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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)5671号 判決 1970年5月21日

原告

久津和産業株式会社

被告

東京製綱株式会社

主文

一、被告は原告に対し、金九八〇、〇三五円およびこれに対する昭和四二年三月二八日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、これを三分して、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四、この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告は原告に対し金一、六一四、三三六円およびこれに対する昭和四二年三月二八日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、原告、請求原因

(一)  原告は元第一タクシー株式会社、ついで第一自動車産業株式会社と称していたが、昭和四一年一月一日現在の商号に変更し、また被告は、昭和三九年一〇月一日大阪市南区三津町三三番地東洋製綱株式会社を吸収合併したものである。

(二)  本件交通事故の発生

日時 昭和三一年四月二日午前一一時ごろ

場所 泉佐野市助松五八三番地先国道二六号線上

事故車 普通貨物自動車(大一、八七一四号)

運転者 訴外谷口義治

態様 原告の被用者である訴外糠野徳次郎運転の小型乗用自動車(以下原告車という)が南進中、対向して北進してきた事故車と衝突した。

受傷 そのため原告車の乗客である訴外久下博道が頭蓋骨々折、額面挫創、左胸部、腰部挫傷等の傷害をうけた。

(三)  右事故についての被告の責任

1 訴外谷口は、事故車を時速四〇キロメートルで進行させ、事故現場付近に差しかかつた際、前方約一〇メートルを先行していた貨物自動車が突如速度を落し徐行したので、これを追い越しにかかつた。このような場合、訴外谷口は先行車に応じて速度を落し追従しなければならず、また先行車を追い越す場合においても、先行車の積荷のため右前方の見とおしが困難で、対向車両をたやすく発見しえない状況にあつたから、徐行の際先行車の右に出て対向車の有無を確め、その安全を確認して後に追い越しを図らなければならない注意義務があるのに、これを怠り漫然同一速度のまま先行車の右に出て追い越した。そのため訴外糠野が運転せる原告車を三〇メートルの近距離で発見し、右に避譲しつつ急停車の措置をとつたが及ばず、事故車の左前照灯付近を原告車の左前部に衝突させた。

2 被告は、事故車を所有し、これを自己のための運行の用に供しており、訴外谷口は、被告の被用者であり、その義務執行中に右のとおり前方不注視、追越不適当の過失によつて本件事故を惹起した。

3 従つて被告は、自賠法三条ないしは民法七一五条により原告に生じた後記損害を賠償すべき責任がある。

(四)  損害

原告は、原告車の乗客訴外久下から損害賠償を訴及されて敗訴し、(大阪地裁昭和三二年(ワ)第五八二九号、大阪高裁昭和三八年(ネ)第一〇七四号、最高裁昭和四〇年(オ)第五四七号、昭和四一年六月二四日確定。)原告が訴外久下に対して金一、一四八、三一二円および内金について別表記載の各金員につき各起算日からいずれも完済まで年五分の割合による金員を支払う義務を生じた。そのためやむをえず原告は右訴外人に昭和四一年八月一三日から同四二年三月二七日までの間に四回に分割して右判決に基く元利合計金一、六一四、三三六円を支払い、同額の損害を被つた。

(五)  よつて、原告は被告に対して第一の一、記載のとおりの金員の支払を求める。

(六)  (予備的請求原因)

かりに本件事故につき、原告側においても過失があり訴外久下に加えた損害について、被告側と共同不法行為に該るとしても、その過失割合は被告側が主として負担すべき事故であり、原告側のそれは軽微であるから、賠償額の負担部分も被告が原告よりも多い。被告が訴外久下との和解によつて金五〇万円を支払つたとしても、原告の支払つた賠償額は、自己の負担部分を超過したものであるから、超過した部分の求償を請求する。

二、被告

(一)  請求原因に対する答弁

原告の商号変更、被告の合併はすべて認める。

本件事故の発生は、原告車と事故車とが衝突した事実は認めるが、その余は争う。

被告の責任について、訴外谷口の過失を否認する。

ことに本件事故は、糠野が時速八〇キロメートルに近い速度で走行し、原告車の客席ドアの締付不良で、衝突を避けようとした同車の急な方向転換によつて衝突前に右ドアーが開き、乗客の訴外久下が路上に転落して発生したものである。

また訴外谷口は被告の被用者でなく、訴外鶴正雄に雇われていた。損害は不知。

(二)  時効の抗弁

1 かりに被告に損害賠償責任があるとしても、原告は本件事故発生当時に損害の発生および加害者を知つており、(ことに損害の発生は具体的な損害額を知ることではなく、違法な事実を認識すればそれが損害を伴うのを通常とする限り、その事実を認識することでたりるから)その時から三年以上経過したこと明らかな昭和四二年一〇月一三日本訴を提起したのであるから、原告の損害賠償債権は時効により消滅しており、被告は本訴において右時効を援用する。

2 また、時効の起算点について、訴外久下が、原、被告を相手として本件事故による損害賠償請求訴訟をなした経緯をみると、訴の提起が昭和三二年一二月二七日であり、原告が、これに対する答弁書を作成したのは昭和三三年三月一日である。右答弁書、証拠の申出等から原告が事故発生の当初から被告および訴外谷口が全面的責任を負うべきものとの見解を固持していたが、審理の結果昭和三八年六月二八日訴外久下の請求(金額一、六七三、一三四円)の殆どが認容されて金一、五五三、二六九円の支払を命ずる判決がなされた。従つて原告は遅くとも右答弁書作成の昭和三三年三月一日には被告に対し請求すべき自己の損害を知つていたものというべきである。

3 さらに、右2の起算点が認められないとしても、原告が本件事故について訴外久下から提起された損害賠償訴訟に敗訴し、大阪高裁に控訴を提起した昭和三八年七月九日には原告は完全に損害を知つていたといわねばならない。

原告は右時点で控訴を止めて一審判決を確定させ、判決の認容額につき被告に対し損害賠償訴訟を提起しえたのであり、右時点から三年を経過した時点で時効が完成している。

(三)  被告と訴外久下との和解

被告は、訴外久下との間で昭和三七年一一月一五日一審において裁判上の和解をなし、金五〇万円を支払いその余の債務を免除された。

その際原告に対しても被告と同様和解の勧告があり、久下の譲歩にもかかわらず原告は本件事故が被告側の一方的過失で自己に責任がないとして和解に応じず、右被告の和解について何ら異議を述べなかつた。これは本訴で主張する被告に対する損害賠償請求権等は発生する余地がない旨を暗黙のうちに表示していたのである。即ち被告のみ久下と和解したのは、原告の右表示を信頼し、原告が訴訟を続行して敗訴してもその結果について、被告に影響を及ぼさない趣旨であると判断したからで、本訴請求は信義則に反する。

(四)  原告側の過失

1 かりに右(三)の主張が理由がないとしても和解成立の時期は、結審直前のことであり原告が将来敗訴し、和解案より多額の損害賠償を負うことも予期できた筈であるのに訴訟を続行し、債務免除の利益をうける機会を失つた。従つて五〇万円を超える原告の支払額は原告が過失によつて訴訟の見とおしを誤つて拡大した損害であるから、これを被告の責に帰することはできない。

2 本件事故直前原告車が、現場付近のくぼみを通過した際のバウンドで客席のドアーが開き、久下が車外に落下し、続いて衝突の衝撃でドアーがちぎれ飛んだのであるが、ドアーが開かなければ、久下の負傷程度は軽微であつたものと考えられ、本件事故により損害が拡大したのは、主として原告車の整備不良に起因する。

(五)  予備的請求原因に対する答弁

1 原告主張の求償権の根拠が明らかでない。かりに原告主張の共同不法行為であると仮定しても、共同不法行為者は糠野と谷口であり、原告が求償しうるのは谷口に対してであつて、谷口の使用者でなく被告に直接求償しうるいわれはない。

2 原告の求償権行使が何らかの根拠があるとしても、前記のように原告が五〇万円を超える出捐を余儀なくされたのは自らの無責任さにより招いたものであるのにかかわらず、一方被告は被害者の久下から五〇万円を超える部分について債務の免除をうけた利益が求償されることになれば無に帰する結果となつて不合理であり、被告は原告に対する限りにおいて免除の絶対効により求償を拒むことができるものと解する。

3 かりに求償権の行使ができるとしても、原告車運転の糠野が制限速度(時速五〇キロメートル)で走つていたとすれば、衝突を免ぬがれた筈であり、右の点について過失割合の認定の際に斟酌されるべきである。

三、被告の抗弁等に対する原告の主張

被告の(三)、(四)、(五)の主張はいずれも争う。

ことに時効の点について、原告が本件損害を知つたのは、久下との間の訴訟が確定したときであり、それから三年を経過しない間に本訴を提起したから、消滅時効は中断された。

第三、証拠〔略〕

理由

一、原告は第一タクシー株式会社、第一自動車産業株式会社、現在の商号にそれぞれ変更したこと、被告が東洋製綱株式会社を吸収合併したことは当事者間に争いがない。

二、本件交通事故の発生

〔証拠略〕によると、昭和三一年四月二日午前一一時二〇分ごろ、泉大津市助松五八三番地先国道二六号線路上において、原告が雇用せる訴外糠野徳次郎運転の原告車が南進中、対向して北進してきた訴外谷口義治運転の事故車とが衝突し(両車両が衝突したことは当事者間に争いがない)原告車の乗客である訴外久下博道が頭蓋骨々折、後頭部挫傷、顔面挫傷、臀部左腰部挫傷の傷害をうけたことが認められる。

三、訴外谷口(運転者)の過失

〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(1)  本件事故現場は、南北に通ずる国道二六号線と東西に直角に交差する幅員五メートルの泉大津市道との交差点内であつて、国道は歩、車道の区別があり、車道幅一一メートル、両側に二・五メートル宛の歩道が設けられ、アスフアルト舗装されて直線、平たんで前方の見とおしは良好である。交差点には信号機の設置はない。事故当時交差点中央部に東西にわたり車道幅の長さ程度に道路工事跡があり、幅一・一メートルで東側は深さ五センチメートル程くぼみ、西側は逆に五センチメートル高くなつていた。交通量は頻繁である。

(2)  訴外谷口は、事故車にワイヤロープ一・五トン位を積載して、大阪市内に向うべく時速約四〇キロメートルで北進していたところ、現場近くにさしかかり、先行のトラツクが急制動をなして徐行しはじめたので、これを追い越そうとして、対向車線から進行してくる車両の有無を確めず右側へ出てセンターラインを超えて反対車線へ出たところ、対向してきた原告車を約三〇メートル前方に認め、至近距離のため、急制動の措置以外に取りえず、交差点東南角近くで車体の左前部と原告車の左前部が衝突した。

(3)  一方原告車運転の糠野は、約四〇メートル前方に事故車に先行するトラックの後方から事故車が突然センターラインを超えて自車の進路上に出てきたのを見て、急ブレーキをかけると同時に右トラックと事故車との中間を進行するべくハンドル操作をしたが、交差点に入るまで時速六〇キロメートルの速度で進行していたため、スリップしながら事故車と衝突し、その衝撃で原告車の客席の左ドアーがはずれて落下し、乗客の久下が路上に転落した。路上には、原告車のスリップ痕が二四・五メートル、事故車のそれは四・一メートルであつた。

前掲証拠中、右認定に反する点は措信せず、他に右認定を動かしうる証拠はない。右事実によると、本件事故は訴外谷口が先行車を追い越しの際に対向車の有無、前方の安全を確かめ、もし先行車のために前方の見とおし困難なときは、センターライン側へ車を寄せて、前方の状況が判明するようになつてから追い越すべき注意義務があるのにかかわらず、対向車両のことを考慮しないで漫然とセンターラインを超えて前方に出た過失のため惹起されたものであることは明らかである。もつとも糠野にも後記のとおり過失があるが、事故発生の主たる原因および過失責任は谷口にあるものというべきである。

四、被告の責任

〔証拠略〕によると、訴外谷口は、鶴組運送店こと鶴正雄に雇われていた運転手であるが、鶴正雄は先代から東洋製綱(被告)の運送の仕事をしており、本件事故当時もトラック二台をもつて被告に専属して運送業を営んでいたこと、事故車の所有は鶴であつたが、同人に運送業の免許がないため、登録名義は被告となつていて、車体にも被告名が書かれていたこと、鶴の事務所は被告佐野工場の近くにあつたが、事故車はいつも右工場内に置かれいたこと、運送については、当時被告本社から出荷命令が右工場になされ、被告の倉庫課から鶴に対して送り状を交付しておき、鶴の雇人である運転助手が右倉庫課員の立会のもとに自動車に積載するという方法がとられていたこと、鶴正雄は被告以外から頼まれて運送することはなかつたことが、それぞれ認められる。

他に右認定を動かしうる証拠はない。右事実によると、事故車は直接には鶴正雄が指図していたが、すべて被告からの指示により運行されており、あたかも被告の運送部門のような態をなしていたのであるから、運行支配は鶴正雄と競合して被告にもあるものといえ、運行利益もこれに伴つているから、被告が事故車の運行供用者と認められ、本件事故による人身損害について賠償責任があることは明らかである。

五、原告の損害について

〔証拠略〕によると、原告は原告車の乗客である訴外久下から損害賠償請求訴訟を提起されて敗訴し、昭和三八年六月二八日大阪地方裁判所(昭和三二年(ワ)第五八二九号)において金一、五五三、二六九円の支払義務を命ぜられ、さらに控訴して昭和四〇年一月三〇日大阪高等裁判所(昭和三八年(ネ)第一〇七四号)において「金一、一四八、三一二円および内金について別表記載の各金員について各起算日からいずれも完済まで年五分の割合による金員を支払え。」との判決をうけ、なお上告したが昭和四一年六月二四日最高裁において上告棄却されたこと、そこで原告は久下に対して同年八月一三日、同年九月六日、同年一〇月一四日に各三〇万円、昭和四二年三月二七日金七一四、三三六円合計金一、六一四、三三六円を支払つたことが認められる。

右認定に反する証拠はない。そうすると、原告は久下に対する損害賠償金として右金員を支払い、被告との関係では、本件事故により同額の損害を生じたものといいうる。

六、時効の抗弁について

原告が本訴を提起したのは昭和四二年一〇月一三日であることは記録上明らかであり、本件事故発生の日から相当期間を経過している。被告は時効の起算日について、事故発生日または原告と久下との訴訟において答弁書を作成した昭和三三年三月一日、もしくは控訴を提起した昭和三八年七月九日である旨主張する。民法七二四条に定める時効の起算点は、被告者が損害および加害者を知つた時からであるが、損害を知るというのは、通常損害の程度、数額を具体的に知ることを要せず、加害行為の違法性とそれによつて損害の発生したことを知るのみでたりる。従つて、本件事故の場合原告がもし原告車の破損によるものや、負傷して欠勤した運転者の給料を支払つたことによる損害があれば、直接被つたことを直ちに知ることができるのであり、事故の日から時効が進行するものと認めうる。しかし、原告が訴外久下に対して負担すべき損害があるか、否かは、間接的なものであり本件事故の状況によれば原告としては責任がないものとして訴訟の結果をまつまで判然としないものといわざるをえない。もつとも〔証拠略〕によると、訴外久下が原、被告を相手として訴訟を提起し、第一審裁判官が証拠調がすべて終つた段階で和解を試み、原、被告に対して金五〇万円の支払をなすよう勧告したことが認められ、その後前記のとおり第一審判決があつたことからすれば、これらの時期に損害を知つたと一応いえるかもしれないが、事実上、法津上むつかしい事案である本件では上訴審の判断をまつまで断定することは困難である。しからば控訴審判決言渡の時点において、損害を知つたとするのが、適切か否かであるが、一、二審の判決結果が区々の時もあり、また上告審で破棄自判または差戻しをされた場合など考えると、むしろ特段の事由がないかぎり判決確定時とするのが明確であり相当である。してみると、判決確定が昭和四一年六月二四日であるから、それから三年を経過しない間に本訴の提起があり、時効は中断されているから、被告の主張は採ることができない。(なお東京高裁昭和四三年(ネ)第二一三二号、昭和四四年四月二八日判決は判決確定時をとる。判例タイムス〔編注:原文ママ 「判例タイムズ」と思われる〕二三四号六五頁参照)

七、被告と訴外久下間の和解に関して

1  〔証拠略〕によると、久下が原、被告を相手に訴えた第一審において、和解期日を相当回数重ね、久下は双方から五〇万円宛の受領をうけることで和解に応ずる意思を表示していたのに、原告が責任を否定して和解に応ぜず被告のみ昭和三七年一一月一五日金五〇万円の支払義務を認めて和解が成立し、その際久下は被告に対するその余の請求を放棄したことが認められる。

ところで、被告が右和解をするについて、原告は何ら異議なく、本訴請求権のない旨を暗黙に表示していたから、本訴請求は信義則に反するというのであるが、その主張するところは、訴訟上において信義則の適用場面があり、本訴は信義則に違背する訴訟で不適法であるとの趣旨ないしは実体上の請求権の行使が制限されるというもののようである。

そこで民訴法三三一条、一三九条などの規定するところから、民事訴訟においても信義則の適用場面がありうることは是認されるが、右のとおり原、被告の如き通常の共同訴訟人の場合、その一方が相手方と和解したことは、共通の利害関係がある場合でも訴訟上何の関係もなく、ただ実体法上影響してくるにすぎず、(その限りで後記のとおり信義則が問題となるが)和解に関係のない原告が異議を述べうる立場でない。かりに原告が右和解に入り、あるいは実質的に原告に対する訴訟物も含んで和解が成立している場合ならば格別、そうでない右事情の下で原告の本訴請求が不起訴合意、あるいは訴の取下の合意と同様に理解する余地なく、被告の右主張は後記説述するのほか理由がなく到底採用することができない。

2  なお、被告は訴外久下との間の和解において久下の権利放棄の条項が記載されていること前記のとおりである。しかしこの条項は当事者間の相対的な努力を有し、原告に及ばないものと解する。けだし本件事故の場合原告に及ぶならば、原告に対して著しく不利益を及ぼすに至ること明らかであり、かりに本件事故が原、被告の共同不法行為によるものとしても、それらの債務が不真正連帯債務と解され、当然には民法四三七条の適用はないからである。

八、原告側の過失

1  〔証拠略〕によると、原告車の左後部ドアーは締りが甘く、開きやすいものであつたことが認められる。しかし、右書証の記載中本件交差点内の約五センチメートル程の凹凸でバウンドして開いた点については直ちに信用できず、〔証拠略〕から推測すると、ドアーの締りが甘いところへ衝突の衝撃でドアーが外れたものと考えられる。また前記三で認定した事実から原告車運転の糠野が、交差点で対向車両と離合するのであり、道路状況からも減速して然るべきところを高速で進行したため、事故車との衝撃が大きく、右ドアーの点と相まつて被害を大きくした不注意は否定できない。

2  ところで、原告が前記のとおり和解を勧告され、時期的にも適当な時に訴外久下と和解をしなかつたために、結果的には債務免除をうける機会を逸し、和解が成立していた場合と比較すると遅延損害金を含み損害額に相当な開きを生ぜしめた。原告が訴訟を追行する権利を有する反面、その結果について第三者に影響を及ぼす場合、最少の被害にとどまるよう信義則上最善の努力をなす必要がある。原告の訴訟追行がきわめて不適当だという証拠はないが、前記経緯からみると右和解によることが有利だとの判断が立たなかつたわけでもなく、原告の見とおしの悪さが指摘されても致し方がない。一方被告からすれば、原告の不誠実さの故に、いたずらに損害額を大きくした結果となり、双方の立場を考慮したうえで、原告の右行為をも加えて過失相殺するうえで参斟することとする。そこで右1、2により原告の過失割合を三割と定めるのを相当とする。そうすると、原告は金一、六一四、三三六円の損害をうけ、一方被告は、久下に対し別に五〇万円を支払つているので、合計金二、一一四、三三六円から過失相殺すると、

(二、一一四、三三六×〇・七)-五〇万=九八〇、〇三五円

となる。

九、結論

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求中、被告に対し金九八〇、〇三五円およびこれに対して久下に対する最終支払日の翌日である昭和四二年三月二八日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余を失当として棄却することとして、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本清)

別表

<省略>

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