大判例

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大阪地方裁判所 昭和42年(わ)316号・昭42年(わ)12674号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(無罪の説明)

公訴事実は

被告人は昭和四二年七月一五日午前五時三〇分ごろ、大阪市大淀区中津浜通五丁目二五番地路上において犯罪捜査のため警ら中の大阪府大淀警察署勤務巡査松田弘貴から挙動不審者として職務質問を受け、もよりの警察官派出所まで同行を求められるや、突如その場を逃走し、右巡査がこれを追跡し約一五〇米離れた同区中津浜通五丁目三〇番地先路上で追いつきさらに職務質問しようとして近寄つた途端矢庭に同巡査の睾丸付近を足蹴にし、その両腕を掴んで組みつく等の暴行を加え、もつて同巡査の右職務の執行を妨害するとともに、同巡査に対し全治約三日間を要する右拇指表皮剥離症、会陰部挫傷の傷害を与えたものである。

というのである。

一、よつて証拠を検討するに<証拠>を総合すると次の事実が認められる。

昭和四二年七月一四日午後一一時半ごろ、大淀警察署巡査松田弘貴は大淀町中五丁目派出所において、当夜の相勤者である同署巡査山本正規(大淀北派出所詰)より判示認定の事件につき電話連絡を受けて大淀北派出所に到り、その後の情報とも併わせその犯人の人相着衣等が当時十三大橋の下に起居していた被告人に似ていると考え右山本巡査とともに翌一五日午前三時ごろから午前五時ごろまでの間二回程右十三大橋下附近に張り込みまたは管内を通常警らするなどしたが被告人を発見することができず午前五時一〇分ごろ警らを打ち切つたがなおも両巡査は互に別れて念のため警らしながらそれぞれ大淀北派出所へ向つた。

この途中午前五時一五分ごろ松田巡査は大淀区中津浜通五丁目二五番地先(当時の被告人の働き先附近)路上わきの石に腰を下ろしてうつむいている被告人を発見して、挙動不審者と認め、被告人に対し職務質問として住所、氏名、年令等を尋ねたが、明確な答えが得られなかつたのでさらに質問するため被告人に対し派出所への同行を求めたところ、被告人は何とかして逃げようと思いつつもしぶしぶ立ち上り二〇米程同道したが、この間、同巡査に小便をさせて欲しい旨を申し出たが、これを同巡査に拒絶されたまま、小便する場所を探すかのような恰好を装つて急に走り出した。

そこで松田巡査は被告人に対し「止まれ」「止まらなければ逮捕する」、「逃げると撃つぞ」などと呼びながらこれを追跡し約一五〇米先の同区中津浜通五丁目三〇番地先で塀にさえぎられて立ちどまつた被告人に追いつき、被告人の肩に手をかけたところ、被告人はふり向いて松田巡査の陰部を蹴り、さらに手をつかむなどして両者もみ合つたが松田巡査は近くのタクシー会社運転手らの助力を得て公務執行妨害の現行犯人として(ここにいう公務とは任意同行に応じさせようとすることを指すものと思われる)被告人を逮捕したが、同巡査は被告人の右暴行により公訴事実記載の傷害を負つたとの事実を認めることができ、被告人を追跡中の松田巡査の発言につき右認定に反する証人松田弘貴の供述は当時現場に居合わせた栗田栄次の供述と対比し措信できない。

二、そこで、松田巡査の職務執行の適否について考えるに、警察官職務執行法二条一、二項は強制力による停止もしくは同行を認める趣旨でないことはいうまでもない。なお同条二項によれば派出所へ同行することを求めることができるのはその場で質問することが本人に対して不利であり又は交通の妨害となると認められる場合に限られておるところ、本件において、松田巡査が被告人に対し同行を求めた時刻は夏の早朝であり、かつ、その場所には通行人も殆んどなかつたことが認められるから右要件に欠ける。もつとも、被告人は松田巡査から同行を求められたのに対し、明示の拒絶はしなかつたが、もとよりこれを承諾したものではなくまたこの承諾はいつでも撤回できるものである。したがつて被告人が逃げ出したのに対し「止まらなければ逮捕する」とか「逃げると撃つぞ」などと威嚇しながら約一五〇メートルも追尾し、もつて一種の強制力を行使して停止させようとし、かつ、追いつめられて立ち止つていた被告人の肩に手をかけた松田巡査の行為は前掲法条に基く警察官の職務行為としては著しくその範囲を逸脱しており違法な職務行為といわなければならないから、これに対し被告人が前記認定のような暴行を加えても公務執行妨害罪の成立する余地はない。

三、そして、被告人は自己に対するこのような現在する違法な職務執行に対し自己の身体、自由を防衛するため前記認定の行為に出たものと認められ、その程度方法も必要にして相当な範囲を超えたものとは認められないから被告人の右行為は正当防衛行為として傷害罪も成立しない。

そこで、これらの点につき刑事訴訟法三三六条に則り被告人に対し無罪の言渡をする。(下村幸雄 川上美明 二宮征治)

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