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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)3649号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判決理由】<証拠>を綜合すれば、

被告ジャパレンは、全国に営業所を有し手広く自動車賃貸をなすを以て業とする会社であるが、事故車は昭和四二年一〇月二六日午後九時四五分頃被告ジャパレンから被告富士の従業員訴外下川孝利(本店勤務)に賃貸され、その際裏面に次のような注意事項を印刷した書面を賃借人に交付していること。

一、乗車後暫らくは試運転をして車の調子を見て下さい。若し不良個所のある場合はすぐ申し出て下さい。

二、使用中に何か不測の故障又は事故のあつた際は連絡の事、無断で修理等をされますと貸主に於ては責任は持ちません。

三、使用予定時間は不測の事のない限り守つて下さい。申出時間日数より許可なく五割以上延長されると規定料金の三俗以上支払つて頂きます。(以下の項目略)

被告ジャパレンにおいては貸出に際しては、身元を確かめた上契約書を作成し借受人に署名押印させるか、借受の資格は制限がなく、運転免許証を所持している者であれば何人でも借受けることができること。

賃料は車種、時間及び走行距離に従つて、予め被告ジャパレンの定めている料金表により支払われることとなるが、例えば本件事故車の場合、二四時間(一〇〇粁)三、六〇〇円、一〇日間(一、〇〇〇粁)二三、〇〇〇円、一ケ月間(三、〇〇〇粁)六六、〇〇〇円、超過走行一粁毎一二円加算とされており、この他借受人においてガソリン料実費、手数料相当額、保険料上記賃料額の一割(所謂自動車責任保険の保険料をいうが、この保険契約の契約者は被告ジャパレン名義を以て保険会社との契約がなされており、借受人は計算上の帰属者であるにすぎない)を負担し、被告ジャパレンに支払うべき旨約されるのを通例とすること(但し稀には特約により右保険料負担をなさないものとすることができるが、本件においては後記のとおり負担する旨約されている)。

右訴外人(契約書の記載によれば同人の免許証交付月日は昭和四二年一〇月二五日とされている)は、事故車を二四時間の約で右各条項のすべてを含む約旨の下に借出し、その際必要な注意事項を守るよう係員から口頭で申し渡しを受け、また被告ジャパレンの事務所内には次のような内容の貸渡約款が掲示してあること、

一、借受人は車両の運転に際し、次の事項を守らねばならない。

1、2(略)

3、借受人以外の者に貸与したり、運転させないこと、

4、(略)

二、借受人が事故その他によつて、車両及びその備品を損傷したときその修理弁償金額は、保険免責額一万円を除いて貸渡人の負担とする。但し下記事項の一に該当する場合、修理弁償代は全額借受人の負担とする。

1、(略)

2、借受人以外の運転による事故。

3、4、(略)

三、借受人が第三者等に与えた損害は、借受人若しくは同乗者において、即時賠償するものとする。但し人身事故の場合は、強制賠償保険の外に、貸渡人が契約中の対人上乗せ保険を適用する。

四、以下(略)

八 借受人が次の事項の一に該当した場合、貸渡人は車両貸渡しの途中でも、貸渡契約を直ちに解除することができる。

1、借受人が不特定の第三者に、有償で運転又は乗車させたとき。

2、(略)

右訴外人が事故車を借出した後の経緯はやや不明であるが、借出後間もなく被告富士の従業員中嶋某(本店勤務)が、被告富士の経営するキャバレー・キング(被告竹元の勤務場所)へ事故車を運び、被告竹元に対し終業まで置いておくから用事があつたら使つてくれといつてキングの玄関横へ置いて帰つたこと。

当時被告竹元はキャバレー・キングのボーイ長として案内係を担当していたが、数日前まで集金、ガイド(外人客)担当の係をしており、訴外北岡某(ボーイ長)が被告竹元の後任を勤めていたこと、

キングの客である外人観光団の中から飲逃げと思われる事態が発生し、上司から取立の指示を受けたわけではないけれども取立しなければ係が弁償させられる虞れもあるため、その料金徴収のためロイヤルホテルまで出かけることとなつたが、北岡が不馴れのため前任の被告竹元及び同僚のボーイ長訴外木房某(玄関案内係)とが同行し、三名とも被告富士の制服のまま、事故車を被告竹元が運転し右ホテルに向つたこと、

その途中、原告主張のとおりの日時、場所、態様において本件交通事故を惹起したこと(この点被告富士、被告竹元においては争いがない)、その頃は小雨が降つており路面が濡れていたこと、

被告竹元は昭和四二年八月八日運転免許を取得したものであるが、事故車の運転に当り車間距離不適当、前方不注視、ブレーキ操作不適当との各過失(なお約二〇米前後のスリップ痕を残している)があり、この過失により右事故を惹起したこと、(速度の点を明確にする証拠はない)、

事故後、事故車は被告竹元から前記中嶋に返還され、その後の経緯は不明であるが、被告ジャパレンの計算書によれば翌一〇月二七日午後九時五〇分に同被告の許へ返還され、走行粁数三五二粁で、時間料金三、六〇〇円、超過粁料金三、〇二〇円、保険料六六〇円、ガソリン料六〇円、手数料二〇〇円合計七、五四〇円が清算されたものとして処理がなされていること、

他方昭和四三年五月二日付を以て被告ジャパレンから被告竹元に対し貸与した旨の証明書が被告ジャパレン取締役鈴木富三によつて作成されていること、

以上の事実が認められ、右認定の趣旨に反する証人上田義一の証言及び原告本人尋問の結果中の各供述部分は前掲各証拠と対比し、にわかに採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。(尤も原告は事故車と下川の借出した車とは別個のものであつて事故車は被告竹元によつて借出されたものと確信しているもののようであり、右走行粁数、証明書の記載等諸般の事情に照せばそれも無理からぬものとの一面があるが、前掲各証拠によれば前記認定のとおりであつて、原告の考えているように認めることは困難であり、事故後においても事故車は走行可能であつたことをも併せ考えれば、むしろ右のような原告の解釈をもたらした所以のものは被告ジャパレンの事務処理上の杜撰さによるものとみることが相当である。)

以上の事実を綜合すれば、被告竹元は被告富士の使用人(この点当事者間に争いがない)であつて、同被告の業務の執行たる集金の事務に従事している際(急ぎを要する事情から自動車を使用することも止むを得ない)、同人の過失によつて本件事故を惹起したことが明らかである。(集金事務が上司の直接の指示、命令によるものでないとしても、これを放置した場合担当係であつた従業員の負担による弁償をなさしめられる虞れがある以上その業務性を否定するものではなく、ましてや集金等を上司が禁止していたものとする如きは、従業員の弁償制度と併せ考えるときは苛酷以上の労働条件を強いるものであつて、到底容認されるいわれはない。)

また以上の事実によれば、被告ジャパレンは相当大規模に営業所を有する自動車賃貸業者であつて、種々の制限。条件を付して借受人(但しその資格は運転免許を有すること以外に全く制限はない)に貸与し、これによつて高額の収益を挙げているものであり、事故車も右営業の一態様として、前記訴外人に利用期間二四時間の約で貸与、運行されて、被告ジャパレン所定の料金が支払われており、所謂自動車保険は被告ジャパレン名義を以て保険契約が締結されていること(但し計算の帰属者は借受人である)及び事故車が右借受人と同一会社に勤務する被告竹元により運転されている際本件事故を惹起されるに至つたことが明らかであつて、これらの事実を綜合すれば、事故車の貸与及びその運行(単なる展示等のための賃貸であれば格別、運行自体が営業の目的の中に当然予定されているものであり、かつ殊に本件の如くガソリン料の実費をも徴収し、走行粁数に応じ料金を定めるなどしているような場合にあつては、運行は単に借受人のみの利益に止まらず、賃貸業者たる被告ジャパレンにとつても右の利用方法たる運行による利益を享受する地位にあるものというべきである)は被告ジャパレンの企業自体の目的かつ事故車保有による利益実現方法というべく、被告ジャパレンは事故車の保有及び運行により強い利益を得ているものといわなければならない。そして運行による強い利益を得るものは運行支配は通例有するものと推認されるところ、本件にあつては前記認定のとおり借受人(若しくはこれの一時的代替運転者)の運転は単に一時的な支配にすぎずかつ賃貸人たる被告ジャパレンの支配を全面的に排除するに足る程強いものではなく、むしろ前記認定の各事情に照せば同被告の統制の許におかれていることが窺われこそすれ、これらを排除されるに至つたものと認めることはできない。

ところで一般に自動車を所有する者は、特段の事情のない限り運行供用者責任を負うものと解すべきであるが、本件事故車の所有者たる被告ジャパレンについて右の各事実を勘案しても、いまだその運行供用者責任を否定すべき特段の事情ありと認めることは到底できない。(運転者が借受人でなく別人であることは、借受資格に全く制限がなくその個性にも何らの関心の払われていない本件では、同一職場内の従業員でその諒承乃至少くともその意思に反しないものと推認される借受人、運転者間の関係の許にあつては右特段の事情に当らないことは多言を要しないし、右を禁止する旨の特約は上記認定のとおり必ずしも十分でなく、仮に特約されているとしても前記のとおり有償の場合解約理由となり得る意味を有するにすぎず、被害者たる原告に対し運行供用者たる地位を否定する効力を及ぼすものではない。)被告ジャパレンの指摘する最高裁判所判例の見解は当裁判所のとらないところである。

そうすると、被告富士は民法第七一五条により、被告竹元は同法第七〇九条により、被告ジャパレンは自賠法第三条により(但し被告ジャパレンは人身事故に基く損害に限る)、それぞれ連帯して原告が右事故により蒙つた損害を賠償すべき義務を負うことが明らかである。

右のように解したとしても、賃貸人たる被告ジャパレンは借受人の計算において所謂自動車責任保険契約をなす余地が残されており、現にその方法をとつており、いわば保険等の負担を利用者に転稼することにより実質上の責任を免れており、貸渡業者としての企業の存立を危うくすることを防止する途は十分であるものといわなければならず、またレンタカー利用者に対しては要件を満す限り賃貸業者から求償をなすことも許される筈であつて、賃貸業者の責任を認めることから即利用者の交通道徳を弛緩せしめるものと断定することはできず、むしろこれを理由として被害者の請求し得る範囲を制限できるものとし請求の途を閉そうとする解釈こそ不当であつて許されないものといわなければならない。以上のいずれからするも被告ジャパレンの主張は採用することができない。(寺本嘉弘)

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