大判例

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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6525号 判決

原告

斎藤発三郎

被告

浦川正憲

ほか一名

第一 主文

一、被告らは各自原告に対し、一、八四三、〇四五円およびこれに対する昭和四二年一二月一三日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担、その余を被告らの連帯負担とする。

四、この判決一項は、かりに執行することができる。

第二 原告の申立て

被告らは各自原告に対し、三、六九一、一五四円およびこれに対する昭和四二年一二月一三日(本訴状送達翌日)から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第三争いのない事実

一、傷害交通事故発生

とき 昭和四一年一一月二四日午前八時一〇分ごろ

ところ 大阪市大淀区豊崎東通り二丁目六七番地先新御堂筋交差点

事故車 中型貨物自動車

運転者 被告浦川

受傷者 原告(頭部、腰部、足部強打により、頭蓋骨々折、急性硬膜外血腫、右腓骨神経麻痺等)

態様 足踏み自転車に乗り東から西進してきた原告と、南から北進してきた事故車が交差点内で衝突し、原告が車もろとも転倒した。

二、被告らの責任原因(被告浦川民法七〇九条、被告堀口自賠法三条)

被告堀口は事故車の保有者であり、被告浦川は同堀口に雇われている店員兼自動車運転手である。

自動車運転手としては、交差点にさしかかる際には前方を注視して徐行するなど事故の発生を未然に防止すべきであるにもかかわらず、被告浦川は右の注意義務を怠り、原告を発見することが遅れた過失により本件事故を起した。

第四争点

(原告の主帳)

一、被告浦川の運転上の過失

前記過失のほか、赤信号に従わず漫然進行した過失がある。

二、原告の損害

(1) 受傷治療経過

事故後とりあえず済生会病院に入院したが、ついで昭和四一年一一月二六日から関西医科大学付属病院に入院して加療し、三回にわたり手術をしたのち腎不全を起こし、昭和四二年七月一日退院することができた(以上争いがない)が、その後現在に至るまで引き続き通院加療中である。

(2) 数額 合計 四、五四八、八三四円

(イ) 入院治療費 七六七、六八〇円(争いがない)

(ロ) 入院中付添婦費 九〇、〇〇〇円(右同)

(ハ) 入院中雑費 五一、一五四円

(ニ) 脳波検査、腎蔵検査等の検査料(今後二年間、二か月一回の割合) 一〇〇、〇〇〇円

(ホ) 逸失利益 一、四四〇、〇〇〇円

当時左官手伝いをしており、一日一、五〇〇円で一か月平均就労日数を二五日として月収約四〇、〇〇〇円であつた。事故後三年間休業をやむなくされる見込みである。

四〇、〇〇〇円×一二×三

(事故当日から昭和四二年七月一日までの約七か月間の休業補償二八〇、〇〇〇円の限度で争いがない)

(ヘ) 慰謝料 二、〇〇〇、〇〇〇円

当時は健康であつたが、事故後昭和四一年一二月六日までの間はまつたく意識不明となり、危篤の状態を続けた。そして、同年一一月二六日、一二月一三日、翌四二年二月七日の三回にわたり手術を受け、同年七月一日ようやく退院することができたが、その後も腎不全等の症状は消えず、頭痛、吐き気、貧血のため苦しみを続け、最近に至りようやく軽快状態になつたものの、いまだに通院治療を受けており、今後いかなる後遺症が現われるかわからず、これまで一家の大黒柱として家族の生計を支えてきた者であるだけに、その受けた精神的打撃は甚大である(慰謝料額五五〇、〇〇〇円の限度で争いがない)。

(ト) 弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円(争いがない)

三、被告らの弁済 計 八五七、六八〇円(争いがない)

(1) 入院治療費 七六七、六八〇円

(2) 付添婦費用 九〇、〇〇〇円

四、本訴請求

前記損害合計額から右弁済額を控除した残額三、六九一、一五四円および前記遅延損害金。

(被告らの主帳)

一、原告の受傷部位・程度について

原告の本件事故による受傷は、昭和四二年三月一〇日関西医科大学付属病院脳外科から第二内科に転じた当時ほとんど快ゆしていたものである。右転科後は主として腎不全、肺結核等の在来の持病の治療につとめていたもので、右硬膜外血腫術後等の傷害は、原告が同年七月一日右病院を退院した当時快ゆしていたものである。

二、原告の過失

本件事故発生当時、被告浦川は青信号、原告は赤信号で進行していたものであつて、この点における原告の過失はきわめて重大なものがある。

第五証拠 〔略〕

第六争点に対する判断

一、原告の損害

(1) 受傷治療経過

事故後とりあえず済生会病院に入院したが、開頭手術の必要が認められたので昭和四一年一一月二六日から関西医科大学付属病院脳神経外科に入院し、同日および同年一二月一三日に開頭手術、翌四二年二月七日に右足関節伸展手術を受け、治療につとめた結果軽快したので同年三月一〇日右外科を退院したが、同外科入院当初から認められた腎機能障害の治療が必要と認められたため、即日右病院第二内科に転科入院加療を続け同年七月一日退院した。その後頭痛等の頭部外傷後遺症および胃腸炎の治療のため田上医院に同年一二月二二日まで通院した結果、脳波上に異常所見を残すほかは日常生活に支障のない程度に回復した(〔証拠略〕)。

(2) 数額 合計三、〇〇〇、八〇六円

(イ) 入院治療費 七六七、六八〇円(争いがない)

(ロ) 入院中付添婦費 九〇、〇〇〇円(右同)

(ハ) 入院中雑費(電話代、家族通院交通費、日用品代、医師等への謝礼、栄養食費等) 三七、七五〇円

前記受傷部位・程度、治療経過(入院日数二二〇日、うち内科一一三日)等に照らすと、右雑費は内科以外の入院一日につき三〇〇円、内科入院一日につき五〇円(腎機能障害は本件事故のみに基因するとは認められないので減額)の割合をもつて相当と認める。

三〇〇円×一〇七=三二、一〇〇円

五〇円×一一三=五、六五〇円

(〔証拠略〕)

(ニ) 脳波検査、腎臓検査の検査料

証拠不十分

(ホ) 逸失利益 五〇五、三七六円

当時左官手伝いをして月収約四〇、〇〇〇円を得ていたこと、事故後昭和四二年七月一日まで約七か月間の入院中休業したことは争いがないところ、前認定の治療経過に〔証拠略〕を総合すると、原告の受傷後の要休業期間は昭和四二年一二月末ごろまで約一三か月間と認めるのが相当であり、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

右期間中の逸失利益を事故当時の現価に換算すると、四〇、〇〇〇円×一二・六三四四(年利五分、一三か月のホフマン係数)の五〇五、三七六円となる。

(ヘ) 精神的損害 一、五〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は左のとおり。

(A) 前記受傷部位・程度、治療期間、現在年令五九才。

(B) 自覚的には身体のだるさ、右足のしびれ、感情の不安定(怒りつぽく言葉が荒い)を訴えているが、他覚的には神経学的な面でほとんど異常は認められない。

(C) 右側頭部の頭皮に馬てい型の手術痕があり、脳波に異常(徐波出現)があつて、てんかん発症の恐れを否定することはできず、今後脳波の追跡検査を必要とする。

(〔証拠略〕)

(ト) 弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円(争いがない)

二、原告の過失(過失相殺一〇パーセント)

〔証拠略〕によると、本件交差点は、幅員約三八メートルの南北道路と幅員約一一メートルの東西道路が交差する場所で前方左右の見通しは良く、四隅に幅員各五メートルの横断歩道が設けられ、南北道路は拡張工事中の西半分を除き東から幅員約五メートルの歩道、約一五メートルの舗装車道となつており、車道には中心線が引いてあり、信号機により交通整理が行なわれていたこと、原告は足踏み自転車に乗り東西道路中心よりやや右寄りを西進し、先行する柴岩吉の自転車後方約一メートルを追従して右交差点にさしかかつたが、対面西行信号が青を示していたのでそのまま進入し、約一二メートル進んで南北車道中心付近に達したとき突然左方から事故車に衝突されて転倒したことが認められる。

つぎに、〔証拠略〕によると、被告浦川は事故車を運転し時速約四〇キロメートルで南北車道中心線左側を北進中、右交差点の北行信号が赤を示しているのを認め時速約一〇キロメートルに減速したが、同交差点の手前にさしかかつた際西行信号が青から黄に変わつたので、再び時速約二〇キロメートルに加速して約一六メートル進行したとき、右斜め目前に原告を発見し急ブレーキを踏んだが及ばなかつたことが認められる(右各証拠中被告浦川が本件交差点手前で一時停止をした旨の部分は、反対趣旨の〔証拠略〕に比照したやすく信用しがたい)。

以上認定の各事実をあわせ判断すると、原告は事故車よりも早く西行信号が青を示している間に交差点内に進入したが、右信号はまもなく黄に変わつたこと、被告浦川は北行信号が赤を示しているにもかかわらず、西行信号が青から黄に変わつたのに気を許し、右前方に対する注意を払わずに北進を続けたため、東から西進中の原告の発見が遅れ本件事故を起こすに至つたものであることが認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、以上認定の事実にもとづき、本件事故発生につき原告に過失があるといえるかどうかにつき考えるに、信号機により交通整理が行なわれている交差点においては、通常その信号の表示に従い前方を注視して進行すれば足り、ことさら左右に注意を払う必要はないと解されるけれども、前認定のように信号の変わり目にあつては、不注意な運転者や歩行者が左右から飛び出してくることもないわけではないから、原告としても本件交差点に進入するにあたり、西行信号がまもなく黄に変わることを予想し、前方のみならず左右にも十分注意を払つて進行すべき義務があるものというべきである。しかるところ、原告は前認定のように事故車に左側から衝突されるまでその接近に気づかなかつたのであるから、左方に対する注意を怠つていたものと推認され、この過失が本件事故発生の一因をなすことは明らかである。

原告の右過失と被告浦川の前記過失(赤信号無視、右方注視義務違反)の割合は、ほぼ一対九と認められるから、被告らの本件賠償額は、前記損害の九〇パーセントにあたる二、七〇〇、七二五円にとどめるべきである。

三、被告らの弁済 八五七、六八〇円(争いがない)

四、結論

被告らは不真正連帯債務の関係で原告に対し、右二、七〇〇、七二五円から八五七、六八〇円を控除した一、八四三、〇四五円およびこれに対する昭和四二年一二月一三日から支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

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