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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)1408号 判決 1970年10月28日

原告 元野陽仁

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 高坂安太郎

被告 明和商事株式会社

右代表者代表取締役 福本寿幸

右訴訟代理人弁護士 大井享

同 岬英明

被告 宝土地住宅株式会社

右代表者代表取締役 浜口武

右訴訟代理人弁護士 池田良之助

被告 杉山嘉一

右訴訟代理人弁護士 辻中一二三

同 橋本佐利

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「(1)被告明和商事株式会社は奈良地方法務局昭和四二年五月二七日受付第八二七七号及び第八二七八号をもって被告明和商事株式会社のために同月二三日付売買を原因とする別紙目録(一)ないし(七)記載の物件の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。(2)被告宝土地住宅株式会社は同年一二月二一日付の被告明和商事株式会社との間の売買予約を原因として奈良地方法務局同月二二日受付第一九五九九号をもって被告宝土地住宅株式会社のためになされた別紙目録(一)ないし(四)記載の各物件の所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続をせよ。(3)被告杉山嘉一は昭和四二年一一月一五日付の被告明和商事株式会社との間の売買を原因として奈良地方法務局同月一六日受付第一七二九八号をもって被告杉山嘉一のためになされた別紙目録(五)ないし(七)記載の物件の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。(4)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、別紙目録(一)ないし(四)記載の物件はもと原告元野陽仁の所有であり、また別紙目録(五)、(六)、(七)記載の物件はもと元野陽仁の所有に属していたところ、右各物件は昭和四二年五月二二日付の売買契約により被告明和商事株式会社(明和商事と略記)に売渡され、同月二七日奈良地方法務局受付第八二七七号(但し景修の所有物件については第八二七八号)をもって被告明和商事のために所有権移転登記がなされ、その後(一)ないし(四)記載の物件については同年一二月二一日付売買予約を原因として同月二二日奈良地方法務局受付第一九五九九号をもって被告宝土地住宅株式会社(以下宝土地と略記)のために所有権移転請求権仮登記がなされ、また(五)ないし(七)記載の物件については同年一一月一五日付売買を原因として同月一六日奈良地方法務局受付第一七二九八号をもって被告杉山のために所有権移転登記がなされている。

二、然しながら原告らより被告明和商事への前記売買は以下に述べるように無効であるから、被告らはいずれも前記物件につき被告らのためになされた各登記を抹消すべきものである。即ち原告らは昭和四二年五月二三日被告明和商事より金二、三五〇万円を借受けたものであるが、その際同被告は本件物件の所有名義を同被告に移転すべき旨を要求し、右借受金の弁済期たる同年七月二二日に原告らにおいて金三千万円を返済すれば買戻代金の名目で右物件の所有名義を原告等に移転することを約するに至ったものである。即ち被告明和商事は元本二、三五〇万円の借用金に対し二ヵ月間の金利として六五〇万円を取得せんがため原告らに対し売買名義で本件物件の所有権移転登記をなさしめたもので、右行為は「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律」第五条の強行法規に違反し公序良俗に反する法律行為といわねばならない。よって右物件は依然として原告らの所有に属するから被告らはいずれも右物件につき被告らのためになされた前記各登記の抹消登記をなすべき義務がある。

三、よって被告らに対し夫々請求の趣旨記載通りの判決を求める。

と述べ(た)。≪証拠関係省略≫

被告明和商事訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告ら主張の一、の事実はこれを認めるが二、の事実はこれを争う。被告は最初原告らから本件物件を担保に金二五〇〇万円の融資を受けたいとの申入れを受けたが、被告としては従来から不動産を担保し多額の融資をしたことがないのでこれを断りつづけていたところ、その後原告らから本件物件を担保に金を貸せないのならこれを金二、五〇〇万円で買取ってほしい旨申入れてきたので、被告らとしても検討したが、所有権移転登記がなされても現実に引渡がなされない限り後日紛争の原因をつくることになるので、登記と同時に引渡を受けられるのなら二、五〇〇万円で買ってもよい旨答えたところ、原告らにおいては同年七月二二日まで明渡は待ってほしい旨懇願するので、結局代金を二、三五〇万円と減額して売買契約が成立するに至ったもので、その際原告らの要望を容れ同年七月二二日を期限とする再売買の予約をしたものである。以上の次第であって本件売買契約は全く正当な行為であり何ら違法の点はないから、原告らの本訴請求は理由がない。

と述べ(た)。≪証拠関係省略≫

被告宝土地及び被告杉山はいずれも主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告ら主張の一、の事実はこれを認めるが二、の事実はこれを争う。原告らと明和商事との間の本件物件の売買は何ら公序良俗に反せず有効な法律行為であり、被告宝土地及び同杉山はいずれも同被告から右物件を正当に買受けたものであるから、原告の本訴請求は失当である。」と述べ(た)。≪証拠関係省略≫

理由

一、原告ら主張の一、の事実はいずれも当事者間に争がない。

二、原告らは原告らと被告明和商事との間の本件不動産の売買は出資の受入預り金及び金利等の取締等に関する法律第五条に違反するもので公序良俗に反し無効であると主張するので判断するに、≪証拠省略≫を総合すると、原告らは予てから多額の債務を負担し本件物件についても競売の申立てをされていたため、昭和四二年五月頃足立昌己の紹介で被告明和商事に対し継ぎ資金として二、五〇〇万円の融資を懇請したところ、被告会社としては金融業を営んではいたが不動産を担保にかかる多額の融資をしたことがないので、本件物件に抵当権を設定して原告らに融資することについてはこれを承諾しなかったが、一たん本件物件を買取ることとしてその代金を即時原告らに交付しその後一定の期間内に原告らが再売買代金を持参したときには右物件を原告らに返還することには同意したので、双方協議の結果同月二三日同被告は本件物件の売買代金として二、三五〇万円を原告らに交付するとともにこれより二ヵ月先の同年七月二二日までに原告らが再売買名義で金三千万円を持参したときは本件物件の所有名義を夫々原告らに返還することとし、それまでの間は原告らが引続き本件物件に居住を続けることを承認するが、原告らが右期日に右三千万円を持参しないときは以後被告は原告らに対しその返還には応ぜず、原告らは直ちに本件物件を被告に明渡すべきことと定め、よって原告らは同月二七日に被告に対し本件物件の所有権移転登記をなした。以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫右の事実によると、被告が昭和四二年五月二三日に原告らに交付した金二、三五〇万円は、法律上は売買代金の支払として交付されたもので消費貸借契約に基づく貸付ではないが、経済的には原告らは右二、三五〇万円の融資を受ける手段として本件物件の所有権を被告に移転したもので、売渡担保に類する方法による金銭の交付とみられるから、右金銭の交付は出資の受入・預り金及び金利等の取締に関する法律第九条にいう「売渡担保その他これに類する方法による金銭の交付又は授受」に該当し、同法の適用に関してはこれを金銭の貸付とみなされ、したがってまた再売買代金たる三千万円と右二、三五〇万円との差額六五〇万円は右二三五〇万円に対する二ヵ月分の利息とみなされる。そして右六五〇万円は右二、三五〇万円に対する同法第五条の制限額にたる日歩三〇銭の割合により計算した二ヶ月分の利息額をも若干上廻るから、右再売買代金として定められた三千万円という額は不当に高額であり、右取引は暴利行為というべきであるが、かかる場合原告らより被告への売買及び被告より原告への再売買の予約が単一行為として全部無効となるか否かは更に検討を要する。およそ暴利を伴う消費貸借が公序良俗違反として無効とされるのは、右契約に暴利的対価の利息の約定が随伴しているため当事者に生ずる不均衡が許されないとするにあるから、暴利的対価が許容される最高限度内に減額されるならば敢て契約全体を無効とするまでの必要はないものと考える。したがって本件契約も再売買代金額を売買代金額とそれに対する同法第五条に定める最高限度の日歩三〇銭の割合により計算した二ヵ月分の利息を加えた金額に引直した契約として有効に存続しているものと解するのが相当である。そうすると被告明和商事は有効に本件物件の所有権を取得したものというべきであるから、それが無効であることを前提とする原告らの被告らに対する本訴請求はいずれもじ余の点につき判断するまでもなく理由がない。よって原告らの請求を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法第八九条、第九三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 谷野英俊)

<以下省略>

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