当しないため課税対象とならない場合に買受人に関する事項についての記帳義務を設けており、またこれと並んで、課税物品が古物である場合にも右と同様買受人に関する事項の記帳義務を要求しているからといつて、このことを根拠に古物が課税物品から除外されているということはできない。
(五)、物品税の税率は、その改正過程が示すごとく、その時代における経済状態、物品の流通市場における価値又は国家財政の問題等諸種の事情を考慮して決定されているもので、昭和二八年の改正によつて移出課税から小売課税に改められた際移出課税の際の税率(一〇〇分の一〇〇)では流通マージン部分だけ高過ぎるので移出課税の際の税負担と同程度とするよう改正(一〇〇分の二〇)されている。またいかなる物品にいかなる程度の税率の物品税を課するかということは前述のごとく専ら立法上の問題であつて、物品税が高率であることを理由に、一度課税された古物が常に課税物品から除外されるとすることは当らない。
第三、証拠<省略>
理由
(本案前の抗弁についての判断)
被告は、昭和四〇年一一月二二日付更正決定および無申告加算税賦課決定(昭和三七年一一月分、昭和三九年六月分、同年七月分の物品税に対する別表一更正決定欄記載のもの)の取消を求める訴は出訴期間を徒過してなされたものであるから不適法として却下すべきであるという。
本件記録によれば、原告は昭和三七年一一月分、昭和三九年六月分、同年七月分の物品税に対する被告の昭和四〇年七月一二日付決定および同日付昭和三七年一一月分の無申告加算税賦課決定の取消を求める訴を昭和四一年一月一九日所定の手続を経て適法に提起したが、右訴を同年一二月五日付書面に基づき同日の第八回口頭弁論期日において、右各月分の物品税に対する被告の昭和四〇年一一月二二日付更正決定および同日付昭和三七年一一月分の無申告加算税賦課決定の取消を求める訴に変更したことが明らかである。しかして、右訴の変更はいわゆる訴の交換的変更で旧訴の取下、新訴の提起とみられるところである。そうだとすると、民事訴訟法第二三五条により出訴期間が遵守されたか否かは右新訴の提起とみられる昭和四一年一二月五日を基準として決せられることとなる。従つてこの限りにおいては、右更正決定および無申告加税賦課決定のなされたことを原告が知つたと思料される昭和四〇年一一月二二日項からすでに三ケ月以上を経過した後に新訴が提起されたことになり、出訴期間を徒過した不適法な訴として却下を免れないようにも考えられる。
しかしながら税務訴訟については更に一考を要するものと考えられる。本来租税債務の確定は、納税義務者の申告もしくは課税庁のなす決定(もしくは賦課決定)、更正決定、再(再)更正決定等の処分によるものであつて、それらは実体上の法的根拠に基くことを前提として、その年度(物品税ではその月分)における全所得の実額(物品の全取引の実価額)を適確に把握することによつてなさるべき一連の手続である。だからして、その相前後してなされる処分の関係についていえば、後の処分は前の処分(例えば更正決定と再更正決定)をそのままとして脱漏(過少又は過大に)した部分だけを単に追加(又は削除)するというのではなく再調査によつて判明した結果に基づいて課税標準額等を決定するものであるから前の処分は後の処分の中に吸収化体されて自ら後の処分の中に埋没してその外形を消滅し、後の処分は前の処分を吸収して新たな処分としての姿を顕示したものであると考えられる(最高裁判所昭和三二年九月一九日判決参照)。それ故に、前の処分の取消の訴を後の処分の取消の訴に変更(形式的には旧訴の取下、新訴の提起)したとしてもその実質は同一の訴訟とみられ得るのである。
なお、取消原因たる処分の違法性の面からみれば、処分自身の固有の形式的瑕疵の点は別として、一般に処分の実体的の違法性が主張されている場合は、その多くは実体上の法的根拠の欠陥、当該年度(当該月分)における全所得の実額(物品の全取引の実価額)の認定(把握された実額に相違がありとする)の違法性の確定を目的として訴が提起せられているのであつて、この点が解決しない限り前の処分を吸収した後の処分もまた同一の違法性を包含するものでその同一の違法性の確定が依然(訴の変更後においてもまた、日的として争われているわけで、訴の変更の前後において訴訟の対象には何等の消長を来すものではない。
さらに具体的審理の面からみれば、当該処分の法的根拠の解明をなすべきであるのは勿論当該処分の当時判明していた各個々の所得(物品の取引価額)――推計課税のときはその推計の基礎となるべき事実――を主張してその立証をなすばかりでなく、右処分当時判明していなかつた別個の所得(当時すでに存在はしていたが認識せられていなかつたにすぎない所得)を主張し、立証することによつて当該処分の適法性を主張立証することも可能であろうし、またこのようなことは許さるべきところであろう。当該処分以後において後の処分がなされたときは、前の処分当時以後に判明した所得(物品の取引価額)のみを主張し立証すれば後の処分の適法性を立証し得るというのではなく、それを含めての全所得(全取引価額)について主張し立証しなければ後の処分の適法性を維持することが出来ないのは当然である。それは税務訴訟にあつては常に、課税標準額ないし税額が具体的にいくらであるかということは主張立証上重大な意義があるとしても、根本的には、実体上の法的根拠、実所得額(実取引価額)の認定の違法性の確定が訴訟の対象であるからである。この違法性の確定が主張されている限り、この見地からみて、後の処分が前の処分よりその課税標準額ないし税額において増加(又は減少)したということは重大な意義を有するものではない。ただ訴訟において不明であるところの後の処分が訴訟上に顕現せられなければならないだけである。
以上に述べた諸見地からみて、前後の処分の関係が訴変更(旧訴取下、新訴提起)の方法によつて訴訟上に顕現せられたならば、旧訴、訴訟の実質は基本的には同一事実に対する処分の、同一の違法性の確定を目的とする訴訟であるからして最初に提起せられた旧訴について、前置手続(不服申立の)が履践され、出訴期間が遵守されている以上、変更後の訴について形式的には出訴期間経過後に訴の変更がなされても新訴については前置手続は履践されたと同一視され、その手続不要の場合にあたるとみて差支えはない(同一事実につき、同一理由による不服申立を再度なさしめるのは徒らに無駄な手続を繁雑化するのみで実益はない。このことは行政処分の取消訴訟について前置手続を要しないのが原則であることから考察しても明らかである)。また出訴期間は最初の訴の提起時を基準として遵守されているものとみなして何等差支えのないところである。このことは前記のごとき事件の同一性、確定を求められている違法性の同一性という実質基本的な観点からして、はじめて、行政事件訴訟法第一五条第三項(被告変更の場合の出訴期間遵守のみなし規定)、同法第二〇条(請求の追加的併合の場合の出訴期間遵守のみなし規定)、国税通則法第八七条第一項第三号(不服申立の前置手続等不要の場合の規定)の法の趣旨が理解され得るのであつて、前記のごとき場合にこれらの法条が類推適用されうるものと解するのが相当であるからである。要するに行政事件訴訟法第一五条においては、取消訴訟において原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤つたときは裁判所は原告の申立により決定をもつて被告を変更することができることとし、被告の変更が許容される場合は出訴期間の遵守については新たな被告に対する訴は最初に訴を提起した時に提起されたものとみなされることになつているが、当事者も訴の一要素であることを考慮すると理論上は被告の変更も亦訴の変更の一種と考えられなくはなく、被告の変更以外の訴の変更についても右と同様に考え得られること、さらにまた同法第二〇条においては、処分についての審査請求を棄却した裁決の取消の訴の係属中、これに処分の取消の訴を追加的に併合提起した場合、出訴期間の遵守については処分の取消の訴は裁決の取消の訴を提起した時に提起されたものとみなされるのである。また国税通則法第八七条第一項第三、第四号によると、更正決定等の取消を求める訴を提起した者が、その訴訟の係属している間に当該更正決定等に係る国税の課税標準等又は税額等についてされた他の更正決定等の取消を求めようとするとき(前同項第三号)、あるいは異議申立についての決定又は審査請求についての裁決を経ることにより生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき、その他その決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき(前同項第四号)は異議申立についての決定および審査請求についての裁決を経ることなく取消の訴を提起しうることとされているのである。
ところで本件について見るに、旧訴および斯訴はいずれも同一の事実(同一課税物品に対する物品税決定および更正決定ならびに無申告加算税賦課決定)に対する処分であつて、その主張する実体的違法性(実体上の法的根拠なし)も全く同一である。しかも旧訴については適法な前置手続を経、出訴期間も遵守されているのであるから、新訴の出訴期間については、前記の行政事件訴訟法第一五条、第二〇条の類推適用が認められてしかるべき場合であつて、出訴期間の関係においてはたとえ訴変更後の新訴の提起の時期が形式上出訴期間経過後であつても尚旧訴提起の時を基準とするのが相当である。そうだとすると、本件にあつては前記訴変更後の新訴は出訴期間遵守の点においては欠くるところがないといわなければならない。
尚又、訴変更後の新訴について前置手続がなされていないことは本件記録上明らかなところである。この点に関しても、前記のとおり事件の同一性、主張されている違法性の同一性の観点からして国税通則法第八七条第一項第三号の類推適用が認められてしかるべき場合であつて、不服申立の前置等の手続の履践の有無は訴提起の要件として問題とせられるべきではない。
よつて前記各月分の物品税に対する昭和四〇年一一月二二日付更正決定および無申告加算税賦課決定の取消を求める訴につき却下を求める被告の主張は理由がない。
(本案に対する判断)
一、請求原因一ないし四の事実は当事者間に争いのないところである。
二、請求原因五の事実中、原告がその主張期間内に販売した貴石および貴金属製品等がすべて古物営業法第一条第一項所定の古物であることは、成立に争いのない甲第七ないし、二四号証および弁論の全趣旨によつて認めることができる。原告は右貴石および貴金属製品等の古物税法もしくは旧物品税法上の課税物品に該当しない、すなわち第一種の物品に対する物品税の課税は一回にかぎられなければならないと主張するので以下この点について検討する。
(一)、物品税の本質は、消費税であること、その客体は消費という事実であり、そこに示された担税力に応じて課税されること、間接消費税の窮極的な担税者は物品の消費者であること、課税方法(時期)として物品の種類、性質、課税上の技術面から、小売課税方式、移出課税方式、引取課税方式等の方式があることなどは被告が答弁二において詳細に主張するところであつて、これらの点については当裁判所も被告と見解を同じくするものである。
(二)、しかして、消費税の本質からいえば消費者の消費行為に最も近接した段階で課税する小売課税方式が最も理想的な課税方式であるといわなければならないが本件の各販売日時当時施行の旧物品税法および物品税法では各物品の性質に従い、その使用消費につながるものとして、第一種物品(本件の各販売物品たる貴石、貴金属製品等の趣味、し好性が高く使用による価値の減少の小さいものがこれに含まれる)については小売業者による小売、第二、三種物品(一般に電気製品等の規格量産的で使用による価値の減少の大きいものがこれに含まれる)については製造者からの移出、さらに第一ないし第三種物品の保税地城からの引取の各段階に課税の時期を求め、その当事者を納税義務者としている。
ところで、物品税の立法の経過を見ると別表二記載のとおりである。それによると、まず昭和一二年八月一二日法律第六六号をもつて北支事件特別税法のうちの物品特別税の制定によつて創設され、その後数次に亘り改正されており、殊に昭和二一年八月三〇日法律第一四号によつて従来小売課税方式(別表二の(1)ないし(3)参照)であつた第一種の物品を書画、骨董を除きすべて移出課税とされたが昭和二八年五月三〇日法律第四一号によつて、移出課税方式をとることとした右物品についても再び小売課税方式をとるよう改められた。しかして右のような課税方式の変遷をみたのは第二次大戦後における流通市場がいわゆる闇市場と化し、小売課税方式では物品税の徴収が困難となつたために昭和二一年の改正によつて書画、骨董を除く第一種の物品を移出課税としたのであるし、その後、経済状況も逐次安定したので昭和二八年の改正によつて再び右物品につき小売課税方式をとるように改められたがためである。以上の経緯からも明らかなように右の改正はいずれもその時代の経済状況に応じて課税方式等を実情に即するように改めたにすぎないものであつて、右改正によつて物品税の本質に何等の変更を生ぜしめるものではなかつたのである。つまり、小売課税方式と移出課税方式とは単に課税の時期の差にすぎず、これによつて物品税の本質に差異を来すものではないといわなければならない。かくのごとく物品税関係法が数次の改正を経て本件の各物品販売日時当時施行の昭和二八年五月三〇日法律第四一号の改正法(旧物品税法)、昭和三七年三月三一日法律第四八号の物品税法となつてもその物品税の本質について何等かわるところはなかつたのである。従つてすでに述べた物品税の本質によれば課税物品の使用消費という事実を課税の客体とするものであり、個々の物品の消費に示される担税力に応じて賦課されるのであるから、その課税原因が発生すればその都度当然課税さるべきものである。従つて課税物品は本来その使用の前後を問わず使用消費につながるものとしての小売、移出または引取の機会がありさえすれば、それが何回繰返されようとその都度課税されるのが当然であり、それによつていわゆる二重課税の問題が生ずる余地はないのである。
原告は物品税の課税物品は当該物品については一段階において一回課税に限るというのであるが、本件の各物品販売日時当時施行の旧物品税法、物品税法には課税を一回に限る旨の根拠はない(後記(三)ないし(六)参照)。原告の右の見解は、移出課税方式をとる物品にあつては事実上、一回課税されるにすぎないということと、物品税なるものは本来、法律上二回以上課税さるべきではないということとを混同誤解するものであろう。前記のごとく本件の第一種の物品について昭和二一年八月三〇日法律第一四号は移出課税方式に改められているのでその限りにおいて第一種の物品についても課税原因に二度以上遭遇することは少ないであろうことはうかがい得られるところではあるが、だからといつて単にこのことを理由として小売課税方式に改正された後においても二度以上(新たな消費の事実に対し)課税さるべきではないと断定することはできない。このように断定するだけの法規上の根拠は旧物品税法、物品税法(小売課税方式)上において見出すことはできない。むしろ小売課税方式に改正された後にあつては物品税の本質から、使用消費につながるものとして小売の事実がありさえすれば課税原因あるものとして課税されることになるのは当然である。第一種の物品が消費者によつて購入され、再び流通過程にあらわれ、さらに第三者が購入(消費)すれば新たな消費の事実が発生するわけで課税原因に当るからこの新事実に課税されるのは旧物品税法、物品税法の規定上やむを得ないところである。
(三)、そこで物品税法、旧物品税法の古物に対する課税についての建前を考察してみると、物品税法第三条第一項において第一種の物品の小売業者はその小売をした当該第一種の物品が課税物品に該当する場合に物品税を納める義務を規定しており右にいう課税物品とは物品税法第二条に規定されているとおり、物品税法の別表に掲げられた物品のうち物品税法第九条の規定により物品税を課さないものとされる物品(物品税法施行令第六条、同別表第三および第四に掲げる物品)以外の物品をいうのであつて、右第三条第一項の「課税物品に該当するものに限る」との文言を原告が主張するように古物が課税物品から除外される旨を規定したものと解することは到底できない。却つて、物品税法は課税物品から特に古物を除外する場合には、その都度、特に古物を除外する旨を明示(物品税法第一六条第一項、第二一条第一項、第二四条等)しているのであるから、右のように課税物品から古物を除外する旨の文言がないかぎり、課税物品中には当然古物を含むものとして取扱つているものと解せざるを得ないのである。
のみならず、昭和二八年五月三〇日法律第四一号(物品税法の一部を改正する法律)によつて、昭和二一年八月三〇日法律第一四号施行以来移出課税であつた右改正法第一条第一項所定の第一種物品(但し書画、骨董のみは当時から小売課税)が小売課税に改められた際、右法律第四一号附則第四項および同法施行規則(昭和二八年五月三〇日政令第一〇一号物品税法施行規則の一部を改正する政令)附則第七項によつて改正前に移出課税とされていた右改正法第一条第一項所定の第一種第一号ないし第五号までの物品(本件の貴石および貴金属製品等はこれに含まれる)について販売業者が右物品を所持している旨の届出をした物品については右物品を右政令施行後最初に小売した場合のみ、その物品税を免除する旨を規定していることを考えると、旧物品税法も課税原因である小売が一物品について数回ありうべきことを予定して、その都度課税すべきことを要求していたものというべきである。
そうだとすると、第一種物品の消費につながる小売が行われた場合、当該第一種物品が古物であると否とを問わず、小売の都度課税されるべきであるといいうる。
(四)、尤も前述のごとく製造課税である第二、三種の物品につき数回にわたり消費が行われてもその性質上課税が概ね一回に限られるのに反し、小売課税である第一種の物品のみが小売の都度何度でも課税されることは不公平であるとの感を抱かしめないではない。しかしながら物品税の本質が消費税であり、従つて消費の存在するかぎりその都度課税されるべきことを考えるとむしろ移出課税である第二、三種の物品の課税が例外的に取扱われており徴税技術上課税の原因が多くの場合一回しか生じないので小売課税と比較して事実上有利に取扱われているように見られるにすぎない、しかし例外はあるにしても第一種の物品は貴石貴属製品等の趣味、し好性が高く使用による価値の減少小さいものが多く含まれ、第二、三種の物品は一般に電気製品等規格量産的で使用による価値の減少大きいものが含まれていること等の諸般の点を考察するとその課税方式の差異によつてその間に著しく課税上公平の観念に反するもとは考えられないところである。だからして移出課税の課税の事実上の一回、有利性を理由に小売課税の場合も最初の小売に、のみ一回課税が許されるとする原告の主張は到底これを容れることができないものである。
(五)、ところで、原告は、物品税法施行令第五二条第四項の規定(課税物品の販売業者の記帳義務に関する規定)は第一に課税物品の販売業者に対し購入した課税物品および販売した課税物品につき、その種別、類別、号別ごとに品名数量等の記帳義務を課し、第二に、(イ)課税物品の買受人が課税物品の製造者もしくは販売業者または課税物品を材料もしくは原料とする他の物品の製造業者である場合で右課税物品の販売が小売に該当せず、従つて課税対象とならない場合にかぎり特に買受人の住所および氏名又は名称を記帳することを要求しているのと並んで、(ロ)販売業者が古物を販売した場合にも買受人に関する事項の記帳義務を要求していことを考慮すると法律は古物が課税対象に含まれていないことを予定しているというべきであると主張する。
しかしながら右(イ)の場合の記帳義務は課税対象とならない課税物品を買受けた製造者もしくは販売業者等が右買受けた課税物品を新たに小売又は移出する場合に課税対象として課税する必要から定められたものといいうるけれども、(ロ)の販売業者に買受人に関する事項の記帳義務を要求していることをもつて、古物が課税物品から除外されることの根拠となしうるか否かは甚だ疑問である、すなわち、もし原告主張どおり古物が常に課税物品から除外されているとすると、課税の対象となることはないのであるから課税原因たる小売を捕捉する必要はなく、従つて買受人に関する事項を記帳する必要があるとは到底考えられない。従つて前記施行令第五二条第四項において前記(ロ)のごとき記帳義務を定めた理由は専ら古物営業法第一七条に定める古物商の記帳義務を右施行令によつて排除することのないようにするためであつて、このことは施行令第五二条第四項の文言自体によつても明らかであるといわねばならない、そうだとすると施行令第五二条第四項が、販売された課税物品が古物に該当する場合に買受人に関する事項の記帳を要求していることを根拠として物品税法が古物を課税物品から除外していると解することは到底できない。
(六)、また、原告は貴石および貴金属製品等に対する税率は一〇〇分の二〇という高率であり、かかる高率の税率を小売の都度課税することは違法であり許されないと主張するけれども、いかなる物品にいかなる程度の税率を課するかは専ら立法の問題というべきであつて、税率が高いことを理由に古物に対する課税が一回にかぎられるべきであるということは到底できない。
三、叙上のとおりであるとすると、原告の主張はいずれも理由がなく、第一種の課税物品には当然古物も含まれ課税の対象となるのであるから被告の本件課税処分は適法というべきである。
四、よつて、原告の本訴請求はいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 福井厚士)
(別表一、二、省略)