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大阪地方裁判所 昭和42年(レ)56号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕三、控訴人は、昭和一六年頃金五〇〇円の対価を支払つて、本件建物の賃借権を譲り受け、これに入居したが、当時家主が一般借家権の売買を認める慣行があつたので、控訴人は、その際将来賃借権の再譲渡、転貸を自由になしうる地位をえたと主張するのである。<証拠判断略>そして、ほかに、右主張のような慣行のあつたこと並びに控訴人がその主張のような地位を取得したものと認めるに足る証拠はない。よつて右主張は採用することはできない。

四、そこで、控訴人に本件賃貸借契約の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるか否かにつき判断する。

(一) まず、本件店舗部分の改造は、そのなされた面積が約三坪で、本件建物全体の面積の約五分の一に過ぎないことは前認定のとおりであり、<証拠>によれば、控訴人は、勝太郎が昭和二二年九月に本件建物を前所有者井辺慎三より買受ける以前から、既に本件建物を賃借していたものであつて、その賃借以来、本件建物の屋根、天井等の雨漏りの修理、板塀等の修理行為や、水洗便所設置等の改良行為を自己の費用でなしてきたこと、控訴人は、昭和三四年にその夫と死別してからは一人暮しで、その後は日雇仕事に出たり、保険の外交などをしたりして生活していたが、老令になるにつれてそれも思うにまかせず、前認定のとおり昭和三九年夏頃本件建物の二階部分を爾に、また、昭和四〇年五月頃本件店舗部分を城谷に、それぞれ転貸し、爾からの転貸料一か月金六、〇〇〇円、城谷からの転貸料一か月金六、〇〇〇円足らずの収入と、ほかに里からの援助によつて、その生計を維持していたところ、その後、昭和四一年二月頃爾との間で、また、昭和四四年夏頃城谷との間で、それぞれ転貸部分の明渡を受けて、各転貸を解消したこと、そのため、控訴人は、右各転貸料収入もなくなり、現在七二才の老令で、昭和四四年五月八日以降生活保護法による生活、住宅扶助を受けて、細々と生計を立てていることが認められる。

(二) しかしながら、一方、すでに認定したところから明らかなように、控訴人が従来その費用によつて本件建物の修繕や改良を行なつてきたとはいうものの、本件建物の賃料は一か月金一、九〇〇円にすぎず、控訴人が前記各転貸によつて得ていた転貸料の額に比し極めて低額であること、控訴人は現在ではすでに爾および城谷に対する各転貸関係を解消しているとはいうものの、その解消時期はいずれも本訴提起後のことで、特に、城谷の場合は当審に係属中のことであること、本件店舗部分の改造は、その規模、程度においてそれほど大ではなく本件建物の構造自体に変更をもたらしたものではないとはいうものの、これが原状回復は必ずしも容易ではないとうかがわれること、そして、<証拠>によれば控訴人の城谷に対する前記転貸およびこれに伴つてなされた前記改造は、特に事前に被控訴人石田喜三からその禁止の申入れがあつたのに、控訴人においてこれを無視してなされたものであることが認められる。

(三) なお、控訴人は、控訴人が本件建物に入居当時、将来自由に賃借権の再譲渡、転貸をなしうると考えていたとしても無理からぬところである旨主張するが、当時家主が一般に借家権の自由な譲渡を承認する慣行があつたとか控訴人が自由に右譲渡転貸をなし得る地位を得ていたとかの事実の認められないことは、前記三で認定したとおりであり、かつ、控訴人がそのように考えるのもやむを得ないとする事情の存在を認めるにたる証拠はない。また、控訴人は、本件建物に対する控訴人の使用形態と、本件建物の隣家(同じく被控訴人ら所有)に対するその賃借人の使用形態とはほとんど同一であるのに、被控訴人らがことさら控訴人のみを責めるのは片手落ちであつて権利の濫用である旨主張するが、本件建物の隣家の状況を撮影した写真であることに争いのない乙第一号証だけでは右事実を認めるに充分でなく、ほかに右主張にそう証拠はない。

(四) 叙上の諸事情を考え合わせると、本件転貸、改造は、たとえ右(一)の事情があるとはいえ、控訴人にとつて必ずしもやむを得ないものであつたということはできないのみならず、被控訴人らが当審において、控訴人の窮状を考慮し、本件建物のうち、控訴人がその生活をするに最少必要限度の部分である別紙目録(二)記載の部分を除外して、その余の部分の明渡のみを求めることにその請求を減縮した経緯をも考え合わせると、控訴人においていまだ本件賃貸借契約の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があると認めることはできない。従つて、この点に関する控訴人の主張は失当といわざるをえない。

五、かくして、結局、被控訴人らのなした前記契約解除の意思表示により、被控訴人らと控訴人との間の本件賃貸借契約は、少なくとも、被控訴人ら主張の、本件建物のうち別紙目録(二)記載の部分を除くその余の部分について、昭和四〇年五月二九日限り解除されたものというべきである。

(松田延雄 今枝孟 最上侃二)

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