大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)37号 判決 1971年10月28日
大阪市都島区高倉町二丁目七四番地
原告
増田健二
仲重信吉
小牧英夫
宇賀神直
大阪市城東区野江中通三丁目一五番地
被告
旭税務署長
森崎勝雄
右指定代理人検事
下村浩蔵
同法務事務官
前田昭夫
同
遠藤忠雄
同大蔵事務官
馬場文哉
同
黒川曻
右当事者間の更正決定取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一、被告が昭和四〇年一一月一日付でなした原告の昭和三九年分所得税につきその総所得金額を一〇一万五〇二円所得税額を九万六、〇〇〇円とする更正のうち総所得金額につき五一万三六七円を超える部分、所得税額につき総所得金額を五一万三六七円として算定した税額を超える部分並びに過少申告加算税四、一〇〇円の賦課決定の内右税額の超過部分に相当する部分はいずれもこれを取消す。
二、 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
(原告)
一、被告が昭和四〇年一一月一日付でなした原告の昭和三九年分所得税につき、その総所得金額を一〇一万五〇二円所得税額を九万六、〇〇〇円とする更正並びに過少申告加算税四、一〇〇円の賦課決定はいずれもこれを取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
(被告)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
第二当事者の主張
(原告の請求原因)
一、原告は肩書地でナイトキヤツプ等の製造の下請業を営んでいるものであるが、昭和三九年分所得税につき、総所得金額を金五〇万円として確定申告したところ、被告は昭和四〇年一一月一日付で右総所得金額を一〇一万五〇二円、所得税額を金九万六、〇〇〇円とする旨の更正並びに過少申告加算税金四、一〇〇円を課す旨の賦課決定をなし、その頃原告に通知した。
二、原告は昭和四〇年一一月三〇日右各処分につき被告に対し異議の申立をなしたところ、昭和四一年二月七日、被告は何れもこれを棄却する旨の決定をなし、原告に対しその頃その通知をした。
三、よつて原告は昭和四一年三月七日大阪国税局長に対し審査請求をなしたところ、昭和四一年一二月二三日、同局長はこれを棄却する旨の裁決をなし、原告は昭和四二年一月一五日右裁決書謄本の送達を受けた。
四、しかし、原告の昭和三九年分総所得金額は確定申告額のとおりで、被告のなした前記更正は原告の所得を過大に認定したものであり、従つて過少申告加算税を賦課されるいわれはなく、被告のなした本件更正および賦課決定はいずれも違法な処分であるから、その取消を求める。
(請求原因に対する被告の答弁)
一、請求原因一、二の事実は認める。同三の事実については裁決の日および裁決書謄本の送達がなされた日に関する部分を否認しその余の部分はこれを認める。裁決のなされた日は昭和四一年一二月七日裁決書謄本の送達がなされた日は昭和四一年一二月二三日である。
二、同四の事実は争う。
(被告の主張)
原告の昭和三九年分の総所得金額は、つぎに述べるとおり一八二万五、七一九円であり、その範囲内でなした被告の本件更正に何ら違法はなく、従つて過少申告加算税賦課決定にも違法はない。
一、原告は、肩書地で、主に株式会社ホンゴ(以下「ホンゴ」と略称)大阪繊維工業株式会社等からの注文により、必要な材料を仕入し、あるいは、注文者より支給を受けて、婦人用各種ヘヤーネツト、同下着等の裁断加工の請負、或は、同加工につき注文者と下請加工業者間の取次等をなすを業とするものである。
二、原告は、昭和三九年分所得算定の基礎となる帳簿書類として、売上請求書控の一部、各種ヘヤー、ネツトの製品別原価計算書及び勘定科目別経費(仕入および外注工賃を除く)の金額を明らかにしたが、売上、仕入、経費等の日々の取引を記録した帳簿及び前記請求書以外の請求書、領収書等の証拠書類を提示しなかつた。
そこで、被告としてはこれら資料のみでは原告の申告所得額の当否を判断し得なかつたので己むなく原告の申立、原告の提出書類及びその取引先等につき調査したところ、確定申告額と異なつたので、その調査によつて得た資料に基づき所得を算定し更正した。
三、原告の昭和三九年分総所得金額は以下算定のとおり一八二万五、七一九円である。
1 売上金額 一、六三八万四、九四七円
原告の本年中の売上先および売上金額は別表(一)のとおりである。
2 仕入金額 一、〇一七万七一六円
原告の本年中の仕入先および仕入金額は別表(二)のとおりである。
3 必要経費 四三八万八、五一二円
その明細は別表(三)のとおりである。
必要経費の内当事者間に争のある外注加工賃三九七万八、八〇二円の算出方法はつぎのとおりである。
該経費に関し、原告には記帳なく又外注先も明らかでなかつたので、被告において原告提出にかかる商品別原価計算書(乙第八号証)及び原告の申立等に基いて以下の通り算定した。
(一) 「ホンゴ」納品分 計三九四万九、八七二円
左記の通り各商品毎に原価計算書(乙第八号証)による一枚当り外注加工賃に年間販売数量を乗じて商品別年間外注加工賃を算出した。
商品名 加工賃単価(A) 年間販売数量(B) 年間外注加工賃(A×B)
トリアフードネツト 一四円(工賃一三円 仕上げ一円) 二〇万三、二五〇枚 二八四万五、五〇〇円
ハイプロス 八円(工賃付属共) 三万一、九七〇枚 二五万五、七六〇円
ムードプロス 八円(工 賃七円 仕上げ一円) 五万九、一〇九枚 四七万二、八七二円
ヘヤープロス 一〇円(工賃のみ) 三万七、五七四枚 三七万五、七四〇円
(二) 大阪繊維工業株式会社納品分 二万八、九三〇円
原告の申立では大阪繊維工業株式会社から商品(スリツプ)の材料を支給され、加工はすべて訴外北野縫工所に依頼し、原告はその間でスリツプ一枚につき金五円の手数料を徴しているとのことであるので、原告の大阪繊維工業株式会社えの年間売上金額三万二、六三五円からスリツプ年間販売数量七四一枚に一枚当り手数料金五円を乗じて得た金額三、七〇五円を控除し、その残高二万八、九三〇円を以て同年間外注加工賃と認定した。
4 総所得金額 一八二万五、七一九円
前記1の金額より2・3の各金額を差引いたものである。
(被告の主張に対する原告の認否及び主張)
一、認否
被告主張の一の事実は、材料仕入の点を除き、その余は認める。材料はすべて注文者より支給をうけたものである。
同三の1の事実の内売上先か被告主張のとおりであることは認めるが、売上金額の点は争う。
同三の2の事実は争う。
同三の3の事実の内、外注加工賃の点は争い、その余はこれを認める。
二、主張
1 被告のなした所得算定に対する反論
(一) 被告は原告の昭和三九年中の売上金額を算定し、右金額より同年中の仕入額と別表(三)記載の必要経費とを順次控除して原告の所得を求めているが、まず、右売上に必要な経費として同年中のみの仕入額を計上しているのは、算定方法を誤まつている。
原告は「ホンゴ」に対して昭和三九年一月中旬頃より納品し、同月中だけでも相当数の商品納入がなされており、他面右商品の完成には材料の仕入日から相当の日数を要する上、年末年始の休日もあつたことから考えて右納入を可能にするには、既に前年中より同加工に着手していることを要するものと考えられ、従つて、右納品には前年中の仕入額が費用項目としてこれに対応するものと思慮される。
以上の点から考えると原告の所得は単に当期売上額より当期仕入額を減ずるのみでなく、更に前年中における仕掛品や仕入額の前期繰越額をも控除してこれを算出しなければならぬものと思料される。従つて、この点についての被告の方式は誤まつている。
(二) つぎに、被告は外注加工賃の算定においても誤まつている。
被告は原告が芦田株式会社にも二〇万一、一五四円の売上がある(別表(一)記載)旨主張しているが、これに対する必要経費としての外注加工賃の算定をしていない。しかし原告は芦田株式会社よりふとんカバーの材料の支給をうけ、これを裁断した上、その縫製加工は他に下請させたものであるから、被告の採用した所得算定方式のもとでは右外注加工賃の算定をなし、これを売上金額から控除すべきである。しかるに被告は右外注加工賃を控除せず、売上額をそのまま原告の所得と看做して課税対象となしているもので、この点の被告の所得算定には誤まりがある。
2 原告の昭和三九年分の事業収入は左記(一)、(二)、(三)の合計八六万五、三一八円である。
(一) 「ホンゴ」に対する売上収入八四万五、五二一円
原告は、右会社に対して(1)トリアフードネツト二〇万三、二五〇枚、(2)ハイプロス三万一、九七〇枚、(3)ムードプロス五万九、一〇九枚、(4)ヘアープロス三万七、五七四枚を納品したが、これにより原告の得た収入は、トリアフードネツトは一枚当り三円合計六〇万九、七五〇円、ハイプロスは一枚当り二円合計六万三、九四〇円、ムードプロスは一枚当り一円合計五万九、一〇九円、ヘアープロスは一枚当り三円合計一一万二、七二二円、以上総計八四万五、五二一円である。
(二) 大阪繊維工業株式会社に対する売上収入三、七〇五円
原告は右会社より材料の支給をうけてスリツプ加工を請負い、さらにその加工を訴外北野縫工所の下請に出し、昭和三九年中にスリツプ七四一枚を納品したが、その一枚当りマージンは五円であつたから、原告はこれにより合計三、七〇五円の収入を得た。
(三) 芦田株式会社に対する売上収入一万六、〇九二円
原告は右会社より材料の支給をうけて、ふとんカバーの裁断加工を請負い、合計二〇万一、一五四円の代金収入を得た。しかし右会社は原告のかつての勤務先であつたため、注文を断り切れず引受けたもので、原告は、裁断のみして縫製加工は他に下請に出し、原告の得た収入は低く、右代金収入の八%、すなわち、一万六、〇九二円に過ぎない。
(四) 前川弘商店に対する売上分
原告は、かねて知合の前川弘から商品材料の仕入方のあつせん依頼をうけ、近近経編株式会社より自己名義で材料を仕入れてた前川商店に仕入代金額と同額で譲渡したもので原告は、これにより何ら利益をあげていない。
3 必要経費は四〇万九、七一〇円である。
必要経費の内訳は被告主張の必要経費の内外注加工賃を除く項目の合計額である。
4 よつて、原告の昭和三九年分の所得は前記2の金八六万五、三一八円より3の四〇万九、七一〇円を引いた差額金四五万五、六〇八円である。
5 そうすると原告の申告額五〇万円は右四五万五、六〇八円を上廻るのでこれを増額更正した被告の処分は所得額の認定を誤まつたものであり、又右認定に基く過少申告加算税の賦課決定も理由がない。
第三証拠
一、原告
甲第一、二号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立は不知、第二号証は単価金額らん記載部分は不知、その余の部分の成立は認める。第三ないし六号証の成立は不知、第七号証は赤ボールペン記載部分は不知、その余の部分の成立は認める、第八号証の成立は認めると述べた。
二、被告
乙第一ないし第八号証を提出し、証人岸本幸章、同高橋洋三、同片岡英明の各証言を援用し、甲号各証の成立は認める、と述べた。
理由
一、請求原因一、二の事実および同三の事実の内裁決の日と裁決書謄本の送達の日を除くその余の部分は当事者間に争がなく、成立に争のない甲第二号証によると、裁決の日は昭和四一年一二月七日であることが認められる。
裁決書謄本送達の日は、原告は昭和四二年一月一五日であると主張し被告は昭和四一年一二月二三日であると主張するが、本訴提起の日は昭和四二年三月二二日であること記録上明らかであるから、本訴は、原告が裁決があつたことを知つた日から三箇月以内に適法に提起されたものであることは明らかである。
二、そこで、本件係争の総所得金額について考察する。
1 成立に争のない乙第八号証、証人片岡英明、同高橋洋三の各証言によつて真正に成立したと認められる乙第一号証、同第三ないし第六号証、単価、金額欄の記載を除く、その余の部分の成立については当事者間に争いなく、証人片岡英明の証言によつて単価欄については原告により、金額欄については大阪繊維工業株式会社により記載されたと認められる同第二号証、証人岸本幸章の第一回証言により、赤字部分については同証人、その余の部分については原告が記載したものと認められる乙第七号証、証人片岡英明、同高橋洋三、同岸本幸章の各証言、原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、以下の事実が認められる。
(一) (ホンゴ関係)
原告は「ホンゴ」から昭和三七年頃より材料の支給をうけてヘアープロスの裁断加工を請負い工賃収入を得ていたものであるが、三八年末頃に至り、右品目の外に同じく、材料の支給をうけて、トリアフードネツト、ハイプロス、ムードプロス等の加工をも請負うようになり、原告は裁断のみをなし、同加工のためにはレース、ゴム等の附属品の縫製加工を他に下請さすことが必要となつたため、それまでの裁断工賃のみ請求する会計方式と異なり原価計算が複雑となつたところから、「ホンゴ」よりの加工材料の支給を以て原告側の仕入、又完成品の納入を以て右仕入価額(支給材料の原価)をも含めて「ホンゴ」への売上として会計処理したい旨「ホンゴ」より申出がなされ原告もこれを了承して、ヘアープロスは従前通りとし、他品目については前記会計処理のもとに昭和三九年分の取引をなしたこと、右会計処理のもとでの「ホンゴ」に対する原告の昭和三九年中の売上額は一、五八五万四、〇三三円(乙第一号証の昭和三九年一月一六日より同年一二月三〇日までの仕入合計額から同年二月二九日、同年四月三〇日付各値引額を控除した金額。但し、被告主張によると一、五八四万五、一四三円)で、同年中の仕入額は被告主張額のとおり合計四八四万六、三四四円、外注加工賃は合計三九四万九、八七二円(その内訳、トリアフードネツトが二八四万五、五〇〇円、ハイプロスが二五万五、七六〇円、ムードプロスが四七万二、八七二円、ヘアプロスが三七万五、七四〇円)であること。
(二) (大阪繊維工業株式会社関係)
原告は同社から材料を支給されてスリツプの加工をたのまれ、訴外北野縫工所に合計七四一枚の加工の取次をなし(右加工賃は合計二万八、九三〇円)、右取次に関し一枚あたり金五円、総計三、七〇五円の手数料収入を得たこと。
(三) (芦田株式会社関係)
原告は、右会社から材料の支給をうけて、フトンカバーの裁断、加工を請負い、裁断のみなして、縫製、仕上げは他に下請けさせ、納品したこと、右請負による売上額は二〇万一、一五四円であること、原告が裁断の工賃として得た金額は、その八%にあたる一万六、〇九二円であること。
(四) (前川商店関係)
原告は、下着類の売買業を営んでいる。かねて知合の前川弘から商品の仕入の依頼を受け、前川のために近畿経編株式会社から三〇万六、〇一五円で、依頼をうけた商品を買受け、同額で、これを同人に売却したこと。
(五) (近畿経編株式会社関係)
原告は、右会社から代金合計五三二万四、三七二円で以て材料を買受けたこと、右買受代金の内には前記(四)記載の前川商店関係の代金三〇万六、〇一五円がふくまれていること、右前川商店関係分以外の買受材料は、全部、原告の「ホンゴ」に対する納品トリアフードネツト、ハイプロス、ムードプロス、ヘアープロスの材料として使用されたこと、右買受主は、形式上、原告となつているけれども、実質上は「ホンゴ」が買主で、「ホンゴ」が原告に材料として支給しその代金は「ホンゴ」によつて支払われたこと。
以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果(特に「近畿」とは取引なし、又前川商店に対する売上もない旨の供述部分)はこれを措借せず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
2 原告の本件昭和三九年分の所得は事業所得で、右所得は本件年中の総収入金額から必要な経費を控除した金額であるところ、被告は原告の本件年中の総収入金額は別表(一)記載の売上金合計一、六三八万四、九四七円、必要な経費は別表(二)記載の仕入金一、〇一七万七一六円および別表(三)記載の経費四三八万八、五一二円の合計一、四五五万九、二二八円、総所得金額は一八二万五、七一九円であると主張する。
ところで、前記認定事実によると、原告の昭和三九年における営業は物品の売買業ではなく、注文者より材料の支給をうけて、裁断加工をなし、その縫製、仕上加工を下請けに出し、もしくはその取次をなし、その請負代金もしくは手数料収入を得る業態であるから、これによる収入実績額を算出するには、納品一枚あたりの裁断工賃もしくは手数料に納品数量をかけて算出するのが簡明、合理的であるが、原告の昭和三九年における営業において最大の注文者である「ホンゴ」関係につき、前記認定のような会計処理上の必要から、支給材料の原価を仕入代金として計上し、右原価に加工請負代金を加算したものを売上金として計上処理する方式をとつた本件において、売上金収入から控除さるべき右にいわゆる仕入代金(収入を得るに必要な支給材料の原価。以下同じ。)その他の必要な経費を控除して所得計算をする被告の方式においては右控除すべき右仕入代金は右収入に対応したものであるべく、従つて控除さるべき仕入代金として、本件年中の仕入代金のみを把握、控除することを以て、必ずしも当を得た十分なものとは言い難い。何故ならば、本件年分の収入を得るに必要な支給材料は前年に支給されたものもあり得る反面、本件年中に支給された材料でもこれにあたらぬものもあるというべく、而して前顕乙第一、第五、第六号証によると、原告は「ホンゴ」に対して昭和三九年一月一六日より同月中相当量の納品をしているのに対して、一月中「ホンゴ」より原告に対する材料支給は全然なく、近畿経編株式会社より僅かに材料仕入がなされたに過ぎぬこと、「ホンゴ」より原告に対する同年一二月中の材料支給は同月一二日より二八日まで相当量なされていることが認められ、右事実に材料支給から納品までには若干日時を要すると経験則上推測されることをも入れて考えると、「ホンゴ」に対する本件年中の売上に必要な仕入(支給材料)は前年中に相当量あり、また、本件年中の仕入(支給材料)の内にも本件年分の売上に必要な材料にあたらぬものもあると推定されるから、本件所得計算上売上金より控除されるべき仕入代金(支給材料の原価)は本件年中のそれに限定すべきではなく、前年分の仕入の内本件年中の売上に対応する分を控除すべく、また本件年中の仕入についても、右の売上に対応しない分はこれを控除すべきではないと言うべきである。
ところが、被告は原告の本件売上収入の殆んど全部とも言うべき「ホンゴ」に対する売上収入を得るに必要な仕入額を本件年中のそれに限定し、所得計算上、売上収入を得るに必要な仕入として、これを全額控除しているのであつて、換言すると、被告は、原告の期首、期末の資産(仕入高)を同額とみたか(前記認定事実に徹すると、原告の期首、期末の仕入高が同一でないことは明らかである。)あるいは、その変動を全然考慮にいれなかつたものであつてその不当なことは明らかで、被告のなした所得算出方式は失当というべく、而して、前年分の仕入の内「ホンゴ」に対する本件年分の売上に必要な仕入が幾らあつたか、また本件年中の仕入の内右売上に必要でない仕入が幾らあつたかという点(期首、期末の資産、支給材料の期首、期末の繰越高)について、これを認定できる資料はないから、結局、被告の採用した方式では原告の本件所得を算定できないし、他に原告の本件係争年分の所得が被告の主張のとおりであると認めうる主張、証拠はない。
3 ところで前記認定事実によると、(イ)大阪繊維工業株式会社に対する売上については外注加工賃控除後の原告の収入金は三、七〇五円であり、(ロ)芦田株式会社に対する売上については外注加工賃控除後の原告の収入金は一万六、〇九二円であり、(ハ)前川商店に対する売上については、その売上原価は売上額と同額であるから、原告の利益はないことはあきらかで、而して、(ニ)「ホンゴ」関係については、前顕乙第一、第八号証および原告本人の供述の一部によると、原告は「ホンゴ」に対する本件裁断工賃として、納品中の内トリアフードネツト二〇万三、二五〇枚については一枚当り三円合計六〇万九、七五〇円、ハイプロス三万一、九七〇枚については一枚当り二円合計六万三、九四〇円、ムードプロス五万九、一〇九枚中四、三五〇枚については一枚当り一円、五万四、七五九枚については一枚当り二円合計一一万三、八六八円、ヘアープロス三万七、五七四枚については一枚当り三円合計一一万二、七二二円以上総計九二万七七円の収入を得たことが認められる。
以上原告の収入は九二万七七円であるところ、外注加工賃を除くその余の一般経費は被告主張のとおり四〇万九、七一〇円(別表(三)参照。当事者間に争いがない)であるから、原告の総所得金額は右収入金額から右一般経費を控除した金五一万三六七円であることは計数上明らかである。
従つて、本件更正にかゝる総所得金額の内金五一万三六七円を超える部分、同税額の内総所得金額を五一万三六七円として算定した税額を超える部分および過少申告加算税額四、一〇〇円の内右税額の超過部分にかゝる部分は、原告の本件年分の総所得金額を過大に認定した違法にもとづくもので、取消さるべきである。
よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上三郎 裁判官 矢代利則 裁判官 弓木竜美)
別表(一)
売上金額の明細
売上先 売上金額
株式会社ホンゴ 15,845,143円(乙第一号証参照)
大阪繊維工業株式会社 32,635円(乙第二号証のNo.1・2参照)
売上先 売上金額
前川商店 306,015円(乙第三、六号証参照)
芦田株式会社 201,154円(乙第四号証参照)
計 16,384,947円
別表(二)
仕入金額の明細
仕入先 仕入金額
株式会社ホンゴ 4,846,344円(乙第五号証参照)
近畿経編株式会社 5,324,372円(乙第六号証参照)
計 10,170,716円
別表(三)
必要経費の明細
<省略>