大判例

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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)2432号 判決 1972年10月31日

原告 株式会社大和銀行

右代表者代表取締役 寺尾威夫

右訴訟代理人弁護士 河合宏

右訴訟復代理人弁護士 綱本治幸

被告 大運工機株式会社

右代表者代表取締役 大西兼助

<ほか一名>

右訴訟代理人弁護士 富田貞男

同 富田貞彦

同 大家素幸

同 中森宏

主文

一、被告らは原告に対し、各自金五五万円およびこれに対する被告大運工機株式会社は昭和四一年一〇月二〇日から完済まで年六分の、被告大阪府中小企業信用保証協会は昭和四一年一〇月二一日から完済まで日歩二銭一厘の各割合による金員を支払え。

二、被告らは原告に対し、各自金五〇万円およびこれに対する被告大運工機株式会社は昭和四一年一一月二〇日から完済まで年六分の、被告大阪府中小企業信用保証協会は昭和四一年一一月二一日から完済まで日歩二銭一厘の各割合による金員を支払え。

三、被告大阪府中小企業信用保証協会は、原告に対し、

(1)、金六〇万円とこれに対する

昭和四一年一〇月六日から、

(2)、金四〇万円とこれに対する

昭和四一年一〇月一一日から、

(3)、金五〇万円とこれに対する

昭和四一年一〇月一日から、

(4)、金五〇万円とこれに対する

昭和四一年一〇月六日から、

(5)、金四五万円とこれに対する

昭和四一年一一月一一日から、

(6)、金三〇万円とこれに対する

昭和四一年一〇月三一日から、

(7)、金五五万円とこれに対する

昭和四一年一一月二一日から、

各完済まで各二銭一厘の割合による金員を支払え。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

五、この判決は、被告大運工機株式会社に対しては無担保で、被告大阪府中小企業信用保証協会に対しては金一〇〇万円の担保を供して仮に執行することができる。

事実

(申立)

(一)、原告は主文一ないし四項と同旨の判決と仮執行の宣言を求めた。

(二)、被告らは、いずれも、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求原因と抗弁に対する答弁)

(一)、原告は、別紙目録記載のとおりの約束手形九通((イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(リ))の所持人である。

(二)、被告大運工機株式会社(以下被告大運工機という)は右手形のうち(ハ)、(ニ)の手形を振出した。

(三)、原告は、訴外大和興産株式会社(以下訴外会社という)の依頼に応じて本件九通の約束手形を次のとおり割引いたが、原告と訴外会社との間には、訴外会社の依頼によって原告が割引いた手形が満期に不渡になったときは、訴外会社は、当該手形を手形額面金額で買戻し、かつ日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う旨の特約があった。

(イ)の手形の割引 昭和四一年七月一日

(ロ)の手形〃   右同

(ハ)の手形〃   右同

(ニ)の手形〃   昭和四一年七月二五日

(ホ)の手形〃   昭和四一年七月一日

(ヘ)の手形〃   昭和四一年七月一八日

(ト)の手形〃   昭和四一年七月三〇日

(チ)の手形〃   昭和四一年七月一八日

(リ)の手形〃   昭和四一年七月三〇日

(四)、訴外会社は、右手形割引のため、拒絶証書作成義務を免除して右手形九通に裏書をしてこれを原告に交付した。

(五)、原告は右手形を各満期日に支払場所に呈示したがいずれもその支払を拒絶された。

(六)、被告大阪府中小企業信用保証協会(以下被告保証協会という)は、昭和四〇年四月二六日、原告に対し、訴外会社が原告に対して負担する債務につき保証することを約した(但し、遅延損害金については日歩二銭一厘を限度とする約定があった)

(七)、なお、被告保証協会は、本件九通の約束手形はいずれも金融手形であるとして、原告と、被告保証協会との間の本件保証契約によって保証される対象外の手形であると主張しているけれどもこれを否認する。右九通の手形はいずれも商業手形であって、被告保証協会の保証の対象となる適格手形である。

かりにそうでないとしても、原告と被告保証協会との間における本件保証契約では、「通常の商業手形ではないが、金融機関としての注意を払ってもなお非商業手形たることが容易に看破できない手形」は保証の対象となる旨定められているところ、右九通の手形は、仮りに商業手形ではないとしても、右にいわゆる「通常の商業手形ではないが、金融機関としての注意を払ってもなお非商業手形たることが容易に看破できない手形」に該当するから、結局保証の対象適格手形であり、被告保証協会に保証責任がある。

(八)、よって、原告は、被告大運工機に対しては右(ハ)、(ニ)の約束手形の振出人として、右各手形金とこれに対する満期日から完済まで年六分の割合による利息の支払を求め、被告保証協会に対しては、訴外会社が原告に対して負担している前記九通の手形の買戻債務の保証人として買戻代金である各手形額面相当金とこれに対する各手形の満期日から完済まで日歩二銭一厘の割合による約定の遅延損害金の支払を求める。

(被告大運工機の答弁と主張)≪省略≫

(被告保証協会の答弁と主張)

(一)、請求原因(一)ないし(五)の事実は不知、同(六)の事実は否認する。

(二)、原告と被告保証協会との間の保証契約によって保証される債権は、原告が訴外会社に対して取得する手形上の権利(償還請求権)のみであり(償還請求権はすでに時効により消滅している)手形割引契約に基づく手形買戻請求権は被保証債権ではない。

(三)、仮りに手形買戻請求権が被保証債権に含まれるとしても、原告と被告保証協会との間の保証契約においては、被告保証協会が保証責任を負うのは、商業手形の割引によって生じた債務についてのみであって、金融手形は保証の対象外とする約定があったところ、本件九通の約束手形はいずれも商業手形ではなく、かつ原告は割引のさい右九通の手形が商業手形でないことを知っていたから、被告保証協会が保証責任を問われる理由はない。

(証拠)≪省略≫

理由

一、被告大運工機に対する請求について

(1)、被告大運工機が、別紙目録(ハ)、(ニ)の約束手形を訴外会社に宛て振出、交付したことは当事者間に争いがない。そして、原告が、現に、裏書の連続した右(ハ)、(ニ)の約束手形を訴外会社に宛て振出、交付したことは当事者間に争いがない。そして、原告が、現に、裏書の連続した右(ハ)、(ニ)の約束手形を所持していることは、原告が甲三、四号証の各一、二として右(ハ)、(ニ)の約束手形を提出したこと、右甲三、四号証の各一、二、の存在ならびに≪証拠省略≫によって明らかで、これに反する証拠はない。

(2)、ところで、被告大運工機は、訴外会社との間の原因関係上の事由を理由として、右(ハ)、(ニ)の約束手形の支払を拒む旨主張しているが、被告大運工機が主張している抗弁事由は、たとえそのとおりの事実が認められたとしてもこれだけでは、訴外会社に対する関係においては支払を拒む事由となりうるかもしれないが、第三取得者である原告に対する関係においては更に原告の悪意を主張、立証することが必要であるのにその主張、立証はなされていないから、被告大運工機の抗弁は、主張自体不完全であり採用することはできない。

二、被告保証協会に対する請求について

(1)、≪証拠省略≫を総合すると請求原因(一)、(三)、(四)、(五)の各事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(2)、≪証拠省略≫を総合すると、請求原因(六)の事実を認めることができ、右認定を覆えすにたりる証拠はない。

(3)、被告保証協会は、右認定の保証契約によって保証される債権の範囲は、手形上の権利(償還請求権)のみであって、手形買戻請求権は被保証債権に含まれないと主張しているけれども、前記認定のとおり、主債務者である訴外会社は、原告に対して本件九通の手形の買戻債務を負担しているところ、保証債務が担保する範囲は原則として主債務と同一であるから、特段の事情のない限り、手形買戻請求権は当然に被保証債権に含まれることになる。そして本件全証拠によっても、とくに手形買戻請求権を被保証債権から除外したことを認める資料は存しないから、被告保証協会の右主張は採用できない。

(4)、次に、本件の最大の争点である本件手形九通が、保証対象適格を有しているか否かについて検討する。

前記甲第一三号証(原告と被告保証協会との間における保証契約書)によると、原告と被告保証協会との間には商業手形割引簡易保証契約が成立しており、その第二条には、「原告がこの保証により割引くことのできる手形は、現実に行われた商取引に基づいて振出された商業手形のみとし、金融手形の割引については被告保証協会は保証しない」旨の定めがあり、同第三条には、「前条でいう金融手形とは、次に掲げるものをいう。1、手形割引依頼人と手形支払人との間に社会通念上商取引関係がないと認められるもの、2、手形支払人が架空で実在しないもの、3、手形支払人が事業者でないもの、4、手形支払人がなんら銀行取引がないもの、5、その他金融機関としての注意を払ったならば明らかに通常の商業手形ではないと考えられるもの」と定められている。

右約定は必ずしも一義的でないようにみえるけれども、約定の文言、体裁からみて、右約定は、被告保証協会において保証責任を免かれる場合について定めたものと解されるから、この前提にたって右約定を合理的に解釈すると、原告が手形割引依頼人の依頼によって手形を割引いたときは、その手形割引によって生じた手形割引依頼人の原告に対する債務は、被告保証協会において保証責任を負うこと、但し、その割引手形が右約定第三条に定める金融手形に該当するときは、被告保証協会はその保証責任を免かれることを定めたものと解される。

従って、本件においては、被告保証協会にとって免責事由となる「割引手形が約定にいわゆる金融手形であること」の立証責任は被告保証協会にあるものと解するのが相当である。

そこで、本件九通の手形が右約定にいわゆる金融手形に該当するか否かについて判断する。

≪証拠省略≫によると、本件九通の約束手形はいずれも商取引の裏付のない融通手形であることが認められる。ところで、前記約定によると、割引いた手形が、結果的に融通手形であったというだけでは被告保証協会は保証責任を免かれることはできず、その手形が、「金融機関としての注意を払ったならば、明らかに通常の商業手形ではないと考えられるもの」(右約定第三条の5)に該当してはじめて保証責任を負わなくてもよいことになるのである。そこで、進んで、本件九通の約束手形が右約定第三条の5に該当すると認められるか否かについて検討することとする。この点につき被告保証協会は、原告は本件九通の約束手形がいずれも融通手形であることを知っていたと主張し、その理由として、本件九通の約束手形の割引を依頼する当時、訴外会社は業績が極度に悪化していたところ、原告の係員は、これを知りながら、訴外会社の代表者である中川悟慶に対し、何とか割引はするが、同名柄では都合が悪いから別名柄を借りてくるよう指示したので、これに従って、色々の名柄の手形をとりまぜて、原告に交付して割引いて貰ったものである旨のべている。そして、≪証拠省略≫中には右主張に添う記載や証言がある。しかし、≪証拠省略≫を総合すると、原告が本件九通の約束手形を割引く当時、訴外会社が、関係取引先の倒産で金五〇〇万円程度のこげつき債権をかかえ資金ぐりが必ずしも良い状態でなかったことについては原告も知っていたこと、しかし、原告としては、訴外会社の立て直しの見込みがあるものと判断していたこと、原告は本件以前にも訴外会社の依頼により手形割引をしていたがその中には、別紙目録(ホ)、(ヘ)、および(リ)の約束手形の振出人が振出した約束手形が含まれていたこともあり、正常に決済されてきていた実績があったこと、本件九通の約束手形を割引く際には、割引依頼人である訴外会社の代表者中川悟慶から詳細に事情を聴取したうえ、割引依頼手形中には、訴外会社と同業者の振出した手形があり融通手形の疑いがあったのでこの点を右中川悟慶に指摘したところ、同人は、前記甲第二〇、二一号証(訴外会社が工事請負人となっている請負契約書)を提出して、融通手形ではない旨のべたこと、原告は、割引依頼手形の各支払銀行に照会したところ本件九通の約束手形全部につき支払銀行から、支払に懸念なしとの回答をえたこと、また割引依頼手形が融通手形であるかどうかを調査する方法については、原告の銀行としての立場上、手形の振出人に対して照会して調査をするのは好ましくなくかつ実効も期し難いこと、以上の各事実を認めることができる。このような反証が存在することに徴し、本件九通の約束手形が融通手形であることを原告は当初から知っていたという被告保証協会の主張に添う≪証拠省略≫はたやすく信用することはできず、他に本件九通の約束手形が右約定第三条の5に該当すると認めるに足りる証拠はなく、却って、原告としては、できるだけの調査をつくした上で、本件九通の約束手形は融通手形ではないと信じて割引を実行したものと認められる。

(5)、そうすると、被告保証協会は、訴外会社が原告に対して負担している本件九通の約束手形の買戻債務につき保証責任があることが明らかである。

三、右によると、原告に対し、被告大運工機は別紙目録(ハ)、(ニ)、の各約束手形の振出人として、右各約束手形の手形金とこれに対する各満期日から完済まで手形法所定の年六分の割合による利息を支払うべき義務があり、被告保証協会は、別紙目録(イ)ないし(リ)の各約束手形買戻債務の保証人として、各手形の額面金額とこれに対する各手形の満期日の翌日から完済まで約定の日歩二銭一厘の割合による遅延損害金を支払うべき義務があることが明らかであって、原告の請求はいずれも理由がある。

よって原告の請求を認容することとし、民訴法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 増田定義)

<以下省略>

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