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大阪地方裁判所 昭和42年(わ)4085号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四二年一一月五日午後一時頃、大阪市生野区猪飼野西三丁目四九番地御幸森神社境内で上野花子(昭和二七年五月九日生、当一五年五月)から沢田家の所在を尋ねられ、同女を伴つて自宅である同区猪飼野中三丁目八番地御幸荘アパートの前付近まできた際、それまでの同女の言動から同女が精神薄弱児であることを察知するや、これに乗じて同女を姦淫しようと企て、右アパート一一八号室の自室に連れ込み、同所に於いて同女が精神薄弱により心神喪失状態であることに乗じ、同女を全裸にして布団の上に寝かせ馬乗りになつて姦淫しようとしたが酔つていたため陰茎が勃起せずその目的を遂げなかつたものである。

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、被告人には、本件当時、上野花子が精神薄弱により心神喪失の状態にあつたかどうかにつき明確な認識がなく、従つてそれに乗じて同女を姦淫しようとしたものとはいえないから、被告人の行為は罪とならない旨主張するのでこの点につき判断する。

二、まず同女が精神薄弱により心神喪失の状態にあつたか否かにつき検討するに、前記各証拠によれば、上野花子は昭和二七年五月九日生まれで本件当時まだ満一五年五月であり、当時大阪市立難波養護学校中学部第三学年に在学中であつたこと、同女の銀木ビネー式テストによる知能知数は四八で学力は小学校二年生程度であつたこと、性格は素直で一般常識的な面はかなり成長していたが、付和雷同しやすく善悪の区別のつかぬ事もあつたこと、既に初潮は経ていたけれども正常な性知識を持つていたとは認め難く、又本件の際トイレの扉を開いたまま用を足したことからしても性的羞恥心も又乏しかつたものと認められ、以上の事情を総合して考慮すれば、同女は本件当時、強度の精神薄弱(重症痴愚)の状態にあり、正常な判断力を有せず、性交について通常の社会生活上信頼され得る同意を与える能力を欠いていたものと考えられ、刑法一七八条にいう心身喪失の状態にあつたものと認められるのを相当とする。

三、次に、被告人が、被害者上野花子が精神薄弱により心身喪失の状態にあることにつき認識していたかどうかにつき判断する。

なるほど、被害者を一見しただけでは、同女が精神薄弱であることが分かるとは言えないことは、<証拠>から明らかである。又証人平沼は、被害者の年令を一七、八才と思い、同女が精神薄弱であることには気がついておらず、平沼に比べるとより長い時間被害者を観察した証人酒井も又、被害者の年令を一七才位と思い、ある程度時間が経つてから初めて同女が少し頭がおかしいのではないかとの疑いを持つたにとどまる。更に、上野花子の捜査官に対する供述調書には、被告人と被害者が初めて出会つた御幸森神社付近で、被告人が被害者を指して、「この子は脳がいかれているのとちがうか」と言つた旨記載されているけれども、被告人が被害者をちよつと見て二言三言、言葉をかわしたにすぎないその時点において、被告人がそういうことを言つたとは考え難く、右供述記載は信用できない。更に又、被告人が当時飲酒によりある程度酔つていたことも認められる。

以上の如き事情があるから、被告人は、当時被害者が心神喪失の状態にあるかどうかにつき明確な認識がなかつたという弁護人の主張にも相当の理由があることは認められる。

四、しかしながら、当裁判所が被害者を詳しく観察したところによると、被害者は一見老けて見えるところもあるが、よく見れば非常に幼い感じが残つており、又その精神状態については、予断の有無にかかわらず、ある程度同女と接触し、その言動を見聞きすれば十分認識できるとの心証を得た。証人平沼、同酒井は、被告人に比べると極く短い時間、それとも主として、興奮し泣いている状態の被害者を見、そのときの言葉を聞いたにとどまるものであるから、両証人の印象はその限度においてしか意味を持たないものである。一方被告人は、アパートの自室に至るまで一〇分足らずの間平静な状態の被害者と接触し、同女と言葉をかわしている。被告人の酔いの程度もさほどのものとは認め難い。ところで、被告人と被害者とは、これまで一面識もなく、同女は当時一五才五月の清純な少女であり、同女が被告人と肉体関係を結ぶことを同意するであろうとは、とうてい考えられない状況であつた。しかるに、上野花子の供述調書、証人酒井、同平沼、被告人の当公判廷における各供述を総合すると、被告人は被害者をアパートの自室に引き入れるやまもなく同女に指図してその衣服を脱がせて全裸にし、姦淫の行為に及ぼうとしているのである。とすれば、被告人は同女を自室に引き入れるころまでにはすでに、同女が精神薄弱により心神喪失の状態にあることにつき認識を持つに至つていたものと考える以外には、被告人の右行為は説明の仕様がない。よつて弁護人の前記主張は採用しない。(戸田勝 上野智 井垣康弘)

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