大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)2074号 判決 1968年4月30日

原告

金忠和

ほか二名

被告

株式会社土吉建材店

ほか一名

主文

一、被告らは、各自原告金忠和に対し金四〇五、〇〇〇円、原告金重煥に対し金五二、八七五円、原告金君子に対し金六七、五〇〇円および右各金員に対する昭和四二年九月二〇日からそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、被告藤本政男は、原告金忠和に対し金四五、〇〇〇円、原告金重煥に対し金五八七五円原告金君子に対し金七、五〇〇〇円および右各金員に対する昭和四二年九月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告らのその余の請求を棄却する。

一、訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らのその余を被告らの負担とする。

一、この判決の第一、二項は原告らにおいて仮りに執行することができる。

一、但し、被告らにおいて、各自、原告金忠和に対し金三二〇、〇〇〇円、原告金重煥に対し金四〇、〇〇〇円、原告金君子に対し金六五、〇〇〇円の各担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告らの申立

被告らは、各自

原告金忠和に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、原告金重煥に対し金四〇四、五二〇円、原告金君子に対し金四五四、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四二年九月二〇日(本件訴状送達の日の翌日)からそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払えとの判決ならびに仮執行の宣言。

第二原告らの主張

一、本件事故発生

とき 昭和四一年三月九日午後二時四〇分ごろ

ところ 大阪市西淀川区姫島町三丁目六六番地先の南北に通ずる道路西側の空地および右道路上

事故車 三輪貨物自動車(大六ふ五八三〇号)

運転者 被告藤本

受傷者 原告忠和(当時三才)

態様 前記地点において方向転換すべく右空地より後退してきた事故車が、右道路上で前かがみになつて遊んでいた原告忠和に接触して同人をその場に転倒せしめ、その腰部に後車輪を乗りあげたため、同原告は後記の傷害を負つた。

二、責任原因

被告らは、各自左の理由により原告らに対し後記の損害賠償すべき義務がある。

(一)  被告会社

根拠 自賠法三条

該当事実 被告会社は事故車を所有しこれを自己のための運行の用に供していたものである。

(二)  被告藤本

根拠 民法七〇九条

該当事実 被告藤本には、事故車を後退させるに際し、後方の安全を充分確認しなかつた過失がある。

三、損害の発生

(一)  受傷

原告忠和

(1) 傷害の内容

骨盤骨折、後部尿道完全断裂

(2) 治療および期間(昭和・年・月・日)

(イ) 自四一・三・九―至・・・・二四

淀川勤労者厚生協会西淀病院へ入院、手術をうけた。

(ロ) 自四一・三・二四―至・・四・一三

済生会中津病院への入院

(ハ) 自四一・四・一四―至・・五・四

右中津病院へ通院。

(ニ) 自四一・五・一八―至・・五・二九

阪大附属病院泌尿器科へ入院、内尿道切断の手術を受けた。

(ホ) 自四一・五・三〇―至・・一二・未

右阪大病院へ通院

(3) 後遺症

尿道狭窄の発生するおそれがある。

(二)  療養関係費

原告忠和の前記傷害の治療のために同原告の父である原告重煥が支出した費用は左のとおり。

(1) 入院雑費 計三九、二七〇円

内訳

雑誌、絵本玩具等 一二、五二〇円

栄養食代 一一、八〇〇円

見舞客用の茶代 二、七五〇円

衣類 二、二〇〇円

医師、看護婦への謝礼 一〇、〇〇〇円

(2) 通院交通費 計五、七五〇円

内訳

西淀病院へのバス料金 六三〇円

一往復九〇円、七回分。

済生会中津病院へのバス料金 六〇〇円

一往復五〇円、一二回分。

同病院へのタクシー料金 八四〇円

一往復四二〇円、二回分

阪大附属病院へのバス料金 二、二四〇円

一往復八〇円、二八回分

同病院へのタクシー料金 一、四四〇円

一往復二四〇円、六回分

(三)  逸失利益

原告忠和の父母である原告重煥、同君子らは、本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

(A) 原告重煥

(1) 職業

工員、三栄鍛工場こと名知静子方勤務。

(2) 収入

日給二、〇〇〇円、残業手当、一時間当り二〇〇円。

(3) 休業期間

原告忠和の入院治療中、附添のため計四八日間欠勤し計六七時間三〇分間の残業をなし得なかつた。

(4) 逸失利益額 計一〇九、五〇〇円

二、〇〇〇円×四八=九六、〇〇〇円

二〇〇円×六七・五=一三、五〇〇円

(B) 原告君子

(1)  職業

お好み焼屋営業

(2)  収入

純収益月額三四、〇〇〇円

(3)  休業期間

昭和四一年三月九日から同年九月九日まで原告忠和の附添看護などのため休業。

(4)  逸失利益額 二〇四、〇〇〇円

三四、〇〇〇円×六=二〇四、〇〇〇円

(四) 精神的損害(慰謝料)

原告忠和 一、〇〇〇、〇〇〇円

原告重煥 二五〇、〇〇〇円

原告君子 二五〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 原告忠和は、三才の幼少の身でありながら本件受傷のため再三手術をうけ、尿道にカテーテルを挿入するなどして多大の苦痛をうけた。

(2) のみならず、一応治癒した後も尿道狭窄の症状があり、ごく自然な生理現象である筈の排尿にも苦痛を伴う状態であり今後なお一〇年間の経過観察を要する。

(3) 右の如き苦痛と精神的打撃は性格形成期の原告忠和に対し重大な悪影響と障害を与えたことは明らかである。

(4) 原告重煥同君子らが幼少の愛児を傷つけられたことにより受けた苦痛と心労は多大であり、家庭生活上も甚大な影響をうけた。

三、損益相殺について

被告会社主張のとおり一一、〇五三円の支払を受けたことは認めるが、原告重煥が本訴において請求するのは右以外の損害金である。すなわち、右金員の内金七一一五円は原告が西淀病院へ入院中の諸雑費と交通費のうち領収証を入手できたタクシー代の分だけであり、金三、九三八円は済生会中津病院へ入通院中の諸雑費のほか領収証を入手したタクシー代の分だけである。よつて、本訴において請求する損害については支払を受けていないものである。

第三被告会社の主張

一、本件事故発生

認。

二、責任原因

認。

三、過失相殺

本件事故現場は、交通の頻繁な場所であるから、かかる場所に僅か三才の幼児である原告忠和を一人で放置しておいた原告重煥、同君子両名に監護義務者としての過失があるから、これを原告側の過失として損害額の算定につき斟酌すべきである。

四、損益相殺

被告会社は、原告重煥に対し、雑費、交通費等として昭和四一年三月二三日に金七、一一五円、同年五月一七日に金三、九三八円合計一一、〇五三円を支払つたからこれを原告重煥が請求する雑費、交通費より控除すべきである。

第四証拠 〔略〕

第五当裁判所の判断

一、本件事故発生

原告主張のとおり(但し、被告会社との間では争いがない)。

(〔証拠略〕)

二、責任原因

被告らは、左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

(一)  被告会社

根拠 自賠法三条

該当事実 被告会社は、事故車を所有しこれを自己のための運行の用に供していた(争いがない)。

(二)  被告藤本

根拠 民法七〇九条

該当事実 被告藤本には、事故車を後退させるに際し、後方の安全を充分確認しなかつた過失がある。(証拠、前記一に同じ)

三、損害の発生

(一)  受傷

原告忠和

(1) 傷害の内容

原告ら主張のとおり。(〔証拠略〕)

(2) 治療および期間

原告ら主張のとおり。(証拠、前同)

(3) 後遺症

後遺症として尿道狭窄が考えられ、狭窄があれば外尿道切開の手術を要するが一〇年間の経過観察を要する。(証拠、前同)

(二)  療養関係費

原告忠和の前記傷害の治療のために同原告の父である原告重煥が支出した費用のうち、本件事故による損害と認むべきものは左のとおり。

(1) 入院雑費 計二九、〇〇〇円

内訳

雑誌、絵本、玩具等 五、〇〇〇円

右費用として約一〇、〇〇〇円を支出したものと認められるが、右玩具等は退院後も相当期間にわたり利用し得るものと考えられるので、右費用のうち、本件事故による損害として賠償を求め得べきものは金五、〇〇〇円と認めるのが相当。

栄養食代 一〇、〇〇〇円

原告重煥が支出した費用は右金額を下らぬものと認めるのが相当。

見舞客用の茶代 二、〇〇〇円

前同。

衣類(寝巻、タオル等) 二、〇〇〇円

前同。

医師、看護婦への謝礼 一〇、〇〇〇円

前同。(〔証拠略〕)

(2) 通院交通費 計五、七五〇円

原告重煥主張のとおり。但し原告忠和の入院中に両親である原告重煥、同君子らが病院へ通つた際の費用も含む。(証拠、前同)

(三)  逸失利益

原告忠和の父母である原告重煥、同君子らは本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

(A) 原告重煥

(1) 職業

原告重煥主張のとおり。(〔証拠略〕)

(2) 収入

原告重煥主張のとおり。(証拠、前同)

(3) 休業期間

〔証拠略〕によれば、原告重煥はその主張のとおり欠勤し残業し得なかつたものと認められるが、証人山本八重子の証言や被告会社代表者の供述および前示治療経過ことにその入院日数に照らすと、右欠勤等が全て原告忠和の看病等のためにやむを得なかつたものか否かは疑問であると言わざるを得ない。しかしながら、原告忠和の年令や前示の如く原告忠和は三個所の病院へ入院し、その間再度にわたり手術を受けていることを考慮すれば、前記欠勤日数および残業時間のうち本件事故と相当因果関係にあるものは、欠勤日数にして一〇日、残業時間にして二〇時間は下らなかつたものと認めるのが相当である。(〔証拠略〕)

(4) 逸失利益額 計二四、〇〇〇円

欠勤による日給喪失分 二〇、〇〇〇円

残業手当喪失分 四、〇〇〇円

(B) 原告君子

(1) 職業

お好み焼屋営業(〔証拠略〕)

(2) 収入

純収益一日一、〇〇〇円、一ケ月三〇、〇〇〇円を下らなかつたものと認めるのが相当。(証拠、前同)

(3) 休業期間

原告君子はその主張のとおり休業したものと認められるが、前示治療の経過に徴すれば、右休業期間のうち本件事故と相当因果のあるものは、阪大附属病院を退院した後で事故後三ケ月後にあたる同年六月八日ごろまでのうちの二・五ケ月間分と認めるのが相当である。(証拠、前同)

(4) 逸失利益額 七五、〇〇〇円

三〇、〇〇〇円×二・五=七五、〇〇〇円

(四)  精神的損害(慰謝料)

原告忠和 四五〇、〇〇〇円

原告重煥 不認容

原告君子 不認容

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 原告忠和の前示傷害の部位、程度およびその治療の経過。

(2) ことに、同原告は、再度にわたり手術を受けたがなお尿道狭窄の後遺症が生ずるおそれがあり今後一〇年位の経過観察が必要とされる状態にあること。

(3) なお、原告重煥同君子らが愛児の負傷により蒙つた精神的苦痛心労が必ずしも軽微なものでないことは容易に推認し得るが、いまだ原告忠和が死亡した場合にも比すべきものとは断定し難く、右原告ら固有の慰謝料請求は認容し難いものと言わざるを得ない(最判昭和四二年六月一三日例集二一巻六号一四四七頁参照)。但し、右原告らの如き近親者としても少なからざる精神的苦痛を蒙り家庭生活上も相当な影響を受けたであろうことは、原告忠和の慰謝料を算定するにつきこれを斟酌し得るものと解するのが相当であり、これを斟酌して前記慰謝料額を算定した。

四、過失相殺(但し、被告会社との関係においで)

原告らの側にも本件事故の発生につき左記の如き過失がある。

しかして、本件事故の態様、被告藤本の過失の内容等を考慮すれば過失相殺により原告らの前記損害賠償請求権の一〇分の一宛を減ずるのが相当である。

(1)  本件事故は、被告藤本が前出一の南北に通ずる道路の西側にある空地から事故車を後退させ、該道路の東側にある工場の通用門内に入ろうとしていた際に発生したものであるが、被告藤本は右後退に際し、その道路附近における人車の有無を充分に確認しなかつた。

(2)  原告忠和は、同所附近で遊んでいて後退してくる事故車の右後車輪の下になつたものであり、原告君子は、事故の少し前に自宅の前にいた原告忠和の姿が見えなくなつたのに気づき心にかけてはいたが、お好み焼の準備をしていたためそのままにしていた。

(3)  右事実によれば、原告君子にも当時三才の幼児を監護する者としての手落は免れないものと言うべく、これを原告側の過失として斟酌するのが相当である。(証拠、前出一に同じ)

五、損益相殺

被告会社がその主張の如く合計一一、〇五三円を支払つたことは原告らもこれを争わないところであるが、〔証拠略〕によれば、右金員の内七、一一五円は西淀病院入院中のタクシー代として支払われたものと認められるから右は本訴請求外の損害に対して支払われたものと言うべきである。また、残金三、九三八円についても、乙二号証の三の記載ことに同書証に記載されている金額と原告重煥が本訴において請求する雑費交通費の費目および数額を対比しかつ右被告会社代表者の供述および弁論の全趣旨に徴すると右は本訴請求外の損害に対して支払われたものと認めるのが相当である。よつて、これを本訴請求より控除すべきものとする被告会社の主張は採用し得ない。

第六結論

以上の事実によれば、被告藤本は、前出第五の三の損害金すなわち原告忠和に対し金四五〇、〇〇〇円、原告重煥に対し金五八、七五〇円、原告君子に対し金七五、〇〇〇円(但し、右各金員のうち後記被告会社においても支払うべき限度額については被告会社と不真正連帯の関係で)、被告会社は右損害金を前出第五の四の限度で過失相殺により減じた金額すなわち原告忠和に対し金四〇五、〇〇〇円、原告重煥に対し金五二、八七五円、原告君子に対し金六七、五〇〇円(但し、被告藤本と不真正連帯の関係で)および右各金員に対し昭和四二年九月二〇日(本件不法行為以後の日であり本件訴状送達の日の翌日)から被告両名がそれぞれ支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。

(裁判官 上野茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例