大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)289号 判決 1974年9月26日
主文
一 被告は原告に対し、
別紙第二目録(一)の建物(別紙図面番号(1)(2)の建物)を収去して別紙第一目録(一)(二)の土地を明渡し、別紙第二目録(二)の建物(別紙図面番号(3)の建物)を収去して別紙第一目録(三)の土地を明渡し、別紙第二目録(三)(四)の建物(別紙図面番号(4)(5)(6)(7)(8)の建物)を収去して別紙第一目録(四)の土地を明渡せ。
二 被告は原告に対し、昭和三二年八月一日から昭和四三年一月三一日まで一ケ月一〇、二四二円の割合による金員、昭和四三年二月一日から昭和四四年一月三一日まで一ケ月六〇、七四八円、昭和四四年二月一日から右明渡済に至るまで一ケ月七〇、七四八円の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを一〇分しその一を原告、その余を被告の負担とする。
五 この判決は原告において一〇〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
事実
(当事者の求める裁判)
(原告)
一 被告は原告に対し
別紙第二目録(一)の建物(別紙図面番号(1)(2)の建物)を収去して別紙第一目録(一)(二)の土地を明渡し
別紙第二目録(二)の建物(別紙図面番号(3)の建物)を収去して別紙第一目録(三)の土地を明渡し
別紙第二目録(三)(四)の建物(別紙図面番号(4)(5)(6)(7)(8)の建物)を収去して別紙第一目録(四)の土地を明渡せ。
二 被告は原告に対し、昭和三二年八月一日から昭和四三年一月三一日まで一ケ月一〇、二四二円の割合による金員、昭和四三年二月一日から右明渡済に至るまで一ケ月一〇〇、六八二円の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 仮執行の宣言。
(被告)
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
(原告の請求原因事実)
一 原告の父の訴外亡高見秀次は、もと別紙第一目録記載の土地を所有し、被告の夫の訴外亡福永安次に対し、昭和一五年二月一七日第一目録(一)(二)(三)の土地を、昭和一四年一一月一一日第一目録(四)の土地を、何れも木造建物所有目的で、地代はその月分を月末に持参払する、地代の支払を一回でも遅滞したときは賃貸人は催告を要せずして契約の解除をなしうるとの約定で賃貸し、
賃借人の右福永安次は
第一目録(一)(二)の土地上に第二目録(一)の建物を
第一目録(三)の土地上に第二目録(二)の建物を
第一目録(四)の土地上に第二目録(三)(四)の建物を
建築所有し、右各建物を第三者に賃貸した。
右高見秀次は昭和一六年一二月一四日死亡し長男の原告が家督相続により土地所有権と賃貸人の地位を承継し、右福永安次は昭和二〇年七月二六日死亡し、妻の被告が相続により右家屋所有権と土地賃借人の地位を承継した。
二(一)本件土地の地代は昭和三二年七月当時三、四五〇円(三、三m2一五、四六円)であつた。
(二) 本件土地の地代は従前から近隣の地代や諸物価に比し極度に安く、右一ケ月三、四五〇円の地代(三、三m2一五、四六円)とし、当時の近隣の地代(三、三m2三一円位)に比べても二分の一にすぎなかつた。本件土地の当時の固定資産税、都市計画税の一ケ月当りの金額は一四七七円で、右地代の四二%にあたり、これを差引くと原告の取得額は一九七三円で三、三m2八、六円にすぎなかつた。
(三) 原告は後記増額請求に先立ち、地代家賃統制令(以下統制令という)適用の有無を調べるため、現地の土地建物の面積を測量させた上番号(5)(8)の建物敷地を除き延床面積が何れも九九m2(三〇坪)をこえ、その敷地は統制令の適用を受けないので昭和三二年七月三和銀行本店営業部信託課不動産係に適正地代の鑑定を求めたところ、地代は一ケ月につき
別紙図面(1)の建物敷地は一、八六九円
(2) 一、六四四円
(3) 一、四九八円
(4) 一、五一六円
(6) 一、四二一円
(7) 一、四二一円(計九、三六九円)
であり別紙図面(5)(8)の建物敷地は統制令の適用を受け(以下統制令の適用を受ける地を統制地という)(5)(8)とも各四三六、五円(以下統制令による地代を統制地代という)であるので合計一〇、二四二円を以て適正地代としたのである。
三 原告は昭和三二年七月三〇日被告に到達の内容証明郵便を以て、本件土地の地代を同年八月一日から一ケ月一〇、二四二円に増額する旨の意思表示をした。従つて同日から右地代は右の金額となつた。原告は被告が話合に応じてくれば合意に達した地代額を受領するつもりであつて本訴提起に至るまで約一一年間も何十回となく(昭和三五年一二月末日の請求を含む)根気よく或は右増額地代を支払うよう又はせめて近隣と同程度の地代を支払うよう口頭で請求してきたが、被告はこれを支払わず、後記のような不誠実な態度と共に地代の供託(提供がないので供託の効力は生じない)を続けるのみであつたので、原告は被告の地代支払義務不履行を理由として本件訴状を以てその送達の日の昭和四三年一月三一日賃借契約解除の意思表示をしたので、同日解除の効力が発生した。
四(一) 原告の昭和三二年七月三〇日付の増額請求に対し、被告は右が相当額であるか否か調査しようともしなかつあ。近隣には多くの借地があり、原告が他の賃貸している土地もあり容易に調査でき、鑑定も依頼できたはずである。右調査をすれば不当に安い地代であることを認識しえたはずである。被告はこのことを知つていたから右調査等をしなかつたのである。一般に地代増額の意思表示と増額地代の支払方の請求があつた場合、借主は話合の場をつくり交渉をはじめるのが普通であるが、被告はそのような地代は支払えないの一点ばりで話合をしようともせず一片の誠意がなかつた。被告は増額を全く認めず、増額地代を支払う意思のないことが明らかであつた。
(二) 被告の地代供託時期、内容は別紙の通りであるが、根拠もなく、自ら受領拒否もなかつたものである。最初の供託は昭和三七年六月二五日に昭和三二年八月分から昭和三七年六月分まで五八ケ月分を昭和三四年末まではわずか五〇円増額して三、五〇〇円の割合で昭和三五年一月分から月額六、五〇〇円(額は原告の関知しないところである)の割合で一時に供託し、昭和四一年四月分からは月額七、〇〇〇円(額は原告の関知しないところである)の割合で供託しているが、これらが不当に安い地代であることは別紙本件地代と近隣の地代との比較表からも本件(5)(8)の建物敷地の統制地代からも明らかである。尚昭和四七年度についてみれば統制令による地代すら月額四九、〇〇〇円の固定資産税、都市計画税すら月額一四、〇〇〇円である。
(三) 被告は本件家屋の外にも貸家を所有し相当の家賃を取得しているが本件家屋の分は別紙家賃一覧表の金額を家賃として取得している。
(四) 以上の通り原告の地代増額請求に対する被告の態度は拒否的、恣意的、背信的で貸主の原告が借主の被告から相当の地代を得ることは不可能であり、賃貸借の継続はできない。
五 仮に右主張が認められないとしても、原被告の被相続人間の賃貸借においては、地代はその月分をその月末に持参払する。この支払を一回でも怠ると催告を要することなく解除しうる旨約定し、原、被告が夫々承継したものであるが、被告は僅か一ケ月七、〇〇〇円の地代を昭和四六年一〇月分までしか供託しておらず被告の地代支払の遅滞は六回に達したので原告の昭和四六年五月一六日付準備書面を以てその送達の同日契約を解除する旨の意思表示をしたので同日解除の効力が発生した。
六 被告は解除後も右家屋を所有して右土地を占有するところ、解除の日(昭和四三年一月三一日)の後の昭和四四年二月当時の本件土地の地代相当損害金は一ケ月につき一〇〇、六八二円(別紙第一目録(一)(二)(三)の土地は五二、七五三円、別紙第一目録(四)の土地から地代家賃統制令の適用のある別紙図面(5)(8)の建物敷地一六五、二八m2(五〇坪)を差引いた土地については四六、一八一円、右(5)(8)の建物敷地の統制令による地代は一、七四八円)であり、被告の解除権は被告の不法占拠により同額の損害を蒙つている。
七 そこで原告は被告に対し、
(一) 別紙第二目録(一)の建物を収去して別紙第一目録(一)(二)の土地明渡
別紙第二目録(二)の建物を収去して別紙第一目録(三)の土地明渡
別紙第二目録(三)(四)の建物を収去して別紙第一目録(四)の土地明渡
(二) 昭和三二年八月一日から昭和四三年一月三一日まで一ケ月一〇、二四二円の割合による地代金解除の翌日の昭和四三年二月一日から右建物収去土地明渡済に至るまで一ケ月一〇〇、六八二円の割合による地代相当損害金の支払
を求める。
八 被告の七の主張に対し、その主張の地代を六五〇〇円とする旨の合意の成立は勿論その交渉もなかつた。被告からその主張の地代の提供を受けたこともないし受領を拒否したこともない。
九 被告主張の八(一)(二)、の点は争う。
一〇 被告主張の九の点は原告代理人の訴外高見蔦子は昭和三二年から本訴提起に至るまで何回となく請求しこの間、昭和三五年一二月末日には被告が原告方を訪れたがこの際も同じく請求しているのでこの都度時効は中断された。
(被告の答弁)
一 原告主張の請求原因一の事実中地代支払時期の約定を除いて認める。
二 同二(一)の事実は認める。
同二(二)の事実は争う。
同二(三)の事実中、番号(5)(8)の建物を除く各建物は何れも延床面積九九m2(三〇坪)を超えるので、その敷地につき統制令の適用のないこと、右(5)(8)の建物は右以下であるので統制令の適用があり、昭和三二年七月当時の統制地代額が原告主張の金額であることは認める。その余は争う。
三 同三の事実中、原告が被告に対し原告主張の日被告に到達の内容証明郵便を以て原告主張の意思表示をなしたこと、被告が原告主張の日にその主張の地代を供託したこと、原告がその主張の理由により本件訴状を以て解除の意思表示をし、訴状が昭和四三年一月三一日送達せられたことは認める。その余の事実は争う。
四 同四(一)の事実は争う。
同四(二)の事実中、被告が原告主張の時期にその主張の地代を供託したことは認める。その余は争う。被告は右金額を地代として提供したが、原告から受領を拒否されたので供託したのである。尚原被告間において、昭和三五年一二月末頃、翌月から地代を一ケ月六、五〇〇円に増額する旨の合意が成立したのでその後右金額を供託し、その後被告自ら五〇〇円増額して七、〇〇〇円を供託した。
同四(三)の事実中被告が本件家屋を所有し九名の借家人に賃貸していること、原告主張の借家人からほゞ原告主張の家賃を取得していること、
は認める。その詳細は次の通りである。
(1)の建物
イ 昭和三二年一月から昭和三四年六月まで、借主広岡、家賃月二、五〇〇円
ロ 昭和三四年六月から昭和三五年六月まで空屋、この間家屋を大修理して七〇〇、〇〇〇円支出し、家賃収入はない。
ハ 昭和三五年七月から昭和四六年一二月まで借主加藤、家賃月一〇、〇〇〇円
ニ 昭和四六年一二月から家賃月一五、〇〇〇円に増額の意思表示借主が従前の家賃を供託中
(2)の建物
(イ) 昭和三二年一月から昭和三三年一二月まで借主船谷、家賃月三、四七〇円
(ロ) 昭和三四年一月から昭和四四年一二月まで借主同右、家賃月四、〇〇〇円
(ハ) 昭和四五年一月から昭和四六年六月まで比嘉なる者無断入居、家賃不払
(ニ) その後修理費三〇〇、〇〇〇円を投じて修理し昭和四六年七月から借主新谷家賃月四五、〇〇〇円
(3)の建物
イ 昭和三二年一月から昭和三五年一二月まで借主中村、家賃月三、五〇〇円
ロ 昭和三六年一月から家賃月五、〇〇〇円に増額の意思表示、借主は従前の家賃を供託中
(4)の建物
昭和三二年一月から家賃月三四七〇円、借主川端、昭和三四年一月から家賃月四、〇〇〇円、昭和三五年一月から家賃月四、五〇〇円、昭和三六年一月から家賃月五、〇〇〇円昭和三八年一月から家賃月七、〇〇〇円昭和四五年一月から家賃月一〇、〇〇〇円、昭和四六年六月から家賃月一五、〇〇〇円
(5)の建物
右(4)の建物と同様、借主中野
(6)の建物
昭和三二年一月から家賃月二、四三五円、借主富岡、昭和三八年一月から家賃月七、〇〇〇円、昭和四四年一月から家賃月一〇、〇〇〇円、昭和四六年六月から家賃月一五、〇〇〇円
(7)の建物
イ 昭和三二年一月から家賃月三、二〇〇円、借主畑、昭和四四年九月立退料八〇、〇〇〇円強制執行費用七〇、〇〇〇円を支出して立退いてもらう。この間家賃不払
ロ 改築費二、〇〇〇、〇〇〇円を支出して階上と二個の文化住宅とし、昭和四五年七月から階上部分の借主石川、家賃月二五、〇〇〇円階下部分の借主松山、家賃月三〇、〇〇〇円
(8)の建物
イ 昭和三二年一月から家賃月三、二〇〇円、借主水野
ロ 昭和四一年一月から家賃月三、四七〇円に増額の意思表示、借主は供託もせず入金なし。
詳細は右の通りであり、最近漸く目途がついたのが右(2)(7)の家屋で、比較的順調なのが(4)(5)(6)の家屋であるが他は未解決である。これを昭和三二年以降通観すれば収入極めて低調である。
同四(四)の事実は争う。被告は原告との信頼関係を破壊する意図など毛頭なく納得しうる地代増額には応じたいが、女手単身で老令病身のため貸家の十分の管理もできず原告の抱く不満の一端も或は被告の非能率に原因があるとするならば同情を願いたい。
五 同五の主張事実中、右高見秀次と右福永安次間の契約において遅滞一回で無催告解除の特約の存すること、原告主張の承継のあつたことは認めるが解除の効力の発生したことは争う。
六 同六の主張事実中、被告が原告主張の建物を所有し、原告主張の土地を占有していること、原告主張の(5)(8)の建物は統制令の適用があるのでその敷地についても同様であり、他は統制令の適用のないことは認める。その余は争う。
七 原告は、その主張のように昭和三二年七月従前の月三四五〇円の三倍弱の一〇、二四二円を月額地代として増額の意思表示をしたので、被告としてこのような過大なる増額には到底応じられないので早速原告に対し緩和方をこん請したが、原告は頑として応ぜず昭和三二年八月分以降の地代につき被告より弁済の提供をするも受領を拒否されたので被告は話合がつくまでとの趣旨で従前の額の地代を供託した。その後約三年余原告より格別の申入もなく経過したが、昭和三五年末に至り被告より原告方に行き話合つた結果昭和三六年一月分よりの地代を一ケ月六五〇〇円に増額することに合意が成立したので、その弁済期限に被告の使者の溝本かよ子をして原告方に持参せしめて提供させたところ原告は前年末の右約定にも拘らず受領を拒み、原告の呼出に応じて被告本人が原告方で重ねて提供したが受領を拒否されたので右六五〇〇円を供託し、昭和四一年四月以降は五〇〇円増して一ケ月七〇〇〇円を供託している。
八(一) 仮に、原告に昭和三二年八月末解除権が発生したとしても、一〇年の時効期間に服するところ、本訴状送達の日以前の昭和四二年八月末日に時効により消滅しているから訴状送達によるその行使は効力がない。
(二) 本件の如く従前の賃料を一挙に三倍余に増額した結果の解除は権利の濫用で信義則に違反し無効である。
九 昭和三二年八月分より昭和三三年一月分までの六ケ月分の地代金債権の内被告の供託額を超える金額(各月とも六、七四二円)については、その後原告より請求がなかつたので一〇年の時効により消滅した。
(立証)(省略)
(別紙)
第一目録(土地)
<省略>
第二目録(家屋)
<省略>
被告供託の本件地代の近隣
地代との比較表
<省略>
地代供託一覧表
<省略>
被告が本件土地上の被告所有の貸家から取得している家賃一覧表
<省略>
損害金計算書
52753(1.2.3の建物敷地)+46.181(4の土地から5.8の建物敷地を除く)
×0.7=69.253÷69.000
×0.6=59.360÷59.000
(5.8)の統制地代
<省略>
<省略>