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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)3704号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、そこで右事故に対して被告に過失が無かつたか否かについて考えるに<証拠>を綜合すると次の事実を認めることが出来る。

(一) 本件事故現場は南北に通じる舗装部分巾員約6.5米、その両外側に各0.6米の未舗装部分を有する府道堺河内長野線と東西に通じる巾の狭い農道(畔道)が交わつている地点で、その北方21.5米の地点にも東西に通じる西側部分巾員五米、東側部分、巾員2.2米の地道が右府道に交差しているが共に横断歩道は設けられていない。事故現場附近の府道西側には右農道の南側にほぼ接して府道から3.4米入り込んだ所にビニールハウス二棟が、右農道の北方26.5米の地点に前記地道北側に接して府道から1.3米入つた所に倉庫があり、府道東側には事故現場北方17.8米の地点に倉庫が有る。右の外府道両側道路附近は田畑と空地であるが府道よりやや離れた所には人家が散在している。

(二) 本件事故当時の現場附近の明るさは多少暗くなつているという程度で、前方の見通し、物の識別には何等の支障のない状態であつた。

(三) 亡和子(当時五才)は近所の遊び友達と府道西側の菓子店に赴き、東側の自宅に帰ろうと、畑の中の前記農道(巾員0.57メートル)を通つて本件府道に出で、これを横断しようとした。

(四) 被告は、事故車を運転し、先行車との間に約一五〇ないし二〇〇米の間隔を置いて、道路中心線より少し左寄り、道路左側部分の中心よりやや右寄りところのを時速約四五粁で本件事故現場に差しかかつたが、対向する小型貨物自動車とすれ違つた後、前方約17.9米の道路中心線やや右(西)側あたりの地点に亡和子が続いてその後から遊び友達が小走りに西から東に横断中であるのを認め、急拠急制動措置を講じたが及ばず、約二一米進行した地点で、自車中央に近い荷台右側前部ステップ取付部分附近を亡和子と衝突させて転倒させ、これを右側後輪で轢過して本件事故発生に至つた。

(五) 以上の事実にもづけば、本件事故発生につき被告が無過失であつたとは、未だこれを認め難いというべきである。即ち、前認定の状況よりすれば、被告が亡和子らを現認したより、より早い時点において、亡和子らが前記農道を東進して来るのを本件府道に極く接近した地点に発見し、或いは同女らが府道東側端未舗装部分附近に差しかかつて北進車両の通過を待つ姿を見出し、よつて徐行をなしもしくは警音器を吹鳴する等事故を未然に防止する措置を講ずることが可能ではなかつたか、更に或いは、前記対抗車とのすれ違い後より早く、府道上を横断しようとしている亡和子の姿を認め、迅速適切な左転把及び急制動措置を講じて、仮に事故車と亡和子の接触は免れ得なかつたとしても、轢過並びに死亡事実の発生は避けうることが可能ではなかつたか、の疑いを拭い難いのであり、これを換言するなにば、本件事故発生につき、被告には前側方に対する充分な注視が尽されていなかつたため、右のような被害者のより早期な発見と事故発生防止の措置を講じ得なかつたのでないかの疑いを禁じえないのであつて、(この点、<証拠>によれば、被告は事故当日の警察官に対する取調べに対して、事故前一瞬的であるが、前方に対する注意力が集中せず何かボーツとしたような状態だつたと思う旨述べていることが認められることも、右の疑いを一層深くさせる。)結局するに被告の無過失を認めるに足りないのである。

三、そして、そうとすれば、その余の点を判断するまでもなく、被告は自賠法三条により後記原告らの本件事故にもとづく損害を賠償する義務があるといわねばならない。

四、賠償

(一) 和子の医療費

<証拠>によれば、死体処置料等として二、九〇〇円を原告清暁が支出したことが認められる。

(二) 亡和子の得べかりし利益

<証拠>によれば亡和子は昭和三七年三月三日生れで、本件事故当時満五才一カ月の健康正常な女子で、事故の有つた四月に幼稚園に入園したこと、父は昭和二六年以降小学校の教師として勤めるかたわら、同人の母(亡和子の祖母)松栄が住職をしている興源寺の副住職をして、寺よりの収入もあり事故当時亡和子、原告ら四名、右松栄の六名家族であつたことが認められるので、これらのことからすれば亡和子はその平均余命(70.15年、昭和四一年簡易生命による)の間生存し、その間少くとも高等学校を卒業して就職し、結婚するまでは継続して勤務するであろうことが推測される。

ところで女子は概ね二五才を以て結婚するのが最も普通である(厚生省大臣官房統計調査部編人口動態統計によると昭和四〇年度の女子の平均初婚年令は24.477才である)と考えられるところ、一般に女子は結婚と前後して退職し、爾後は専ら家事労働に従事するのが通常であるから、亡和子も、特段の事情の無い限り(そして、そのような特段の事情として認めるに足るものはない)二五才をもつて結婚し、同時に退職するものと考えるのが相当である。主婦となつた二五才以降については、その家事労働に対応する収入はなく、又その就労可能期間ということも考え難いことであつて、得べかりし利益を、被害者が将来取引社会において現実に取得し得たであろう収入を意味するものと解する限り亡和子には高校を卒業して就職する一八才から結婚し退職する二五才までの間については得べかりし利益=逸失利益を認め得るけれども主婦となつた二五才以降については逸失利益は認め難いものといわねばならない。

しかし、このことは主婦の家事労働が損害額算定上無価値であり男子の場合には逸失利益の喪失が考えられるのに、女子の場合には、それに相当する何等の損害も認めえないということを意味するものと考えるべきではなく、そのような場合には労働能力の喪失自体を損害とみてこれに対する賠償を認めるべきものと解するのが相当である。

そして労働能力自体の価値の算定は本来個体別に、当該場合における諸般の事情を綜合してなすべきものであるが、これを算定する資料の乏しい場合には労働能力の対価たる賃金の平均値を利用することが許されてよいであろう。

この場合利用する統計はその公平妥当性を担保する見地から、利用する統計が公知乃至誰でもが利用しうべきもので、その作成者、調査の時期、方法から信憑性について疑がなく、その場所的、時間的、人的範囲についての適用が合理的に妥当するものでなければならず、数種の統計を利用する必要がある場合にはそれらの各統計が互に関連して結果を導くものであるから、その間に合理的な関連性を有することが必要で、その作成者、調査対象が同一乃至類似して統一性のあるものでなければならない。かかる見地から利用すべき統計はそれが無い場合は格別、官公庁作成のものであることが望ましいというべきである。

そこで以上の見地から亡和子の蒙つた右の損害額を検討すると、同女は前記平均余命内において一八才から五五才まで就労可能であると認めるのが相当であるところ、総理府統計局編第一八回日本統計年鑑「産業別の企業規模および年令階級別給与額」による昭和四一年度女子労働者全国全産業平均年令月間賃金は一八―一九才で一七、二〇〇円、二〇―二四才で一九、九〇〇円、二五―二九才で二一、五〇〇円であるから、亡和子は一八才から二五才までは実際に就職して右各年令に応ずる平均賃金程度の収入を得たであろうし、又結婚して家庭に入る二五才以降も五五才まで、少くとも前記二一、五〇〇円を下らぬ収入を取得しうべき稼働能力を有したであろうと推認できるが、その間生活費は平均して収入の五〇%と認めるのが相当であるので、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して右の間の純収益の現価格を計算すると(但円未満切下)その総額は別紙計算表のとおり金一、九四〇、七九八円である。

被告はホフマン式に代りライブニツツ式の採用を主張するが、これらは、いずれも逸失利益損害の現価額を算出するため一の計算方法に過ぎず、しかも現在の実務上の取扱においてはホフマン方式によるのがより一般的であるからライブニツツ方式は採用しない。

(三) <証拠>によれば原告清暁、同マサ子は亡和子の両親として同女の死亡により右(二)の同女の被告に対する損害賠償請求権を各二分の一宛承継したことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(四) <証拠>によると、原告清暁は亡和子の葬祭関係費用として総額三六一、〇六〇円を支出したことが認められるが、前認定のような亡和子の年令境遇に照らすと本件事故に相当な葬祭費用としては、そのうち金二〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(五) <証拠>を綜合すると原告清暁、同マサ子は幼稚園に入園したばかりで、これからの成長を楽しみにしていた可愛い盛りの長女和子をダンプカー轢過による内臓破裂死によつて一瞬のうちに失つたものであり、その他前掲各証拠によつて認められる諸般の事情を考慮すると、原告清暁、同マサ子に対する慰藉料は各一、四〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

又前掲諸証拠によると、原告和貴、同和彦は本件事故の直後路上に転倒している妹の悲惨な姿を目撃しており、唯一の妹を喪つた精神的打撃は著しいものであることが認められるので同人らに対しても慰藉料として各一〇〇、〇〇〇円を認めるのが相当である。

(六) 本件事案の内容、訴訟の経過、前記認容した損害額、当裁判所に顕著な大阪弁護士報酬規定その他弁論の全趣旨に徴し、被告に請求しうべき弁護士費用は金四〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当であるところ、原告清暁、同マサ子は各自その二分の一宛を負担するものと認められる。

三、原告らが本件事故による損害に対し、自動車損害賠償保障法による保険金一、五〇〇、〇〇〇円の支払をうけたことは当事者間に争いがなく、これが原告清暁の損害に八〇〇、〇〇〇円、同マサ子の損害に七〇〇、〇〇〇円宛充当されたことは被告において明らかに争わない。

被告は逸失利益の算定に関し、亡和子の一八才までの養育、教育費として月額七、〇〇〇円の控除を求めているが、損益相殺により差引かれるべき利得は損害賠償請求権を取得した被害者本人につき生じたものでなければならないと解せられるところ、右養育教育費の支出を免れたのは被害者本人ではないから、これを本件損害賠償額から控除すべき理由はない。

六、過失相殺

前認定の事故態様に明らかなように、本件事故発生については、亡和子にも、不用意に細い農道から交通の危険の多い府道上へ出て、北行対抗車の陰から南行車への充分な注意を払うこともなく、小走りに横断しようとした過失を免れない。そこで右過失につき前認定の原告らの損害額につき、その三割を過失相殺するのが相当である。(西岡宜兄)

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