大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)287号 判決
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〔判決理由〕一、原告と被告ら間の賃貸借契約の存否
1、原告と被告鈴木喜代子間
原告が右被告に対し本件(一)土地506.07平方メートルを賃貸していることは当事者間に争いがない。
原告は、本件(一)土地の賃料は昭和三七年ころ右被告の夫である訴外亡鈴木清之助との間でそれまで一ケ月金一万円であつたところ一ケ月金三万円に増額するとの合意が成立していた旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて証人鈴木寿通の証言によれば、本件(一)土地の賃料は昭和四一年五月一日合意によつて一ケ月金三万円に増額されたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
2、原告と被告大場謙次郎間
原告が右被告に対し本件(二)土地180.65平方メートルを賃貸しており、その賃料が昭和三八年一月一日以降一ケ月金一、五〇〇円であつたことは、当事者間に争いがない。
3、原告と被告守屋セイ間
原告は、訴外守屋捨吉に対し本件(三)土地を賃貸していたところ、守屋捨吉が死亡し、その妻である被告守屋セイが守屋捨吉の賃借人たる地位を承継した旨主張するところ、右主張事実のうち、原告が守屋捨吉に対し本件(三)土地を賃貸していたこと、および守屋捨吉が死亡したことは当事者間に争いがないが、右被告が同訴外人の賃借人たる地位を承継したとの事実は、<証拠>によるも未だ認めるに足らず、他にこれを認めるに足りる証拠がない。かえつて、<証拠>によれば、守屋捨吉はかねて原告から本件土地を賃借し、その地上に建物を所有していたところ、昭和一七年一〇月一三日死亡し、同人の長男である守屋脩(昭和五年七月五日生)が家督相続によつて本件(三)土地の賃借権および同土地上の建物の所有権を承継したこと、ただ当時守屋脩が幼少であつたため、その母である被告守屋セイが脩を代理して地代の支払等をなし、脩の成人後も引続き被告守屋セイが便宜脩に代つて地代の交渉やその支払、あるいは供託などをしていたのであるが、本件土地賃借権そのものが捨吉や脩から被告守屋セイへ移転した事実はなく、本件土地の賃借人は現在もなお守屋脩であることが認められる。
そうすると、被告守屋セイが本件(三)土地の賃借人であることを前提とする原告の同被告に対する本訴各請求は、その前提を欠きその余の判断をまつまでもなく、すべて理由がない。
二、第一回の賃料増額について
原告は、遅くとも昭和四二年七月一日までに被告鈴木喜代子および同大場謙次郎に対し賃料をそれぞれ一ケ月金一二万〇、九五六円、一ケ月金六、一五一円に増額する旨の意思表示をした旨主張し、証人鈴木寿通の証言および原告本人尋問の結果の中には右主張に符合するかのような部分があるので、右各供述の信用性について検討する。
<証拠>によれば、原告は本件(一)、(二)土地の各賃料を増額しようと考え、不動産鑑定士である島田三郎に対し昭和四二年四月ころ本件(一)、(二)土地の賃料の鑑定評価を依頼し、島田三郎は同年五月ころ本件(一)土地につき適正賃料は一ケ月金一二万〇、九五六円であるとの鑑定評価書を、本件(二)土地につき適正賃料は一ケ月金六、一五一円であるとの鑑定評価書をそれぞれ作成したこと、原告は右各鑑定評価どおり直ちに賃料増額を行うというのではなく、右被告らと交渉した上合意によつて賃料を増額し右各鑑定評価どおりの賃料を徐々に実現しようと考えていたこと、しかし原告は直接右被告らと交渉したことはなく、島田三郎に右値上交渉を委任していたこと、島田三郎は、同年五月ころからその交渉にとりかかり、被告鈴木喜代子に対してはそのころ本件(一)土地の賃料についての前記鑑定評価書を携えて同被告方に赴き同被告に直接交付し、被告大場謙次郎に対しては同年八月ころ本件(二)土地の賃料についての前記鑑定評価書を携えて同被告方に赴き同被告の父である訴外大場義親に交付したが、右いずれの場合にも、右各鑑定評価書の内容を検討してもらいたいと述べたのみで、具体的に金額を明らかにして賃料を増額する旨の意思表示をしなかつたこと、をそれぞれ認めることができる。この事実に照らすと、証人鈴木寿通の証言および原告本人尋問の結果のうち、原告の前記主張に符合する部分はたやすく信用できない。そして、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
従つて、第一回の賃料増額については、金額を明示して賃料増額の意思表示をしたとの点について証明がないので、その余の判断をするまでもなく失当である。そうすると、本件(一)、(二)土地各賃料は、昭和四二年七月一日以降も従前どおりそれぞれ一ケ月金三万円、一ケ月金一、〇五〇円であつたものといわねばならない。
三、第二回の賃料増額について
1、原告が昭和四四年一〇月三〇日の本件口頭弁論期日において同年八月二五日付の訴変更申立書と題する準備書面を陳述することによつて被告鈴木喜代子に対し本件(一)土地の賃料を一ケ月金一五万七、八〇〇円に、被告大場謙次郎に対し本件(二)土地の賃料を一ケ月金八、四〇〇円に増額する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがなく、昭和三八年および昭和四一年から昭和四四年に至る間に、土地に対する公租公課が増額され土地価格その他の諸物価が上昇したことは、当裁判所に顕著な事実であるから、右増額の意思表示により本件(一)、(二)土地の賃料は客観的に相当と認められる賃料額まで増額の効果が生じたものというべきである。
2、そこで、本件(一)、(二)土地の昭和四四年一〇月三〇日の時点における相当賃料を求める。しかし、右時点における相当賃料を直接求めることは証拠上困難であるので、近似値として右時点における相当賃料を上回ることのないことが明らかな同年五月一〇日の時点における相当賃料を求めることとする。
(一)、本件(一)土地の賃料
(1) 積算賃料金二〇万三、七二八円
<証拠>を綜合すると、次のとおり一ケ月金二〇万三七二八円が相当であると認めることができる。
更地価格鑑定人都築保三の鑑定評価額一平方メートルにつき金二七万五、八八〇円、鑑定人真鍋准の鑑定評価額一平方メートルにつき金二四万〇、五一四円(同鑑定人は本件土地のうち一六五番地の前記価格時点における面積406.67平方メートルについてのみ鑑定評価しているが、これを本件(一)土地全体についての鑑定評価とみても殆ど誤差はないものと考えられる)にいずれも<証拠>をあわせて総合判断すると一平方メートルにつき金二四万円をもつて相当な更地価格と認める。従つて、本件(一)土地の更地価格は金一億二、一四五万六、八〇〇円(金24万円×506.07平方メートル)となる。
建付減価率および底地割合鑑定人都築保三は建付減価率を更地価格の一〇パーセント、底地割合を建付地価格の四〇パーセントと鑑定評価し、鑑定人真鍋准は本件(一)土地のうち一六五番地406.68平方メートルについてその建付減価率を更地価格の約五パーセント、底地割合を建付地価格の三五パーセント強と鑑定評価する。右各鑑定評価の結論およびその結論に至つた理由を考慮すると、建付減価率は更地価格の五パーセント、底地割合は建付地価格の四〇パーセントと評価するのが相当であると認める。
期待利回り鑑定人都築保三は本件(一)土地の期待利回りを年六パーセント、鑑定人真鍋准はこれを年三パーセント強と鑑定評価する。そこで右各鑑定評価の結論およびその結論に至つた各理由と不動産に関する社会経済情勢とを併わせ考えると、期待利回りは年五パーセントが相当であると認める。
公租公課鑑定人都築保三の鑑定の結果によつて本件(一)土地の固定資産税および都市計画税を求めるに、本件(一)土地のうち一六五番地が同鑑定においては456.26平方メートルとされているので、これを418.11平方メートルと訂正して計算しなおすと、金九万〇、九〇三円(金九万七、七九〇円から(金6万0,290円+金2万2,080円)×456.26平方メートル分の38.15平方メートルを差引いた額)を求めることができる。
管理費鑑定人都築保三は管理費を純賃料および公租公課の九七分の三、鑑定人真鍋准はこれを純賃料の二パーセントとそれぞれ鑑定評価する。土地賃貸借に関し貸主が負担すべき公租公課以外の必要諸経費は、殆ど、賃料取立に要する人件費に限られているから、賃貸借の目的たる土地の面積が大になるに従い、単位面積あたりの管理費は逓減するものと考えられる。このことに照らして、右各鑑定評価を考えると、管理費は本件(一)土地の場合純賃料の二パーセントをもつて相当と認める。従つて、管理費は金四万六、一五四円となる。
計算式前記各数値を左記計算式に代入して、計算すると、積算賃料年額金二四四万四、七三六円(月額金二〇万三、七二八円)が得られる。
{更地価格×(1−建付減価率)×底地割合}×期待利回り+(公租公課+管理費)
(2)、スライド方式による賃料
<証拠>によれば、本件(一)土地の価格は昭和四一年五月一日から昭和四四年五月一〇日まで約1.48倍に騰貴したことを認めることができ、最終の約定賃料の一ケ月金三万円に増額するとの合意が成立したのは前記認定のとおり昭和四一年五月であるから対象不動産価格の上昇率を乗じたスライド方式による賃料は一ケ月約金四万四、四〇〇円ということになる。
(3)、積算賃料は供給者価格的な正常賃料の性格を有し、賃貸借契約成立当初およびその後の合意による賃料改定の際に存した個別的主観的事情を反映することができず、他方スライド方式による賃料はこれを、合理的であれ、不合理的であれ、一様に固定化する結果となる。すなわち、本件(一)土地の最終の約定賃料である一ケ月金三万円は極めて低額であつて、その期待利回りは、前記考察の結果から一パーセント強と推認されるが、この期待利回りを固定して相当賃料を求めることになるスライド方式は合理的なものとはいい難く、他方これをわずか三年程度で一挙に六倍強に上げることになる積算方式は土地賃借人の地位の保障した借地法に背馳するもので、これまた不合理であるといわざるを得ない。
結局、相当賃料を求めるには、右両方式の有する長所と短所に十分な注意を払つたうえで、右各試算賃料を基礎とし、その他賃貸借に関する諸事情を考察して算定する必要がある。以上の諸考察を基礎として考えると、積算賃料の約二分の一弱、スライド方式による賃料の約二倍、そして最終の約定賃料の三倍弱に相当する一ケ月金八万五、〇〇〇円をもつて相当賃料と認める。
(二)、本件(二)土地の賃料
1、積算賃料
<証拠>によれば、本件(二)土地の積算賃料は一ケ月金一万三、九六四円であることを認めることができる。
2、スライド方式による賃料
右<証拠>によれば、本件(二)土地の価格は昭和三八年一月一日から昭和四四年五月一〇日までに2.19倍に騰貴したことを認めることができ、本件(二)土地の最終の約定賃料の一ケ月金一、五〇〇円に増額するとの合意が成立したのは前記認定のとおり昭和三八年一月一日であるから、対象不動産の価格の上昇率を乗じたスライド方式による賃料は一ケ月金三、二八五円ということになる。
3、そこで、本件(二)土地の相当賃料について考える。
本件(二)土地については、<証拠>によれば、本件(二)土地上の建物は古くから居宅用敷地に供されていることが明らかである。従つて被告大場謙次郎にとつては本件(二)土地が商業地としての有利性によつて価格騰貴したことから直ちに居宅用敷地としての使用価値が向上したとはいえず、本件(二)土地の相当賃料を求めるに当つては土地価格騰貴をそのまま反映させるべききはない。
しかしながら、他方本件(二)土地の最終約定賃料が昭和三八年一月一日に成立したことからすると、これより六年余を経た後の賃料増額に当つてはかなり大幅な増額の必要性も当然考慮されてしかるべきである。以上の諸考察に、本件(一)土地の相当賃料を求めるに当つて考慮された諸事情を参酌して、考えると、積算賃料の約二分の一、スライド方式による賃料の約二倍、そして最終約定賃料の約四倍に相当する一ケ月金六、五〇〇円をもつて相当賃料と認める。
(奥村正策 東孝行 塚原朋一)