大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)5908号・昭44年(ワ)5628号 判決
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〔判決理由〕一、本件土地がもと水谷かぎの所有であつたことは当事者間に争がなく、<証拠>を総合すると、原告は昭和二年九月二六日水谷かぎに対し、金二、七〇〇円を弁済期同年一一月二五日、利息年一割、利息支払期毎月二八日の約定で貸与し、水谷かぎは右貸金債権を担保するため、本件土地を含む計五七筆の土地に抵当権を設定するとともに、「金二、七〇〇円ヲ昭和二年一一月二五日迄ニ支払ヲ怠リタルトキハ所有権ヲ移転スベキ」旨の契約を締結し、同月二八日本件抵当権設定登記および右「所有権ヲ移転スベキ」請求権保全のための本件仮登記を経由したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
二、そこでまず、右契約が停止条件付代物弁済契約であるか代物弁済の予約であるかについて検討する。
抵当権設定契約とともに代物弁済に関する契約がなされた場合、当事者が弁済期に債務を履行しなかつたときは当然に所有権が移転する趣旨の停止条件付代物弁済契約を締結する意思を有したことが明白でない限り、債務不履行があるときは債権者の予約完結権行使によつてはじめて所有権が移転する趣旨の代物弁済予約がなされたものと解するのが相当である。けだし、そう解さないと弁済期に債務の履行がないときは停止条件の成就により抵当不動産の所有権は当然に債権者に移転して、抵当権はこれを実行する余地がなく、物上代位の権利を確保する意味が残ることはともかく、契約当事者間では抵当権設定契約は無意義となるからである。したがつて、ここにいう停止条件付代物弁済契約を締結する意思を有したことが明白な場合とは、単なる契約上の文言にかかわらず、同時にした抵当権設定契約に前記のような抵当権実行以外の特別の効果を期待したことが明らかな場合または契約当事者間では右抵当権設定契約が無意味であることを知りながらあえてこれをしたことが明らかな場合をさすものというべきである。
これを本件についてみるに、前認定の契約上の文言のみからすれば、前記契約は一応は停止条件付代物弁済契約であるかのようにみえないではない。しかしながら、右契約に際し、原告および水谷かぎが明確に右に説明したような停止条件付代物弁済契約を締結する意思を有したことについては、これを認めるに十分な証拠がない。のみならず、前掲各証拠によると、原告はもとの奉公先の主人であつた訴外吉川政吉から水谷かぎに金を貸してやつてくれと頼まれ、両名同席の上で吉川に金二、七〇〇円を交付し、その後吉川から甲第一号証(不動産抵当権設定金員借用証書)および甲第二号証(土地所有権移転の請求権保全仮登記申請書)を受取つたのであるが、大阪の司法代書人山崎光夫が起草したものと推認される甲第一号証には、消費貸借契約および抵当権設定契約が記載され、連帯借用主水谷かぎ、同水谷岩太郎、連帯保証人水谷清次郎の記名捺印があるのに対し本件土地所在の高知県で作成されたと推認される甲第二号証には前記代物弁済に関する契約がなされたことを前提とする仮登記申請の意思が記載されているが、原告の代理人野並冨次および水谷かぎの代理人大妻茂三郎の記名捺印があるのみで、その作成には原告および水谷かぎは直接には関与していないことが明白であり、右両名は甲第二号証記載の仮登記申請の趣旨、それと抵当権設定契約との関係等について自らがはつきりした知識を有しなかつたことはもちろん十分な説明も受けなかつたことが推認される。また<証拠>を総合すると水谷かぎは前記貸金の弁済期である昭和二年一一月二五日の後も本件土地を含む五七筆の土地について、年貢を収受し、立木を売却し、税金を納める等自己の所有であることを前提とする行動をとつているのに対し、原告は昭和四三年(ワ)第五、九〇八号事件の訴訟を提起する直前に至るまでかかる行動をとつたことはなく、右五七筆の土地のうち相当部分が自作農創設特別措置法により買収されたことすら知らなかつたことが認められ、当事者双方とも、期限に債務の弁済がないときは本件土地の所有権が当然に原告に移転するなどとは考えてもいなかつたことが窺われる。
そうすると、前記代物弁済に関する契約は、停止条件付代物弁済契約ではなく、代物弁済の予約と認めるのが相当であるから、前者であることを前提とする原告の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。 (大西勝也)