大判例

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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6559号 判決

原告

大石道子

被告

白井田文次郎

第一 主文

一、被告は原告に対し、二、一八五、六一四円およびこれに対する昭和四二年一二月一三日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担、その余を被告の負担とする。

四、この判決一項は、かりに執行することができる。

第二 原告の申立て

被告は原告に対し、五、八二〇、八一四円およびこれに対する昭和四二年一二月一三日(本訴状送達翌日)から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(遅延損害金)を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第三争いのない事実

傷害交通事故発生

とき 昭和三九年一〇月一九日午後六時三〇分ごろ(晴天)

ところ 兵庫県川辺郡猪名川町民田オオカミ谷龍下隧道南方一、二〇〇メートル先路上(国道一七三号線、南に向かつてやや右カーブ)

事故車 普通乗用自動車

運転者 被告

受傷者 原告(当時四五才)

態様 事故車が一回転しながら道路左下約四メートルに転落し、後部座席に同乗中の原告が受傷した。

第四争点

(原告の主張)

一、被告の責任原因(民法七〇九条)

被告は前記事故発生地点付近において対向車を認めたが、対向車と離合する際は接触等の危険のないようあらかじめ十分注意すべきであり、しかも右場所が大路次川沿いのやや右にカーブしたところであるから、とくに徐行する必要があるのにかかわらず、漫然と道路の左中央寄りを進行した過失により、対向車と接触しそうになつてあわててハンドルを左に切り過ぎ道路下に転落した。

二、原告の損害

(1) 受傷部位・程度、後遺症

右胸部打撲症および第七、九、一〇肋骨々折の傷害を受け、昭和四二年三月ごろ右上肢運動障害の後遺症が顕著り、文字を書くことすら不可能である。

(2) 数額 合計五、八七五、八一四円

(イ) 療養費 計三八二、二三〇円

(A) 治療費 二五二、二三〇円

(B) 雑費 五、〇〇〇円

(C) 付添費 一二〇、〇〇〇円

(D) 通院交通費 五、〇〇〇円

(ロ) 逸失利益 計二、四九三、五八四円

料亭「よ志幸」に仲居として勤務し、一日平均一、〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による受傷および後遺症のためほとんど就労できず、とくに昭和四二年三月一日以降はまつたく働くことができなくなつた。

(A) 昭和三九年一〇月一九日から昭和四二年二月二八日までの減収損(四五〇日分) 二二五、〇〇〇円

(B) 昭和四二年三月一日以降一八年間の休業見込み損 二、二六八、五八四円

本件事故にあわなければ六五才くらいまで就労できたはずである。

(算式)

(日収一、〇〇〇円-生活費日額五〇〇円)×三〇×一二×一二・六〇三二四七一二(一八年のホフマン係数)

(ハ) 慰謝料 三、〇〇〇、〇〇〇円

前記すべての事情・今後も指圧等の治療が必要であり、将来の生活を考えるとき精神的苦痛は大である。

三、被告の弁済(受傷見舞金) 五五、〇〇〇円

四、本訴請求

損害残額五、八二〇、八一四円およびこれに対する前記遅延損害金。

(被告の主張)

一、被告は対向車を通過させるため道路左側に自車を寄せ停車したところ、左側路肩がゆるんでいたため横転したもので、事故原因となるべき運転上の過失はない。

二、弁済および示談の成立

被告は原告に対し、休業補償金六〇、〇〇〇円(二〇、〇〇〇円ずつ三か月分)、慰謝料二〇、〇〇〇円、指圧療法以外の治療費全額を支払い、昭和三九年一二月末ごろ、被告において右金員以上の支払い義務がない旨の示談が成立した。

第五証拠 〔略〕

第六争点に対する判断

一、被告の責任原因(民法七〇九条)

〔証拠略〕を総合すると、本件事故現場は幅員約五メートルのほぼ南北に通ずる山道であり、東側は数メートルの下り斜面、西側は山となつていること、被告は飲酒のうえ事故車を運転し北から南に向け右現場にさしかかつた際、前方数十メートルの地点に対向車のライトを認めこれと離合すべく道路左(東)に寄り過ぎた過失により、左前輪が路面からはみ出しゆつくり一回転しながら転落したことが認められる。

二、原告の損害

(1) 受傷部位・程度、後遺症

〔証拠略〕を総合すると、つぎの事実が認められる。

(イ) 事故当日市立池田病院で診察を受けたところ、右前胸部挫傷と診断され、右六、七、九、一〇肋骨に圧痛が認められ肋骨々折の疑いがあつたので、ばんそうこう固定および鎮痛剤の投与を与け帰宅した。

(ロ) 翌日から胸部の痛みが激しくなつたので四日間東大阪病院に通院し、湿布や注射などの治療を受けたのち小西病院に転医し、同病院において右胸部打撲症および右七、九、一〇肋骨々折の診断のもとに通院治療を続けた。

(ハ) 昭和三九年一二月に入り病状がかなり軽快したので、右治療を続けながら料亭「よ志幸」の仲居として少しずつ働くようになつたが、翌四〇年二月ごろから疲れると顔がはれるようになり、思うように働けないまま小西病院等に通院し治療を受けていた。

(ニ) しかし病状はいつこうに軽快に向かわず、かえつて昭和四二年二月ごろから右母指に痛みを感じ物をつまむのも不自由となり、外傷性上腕神経叢まひ(身体障害者福祉法別表第四の五該当)と診断されるに至つた。

(ホ) 右症状はその後現在まで継続し仲居として働くことはできないが、本件事故前は健康であり「よ志幸」の仲居として毎日働いており、また事故後外傷を受けたことはない。

以上認定の事実に前記事故の態様をあわせ判断すると、反証のない本件においては、原告の右上腕神経叢まひは本件事故による傷害の後遺症と認めるのが相当である。

(2) 数額

(イ) 指圧治療費(39・11・16~42・9・30) 二四七、五〇〇円

(〔証拠略〕)

(ロ) 雑費、付添費、通院交通費 証拠なし

(ハ) 逸失利益 計六七三、二二三円

〔証拠略〕によると、原告は昭和三六年ごろから新宮ヨシエの経営する料亭「よ志幸」の仲居として働き、一か月少なくとも三〇、〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため前記のような就労状況にあり、後遺症のため将来仲居として働くことはできないこと、よつてその逸失利益は左のとおりであることが認められる。

(A) 事故後昭和三九年一二月初めごろまで一か月半の休業損 四五、〇〇〇円

(B) 右以降昭和四二年二月二八日までの減収損 証拠不十分

(C) 昭和四二年三月一日以降八年間の減収見込み損 六二八、二二三円

本件事故にあわなければ五五才くらいまでなお八年間仲居として働くことができたものと推認されること、前記右上腕神経叢まひの後遺障害は労働基準法施行規則別表第二の一〇級六号に該当し、その労働能力喪失率は二七パーセントと認められること(昭和三二年七月二日労働基準監督局長通牒基発五五一号)から、左の算式により算出した。

(算式)

三〇、〇〇〇円×〇・二七×一二×六・四六三二(年利五分、八年のライブニツツ係数)

(ニ) 慰謝料 一、八〇〇、〇〇〇円

前記受傷部位・程度、後遺症のほか、原告本人尋問の結果により認められる左記事実をしんしやくした。

(A) 独身であり無収入のため生活保護を受けながら甥と一緒に生活している。

(B) 今後も指圧療法を続ける必要があり、きき腕の右母指が不自由なため適職を見出すのに相当な困難が予想される。

三、示談の成否

〔証拠略〕によると、原告は事故後約一か月半を経過した昭和三九年一二月初めごろから前記「よ志幸」の仲居として少しずつ働けるようになり、近いうちに傷害も全治する見通しであつたので、被告との示談交渉方を雇主の新宮ヨシエに依頼したこと、新宮は同月二〇日ごろ被告の代理人たる吉田よしえに対し示談金として三万円を要求したが、同女は被告の既支出分のほかに二万円しか支払えない旨答えたので、新宮においてその旨原告に伝えたところ原告は一切まかせる旨返答したこと、そこで新宮はそのころ示談書作成に必要な印章を原告から預かり吉田方におもむき、被告が起案した「原告はその余の損害賠償請求権を放棄する」旨の示談書(乙一号証)の原告名下に押印し、即日二万円を受領して原告に手渡したことが認められ、反対の証拠はたやすく信用しがたい。

とすると、被告主張の示談は成立したものというべきであるが、右のような示談成立に至るいきさつに〔証拠略〕を総合して判断すると、原、被告および前記各代理人は右示談当時、原告の傷害は軽微なものであり、前記右上腕神経叢まひのような重大な身体障害が残るであろうことは予期せず、したがつてこの点についてはなんらの配慮もなさず、当時における原告の病状を基礎にして少額の賠償金で右示談を締結したものと認めるのが相当である。

そうであれば、右示談によつて原告が放棄した損害賠償請求権は、当時予想していた損害についてのもののみと解すべく、その当時予想できなかつた右のような身体後遺障害に関する損害についてまで、賠償請求権を放棄したものとは解しがたい。

そこで、前記原告の損害賠償請求権のうち右の後遺障害に関するとしては、以上認定の全事実をしんしやくして、少なくとも左のとおり認めるのが相当である。

(1) 指圧治療費 五七、三九一円

昭和三九年一一月一六日から昭和四二年九月三〇日まで三四・五か月分が二四七、五〇〇円であるから、前記後遺障害が顕著となつた昭和四二年二月から九月まで約八カ月分を期間の割合に応じ案分して算出した(二四七、五〇〇円×八を三四・五で除した)。

(2) 逸失利益(昭和四二年三月一日以降八年間の減収見込み損) 六二八、二二三円

(3) 慰謝料 一、五〇〇、〇〇〇円

四、被告の弁済

原告の自認する五五、〇〇〇円および被告の主張する八〇、〇〇〇円は、いずれも前記後遺障害による損害賠償請求権に充当されるべき性質のものではないことが、以上説示したところから明白であるので、右弁済額に関する判断はしない。

五、結論

被告は原告に対し、前記後遺障害による損害合計二、一八五、六一四円およびこれに対する昭和四二年一二月一三日から支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

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