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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)2188号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕まず第一次請求について判断する。

一、原告は被告との間で昭和四二年一月六日本件売買契約を結んだこと、被告は原告に対し右同日金五、〇〇〇、〇〇〇円を交付したが同年四月一〇日を過ぎるも金一一、〇〇〇、〇〇〇円を交付しなかつたこと、原告は同年四月一九日付同月二〇日到達の書面で被告に対し、本件売買契約上の債務を履行する意思があれば同年四月二四日までにその旨を通知し、約定の手附金一六、〇〇〇、〇〇〇円のうち未だに支払いのない金一一、〇〇〇、〇〇〇円を支払われたい旨、もし右に応じなければ原告は被告に対し本件損害賠償予定額金一六、〇〇〇、〇〇〇円を受領することにより本件売買契約関係を清算終了させるべく、そのうち既交付分金五、〇〇〇、〇〇〇円は右予定額の支払いに充当するから残余の未交付分金一一、〇〇〇、〇〇〇円を支払われたい旨意思表示したことはいずれ当事者間に争いがない。

二、そこで原告主張の請求原因(1)の(ロ)についてみるに、

(一)、<証拠略>によれば、その本件売買契約書の用紙は不動産業者の組合が作成しその組合員の使用に供させているもので契約文言の主たる部分を不動文字で印刷しており、その第二条において「買主はこの契約の手附金として本日金〇〇円を売主に交付し売主は正にこれを受領した。」との不動文字中金額欄に金五、〇〇〇、〇〇〇円と記入され、右文言の下方空欄に「追加手附金として昭和四二年四月一〇日金一一、〇〇〇、〇〇〇円支払うこと」と手書されていて、前者の文言のほとんどが不動文字であることを考慮しても、なお右追加手附の文言の使用と前示契約締結日から三箇月後の期日をその支払日としていることは、単にこれが被告の都合のみによつたものとは断じがたいものがある。また<証拠略>によれば、原告が同年二月九日に他から本件代替宅地を買つた場合は取引額金五四、〇〇〇、〇〇〇円に対しその手附の額は金五、〇〇〇、〇〇〇円であり、同年六月一〇日本件不動産を他に売却した場合は取引額金七七、〇〇〇、〇〇〇円に対しその手附の額は金二、〇〇〇、〇〇〇円であることが認められ、高額の取引においてはその手附の額は全取引額の一割以下となることの珍しくないことが窺われ、これらの事実に加えて<証拠略>によると、本件売買契約締結にさきだつ同年一月五日において、原告はその手附の額を取引額の二割と希望し被告は金五、〇〇〇、〇〇〇円を主張して交渉した結果、原告代表者は被告が信用のおける人物であることを理由として被告の右主張にしたがつて同額の手附を翌日契約成立と同時に交付を受けることを内諾し、翌日、両者の間で表示のとおり本件売買契約を締結し、その手附として、被告は持参した金五、〇〇〇、〇〇〇円の小切手を原告側に交付したこと、その際原告からさらに全額で取引額の二割程度に達するよう手附増額方の希望が出されたので、被告もこれに応じたが、右のような事情から三箇月後の同年四月一〇日を支払日と定めてその日に追加手附として金一一、〇〇〇、〇〇〇円を交付することを約し、その旨同日作成された売買契約書に記載したのが前掲したその第二条の文言中手書部分であることを認めることができ、<証拠略>はいずれも信用できない。

(二)、<証拠略>によれば、本件売買契約書の第一二条には「買主がこの契約を履行しないときは売主は何ら法律上の手続を要しないで違約金として手附金を没収する。また売主が契約不履行のときは既収の手附金を倍額として買主へ支払う。この場合売主または買主が相手方の義務不履行によりこの契約の違約金を超過する損害を受けたときは、相手方に対して超過額の賠償を請求することができる。ただしこの場合売買契約は自然解消するものとする。」との不動文字の記載が認められ、<証拠略>によれば、右売買契約締結に立会つた同証人等ことにこれを仲介した訴外早川正一は、右契約に関して交付される手附は買主に違約があれば没収され、売主が違約すれば倍額を返すところのいわゆる手附損倍返しによつて右契約を解除できる性質のものであると理解していて、契約締結に立ちあつた人々の間では右一二条の意義について何ら説明されることのなかつたことが認められ、右認定を左右しまたはこれに附加すべき事実を証するものは他にみたらない。

(三)、よつて、右認定事実のもとにおける本件売買契約で手附と称するものの性質およびこれと関連して成立したやに主張される右契約を清算的に終了させるところの免責的な本件損害賠償額予定の特約の成立について考えてみるに、

(1)、その売買契約書第一二条中にこれを違約金と称する箇所があるけれども、それが不動文字で記載されていることと同条全文の態様および右書面作成に立ちあつた右売買の仲介者である早川訴外人の右手附に対する右認定のような理解に鑑みるときは、右違約金の不動文字の存することをもつて民法第五五七条第一項の適用を排除すべき特段の意思の表示されたものと認めることはできず、他にかかる特段の意思が表示されまたはこれを推定すべき特段の事情が存したことも認められないことは右(二)で認定したとおりであるから、本件売買契約において手附と程されるものは右法条に定める解約手附を指向したものと解するのほかはない。そして、そのうち本件売買契約が締結された昭和四二年一月六日の時点においては、右認定の契約締結にいたる当事者の意思に加えてその要物契約たる本質に鑑み、右解約手附は同日授受のあつた金五、〇〇〇、〇〇〇円の限度でその成立をみたものと解すべく、後日授受されることとなつた金一、一〇〇、〇〇〇円については単にかかる手附の予約が成立しているにすぎないものと解すべきである。

なお、原告が昭和四二年二月九日他から買受けた本件代替宅地は、<証拠略>によれば、原告は右宅地のうえに事務所を建ててここを本件不動産に代る自己の営業用店舗にあてる目的であり、その買受代金は本件売買代金の一部をあてる予定でいたことが認められ、その売買契約締結に際し相手方に交付された前記認定の金五、〇〇〇、〇〇〇円の手附は、<証拠略>によれば、その売買契約書の用紙は不動産業者の利用に供するため印刷されたもので、その第六項において「売主が本契約の期日に売渡を履行しないときは違約金として手附金の倍額を買主へ返還し、また買主が期日内に買受を履行しないときは手附金は売主が没収し買主へ返戻しない。」とあり、その第七項において「前項の場合は双方とも催告または通知等何らの手続を要しないで本契約は解除されること。」とあり、ともに印刷された不動文字でなされていることが認められ、その文言全体からみてこれを解約手附と解すべきことは右違約金の文言の存在もその妨げとならないほどのものであり、そうであるとするならば、原告においては、本件売買契約における手附金を前示認定のように解約手附と解しているがゆえに、これに対応すべき右代替地買受のための売買契約における手附金も右のように同額の解約手附金としたものと推断するにかたくなく、この事実は本件売買契約における手附金に関する前示認定を力ずけるものである。

(2)、そこで、右手附契約に関連して原告主張の清算的損害賠償額予定の特約がなされているかどうかをみるに、解約手附は、両当事者が解除権を保留してこれを行使した場合の損害賠償額となるものであるが、前示認定事実によれば、その売買契約書第一二条において、右手附金を超過する損害を受けたときは相手方に対してその超過額の賠償を請求することができる旨の約定が存し、その字義の明瞭であることからそれが不動文字で記載されていることをもつてこれを一概に例文として退けることはできないので、右手附契約そのものについては、当該手附金額あるいはその倍額を受領することで、その余の損害の賠償義務を免責するという清算的性質はこれを有しないから、本件手附契約そのものから原告主張の清算的損害賠償額の予定がなされていることを認めることはできない。

(3)、つぎに、右手附契約を離れて当事者の合意による原告主張の清算的損害賠償額予定の特約が存したかどうかをみるに、本件全証拠によるもこれを認めるべき証拠はかく、かえつて前項で認定したように右手附額を超える損害があればこれが賠償を求め得ることが約定されているのである。

(4)、なお、念のために説明しておくならば、前項認定の金一一、〇〇〇、〇〇〇円についての解約手附の予約については、後記第二次請求において認定したとおり、本件売買契約は昭和四二年三月二七日被告がした解約手附金五、〇〇〇、〇〇〇円を放棄して右契約を解除する旨の意思表示により解消しているからこれに従たる関係にある右予約もまた完結をみずして解消したこととなる。

四、そうすると、原告の被告に対するその主張のような清算的損害賠償予定の解約の存することを前提とする第一次請求は、その理由がないからこれを棄却すべきである。(富田善哉 鴨井孝之 浅野正樹)

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