大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)14号 判決 1972年3月28日
原告 金貴順
被告 大阪国税局長
訴訟代理人 鎌田泰輝 ほか七名
主文
一 被告が原告に対し、昭和四一年五月二四日付納付通知書によつて、原告を訴外不二越ゴム株式会杜滞納にかかる国税の第二次納税義務者としてなした納付告知処分を取消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
(当事者の求めた裁判)
一 原告
(一) 被告が原告に対し、昭和四一年五月二四日付納付通知書によつて、原告を訴外不二越ゴム株式会杜滞納にかかる国税の第二次納税義務者としてなした納付告知処分を取消す。
(二) 被告が原告に対し、昭和四一年一一月三〇日付でした原告の右納付告知処分に対する異議の申立てを棄却する旨の決定を取消す。
(三) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二 被告
(一) 原告の請求はいずれもこれを棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
(当事者の主張)
第一原告の請求原因
一 被告は原告に対し、昭和四一年五月二四日付納付通知書によつて、原告を訴外不二越ゴム株式会社(以下訴外会社という。)滞納にかかる国税の第二次納税義務者として金一六九万四一八七円を納付すべきものとする納付告知処分(以下本件告知処分という。)をなし、その旨原告に通知した。
二 これに対し原告は、同年六月二日被告に異議の申立てをしたところ、被告は同年一一月三〇日付でこれを棄却する旨の決定(以下本件決定という。)をなし、その旨原告に通知したが、右決定書には棄却の理由として「不二越ゴム株式会社の建物売却代金の一部が請求人(原告)に分配および無償譲渡されたことは同法人の調査および更生処分の内容によつて明らかであり、原処分はこれにもとづいた処分で異議申立てには理由がない。」
と記載されている。
三(一) しかし原告は訴外会社から解散に伴う残余財産の分配およびその無償譲渡を受けたことはないから、本件告知処分は違法として取消しを免れない。
(二) また本件決定に付記された前記理由は、抽象的でその趣旨が不明であるから理由の記載を欠いているに等しく、したがつて本件決定も違決として取消されるべきである。
第二被告の答弁および主張
一 請求原因一、二の事実は認める。同三、(一)の事実は否認する。同三(二)の主張は争う。
二(一) 訴外会社は、昭和三六年五月一五日解散した解散法人である。
(二) 訴外会社は訴外河静子からその所有の別紙物件目録<省略>(二)記載の土地(以下本件土地という。)を借受け、地上に同目録<省略>(一)記載の建物を所有していたものであるが、同年四月三日ごろ右借地権付建物(以下建物のみを指すときは本件建物、借地権を含むときは本件借地権付建物という。)を、河静子が所有する本件土地と一括して、訴外有限会社ナショナル(以下ナシヨナルという。)に代金九二五万円で売却した。しかして右代金のうち本件借地権付建物の売却代金相当額は当然訴外会社に属すべきところ、本件建物の評価額を金九六万一、二五〇円、本件土地(更地)の評価額を金八二八万八、七五〇円とし、借地権の評価額を土地(更地)の四五パーセント即ち金三七二万九、九三七円として算定すると、その金額は金四六九万一、一八七円となるが、その結果訴外会社には固定資産売却益が発生した。
(三) しかるに訴外会社は右売却益にともなう法人税の申告をしなかつたので、所轄の訴外松江税務署長は、同年九月三〇日訴外会社の同年三月一日ないし同年五月一五日事業年度(以下解散事業年度という。)の法人税につき課税標準たる所得金額を金三五〇万三、〇九七円(算出根拠は別表損益計算書<省略>記載のとおりである。)、法人税額を金一三八万五、四六〇円、無申告加算税を金二七万七、〇〇〇円とする決定処分をした。
(四) 訴外会社はこれに対し、同年一〇月二六日松江税務署長に対し、再調査請求をしたが、右再調査請求は、訴外会社が同年一〇月二〇日本店を大阪市生野区猪飼野中四丁目一七番地に移転したため、松江税務署長から所轄の訴外生野税務署長に移送され、その後三カ月を経過したので、被告に対し審査請求があつたものとみなされ、被告は昭和三八年九月二七日棄却の裁決をしその旨通知したが、これに対しては訴外会社から訴えの提起がなされなかつたので、前記決定処分は確定した。
(五) 以上のとおり訴外会杜は解散事業年度の法人税金一三八万五、四六〇円、無申告加算税金二七万七、〇〇〇円(これらの法定納期限は昭和三六年七月一五日である。)の国税を納付する義務を負うに至つたが、現在に至るもこれを納付しない。
三(一) 本件売却代金九二五万円のうち、金二九九万七、〇〇〇円は訴外会社の債務の弁済に充てられたが、残額金五二五万三、〇〇〇円については原告が昭和三六年四月六日金一五〇万円、同年五月一八日金四七五万三、〇〇〇円を受領した。
ところで訴外会社に帰属すべき本件借地権付建物の売却代金相当額は前記のとおり金四六九万一、一八七円であり、これから右の債務の弁済に充てられた金二九九万七、〇〇〇円を差し引くと訴外会社の残余財産の額は金一六九万四、一八七円となるが、訴外会社はその全額を株主であつた原告に引渡したことになる。その結果訴外会社は無資産となり前記国税を徴収することは不能となつた。
(二) ところで、訴外会社の資本金は金一二〇万円、うち原告出資額は二五〇株、金二五万円であつたので、残余財産金一六九万四、一八七円のうち、つぎの算式による金三五万二、九五五円は訴外会社の解散に伴い原告がその残余財産の分配をうけたものであり、原告は国税徴収法第三四条により訴外会社の前記滞納国税につき第二次納税義務がある。
算式:1,694,187円×(250,000円/1,200,000円)= 352,955円
(三) また右金三五万二、九五五円を差し引いた残額金一三四万一、二三二円については、原告がこれを取得すべき何らの理由がなく、訴外会社から原告に無償で譲渡されたものであり、しかもこの無償譲渡は滞納国税の法定納期限(昭和三六年七月一五日)の一年前の日(昭和三五年七月一五日)以後になされたものなので原告は国税徴収法第三九条により右金額の限度内で第二次納税義務がある。
(四) 被告は訴外会社の国税の徴収につき、昭和三七年四月二五日当時の国税通則法第四三条第三項の規定により所轄生野税務署長から徴収の引継を受けた。
四 よつて被告のなした本件告知処分に何らの違法はない。
第三被告の主張に対する原告の答弁
一(一) 被告の主張二、(一)の事実は否認する。訴外会社につき、昭和三六年五月一五日解散に関する臨時株主総会を開催し、解散を決議した旨の臨時株主総会議事録および解散登記申請書等が作成されているけれども、訴外会社が臨時株主総会を開催した事実はまつたくない。
(二) 同二、(二)の事実のうち、訴外会杜が昭和三六年四月三日ごろ、その所有にかかる本件建物を、訴外河静子の所有にかかる本件土地と一括してナショナルに売却したことは認めるが、右売却代金が金九二五万円であることは不知、訴外会杜に本件建物の売却益が発生したことは認めるが、借地権付であることは否認する。訴外会社は河静子から本件土地を借りていたが、それは使用貸借にすぎなかつた。かりに訴外会社に借地権があるとしてもその評価額が土地(更地)の四五パーセントであることは争う、したがつて本件借地権付建物の売却代金相当額が金四六九万一、一八七円であることも争う。
(三) 同二、(三)の事実のうち、松江税務署長が同項記載の決定処分をしたことは認める。
(四) 同二、(四)の事実のうち、訴外会社が同年一〇月二六日松江税務署長に対し再調査請求をしたこと、訴外会社が訴えを提起しなかつたことは認めるが、訴外会社が同年一〇月二〇日本店を松江市から大阪市生野区猪飼野中四丁目一七番地に移転したことは否認する、その余の事実はすべて不知、訴外会社が同年一〇月二〇日本店移転に関する臨時株主総会を開催し、本店移転を決議した旨の臨時株主総会議事録および本店移転登記申請書等は存在するけれども、そのような本店移転決議成立の事実はまつたくない。
(五) 同二、(五)の事実のうち、訴外会社の法人税金一三八万五、四六〇円、無申告加算税金二七万七、〇〇〇円の法定納期限が昭和三六年七月一五日であることは不知。
二(一) 被告の主張三、(一)の事実のうち、訴外会社が本件売却代金のうち、金二九九万七、〇〇〇円を自己の債務の弁済に充てたことは不知、原告が訴外会社の株主であつたことは認める、その余の事実は否認する。
(二) 同三、(二)の事実のうち、訴外会社の資本金が金一二〇万円であること、原告の出資額が二五〇株、金二五万円であつたことは認めるが、原告が残余財産金一六九万四、一八七円のうち金三五万二、九五五円の分配をうけたことは否認する。
(三) 同三、(三)の事実のうち、原告が右残余財産のうち右金三五万二、九五五円を差し引いた残額金一三四万一、二三二円を無償で譲渡をうけたことは否認する。
(四) 同三、(四)の事実は不知。
第四原告の答弁に対する被告の反論
一 訴外会杜は資本金一二〇万円の小規模、小資本の株式会社であつて、株主中原告、代表取締役市川昇、監査役森永忠夫の三名が実質株主であり、他はいずれもいわゆる名目株主であつて、その保有株式は実質上はすべて原告に帰属するものであり、原告は実に会社株式総数一二〇〇株のうち九〇〇株の株式を所有し、訴外会社の実権を掌握するワンマン的経営者であつた。
そして本件売買にさいし、訴外会社の実質株主である原告、市川昇および森永忠夫は松江市内において会合し、訴外会社は本件借地権付建物を買主であるナショナルに引渡すと同時に解散すること、清算人に河静子が就任すること、本店を松江市から大阪市に移転することについて合意が成立した。
したがつて右の会合は株主全員が任意出席して開催された解散および本店移転に関する臨時株主総会と認め得べきものであり、会社解散の臨時株主総会議事録、本店移転に関する臨時株主総会の議事録はすでになされた議決事項を記載したもので架空のものでなく、また解散および本店移転の各登記もいずれも真正なものである。
二 かりに右株主総会の招集手続に瑕疵があるとしてもこのような瑕疵は株主総会決議取消の訴えによらなければ主張しえないものである。
三 以上の主張が理由なく訴外会社の解散および本店移転の各登記が株主総会の決議によらないでなされた不実のものとしても原告は商法第一四条により登記事項が不実であることをもつて善意の第三者である被告に対抗しえないものである。もつとも同法条は直接には登記義務者である訴外会社の責任を規定したものであつて原告の責任を規定したものではないが、右各登記はいずれも原告が解散および本店移転に関する株主総会の決議が存しないことを知りながら、原告の指示と承諾により代表取締役市川昇および監査役森永忠夫によりなされたものであるから、原告は登記義務者である訴外会杜と連帯責任を負うべきである。
第五被告の反論に対する原告の答弁
すべて争う。
<証拠関係省略>
理由
一 請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで被告のなした本件告知処分に瑕疵があるかどうかについて判断することとするが、被告は、原告が訴外会社から本件借地権付建物の売却代金相当額金四六九万一、一八七円のうち金一六九万四、一八七円を解散に伴う残余財産の分配として受領ないしはその無償譲渡を受けたものとして、本件告知処分におよんだこと明らかであるから、右事実の存否について検討する。
(一) 訴外会社が本件建物を所有し、その敷地である河静子所有の本件土地を使用占有していたことは当事者間に争いがないところ、いずれも成立に争いのない<証拠省略>ならびに原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、訴外会社は昭和二八年二月六日設立されて以来、河静子から本件土地を無償で借受け使用していた(使用貸借)ことを認めることができる。この点について証人市川昇の証言中、訴外会社が地代として月々金二万五、〇〇〇円を河静子に支払つていた旨の供述部分は前記事実認定に供した各証拠に照らしたやすく信用することができず、また同証人の証言によつて真正に成立したものと認められる<証拠省略>には「地代三〇万円」、「河静子地代未払金八万五、〇〇〇円」なる記載が存するけれども、原告本人尋問の結果によれば、右記載は訴外会社が課税を免れる目的で地代を支払つていたように仮装したものと認められるから前記認定の妨げとなるものではない。そして他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) 訴外会杜は本件建物を、また河静子は本件土地を、昭和三六年四月三日ごろ、一括してナショナルに売却したことは当事者間争いがなく、<証拠省略>証人市川昇、同三宅三郎の各証言(但し証人市川昇の証言中前記の信用しないものを除く)ならびに原告本人尋問の結果を総合して判断すると、本件土地建物の売買代金は金九二五万であること、そのうち訴外会社は同月二七日金一四九万円を受領し、自己の債務の弁済に充てたこと、原告は同月六日金一五〇万円、同年五月一八日ごろ金三七〇万円を銀行から送金を受けて受領したこと、残額約金二五六万円の具体的使途は必ずしも明らかでないことを認めることができ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。
(三) 以上からすると本件売却代金九二五万円中訴外会社が取得すべき金額は本件建物価額にすぎないものと考えられるところ、その金額は、<証拠省略>及び証人長見昭吾の証言により認められる本件建物の帳簿価格金一一三万六、〇三四円、(証人長見昭吾の証言によれば松江税務署は本件建物の売却当時の時価を約九〇万円と評価していた)以上には出ないことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。
(四) ところで少くとも右の金額を超える金一四九万円が訴外会社の債務の弁済に充てられたことは前記認定のとおりであるから少くとも残余相当額はすべて本件土地の売却代金として河静子に帰属すべきものと認めるのが相当である。
(五) 従つて原告が二回に亘り銀行送金を受けて受領した金額約五二〇万円はすべて本件土地代金を河静子に代つて受領したもので、被告主張のように訴外会社に帰属する本件建物の売却代金を受領したものでないことが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく河静子が送金を受けて受領した右認定の金額の金員の性質を誤認したことにより被告のなした本件告知処分には取消すべきかしがあるというべきである。
三 つぎに被告のなした本件決定に理由の付記を欠いたに等しい瑕疵があるとの原告の主張について検討する。
異議の申立てに対する棄却決定の理由付記の程度としては、原処分を正当として維持したその判断の根拠を申立人に理解できる程度に具体的に記載すべきものと解されるところ、請求原因の一の当事者間に争いのない事実によれば、本件決定には右の程度に具体的に理由が付記されていると解しうるから原告のこの点の主張は失当である。
四 よつて原告の本訴請求のうち、本件告知処分の取消しを求める部分は正当としてこれを認容するが、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 日野達蔵 松井賢徳 仙波厚)