大判例

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大阪地方裁判所 昭和42年(わ)1893号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三三年五月ごろから手形割引、金銭貸付などを営業とする株式会社日証の営業外務員をしていたものであるが、かねて同会社の取引先である井平専太郎から委託を受けた手形金の取立、保管、取り立てた金員を資金とするあらたな手形の割引決済などのいわゆる継続切替の方法による手形の売買取引の一部について、ほしいままに同会社を通さず、被告人の計算においてこれを行つてきたうえ、右資金を他に流用したり、自己のため費消し、昭和四一年一二月ごろには、その累計が約七〇〇万円に達したため、右井平に対し、偽造手形を交付し、右資金の流用、費消の事実を糊塗してきたものであるが、右偽造手形の支払期日が到来したため、さらに手形を偽造して同人に交付しようと企て

第一、昭和四一年一一月二八日ごろ、大阪市住吉区長居町東七丁目三七番地の自宅において、行使の目的で、支払地大阪市、支払場所大阪商工信用金庫東成支店と記載してある約束手形用紙一枚の金額欄に「¥1,000,000」、支払期日欄に「42.4.25」と記入したうえ、ほしいままに、その振出人欄に「大阪市東成区東今里町一丁目五八番地」「松河敏宏」と刻したゴム印(昭和四二年押第八五二号の一五および一四)を押捺し、その名下に「松河敏宏」と刻した丸型印鑑(同押号の一六)を押捺し、もつて、松河敏宏振出名義の約束手形一通(同押号の一)を偽造し、さらに、ほしいままに、右手形の裏書人欄に「大阪市南区東清水町拾弐番地」「株式会社」「日証」「代表取締役」「高室修」と刻したゴム印(同押号の五ないし八および一二)を押捺し、その名下に「株式会社日証堂取締役社長印」と刻した丸型印鑑(同押号の九)を押捺して、同会社の裏書があつた旨虚偽の記入をし、翌二九日ごろ、同市福島区今開町一丁目一〇番地井平専太郎方において、同人に対し、右手形を真正に振出および裏書がなされたもののように装い交付して行使し<第二ないし第四の事実省略>

(詐欺の訴因について)

本件公訴事実中詐欺の訴因の要旨は、被告人は、井平専太郎から手形取引に関して預り保管中の資金をほしいままに費消したため、同人に対し、多額の損害賠償債務を負担していたものであるが、判示第一ないし第四の各偽造手形行使の日時、場所において、その都度、右井平をして、判示各手形を真正に成立したものと誤信させてこれを買取らせ、もつて、同人に支払うべき右損害賠償債務のうち各手形の額面相当金額の支払を免れて財産上不法の利益を得たというものである。

そこで、証拠を検討すると、被告人が判示各手形を偽造行使した直接の動機は、判示冒頭に認定したとおり、従前右井平に交付しておいた偽造手形の支払期日が到来したことによるものであるが、その意図は本件以前に偽造手形を交付したのと同様、右井平から委託を受けた手形取引および資金保管を株式会社日証を通さずに行つてきた事実および右資金を流用費消した事実を隠蔽し、同人から右資金の全部または一部の返還を請求される事態に立至るのを免れようとしたものであり、判示各手形の偽造、行使の結果、その都度、右井平をして、判示各手形の振出および裏書が真正に成立したものである旨誤信させ、よつて、その場で、判示第一の手形については一、九一九、五〇〇円、判示第三の手形については一、九〇八、三〇〇円、判示第四の手形については一、九二六、五〇〇円で割引くことおよびその各代金は右委託中の資金をもつて決済することを承諾させ、所期の目的を遂げていることが明らかである。したがつて、被告人は、右欺罔行為の結果として、右井平から預り保管中の金員の返還債務またはこれを流用、費消したことによる損害賠償債務のうち、すくなくとも右各割引代金相当額の履行について、右井平から猶予を得たのと同一の利益状態が生じたものとみることができる。しかしながら刑法二四六条二項の詐欺罪が成立するためには、単に欺罔行為の結果財産上の利益を得たというだけで足りず、その利益取得が被欺罔者の処分行為によるものであることを要すると解すべきであるところ、右井平としては、被告人に対し、判示各手形の割引およびその決済について承諾を与えたのは、株式会社日証と継続取引をする意思にもとづくものであり、その時点において、被告人または株式会社日証に対し、委託中の金員の返還を請求したことはなく、いわんや被告人に対し損害賠償を請求することなどは全く認識し得なかつてのであるから、右井平が右の承諾をしたからといつて、被告人の損害賠償債務について履行猶予等の処分行為をしたものと認めることはできない。ほかに、被告人が右井平の処分行為により「同人に支払うべき債務の支払を免れた」ものと認むべき証拠はない。

よつて、前記詐欺の訴因については、犯罪の証明がないことに帰するが、いわゆる科刑上一罪の一部であるので主文で無罪の言渡をしない。(伊沢行夫)

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