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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6090号 判決 1969年12月22日

原告

吉田豊

被告

三洋タクシー株式会社

ほか三名

主文

一、被告星野勝行は原告に対し、金二、七一〇、六三六円および内金二、三四五、三二五円に対する昭和四二年一一月二〇日から、内金三六五、三一一円(請求拡張分)に対する昭和四四年八月九日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告星野勝行に対するその余の請求および被告三洋タクシー株式会社、同辻婦美子、同東京家庭電器販売株式会社に対する各請求はいずれも棄却する。

三、訴訟費用は、原告と被告星野勝行との間に生じたものは、同被告の負担とし、原告とその他の被告との間に生じたものは、原告の負担とする。

四、この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

五、ただし、被告星野勝行が、原告に対し金一九〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告らは、原告に対し各自金三、〇三六、〇一五円および内金二、五〇三、六二三円に対する昭和四二年一一月二〇日から、内金五三二、三九三円に対する昭和四四年八月九日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、原告、請求原因

(一)  本件事故の発生

日時 昭和四二年五月四日午後一一時五五分ごろ

場所 大阪市生野区猪飼野東八丁目三番地先、交差点

事故車 普通乗用自動車(泉五に五五四八号、以下A車という)

同(泉五あ一一三二号、以下B車という)

運転者 A車、被告星野

B車、訴外片山吉一

態様 原告はB車(タクシー)に乗客として同乗していたところ、B車が西から東へ進行し交差点で右折して南進しようとして、交差点中央付近で一旦停車した際、後方から追従して来たA車がB車に追突した。

受傷 原告は頸椎捻挫、胸部挫傷、両膝挫傷の傷害をうけた。

(二)  帰責事由

1 被告三洋タクシーは、一般旅客自動車運送事業を営むもので、本件事故当時B車を所有して、これを自己の営業のため従業員の訴外片山に運転させて、運行の用に供していたものである。

2 被告辻は、A車の所有者であり、被告星野は婚約者の被告辻からA車を借りうけて使用しており、いずれもこれを自己のための運行の用に供していたものである。

3 被告東京家電は、家庭用電器製品の販売を業とする会社で、被告星野を雇傭して本件事故当時販売係として得意先を廻る外勤業務に従事させていた。被告星野は、右外勤業務にA車を使用しており、本件事故当時は勤務を終え退社途上、被告辻方に立ち寄り帰宅中であつた。従つて、被告東京家電はA車を自己の営業のためその運行の用に供していたものである。

4 被告らは、いずれも自賠法三条により本件事故から生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。

(三)  損害

1 療養費 合計金一、一四五、四四〇円

入院治療費(アエバ外科 42・5・4―42・5・12) 金二八、一二〇円

同(腹見外科 42・5・12―43・2・29) 金九四四、四一〇円

付添費 金九五、九一〇円

栄養費 金四〇、〇〇〇円

交通費(家族見舞通院のため) 金三七、〇〇〇円

2 逸失利益 金九〇八、四〇〇円

原告は昭和四一年一一月から肩書住所地において、飲食店を妻と共に経営し、他方昭和四二年一月から大阪市南区長堀橋筋二丁目三四番地、たつみ興業株式会社の会計主任として勤務していた。しかるに本件事故による受傷のため、長期にわたり入院し、妻もその病状を案じて店を休み、同年八月から店を再開したが、夏期における営業の準備不足のため収入が減少し、減収額は金二九六、四〇〇円となつた。

これは、昭和四一年一一月から昭和四二年四月まで一カ月平均店の利益が金五四、四〇〇円であつたところ、同年五月以降同年一〇月までは合計金三万円の利益しかなかつたので、その逸失利益は次のとおり金二九六、四〇〇円である。

(五四、四〇〇円×六カ月)-金三万円=金二九六、四〇〇円

また勤務先を事故当日から昭和四三年四月末日まで欠勤したが、月額金五一、〇〇〇円の収入があつたので、この逸失利益は

五一、〇〇〇円×一二カ月=金六一二、〇〇〇円である。

3 慰謝料 金一五〇万円

原告は、入院期間約一〇カ月に及ぶも現在なお完治せず頭痛を訴え、精神状態も安定を欠き、勤務先の仕事も持続しがたい有様である。原告は、妻、長男があり、家庭の主柱として働いて来たところ、本件事故に遭遇し長期間の療養のため収入の途もとざされ、原告の妻が不慣れな勤務に出るなど生活苦に直面してきた。これらの事情から原告の精神的損害として金一五〇万円が相当である。

4 弁護士費用 金二七六、〇〇〇円

(四)  損害相殺

原告は、被告三洋タクシーから左記のとおり合計金七九三、八二五円の支払をうけたので、前記損害額から控除する。

治療費 金三九一、九一五円

付添費 金九五、九一〇円

栄養費 金四〇、〇〇〇円

交通費 金三七、〇〇〇円

休業補償 金二二九、〇〇〇円

(五)  よつて、原告は被告らに対して第一の一記載のとおりの金員および遅延損害金の支払を求める。

二、被告三洋タクシー

(一)  請求原因に対する答弁

本件事故の発生は受傷を除き認める。

帰責事由1は認める。

損害はすべて争う。

損益相殺は認めるが、これは原告に対して被告三洋タクシーが、他の被告の負担すべきものを取りあえず支払つたにすぎない。

(二)  免責の抗弁

1 運転者の無過失

訴外片山は、B車を運転して本件交差点に入る約一〇〇メートル手前で右折の指示を出して、その準備をし、交差点手前の停止線付近で、その前方約二〇〇メートルあたりに直進してくる対向車を認めたので、青信号に従い徐行して交差点内に進入した。対向車は深夜であり相当の速度を出してすでに交差点にさしかかつていたので、右片山は直進車優先の原則により、その通過後に右折すべく一たん停車した。この運転方法は、正当で最善のもので、片山に過失はない。

2 被告星野の過失

しかるに、B車に後続していたA車運転の被告星野は、交差点内でわき見をしていた前方不注意と高速運転をしていたため、B車の左後部へ追突して来た。従つて本件事故は被告星野の過失によつて惹起されたものである。

3 B車には、構造上の欠陥、機能の障害はなかつた。

また被告三洋タクシーはB車の運行に関し注意を怠らなかつたのであるから、自賠法三条但書により免責されるべきで、原告の損害を賠償すべき義務はない。

三、被告星野

(一)  請求原因に対する答弁

本件事故の発生は認める。

帰責事由について、被告星野がA車を運行していたことは認める。

損害は争う。

(二)  本件事故は訴外片山の一方的過失によつて発生したものである。

訴外片山は、B車を運転して東進し、本件交差点で右折南進しようとしたが、右折するについてあらかじめ道路中央に寄り右折の合図をして信号機の表示に従い交差点中央付近内側を徐行して右折しなければならない。また交差点内において法令もしくは警察官の命令により、あるいは危険を防止するため一時停車する場合のほか停車、駐車してはならないばかりでなく、右折を開始するについては、前方の注意はもとより追従車の追突を防止するため、後方の安全を確認する義務がある。しかるに訴外片山は漫然と右折を開始し、交差点中央付近で突然停車したため、これに追従していたA車に追突されたのである。B車が右折を開始した当時、交差点の東西路には対抗向車がなかつたし、A、B車以外に通行する車両はなく、南北路にも車両や横断歩行者がなく一時停止の必要はなかつた。

車両の運転者は、互に交通法規に従つて適切な行動に出るであろうことを信頼して運転すべきである。(信頼の原則)被告星野は、B車が徐行してそのまま右折するであろうことを信頼して運転すればたり、法規に違反して一時停車することがありうることまで予想して事故発生を防止すべき義務までないといわねばならない。従つて、本件事故は訴外片山の過失により惹起されたもので、被告星野に前方注意義務違反の過失はない。

四、被告辻

請求原因事実はすべて争う。

A車は、被告辻の所有でなく被告星野の所有である。被告辻は、被告星野が中古車を買うのに印鑑を貸してくれと頼まれて貸したことがあり、あるいはA車の登録名義人となつているかも知れないが、被告辻がA車を買いうけたことなく、その運行供用者ではない。

五、被告東京家電

請求原因について、被告東京家電が被告星野を雇傭していることは認めるが、その余をすべて争う。

被告東京家電はA車の運行供用者ではない。すなわち被告星野は、被告東京家電の内勤社員で、外勤でなくA車を使用して得意先廻りなどしたことはない。しかも毎日の通勤について定期券を購入しており、A車で通勤していたものでない。また本件事故発生の時刻は、被告東京家電の勤務時間と全く関係がなく、被告星野は退社後、被告辻方へ行き、そこでかなりの時間を過して後、帰宅中に事故が発生したものである。

六、被告三洋タクシーの抗弁に対する原告の答弁

免責の抗弁を否認する。

車両が本件交差点において右折するについて、(1)あらかじめ道路中央寄り右折の合図をなし、信号機の表示に従つて交差点の中心直近内側を徐行して右折すべきであること、(2)交差点においては危険を防止するため一時停止する場合等のほか停車しないこと、(3)右折開始に際しては前側方の注意はもとより追従してくる車両が追突しないよう後方の安全を確認する義務がある。ことに(3)については突然右折をすれば、追従してくる車両の進路を遮断することになり、追突事故発生の原因となるから条理上肯定されるところである。

しかるに訴外片山は、漫然と右折を開始して本件交差点中央付近において停車したが、当時東西路には対向車両はなく、A車とB車以外に進行してくる車両はなかつたのであり、南北路にも通行車両や横断歩行者がなかつたのであるから、右折するについて追従車の動向に注意して交差点を徐行して停車することなく、右折を完了すれば十分であつたのに、右のような運転方法をとり追従してきたA車に追突されたのである。従つて訴外片山には後方注意義務を怠つた過失がある。

七、被告星野の主張に対する原告の反論

被告星野は、先行車の運転状況に注意し、先行車と追突しないよう適当な車間距離を保持して運転すべき義務があるのに、先行するB車が右折すべく徐行して一時停車したのに気づかず、A車を追突せしめた過失がある。

第三、証拠等〔略〕

理由

一、本件事故の発生

原告と被告三洋タクシーとの間においては、受傷を除き争いがなく、原告と被告星野との間においては、すべて争いがない。

〔証拠略〕によると、原告主張のとおりの本件事故が発生したことが認められる。

二、被告三洋タクシーの責任について

被告三洋タクシーがB車を所有し、これを自己のための運行の用に供していることは当事者間に争いがない。そこで被告三洋タクシーの免責の抗弁について判断する。

〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場の模様

(a)  交差点 南北路(大阪市生野区今里―同杭全町間)

東西路(大阪市天王寺区勝山通三丁目―東大阪市間)とが直角に交る大池橋交差点。

(b)  道路の状態 東西路の幅員は交差点西側で約二一・八メートル(内車道一六・八メートル)その東側は右を超える幅員がある。

南北路の幅員は交差点南側で約三〇メートル(内車道二二・五メートル)北側は右を超える幅員がある。

(c)  路面の状態 アスファルト全面舗装、当時乾燥していた。

(d)  見透し等 交差点内広く、左右の見透し良効。夜間も明るい。

(e)  交通量 当時少なかつた。

(f)  交通規制 信号機設置され、速度制限は時速四〇キロメートル。

(g)  スリップ痕 なし。

2  訴外片山は、B車を運転して本件交差点に向つて、東西路を西から東へ時速約五〇キロメートルで進行し、交差点の約一〇〇メートル手前でかなり後方から来る後続車のあることを確認して、右折の方向指示を出し、センターライン側に寄つて行つた。その時前方交差点の信号が青であることを確認して進行を続け、交差点の手前において対向車両が約二〇〇メートル前方から進行して来るのを見て、徐行して交差点に入り、交差点中央の西側で、横断歩道(西側)から約一六・七メートルのあたりで、東西路のセンターラインを結ぶ線を少し車体前部が右側に超えて出ていた程度で、右折の構えをして一時停車した。対向車両は時速五〇ないし六〇キロメートルで、交差点東側から約五〇メートル先あたりまで近づいていて、その通過を待つていたところ、数秒後にA車に追突された。

3  被告星野は、A車を運転してB車の五〇ないし七〇メートル後方をセンターライン寄りを進行し、本件交差点に入る相当手前で信号が青色であるのを確認し、かつB車の右折指示を見ていた。B車が交差点に入る手前で徐行したので、これにかなり接近していたが、そのままB車が右折するものと思い、その後方を同じ速度で直進したところ、交差点に入る手前で脇見をしたため、B車の一時停止に気づかず、追突寸前に気づいた時には遅く、あわててブレーキをふみ、左へ転把したが間にあわず、A車の前照灯付近でB車の左後部付近に追突させた。被告星野は交差点に入るまでに何台かの対向車両と離合したが、交差点に入る直前ごろ対向車両の進行には全く気づいていなかつた。なお当時南北路には、車両、歩行者は見られなかつた。

4  訴外片山は昭和二八年一一月普通免許を取り、昭和二九年からタクシー運転手として稼働していて、これまで交通事故の加害者となつたことはない。

同人は、B車について始業点検した際、別に異常なく、運転中にも制動装置その他に異常は認められなかつた。

前掲証拠中、右認定に反する部分は措信せず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、訴外片山は、本件交差点の約一〇〇メートル手前で右折すべく指示を出したうえ、センターライン側へ寄り交差点の手前で、前方から高速度で進行して来る対向車を認めて徐行しながら交差点に入り、交差点中央やや西側で右折態勢を示す形で一時停止し、その際対向車は交差点に接近していた。自動車が交差点において右折するときは、あらかじめできるだけ道路中央に寄り、交差点の中心直近の内側を徐行しなければならず、また一方では右折車は直進車の進行を妨げてはならない(道交法三四条、三七条)のであるから、訴外片山は右規定どおりにB車を運転していたものと認められる。この際訴外片山に後方注意義務があるとはいえない。すなわち、後続車両の運転手は先行車の動静をみて必要な車間距離を保持して衝突を避けるべき義務を有しており、ことに本件交差点のように広い交差点では、B車の左側を通過することは容易であり、しかも当時交通量が少なかつたことを考えると、訴外片山は被告星野が当然要請される右注意義務を遵守するものと信頼して自車を運転すればたり、追突の危険を考えて絶えず後方の安全まで確認すべき義務はないからである。ことに本件事案について、かような義務を求めることは、運転者に不可能を強いることになり、消極に解すべきは当然である。(大阪高裁、昭和四二年一月三一日判決、高裁民集二〇巻一号二八頁参照)

従つて本件事故の発生について、訴外片山に過失は認められず、前記認定事実によると、むしろ被告星野の脇見をした前方不注意の過失によつて惹起されたことは明らかであり、かつB車には構造上の欠陥や機能の障害もなく、さらに、弁論の全趣旨から運行者である被告三洋タクシーに運行上の過失がなかつたと認められるので、同被告は自賠法三条但書の免責事由がある。そうすると、同被告は本件事故による損害を賠償すべき責任はない。

三、被告星野の責任について

被告星野は、A車の運行供用者であることは認めるところであり、同被告が自賠法三条により本件事故から生じた原告の損害を賠償すべき義務がある。

なお、同被告が、本件事故は訴外片山の一方的過失にもとづくものである旨主張しているが、これが認められないこと前記二において認定したとおりである。

四、被告辻の責任について

〔証拠略〕によると、A車は被告辻の所有名義で登録されていることが認められる。ところが、被告星野、同辻各本人尋問の結果によると、被告星野は、昭和四一年一二月ごろA車を購入したが、車庫証明がとれないため被告辻の兄が持つている車庫を利用して、被告辻の名義をかりて登録したこと、被告星野はA車を余暇にドライブ等するため購入したもので時々被告辻を乗せてやつていたこと、被告辻は被告星野が勤務していた被告東京家電に、かつて勤務していたことがあつて、同人と親しく付合つていたが当時婚約者ではなかつたことが認められこれに反する証拠はない。右事案によると、被告辻は単に名義を貸与したにすぎず、A車の運行支配、運行利益を享有する地位にあつたと認めることはできず、その運行供用者でない以上、本件事故による損害について、賠償すべき義務はない。

五、被告東京家電の責任について

被告星野が、被告東京家電に雇われていたことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、被告東京家電は、家庭用電気製品の卸売をする会社で、被告星野は本店に勤務し配達業務に従事していたこと、本店には自動車が三台あり、専属に運転する者がいるが、被告星野も運転することがあつたこと、被告星野は右配達業務にA車を使用したことはないが、勤務に使用していたこと、被告東京家電は、被告星野が通勤用にA車を使用していたことは知らず、通勤手当としてバス等に乗るものとして同人に月額約三、〇〇〇円を支給していたこと、本件事故当日被告星野は午後七時に退社して和泉市の被告辻方に赴き一時間半程遊んで帰宅途上に事故を惹起したことがそれぞれ認められる。右認定に反する証拠はない。

右事実によると、被告星野はA車をもつぱら自己のために使用していて、被告東京家電の業務と何ら関係なく、しかも退社後四時間以上経過した後の事故であり、被告東京家電がA車の運行支配、運行利益を享有したと認められるべき点は何一つなく、従つて同被告がA車の運行使用者とは認められないから、本件事故から生じた損害を賠償すべき義務はない。

六、損害

原告がいわゆるむち打症等で事故直後大阪市生野区猪飼野のアエバ外科病院に入院し、(入院期間九日間)昭和四二年五月一二日同区腹見町、腹見病院に転医して通院し、同月末日から同年一一月末日まで入院し、さらにその後昭和四三年二月二八日まで通院してそれぞれ治療をうけた。原告は受傷直後、頭痛、はき気、目まい、頸椎の圧迫や運動痛などの症状があり、腹見病院に転医してからも同じような症状と両手のまひ、握力の低下があり、レントゲン所見では、第六、七頸椎が前にずれていることが判明した。そのため頸椎固定、安静、注射、投薬などの治療をうけ、入院中付添を要した。後遺症としてまだ頭痛等を訴えるが、これは心因性ならびに自律神経の障害によるものである。(〔証拠略〕)

1  療養費 金一、一一七、三二〇円

入院治療費(アエバ外科) 金額を明らかにしうる証拠がない。

同(腹見外科) 金九四四、四一〇円

(甲七号証)

付添費 金九五、九一〇円

栄養費 金四万円

家族の交通費 金三七、〇〇〇円

(被告三洋タクシーが認めるところであり、弁論の全趣旨により認める。)

2  逸失利益 金四九三、三一六円

(1)  原告は、事故当時喫茶店、麻雀屋を経営する大阪市南区長堀橋筋二の三四、たつみ興業株式会社の会計係として勤務していて月額平均五万円の給料をうけていたところ、本件事故により昭和四三年三月ごろまで勤務できず、その後稼働できるようになつたころには、解雇同様となり、他の職場へ変らざるをえなかつた。その逸失利益は昭和四二年五月は四日まで勤務しているので、一ケ月三〇日勤務するとして、同月分の失つた利益は金四三、三一六円となる。

(五〇、〇〇〇円×26/30=四三、三一六)

その後同年六月から翌四三年三月分までは金四五万円である。

(五〇、〇〇〇×九=四五〇、〇〇〇)

(〔証拠略〕)

(2)  また原告の妻が昭和四一年一〇月末ごろから自宅において小さな店でお好み焼屋を営んでいたが、事故後原告の傷害について心配で店を休んで付添をしていた。その後昭和四二年夏ごろから営業を再開したが、夏場で収益があがらず翌年三月ごろ閉店してしまい、現在原告の妻は仲居をして働いている。ところで、その売上額は、昭和四一年一一月から翌年四月まで六ケ月概算合計八一七、〇〇〇円であつたが五月以降同年九月まで金七四、五〇〇円に減収し、同年九月分だけみても一ケ月三九、〇〇〇円しかならない有様とのことである。

(〔証拠略〕)

しかし、右金額が正確かどうかは別にして、この店舗は新規開店の店であり、夏場での実績がなく、一般にお好み焼屋が夏は著しく減収となるものであり、右九ケ月分の売上高から考えて、かりに引き続き営業をしていても、どれ程の収益があつたか疑問で損失の可能性もある。もつとも、引き続き営業することにより、店の信用、顧客の獲得などの利益があり、これらの利益を妨げられた損失があるも、具体的な金額を表示できるものでなく、これを明らかにしうる証拠がないので、原告の妻の損失が、原告に及ぼす影響を考慮して慰謝料算定の際に斟酌することにして、逸失利益としては認めない。

3  慰謝料 金九〇万円

前記認定した原告の受傷程度、治療経過、後遺症、や事故の態様、その他諸般の事情、特に原告が、妻子、母の家庭の主柱として働いて来たが、本件事故により稼働しえず、妻が外へ出て働くようになつたこと、自己が働くようになつた後も、後遺症のため勤務先を転々と変えざるをえなかつた(〔証拠略〕)等を斟酌すると、原告の精神的苦痛に対する損害を金銭に見積ると、金九〇万円が相当である。

4  弁護士費用 金二〇万円

原告が、被告星野に対して前記損害賠償請求権を有しているところ、被告星野が任意に弁済しないこと、原告が本訴訴訟代理人に対して費用、報酬等の支払義務を負つていることは弁論の全趣旨から明らかである。そこで、前記認容額、事案の難易から考えて、弁護士費用として金二〇万円を本件事故と相当因果関係のある原告の損害と認める。

七、損害相殺

原告は、被告三洋タクシーから金七九三、八二五円を受領したとしてこれを控除するが、同被告に賠償義務のないこと前記認定したとおりであるから、これを損益相殺することはできず、前記損害額から控除しない。

八、結論

そうすると、被告らに対する原告の本訴請求中、被告星野に対して前記六の合計額金二、七一〇、六三六円および内金二、三四五、三二五円に対する昭和四二年一一月二〇日から内金三六五、三一一円(請求拡張分)に対する昭和四四年八月九日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべく、その余を失当として棄却し、また被告三洋タクシー、同辻、同東京家電に対する各請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を、仮執行および同免脱の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本清)

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