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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)731号 判決 1968年7月06日

原告

於島マサ

ほか三名

被告

東郁雄

ほか三名

主文

一、被告東郁雄、同株式会社大日運送及び同加藤義重は各自、原告於島マサに対し金三、六七五、三一六円、原告於島一枝に対し金四、七〇五、二三二円、原告於島午二及び同於島キセに対し各金三〇〇、〇〇〇円宛、及び右各金員に対する、被告東郁雄は昭和四二年三月七日、被告株式会社大日運送及び同加藤義重は昭和四二年三月六日から右各支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

二、被告東郁雄及び同株式会社大日運送は各自原告於島マサに対し金二一、六六六円原告於島一枝に対し金四三、三三三円及び右各金員に対する、被告東郁雄は昭和四二年三月七日、被告株式会社大日運送は昭和四二年三月六日から右各支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

三、原告於島マサ及び同於島一枝の被告東郁雄、同株式会社大日運送、同加藤義重に対するその余の請求並びに原告らの被告浪速海運株式会社に対する請求はいずれもこれを棄却する。

四、訴訟費用中原告らと被告東郁雄、同株式会社大日運送、同加藤義重との間に生じた分は同被告らの負担とし、原告らと被告浪速海運株式会社との間に生じた分は原告らの負担とする。

五、この判決第一、二項は仮りに執行することができる。

六、但し、被告東郁雄、同株式会社大日運送、同加藤義重において共同で、原告於島マサに対し金三、〇〇〇、〇〇〇円、原告於島一枝に対し金三、七〇〇、〇〇〇円、原告於島午二及び同於島キセに対し各金二四〇、〇〇〇円宛の各担保を供するときは、右各仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一申立

一、原告マサ、同一枝

被告らは各自、原告マサに対し金三、七四三、九七八円、原告一枝に対し金四、八四二、五五六円、及び右各金員に対する、被告株式会社大日運送、同加藤は昭和四二年三月六日、被告東、同浪速海運株式会社は昭和四二年三月七日から、右各支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二、原告午二、同キセ

被告東、同株式会社大日運送、同加藤に対し主文第一、四項同旨の判決並びに仮執行の宣言。

被告浪速海運株式会社は原告午二及び同キセに対し、各金三〇〇、〇〇〇円宛及び右各金員に対する昭和四二年三月七日から支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告浪速海運株式会社の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件事故発生

とき 昭和四一年七月二九日午後五時四五分ごろ

ところ 大阪市北区天満橋筋二丁三六番地先交差点

事故車 大型貨物自動車(大一え八〇五号)

運転者 被告東郁雄

死亡者 於島栄吉(第二種原動機付自転車運転)

態様 前記交差点において、東から南へ左折しようとした事故車が、その左側を東から西に向い併進していた於島栄吉が運転する第二種原動機付自転車に事故車左側面部を接触、転倒させて後輪で栄吉を轢過し、よつて同人は即死した。

二、事故車の運行供用

(1)  被告株式会社大日運送(以下被告大日運送という)は事故車を保有し自己の運送業のために使用し運行の用に供していた。

(2)  運転者の使用関係

被告大日運送は被告東を運転手として雇用しその業務に従事させていた。

(3)  事業の執行

本件事故当時被告東は、被告大日運送の営業のため事故車を運転していた。

三、被告大日運送の無免許営業

被告大日運送は運輸大臣の免許を受けずに自動車運送事業を営なんでいた。

四、被告加藤の地位及び保険契約の締結

被告加藤は被告大日運送の代表取締役であり、事故車につき日産火災海上保険株式会社との間に保険金二、〇〇〇、〇〇〇円のいわゆる対人任意保険契約を締結している。

五、被告浪速海運株式会社(以下被告浪速海運という)の営業目的。

被告浪速海運の営業目的は(1)海運業並びに海運仲立業(2)保険代理業(3)右各項に附帯する一切の事業である。

六、原告車の損害

本件事故当時栄吉が運転していた第二種原動機付自転車(以下原告車という)は、栄吉が本件事故の四日前である昭和四一年七月二五日代金六五、〇〇〇円で購入したものである。

七、亡栄吉の事故時の年令は三六才である。

八、身分関係

被害者栄吉と原告らの身分関係は左のとおり。

原告マサは栄吉の妻、原告一枝は同人の子、原告午二及び同キセは同人の父母。

九、損益相殺

原告らは自賠保険金一、五〇〇、〇〇〇円の支払を受け、これを左のとおり充当した。

(一)  原告マサにつき 六〇〇、〇〇〇円

(二)  原告一枝につき 五〇〇、〇〇〇円

(三)  原告午二、同キセにつき各二〇〇、〇〇〇円宛

第三争点

(原告らの主張)

一、責任原因

被告らは左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

(一) 被告東

根拠 民法七〇九条

該当事実

被告東には左の如き事故車運行上の過失があつた。

被告東は事故車を時速約三五粁で運転して東進し本件交差点で左折しようとした際、予め左折の合図をしできる限り道路の左側に寄つて徐行し左側の併進車または後続車との安全を確認すべきであるのに、左側方の安全を十分確認せず、いきなり道路中央附近から前記速度のまま左折したものである。

(二) 被告大日運送

根拠 自賠法三条 民法七一五条一項

該当事実 前記第二の二(1)ないし(3)の事実および右(一)の事実

(三) 被告加藤

根拠 自賠法三条、民法七一五条一項

該当事実

被告加藤は事故車を保有し被告東を雇傭して山義の屋号で運送業を営なんでいたところ、本件事故当時被告東は被告加藤の営業のため事故車を運転しており、第三の一(一)の如き事故車運転上の過失があつた。

(四) 被告浪速海運株式会社(以下被告浪速海運という)

根拠 商法二三条、民法七一五条一項、自賠法三条

該当事実

第二の二ないし五の事実および左記事実

(1) 被告大日運送は資本金一、五〇〇、〇〇〇円で営業のために保有している貨物自動車は事故車を含め二台にすぎず、その本店は道路を隔てて被告浪速海運の本店の向い側にあり、右二台の自動車は被告浪速海運本店前路上に駐車するのを常としている。

(2) 被告浪速海運は被告大日運送に対し自己の商号を使用して運送業を営むことを許諾していた。

(3) 被告浪速海運は内水運送した鋼棒等を陸揚後陸上運送するため被告大日運送をして専属的に下請運送を行わしめていた。

仮りに専属的下請でないとしても本件事故当時被告大日運送は被告浪速海運との下請契約に基ずきその執行のため事故車を運行していた。

(4) 被告浪速海運は運送契約(前記鋼棒等の陸上運送)を履行するにあたり、同被告の社名を事故車の車体に表示させてあたかも自ら同車を所有して運送に従事している如く装い、顧客に対しその旨信ぜしめて信用を得ていたものであるから、事故車の運行によつて利益を享受していたものである。

二、損害の発生

(一) 逸失利益

亡栄吉は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

右算定の根拠は次のとおり。

(1) 職業 大工

(2) 収入

一日平均二、五六四円、一ケ月平均六五、四〇〇円であるが、一ケ年六〇〇、〇〇〇円の限度で主張する。

(3) 生活費

右年収の二八・六パーセント

(4) 純収益

右(2)と(3)の差額一ケ年四二八、四〇〇円

(5) 就労可能年数

当時の年令三六年

右平均余命の範囲内で六三才まで二七年間就労可能

(6) 逸失利益額

亡栄吉の逸失利益の事故時における現価は金七、一九八、八三四円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による、但し、円未満切捨)。

(二) 物的損害

亡栄吉は第二の六の原告車が破損したため六五、〇〇〇円相当の損害を受けた。

(三) 権利の承継

原告マサ、同一枝は前記第二の八の身分関係に基き亡栄吉の右(一)および(二)の損害賠償請求権を左のとおり承継取得した。

(1) 原告マサ 三分の一の二、四二一、二七八円

(2) 原告一枝 三分の二の四、八四二、五五六円

(四) 葬祭費

原告マサは亡栄吉の葬祭費として一二二、七〇〇円を支払つた。

(五) 弁護士費用

原告マサが本訴代理人たる弁護士に支払うべき費用は左のとおり

(1) 着手金 三〇〇、〇〇〇円

(2) 報酬 五〇〇、〇〇〇円

合計 八〇〇、〇〇〇円

(六) 精神的損害(慰謝料)

原告マサにつき一、〇〇〇、〇〇〇円、その余の原告らにつき各五〇〇、〇〇〇円宛。

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 原告らと栄吉との身分関係は前記の如くであり、原告らは、栄吉に扶養され平和で健全な家庭を営んでいたが、本件事故により突如として家庭の大黒柱であり唯一の働き手である栄吉を失い、全く悲嘆にくれ将来に対する希望を喪失した。

(2) 原告らは、栄吉の死因が左上腕部から背部、右顔面右上腕に亘る轢傷であつたので、その無惨さに非常な衝撃を受けた。

三、本訴請求

以上により、被告らに対し、原告マサは右二(一)(二)の三分の一の二、四二一、二七八円と同二(四)ないし(六)との合計四、三四三、九七八円から第三の九の自賠保険金六〇〇、〇〇〇円を控除した残額三、七四三、九七八円、原告一枝は右二(一)(二)の三分の二の四、八四二、五五六円と同二(六)との合計五、三四二、五五六円から第二の九の自賠保険金五〇〇、〇〇〇円を控除した残額四、八四二、五五六円、原告午二及び同キセは各右二(六)の五〇〇、〇〇〇円から第二の九の自賠保険金二〇〇、〇〇〇円を控除した残額三〇〇、〇〇〇円宛、及び右各金員に対する、被告らに対し本件訴状が送達された日の翌日である被告大日運送、同加藤に対しては昭和四二年三月六日被告東同浪速海運に対しては同年三月七日から各支払済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告らの主張)

一、被告らの運行者並びに使用者責任の免責

(一) 被告東の無責

本件事故につき被告東は無過失である。

本件事故は亡栄吉の過失により発生したものである。

被告東は事故車を運転し時速約四〇粁で西進して来て本件交差点から約四三米手前で原告車を追い越し、約一七米進行して交差点で左折するため時速約三五粁に減速するとともに方向指示器により左折の合図をし、その後約一六米進行した地点で左バツクミラーにより後方の安全を確認してから約二三米進行して交差点に入り左折した時原告車が後方から事故車左側前輪附近に衝突したもので、事故車は左折の合図をし左折していたのであるから、後続車である栄吉において事故車の左折を妨害してはならないにも拘らず事故車の方向指示器の指示に注意せず漫然と交差点を直進しようとしたため本件事故が発生したものである。なお被告東は事故車が大型貨物自動車であるため左折に際し事故車を余りに道路左側に寄せると原告車を巻き込む危険があつたので、これを避けるため事故車を道路左端に寄せる措置を採らずあえて稍大曲りしたものであるから、当時の現場附近の状況からみて被告東には事故車運転上の故意、過失はなかつた。

(二) 選任、監督上の無過失

被告大日運送は左のとおり被告東の選任およびその事業の監督につき注意義務を尽している。

(1) 被告大日運送は平素から雇用運転手に対し交通法規を遵守して運転するよう注意しており、又速度違反等の無謀運転を誘発するような時間的拘束を課していない。

(2) 被告東は運転免許証の交付を受けており、道路交通法違反の前科はない。

(三) 車両の機能、構造上の無欠

事故車は完全に整備されており、本件事故の原因となるべき機能、構造上の欠陥はなかつた。

二、過失相殺

亡栄吉にも本件事故の発生につき前記の如き過失があるから過失相殺を主張する。

三、原告らの請求の不当性

(一) 被告浪速海運は被告大日運送に対し自己の商号を使用して運送業を営むことを許諾したことはなく、いわゆる名板貸の責任は禁反言の法理から取引の相手方を保護するために設けられたものであるから取引行為を伴わない本件交通事故の如き事実行為については生じないものである。

(二) 被告浪速海運は被告大日運送との間で原告ら主張の如き専属下請契約を締結したことはなく、本件事故当時の事故車の運行も被告浪速海運の下請運送のためではなかつた。

(三) 事故車の車体に被告浪速海運の社名を表示していたことは認めるが、これは同被告の宣伝広告のためであつたにすぎず、同被告の顧客らは同被告が海上運送のみに従事し事故車を所有していないことを知悉していた。

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

一、被告らの責任原因

(一)  被告東

根拠 民法七〇九条

該当事実 左のとおり。

〔証拠略〕を綜合すれば、本件東西に通じる道路は幅員一五七米(但し歩道を除く)で中央に市電の軌道敷があり、軌道敷を除いた西行車道の幅員は四・八米であり、本件交差点には信号機が設置されてあること、被告東は事故車を運転し東西路上軌道敷ぎわを時速四〇粁で西進して来て交差点の約三九・二米手前で先行していた原告車を追い抜き、約一七米進行して制動操作を行ない約三五粁に減速し、対面信号機が青色を表示していたのでそのまま約一六・七米進行した地点で一瞬バツクミラーにより後方の安全を確認し、約二三・一米進行した軌道敷寄の地点から前記速度のまま左折を始めたところ、交差点に約一七米進入した地点で、事故車左側を直進通過しようとした原告車に衝突したものと認められる。

右事実に基けば、被告東は事故車を運転し本件交差点に差しかかつた際、交差点において左折しようとしたのであるから、あらかじめその前からできる限り道路の左側に寄つて徐行し、且つ左折に際しては左側並びに後方の安全を確認すべきであつたにも拘らず、道路の左端に寄らず市電軌道敷寄を時速約三五粁で進行し、そのまま左側後方の安全を確認せずに左折したため、原告車に衝突したものと認められ、従つて被告東は事故車運行上の過失責任を免れない。

(二)  被告大日運送

根拠 自賠法三条、民法七一五条一項

該当事実 第二の二(1)ないし(3)の事実及び右(一)の事実

(三)  被告加藤

(1) 事故車の運行者責任

根拠 自賠法三条

該当事実 特記すべき事実は左のとおり。

(イ) 第二の二(3)、三及び四の事実、

(ロ) 被告加藤はもと個人で運送業を営なんでいたが、昭和三八年頃その保有する自動車等を出資して株式会社を設立し、その後商号変更を行い被告大日運送としたが、同被告の資本金は一、五〇〇、〇〇〇円で使用する自動車は七台、従業員は九名であり、被告加藤の個人営業当時の商標を引き続き使用している。

(ハ) 被告大日運送は前記の如く自動車運送事業の営業免許を取得していないので、同被告の使用車は被告加藤名義で自動車登録原簿に登録していたところ、被告加藤も同免許を受けていなかつたので右車輛に営業用番号標を使用・表示させるため、被告加藤において昭和三九年一月頃自動車運送事業免許を受けているが休業状態にあつた共栄輸送株式会社の株式を譲り受けて事実上同会社の営業支配権を取得し、その後は被告大日運送の事故車を含む使用車の登録簿上の名義はいずれも共栄運輸株式会社に変えたが、同会社は本件事故当時迄休業状態のままであつた。

(ニ) 被告加藤は共栄運輸株式会社の代表取締役にも就任しており、被告加藤、同大日運送及び右訴外会社の住所及び本店はいずれも同一場所にある。

(ホ) 被告加藤は現実には被告大日運送の代表者としてのみ同被告の被用者の選任、監督を担当していた。

(ヘ) 被告加藤の責任

以上の事実に基けば、被告大日運送ばかりでなく被告加藤個人も事故車の運行を支配し、その運行利益が帰属する地位にあつたものと認められ、従つて被告加藤は事故車の運行者責任を免れないものと言うべきである。(〔証拠略〕)

(2) 使用者責任

被告加藤個人が被告東を選任し、指揮監督していたことを認めるに足りる証拠はないので、被告加藤は被告東の使用者責任を負はないものと言うべきである。

(四)  被告浪速海運

(1) 〔証拠略〕によれば、被告大日運送は被告浪速海運と道路を隔てて向いあつて存することが認められ、事故車の車体に被告浪速海運の社名が表示されていたこと及び前記第二の三、五の如く被告大日運送の無免許運送と被告浪速海運の営業目的はいずれも当事者間に争いなく、又被告大日運送の経営規模は前示第五の一(三)(1)(ロ)の如くであるが、〔証拠略〕によれば、被告大日運送が被告浪速海運との契約に基づきなす運送は、被告大日運送の保有車の総運行量の二割程度でこれによる収入は一ケ月七〇〇、〇〇〇円程度であり、昭和四一年五月ごろ、被告大日運送は被告浪速海運との契約量を増加して貰うことを期待し、被告浪速海運は自社の広告のため同被告の社名を被告大日運送の保有車両に表示したものであるが、被告大日運送の保有車七台中被告浪速海運の社名を表示したものは事故車を含め二台にすぎず(事故車の他の一台については本件事故の数日前に記載されたもの)、被告浪速海運の社名を表示した車両についても、別段、これを専ら同被告との運送契約のために用い若しくは特に同被告のために優先して運行させていたものではなく、被告浪速海運は被告大日運送に対し資本の出資、取締役等の役員の派遣ないし兼任、手形割引による信用の供与等の関係はいずれもなく、本件事故当時の事故車の運行は被告大日運送が尼鉄海運(被告浪速海運とは無関係)との契約に基づき尼鉄海運から京都府下の工事現場迄鋼材を運送した帰社途中であつたことが認められ、又前示一(三)(1)(ハ)の如く被告大日運送の保有車はいずれも共栄運輸株式会社名義を以つて自動車登録原簿に記載されていることが認められるので、これら事実に照らすと前記事実から直ちに被告浪速海運が被告大日運送に対し自己の商号を使用して運送業を営むことを許諾し、被告大日運送は被告浪速海運の名義で運送業を営なんでいたこと、或いは被告浪速海運が事故車の運行を支配しその運行による利益を享受していた事実を推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 被告浪速海運が被告大日運送に対し専属的に下請運送を行わさせていたとの原告らの主張に添う証人関川の証言は被告浪速海運代表者本人の供述と対比し、容易に措信できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

又、本件事故当時、被告大日運送は被告浪速海運との下請契約の執行のため事故車を運行中であつたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、却つて、本件事故当時被告大日運送は尼鉄海運(被告浪速海運とは無関係)との契約に基づき事故車を用いて尼鉄海運から京都府下の工事現場迄鋼材を運送した帰社途中であつたことが前示のとおりとすれば、本件事故当時の運行が被告浪速海運との下請契約の執行のためになされたものでないことは明らかと言うべきである。

(3) 原告らは、被告浪速海運がその社名を事故車に表示させることにより顧客に対し同車を所有している旨の信用を得ていたことをもつて同被告が事故車の運行による利益を享受していたものであり、事故車の運行供用者であると主張するが、自賠法三条にいう運行供用者とは自動車の運行により利益を享受するとともにこれに対する支配権を有する者と解すべきところ、被告浪速海運が右の如き信用享受の利益を得ていたとしても事故車の運行を支配していたと認め難いことは前示のとおりであるから、右主張は失当として採るを得ない。

(4) 結局、本件事故当時被告浪速海運が被告大日運送に対しいわゆる名板貸をしたとか、直接間接に指揮監督を及ぼし若しくは及ぼすべき関係にあつたこと、或いは事故車の運行を支配しその利益が帰属していたことを認めるに足りる証拠はないので、被告浪速海運は本件事故により亡栄吉及び原告らに生じた損害を賠償すべき責はないと言うべきである。

二、被告らの免責の抗弁

(一)  被告大日運送の使用者免責の抗弁

〔証拠略〕によれば、被告大日運送は運転免許を取得している被告東を選任し、その後は交通法規が改正された時にこれを同被告に注意していたことが認められるが、右事実のみを以つては被告大日運送が被告東の選任及び事業の執行について相当の注意を尽したと言うことはできず、他に被告大日運送において右選任監督につき相当の注意を尽したことを認めるに足りる証拠はないので、同被告の免責の主張は理由がない。

(二)  被告加藤の運行者免責の抗弁

前記一(一)の如く被告東には事故車運行上の過失が認められるから、被告加藤の運行者免責の主張はその余の判断をする迄もなく理由がない。

三、亡栄吉及び原告らの損害

(一)  逸失利益

亡栄吉は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

右算定の根拠は次のとおり。

(1) 職業

大工 (〔証拠略〕)

(2) 収入

一ケ月平均五〇、〇〇〇円を下らないものと認められる。(〔証拠略〕)

(3) 生活費

右収入額、栄吉の職業、年令、及び本件事故当時栄吉の家族は、栄吉と原告四名であつたことに照らすと、月額一五、〇〇〇円を超えないものと認めるのが相当である。(〔証拠略〕)

(4) 純収益

右(2)と(3)の差額一ケ月三五、〇〇〇円

(5) 就労可能年数

事故当時の年令三六年(争いがない)

平均余命三五・九五年(昭和四一年簡易生命表)

右平均余命の範囲内で六三才まで二七年間就労可能(〔証拠略〕)

(6) 逸失利益額

亡栄吉の前記就労期間中の逸失利益の事故時における現価は金七、〇五七、八四八円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による、但し、円未満切捨)。

(算式) (年間純益) (ホフマン係数)

四二〇、〇〇〇×一六・八〇四四=七、〇五七、八四八

(二)  物的損害

原告車は破損し使用不可能となつたこと及び第二の六の事実によれば原告車の破損による損害は六五、〇〇〇円と認められる。(〔証拠略〕)

(三)  権利の承継

原告マサ、同一枝は前記第二の八の身分関係に基き亡栄吉の右(一)及び(二)の損害賠償請求権を左の如く承継取得した。

(1) 原告マサ 三分の一の二、三七四、二八二円(右(一)につき二、三五二、六一六円、同(二)につき二一、六六六円)

(2) 原告一枝 三分の二の四、七四八、五六五円(右(一)につき四、七〇五、二三二円、同(二)につき四三、三三三円)

(四)  葬祭費

原告マサは亡栄吉の葬祭費として一二二、七〇〇円を支払つたことが認められる。(〔証拠略〕)

(五)  弁護士費用

原告マサはその主張の如き費用を支出し債務を負担したものと認められ、本件事案の内容、審理の経過、認容すべき前記の損害額に照らすと、被告東、同大日運送、同加藤に対し本件事故による損害として賠償を求め得べきものは、(イ)着手金 三〇〇、〇〇〇円、(ロ)報酬 五〇〇、〇〇〇円、合計八〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。(〔証拠略〕)

(六)  精神的損害(慰謝料)

原告マサにつき一、〇〇〇、〇〇〇円、その余の原告らにつき各五〇〇、〇〇〇円宛。

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

本件事故の態様、原告らと亡栄吉との身分関係は前示のとおりであり、原告らは同人に扶養されていたのに不慮の事故により家庭の支柱であつた栄吉を失い、同人が左上腕部から背部、右顔面右上腕に亘る轢傷をも受けた事実により、多大の精神的苦痛を受けた。(〔証拠略〕)

四、過失相殺の抗弁

事故車が左折に際し左折の合図をしたのに栄吉がこれに対する注意を怠つた事実を認めるに足りる証拠はなく、その他被害者栄吉に損害賠償額算定上斟酌するに足る過失を認めるに足りる証拠もない。

五、結論

以上により、被告東及び同大日運送は、原告マサに対し右三(一)及び(二)の三分の一の二、三七四、二八二円と同三(四)ないし(六)との合計四、二九六、九八二円から第二の九の六〇〇、〇〇〇円を控除した残額三、六九六、九八二円、原告一枝に対し右三(一)及び(二)の三分の二の四、七四八、五六五円と同三(六)との合計五、二四八、五六五円から第二の九の五〇〇、〇〇〇円を控除した残額四、七四八、五六五円、原告午二及び同キセに対し各右三(六)の五〇〇、〇〇〇円から第二の九の二〇〇、〇〇〇円を控除した残額三〇〇、〇〇〇円宛、及び右各金員に対する。同被告らに本件訴状が送達された日の翌日、すなわち被告東は昭和四二年三月七日・被告大日運送は同年三月六日、から各支払済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

被告加藤は、原告マサに対し右三(一)の三分の一の二、三五二、六一六円と同三(四)ないし(六)との合計四、二七五、三一六円から第二の九の六〇〇、〇〇〇円を控除した残額三、六七五、三一六円、原告一枝に対し右三(一)の三分の二の四、七〇五、二三二円と同三(六)との合計五、二〇五、二三二円から第二の九の五〇〇、〇〇〇円を控除した残額四、七〇五、二三二円、原告午二及び同キセに対し各右三(六)の五〇〇、〇〇〇円から第二の九の二〇〇、〇〇〇円を控除した残額三〇〇、〇〇〇円宛、及び右各金員に対する被告加藤に本件訴状が送達された日の翌日である昭和四二年三月六日から支払済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度で正当として認容し、原告マサ、同一枝の被告東、同大日運送、同加藤に対するその余の請求並びに原告らの被告浪速海運に対するその余の請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条一項、仮執行並びに同免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 亀井左取 上野茂 大喜多啓光)

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