大阪地方裁判所 昭和43年(わ)534号 判決
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〔判決理由〕第三、(一)公安委員会の運転免許をうけないで、昭和四二年一〇月二八日午前七時五〇分頃、吹田市金田町四、〇五五番地付近道路において、普通貨物自動車を運転し、
(二)前同日時頃、前示自動車を運転し、先行する船岡文男(当時三九才)運転の軽四輪貨物自動車に追従して時速約四〇キロメートルで西進し、吹田市金田町四、〇五五番地付近の道路にさしかかつたのであるが、運転中は前方を注視すべき注意義務があるのにこれを怠り、自車の後部座席に同乗していた早矢仕義明の方を振り返つて話すなどして同一速度のまま進行した重大な過失により、船岡運転の車が前方交差点手前で信号待ちのため一時停車したのを僅か約一〇メートル前方に認め、急停車の措置をとつたが間にあわず、同車後部に自車の右前部を追突させ、その衝撃により同人に対し加療約二週間を要する鞭打ち症の傷害を負わせ、
(三) 前示のとおり船岡文男に傷害を負わせる交通事故を起こしたのに、直ちにその事故発生の日時場所など法令に定める事項をもよりの警察署の警察官に報告せず、<中略>
(一部無罪の理由)
本件公訴事実中救護義務違反の事実の要旨は、「被告人は判示第三の(二)のとおり自動車運転中に交通事故を起こし、船岡文男に負傷を与えたのにかかわらず、同人を救護しなかつた」というのである。
前掲証拠(証拠の標目に掲示の第三の事実関係)によると被告人は判示第三の(二)の追突事故後、直ちに下車して船岡の様子をうかがつたところ、外見的には出血その他の異常は見当らなかつたが、負傷しているかもしれないと考え、「怪我をしているなら今から医者に行こう」と申出たのに対し、同人から「警察に行こう」といわれたので、怪我があつたとしてもたいしたことはないと思うとともに、同人のいいなりに警察へ行けば無免許運転が発覚するとおそれ、父の勤める会社で父に示談にしてもらうべく「会社が近くだからそこで話合おう、あとからついて来てくれ」と船岡に告げて出発したが、急に煩わしくなり間もなく速度を早めて逃げ、船岡は、追突されたとき頭がぼうとした程度で、被告人に対してはもつぱら一緒に警察に行くことを求めていたが、結局被告人のいい分をうけいれ示談交渉のため、追突された自動車を自ら運転して被告人のあとを進んでいるうちに逃げられ、約一〇〇メートル追跡したが見失い、そのまま勤め先に出勤したうえ西警察署管内の信濃橋にある交通警察官詰所へ行き、さらに同所の警察官の指示で吹田警察署に出頭して交通事故の届出をしたのち、はじめて病院へ行つて診察をうけ(鞭打ち症、安静加療約二週間と診断)、午後一時過ぎから行なわれた事故現場での実況見分にも立会つたことが認められる。
道路交通法七二条一項前段に規定されている負傷者の救護義務は、交通事故によつて人身に生じた被害を最少限度にとどめようとする趣旨で設けられたものであることに鑑みると、交通事故の結果人が負傷したすべての場合に発生するものというべきではなく、負傷の程度が軽微で、社会通念上運転者らの助けをかりなくても、負傷者が自ら受傷後の措置を十分にとりうると認められるような場合には、この義務は発生しないものと解すべきである。本件において、被告人は事故後直ちに運転を中止して被害者の状態を観察しており、事故後の被害者の言動などから、負傷があつたとしてもきわめて軽微で、他人の助力が望ましいとされるような状態でなく、救護の必要がないと被告人が判断したのも無理からぬ状況にあつたことは、さきに認定した事実から容易にうかがわれるので、被告人が被害者を病院に同行するなどの措置をとらなかつたとしても、救護義務違反にならないというべきである。右の理由により本件公訴事実のうち救護義務違反の点については、刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡をする。(児島武雄 金田育三 山田利夫)