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大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)63号 判決 1967年12月12日

原告 河谷知夫

被告 国 外一名

訴訟代理人 樋口哲夫 外一名

主文

被告国の本案前の申立は理由がない。

事実

一、被告国指定代理人は本案前の申立として「原告の被告国に対する訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、その理由として要旨次のとおり陳べた。すなわち、「原告は本訴において訴外大阪府知事が当事原告所有にかかる別紙目録記載の土地(以下本件土地と略称する)につき昭和二五年六月一〇日頃なした自作農創設特別措置法に基く買収処分、及び同年七月一日付で同法に基きなした訴外松井勝太郎に対する売渡処分は、いずれも無効であるとして、右訴外人より買受けたとして所有権移転登記を経由した相被告伊藤に対し所有権に基き、右登記の抹消に代わる移転登記手続と本件土地の明渡並に本訴状送達の翌日以降明渡完了に至るまで月五万円の割合による損害金の支払を求め、被告国に対しては、仮に前記買収処分に無効原因でないとしても右買収処分には重大な瑕疵があり、原告は該土地について所有権を失つた。これは国の違法な公権力の行使に基き知事の故意又は過失により所有権喪失なる損害を原告が蒙つたというべきであるから原告は国家賠償法により本件土地の時価以下であること明かな金一、〇〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による損害金の支払を求めるものである。

ところで、被告国に対する請求は相被告伊藤に対する請求不認容に依存し、両請求は択一関係にある関係上被告伊藤に対する請求も予備的関係に立たざるを得ないものであるから、原告の説明如何に拘らず、被告国に対する請求はいわゆる主観的予備的請求に属するものといわざるを得ない。かかる請求が認められるとすれば、予備的被告の訴訟上の地位は極めて不安定、かつ不利益であるほか、結果的には当事者の変更を適法化するものであるからかかる主観的予備的請求は到底許さるべきでない。いまかりに予備的請求を分離するとしても、これまた条件附訴えとして不適法であることはいうまでもない。以上いずれの点よりするも原告の被告国に対する訴えは不適法なものとして却下さるべきである。被告国は右の点につき中間判決を求める。」

二、原告訴訟代理人は前項被告国の主張に対し「原告の被告両名に対する本訴請求は請求原因の関係では、その主張のとおり、被告伊藤との関係では本件土地所有権が原告に帰属することを前提とし、被告国との関係では原告の所有権喪失を前提とするものであるから、原告は両被告に対し共に勝訴判決を得られるものとは思つていない。しかし訴え自体は併列的な通常の共同訴訟として提起しており、被告国に対する申立は予備的なものでないから適法である。」と陳べた。

理由

一、よつて按ずるに、本件記録によれば、原告が被告両名に対して請求する訴訟物はそれぞれ被告国が前示本案前の申立理由において主張するとおりであり、右両請求は実体上両立しえず、被告国に対する請求は被告伊藤に対する請求と予備的関係に立つものであるが、原告は被告国に対する右請求について審判の申立自体は予備的になさず、被告伊藤に対する同申立と同位並列的になしていることが認められる。

二、被告国は右のような被告国に対する請求は主観的予備的請求として許されないと主張する。けれども

(1)主観的予備的併合とは被告甲に対する請求とこれと予備的関係に立つ被告乙に対する請求を原告が併合提起し、または原告甲の被告に対する請求とこれと予備的関係に立つ原告乙の被告に対する請求が甲乙により共同提起された場合とされるが、右にいわゆる予備的関係は申請求(甲に対する、または甲の請求をさす)と乙請求(乙に対する、または乙の請求)が実体上主観的択一関係に立つのみでなく、訴訟上審判の申立自体も択一的関係に立つことを指すもので、予備的請求の訴はその訴訟係属は主位的請求の確定的認容を解除条件として生ずるが、審判の申立の面では主位的請求棄却(または却下)の判決のなされることを停止条件とする申立形態をとる場合をいう。そしてこのような主観的予備的請求の適否については肯定説、否定説存し問題の存するところであるが、かかる訴は(イ)被告の地位の不安定と不利益、同統一的裁判または併合関係の維持の不可能性よりこれを否定するを相当とする。

(2)しかしながら、実体上主観的択一関係にある両請求についても別訴による場合はもちろん、主観的単純(同位的並列的)併合形態をとつた場合これを不適法と解すべき理由はない。

ちなみに、主観的予備的併合形態をとらない限り択一関係にある請求を通常の共同訴訟、すなわち各請求とも無条件の請求として単純に併合すること出来ないとの論があるが、択一関係による請求の客観的併合の場合は予備的請求の形態をとらない限り、同一当事者間での両請求の単純併合は両請求とも主張の一貫性を欠くことになるとしても、主観的択一関係にある請求の主観的併合の場合は異なる当事者間の訴訟(通常の共同訴訟)であり、一方の請求について主張した事実は当然には他方に対する請求についての訴訟資料にならないから、甲乙に対し互に矛盾する事実を主張しても両請求についての主張が一貫性を欠くことにはならない。従つて、両請求とも無条件の請求として併合して差支えないものといわねばならない。またこれを許しても主観的予備的併合の場合にみられるような、被告の地位の不安定や不利益は招来せず、ある程度の裁判の統一も期待できるのである。

(3)本件において被告国に対する訴は被告伊藤に対する訴を単純(併列的、同位的)併合されたもので、本件両被告に対する訴には民訴法第五九条前段を類推適用すべく、客観的併合の要件にも欠けるところがないからこれを許すべく、これを主観的予備的併合訴訟として排除する理由はない。

三、以上の次第で、被告国の本案前の申立は理由がないから主文のとおり原告と同被告との間で中間判決をする。

(裁判官 増田幸次郎 杉本昭一 古川正孝)

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