大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)3794号 判決
原告
田口孝仁
田口弥生
両名代理人
木原邦夫
ほか一名
被告
立共運輸株式会社
代表者
荒川次郎
被告
昌立オート株式会社
代表者
松本英松
被告
大山こと
徐博一
三名代理人
香川公一
第一 主文
一、被告三名は各自、原告田口孝仁に対し一、四一五、三七〇円および内金一、三一五、三七〇円に対する昭和四二年八月八日から、残金一〇〇、〇〇〇円に対する昭和四三年九月二一日から各払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告田口孝仁のその余の請求および原告弥生の請求を棄却する。
三、訴訟費用中、原告田口孝仁と被告三名間に生じた分は被告三名の連帯負担とし、原告田口弥生と被告三名間に生じた分は同原告の負担とする。
四、この判決一項は、かりに執行することができる。
第二 原告らの申立て
被告らは各自、原告孝仁に対し二、〇三四、五四六円、原告弥生に対し三〇〇、〇〇〇円およびこれらに対する昭和四二年八月八日(本訴状送達後)から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。
との判決ならびに仮執行の宣言。
第三 争いのない事実
一、傷害交通事故発生
とき 昭和四二年一月六日午後四時一〇分ごろ
ところ 守口市北寺方一五九番地先交差点
事故車 大型貨物自動車(神一え三一八号、以下便宜被告車という)
運転者 被告徐
受傷者 原告孝仁(自動車運転中、二五才)
態様 原告孝仁が交差点手前で信号待ちしていたところ、後方から被告車が追突した。
二、被告らの相互間関係
被告昌立オートは自動車の整備、修理等を業務とするが、被告徐を雇用して故障者の整備、修理および運搬にあたらせていた。被告立共運輸は運送業務用の本件被告車を所有しているが、被告昌立オートにその修理を依頼し、その修理完成後被告徐が同社までこれを運転して届ける途中であつた。
三、被告昌立オートの支出
計七一八、四七九円
被告昌立オートは本訴状送達前に原告孝仁に対し、入院・治療費一四八、四七九円、休業補償費七〇、〇〇〇円のほか五〇〇、〇〇〇円を支払つた。
第四 争点
(原告らの主張)
一、被告らの責任原因
(1) 被告立共運輸(自賠法三条)
自動車修理業者は自動車を修理することを建て前とし、運送までを仕事としているものではないから、修理工事完成後は作業場でその自動車を注文主に引き渡すのが原則である。したがつて、本件被告車の修理を依頼した被告立共運輸は、修理工事完成後これを受け取りに行くべきところ、とくに被告昌立オートに依頼して届けさせたのであるから、右運行は被告立共運輸のためになされたものであり、同被告はその運行につき支配と利益を有することが明白である。
(2) 被告昌立オート(民法七一五条、自賠法三条)
自動車修理業者は修理車の運送までを仕事としているものではないといつても、とくに注文主から依頼されサービスとして修理車を送り届けることが多いのも社会通念上一般である。したがつて、被告昌立オートの従業員たる被告徐が前記のように被告車を被告立共通輸に送り届ける行為は業務の執行であり、その途中後記過失により本件事故が発生したものである。そして、右運行につき雇主たる被告昌立オートが支配と利益を有することは明白である。
(3) 被告徐(民法七〇九条)
被告徐は前方を注視していれば当然交差点手前において停車中の原告孝仁運転の自動車を認めることができ、かつ信号に従つて徐行一時停止をすべきであつたにもかかわらず、脇見運転をした過失により、徐行もしないで勢いよく追突した。
二、原告孝仁の損害
(1) 受傷部位・程度、後遺症
前頭部打撲ガラス切創、頸椎捻挫(むち打ち症候群)の傷害を受け、事故当日から同年六月一四日まで五か月余り入院加療したが、退院後も常時激しい頭痛に襲われ、かつ発作がたびたび起こり意識不明におちいる状態が続いており、その都度通院加療している。
(2) 数額
合計二、七五三、〇二五円
(イ)療養費 計七九八、〇二五円
(A)入院・治療費
四八五、九七八円
(B)入院雑費 三三、三〇〇円
(C)家族通院交通費
六〇、三九〇円
(D)付添費 一〇、〇〇〇円
(E)栄養費 四、一四〇円
(F)マッサージ代
二、一〇〇円
(G)コルセット代
二、一一七円
(以上42.7.7現在)
(H)右以後の治療費、通院交通費
二〇〇、〇〇〇円
(ロ)逸失利益 計四五五、〇〇〇円
(A)職業 大阪ツバメゴム販売株式会社勤務
(B)月給 三五、〇〇〇円
(C)昭和四二年一月から七月までの全休業損二四五、〇〇〇円
(D)同年八月以後一年間の半休業損(推定)二一〇、〇〇〇円
右期間は症状に応じ、または通院治療の必要に応じ、欠勤または遅出早退の状態(半休)であると推定されたのであるが、その職制上(自己の販売担当先に関する事務処理専行)雇用会社から強い復帰要望があり、また自己の生計維持の必要もあつて、同年九月二六日から就労しているが、いまだ従前どおりの勤務は望むべくもない状況である。そこで、かりに右期間内の減収が右の額以下にとどまつたとすれば、それはひとえに原告孝仁の肉体的苦痛であがなわれたものであるから、右推定損失額との差額は慰謝料の補完的作用にかんかみ、慰謝料の一部として算定されるべきである。
(ハ)慰謝料 一、〇〇〇、〇〇〇円
以上すべての事実をしんしやくすべきである。
(ニ)弁護士費用(本訴、仮処分共)
五〇〇、〇〇〇円
本件事故により収入が絶えたうえに入院治療費等多大の出費を重ねるに至つたが、被告らより治療費等一部二一八、四七九円の支払いがあつたのみでその余の支払いがないため、やむなく仮処分申請に及び(大阪地裁昭和四二年(ヨ)第三一八一号)、その執行をなした結果、執行解放を条件として損害金の内金として五〇〇、〇〇〇円の支払いを受けたものである。
三、原告弥生の損害(慰謝料)
三〇〇、〇〇〇円
原告孝仁の妻であるが、二才の長女を抱え事故後一〇日目に長男を出産した。原告孝仁の受傷による以上のような状態は、その家庭に対し絶大な影響を与えている。
四、本訴請求
(1) 原告孝仁
前出全損害額から被告昌立オート弁済の前記七一八、四七九円を控除した残額二、〇三四、五四六円およびこれに対する前記遅延損害金。
(2) 原告弥生
前出慰謝料三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する前記遅延金。
(被告らの主張)
一、原告孝仁の損害について
(1) 受傷部位・程度
被告徐の追突の仕方は、当時雨で路面がぬれていたためスリップしたもので、きわめてゆるいものであつた。またそれに加えて、原告孝仁運転の車はスバルサンバーという小型車で運転席が非常に狭く、追突による衝撃のためむち打ち症の発生する度合は少ないのである。さらに事故後も原告季仁は非常に元気であつた。
(2) 原告側の過失、損害の拡大
原告孝仁の受傷が真実であるとしても、それはもつぱら同原告の保護措置の不備、たとえばヘッドレスト(安全枕)等をつけていなかつたことに基因する。
また、原告季仁の治療期間が長期にわたつているのは、ひとえに同原告の神経質な性格と、自己が集金しながら勤務先に未納の七〇〇、〇〇〇円をいかに穴埋めするかの苦悩に基づくものである。
二、被告昌立オートの支出
原告孝仁の認めるもののほか、本訴状送達を受けるまでに左記支出をした(計一〇七、五八九円)。
(1) 入院付添費 四九、七三五円
(2) 休業補償費 三三、〇〇〇円
(3) コルセット代 三、三五〇円
(4) 見舞金(慰謝料)一〇、〇〇〇円
(5) 雑費、栄養費 一一、五〇四円
第五 証拠<略>
第六 争点に対する判断
一、被告らの責任原因
(1) 被告立共運輸(自賠法三条)
被告昌立オート代表者本人尋問の結果によると、被告昌立オートにおいては原則として修理完成後の車両の送り届けは行なわず、とくに注文主からの依頼がある場合にのみサービスとして送り届けをしていることが認められるので、反証のない以上、本件被告車の送り届けは被告立共運輸の依頼により被告昌立オートがサービスとして行なつたものと推認すべきである。
このように、被告車の修理が完成した以上は注文主たる被告立共運輸において自己の費用でこれを引き取るべき義務があるのに、とくにサービスとしての送り届けを被告昌立オートに対して依頼した場合は、この依頼に基づき送り届けをする被告昌立オートの運転手は同被告の業務の一環としてのみならず被告立共運輸の利益のためにも被告車を運転するものであり、かつ、被告立共運輸は右運転手を介して間接的に被告車の運行を支配するということができる。
よつて、被告立共運輸は右運行の途中において生じた本件事故につき、被告車の運行供用者として損害賠償責任を免れない。
(2) 被告昌立オート(民法七一五条、自賠法三条)
原告ら主張のとおり。
(3) 被告徐(民法七〇九条)
原告ら主張のとおり(なお被告車は時速約四〇キロメールのまま追突した)。
二、原告孝仁の損害
(1) 受傷部位・程度、後遺症
前頭部打撲兼ガラス切創、頸椎捻挫(むち打ち症候群)の傷害を受け、事故当日から同年六月一四日まで五か月余り入院加療し軽快退院したが、退院後一、二か月は後頭部痛、発作つき頭痛がしばしばみられたのでその都度治療を受けた。その後かような症状は少なくなり、現在では悪天候のときの不快感や両肩の痛みが若干残つている程度で、ほぼ回復している。
(2) 数額
合計 二、二四一、四三八円
(イ)養養費 計五四六、四三八円
(A)入院・治療費
四四三、二五三円
(B)入院雑費(家族通院交通費、栄養費を含む)
前記受傷部位・程度等に照らすと、入院一日につき三〇〇円を相当と認める。
三〇〇円×一六〇=四八、〇〇〇円
(C)付添費 四九、七三五円
(D)マッサージ代 二、一〇〇円
(E)コルセット代 三、三五〇円
(以上42.7.7現在)
(F)右以後の治療費、通院交通費証拠不十分
(ロ)逸失利益 二四五、〇〇〇円
昭和四〇年一一月に大阪シバメゴム販売株式会社に入社し、本件事故当時一か月三五、〇〇〇円以上の給料を得ていたが、事故による受傷のため昭和四一年八月初めごろまで七か月間休み、その間の給料二四五、〇〇〇円を得られなかつた。復職後しばらく体調不良のため思うように勤務できず若干の減収をみたが、その後はほぼ従前どおりの給料支給を受け現在に至つている<証拠略>。したがつて、昭和四二年八月以降の減収による損害額は明確でない(後記慰謝料算定につきしんしやくする)。
(ハ)慰謝料 一、二〇〇、〇〇〇円
右算定につき特記すべき事実は左のとおり。
(A)前記受傷部位・程度(とくに入院期間)、後遺症。
(B)前記復職後における若干の減収。
(C)本件事故の態様(被告側の一方的過失)。
(D)事故後の損害拡大について原告側に過失はない。
(ニ)弁護士費用計二五〇、〇〇〇円
(A)仮処分、本訴着手金
一五〇、〇〇〇円
(B)本訴謝金 一〇〇、〇〇〇円
三原告弥生の損害(慰謝料)認められない。
以上認定の原告孝仁の受傷部位・程度、後遺症に照らすと、妻原告弥生が夫死亡の場合に比しいちじるしく劣らない精神的苦痛を受けたとは認めがたく、他にそのように認めうる証拠もないので、原告弥生固有の慰謝料請求は排斥を免れない。
四被告昌立オートの弁済
一〇七、五八九円
被告ら主張のとおり。
五結論
被告らは、原告孝仁に対し不真正連帯債務の関係で、前出全損害額から被告昌立オートの弁済額計八二六、〇六八円(前記第三の三、第六の四)を控除した残額一、四一五、三七〇円および内金一、三一五、三七〇円に対する昭和四二年八月八日から、残金一〇〇、〇〇〇円(本訴謝金)に対する昭和四三年九月二一日(本判決言渡日)から各支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならないが、原告弥生に対し慰謝料を支払う義務はない。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。(谷水央)